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オールインワンの軸は曲げずに DXを支える技術の幅を拡大 ~日本IBM 三ヶ尻 裕貴子氏   |特集|IBM i 7.4

データ活用、オープンソース対応、高可用性のさらなる上、開発環境の拡充など多面的な革新

三ヶ尻 裕貴子氏
日本アイ・ビー・エム株式会社 システム事業本部
Power Systemsテクニカル・セールス 部長
IBM i 7.4
 

 

技術的に深い話をしないと
お客様の胸に響かない

i Magazine(以下、i Mag) 最近のIBM iユーザーの動きをどう見ていますか。

三ヶ尻 大きく分けて、2つのタイプのお客様がいると考えています。1つは、業務課題の解決へ向けて新しい技術・ソリューションを積極的に取り入れ、システムの構築・改善に取り組まれているお客様。もう1つはその反対に、10年・20年以上前に作ったシステムをほぼそのままの内容で運用されているお客様です。

 とは言え、後者のお客様でも業務課題の解決へ向けたSoE(Systems of Engagement)領域でのシステム化の取り組みはあるのですが、それとIBM iが一体になっていなくて、切り離されて進められているのです。端的に言えば、基幹系(IBM i)とSoEの担当者がそれぞれ別で、両者の連携がうまくなされていない状況なのではないかと思います。

 私どもテクニカル・セールスとしては、前者のアグレッシブなお客様にはIBM iの世界の先進的なソリューションをいち早くご紹介し、システム化の参考にしていただくことと、後者のお客様に対しては、IBM iを活用するメリットをご説明し、新しい一歩を踏み出していただくことがテーマです。

i Mag 具体的にどのような活動を展開しているのですか。

三ヶ尻 2~3年前から取り組んでいるのは、テクニカル・セールスのスタッフがお客様を訪問し、IBM iについて直接ご説明し、ご提案するという活動です。

 テクニカル・セールスというと、それまではバックエンドに控えて技術的な問い合わせや依頼に回答するのが主な仕事でしたが、現在はそれだけでなく、スタッフ自らがフロントへ出て、お客様と会話していこうと努力しています。

i Mag それはどのような理由からですか。

三ヶ尻 2つ大きな理由があって、1つはお客様の実情に沿った技術的な話をしないとお客様に響かなくなっているのと、もう1つはIBM iに関連する技術の幅がものすごく広くなり、営業が簡単には答えられないことが増えてきたからです。

 技術に関して深い情報を求めているお客様には、お訪ねして、その場でお客様が納得する答えや方向性を提示できなければ、オポチュニティの喪失につながってしまいます。解決策を求めるお客様のスピード感が以前とは比較にならないほど速くなってきたのが、テクニカル・セールスがフロントへ出ていく背景としてあります。

 

IBM iの設計思想の凄さを
改めて実感

i Mag そうしたなかでIBM i 7.4が登場しました。IBM iに長く関わってこられた三ヶ尻さんは、IBM i 7.4をどう受け止めたのでしょうか。

三ヶ尻 IBM iはAS/400時代から、その時々の先進技術を継続的に取り込んで成長してきたOSです。しかも、オールインワンという軸は決して曲げずに、その誕生から現在まで一貫させています。

 発表の全容を知ったときにまず思ったのはそのことで、今回のIBM i 7.4はデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)という世の中の動きに合わせて技術の幅を大きく広げたと感じました。オープンソースの一層の取り込みやデータの活用へ向けてのさまざまな技術の追加・改良は、DXを見据えた拡張です。

i Mag データの活用に関しては、具体的にどのような拡張がありますか。

三ヶ尻 1つはSQL対応の拡張です。今回のIBM i 7.4から、外部からのREST接続でDb2 for iのデータを直接照会・更新する機能がSQLに対応しました。

 このREST接続では、クライアント側にDb2 for iへ接続するためのドライバが不要ですし、IBM i側でもSQLに対応したことでデータベースにアクセスするためのプログラムを作成する必要がなくなりました。

 世の中で一般的に使われているSQL言語で、IBM i上のデータベース操作を記述するだけで、すぐに外部システムとIBM iとをREST接続で連携できるようになります。IBM iを外部へ向けて大きく開く拡張、と言えるかと思います。

 また、ACS(IBM i Access Client Solutions)も拡張されて、SQLのスクリプトをIFSとソース物理ファイルに格納し、利用できるようにもなりました。IFSへの保管によって、Gitによるバージョン管理や、Orionなどのオープンソースのエディタを使った開発が可能になります。IBM i以外のオープンな開発技術に習熟したエンジニアにIBM iを開放する拡張とも言えます。

i Mag マシンラーニングやディープラーニングなどへのOSとしての対応はいかがですか。

三ヶ尻 IBM i上でマシンラーニングやディープラーニングといったAIアプリケーションを回すのは、できないことはありませんが、かなり限定的な利用になるので、むしろPower Systems上でIBM iの隣に配置できるLinux区画へIBM iのデータを送り、Linux上でそのデータを用いたマシンラーニングやディープラーニングを行い、その結果をIBM iへ戻して利用するという使い方が最適です。

 Linux on Power上におけるマシンラーニングやディープラーニングの実装については、既に十分な実証が得られています。

  OSとしては、AIアプリケーションへのインプットデータの事前準備や加工、そしてAIの実行結果を蓄積し可視化するためのツールである、Db2 Web Query for iの最新バージョンへの対応やオープンソースのデータ解析ツールであるRをサポートしました。

 しかし、マシンラーニングやディープラーニングに関するIBM iのお客様の動きを見ると、PoC段階で止まってしまっている場合や、投資回収の検討に時間をかけ過ぎて、踏み切れないでいる企業が少なくありません。

 これは本当にもったいないことで、世の中の企業が検証から本格活用の段階に入っている趨勢なので、早く着手しないと乗り遅れてしまうと危惧しています。そのことはまた、メーカーであるIBMのチャレンジであるとも考えています。

 

逆転の発想が
ブレークスルーを生む

i Mag IBM iユーザーがマシンラーニングやディープラーニングへ動くには、何がブレークスルーになりそうですか。

三ヶ尻 そこを考え続けている毎日です。1つヒントになると思っているのは、逆転の発想です。

 IBM iのお客様のなかに、IoTのエッジにIBM iを配置して、エッジコンピュータとしてIBM iを機能させているユーザーがおられます。これは、IoTのセンサーからノイズを含む多種多様なデータが上がってくるので、それをIBM iで収集しアプリケーションを回してフィルタリングし、有用なデータだけをセンター側のIoTシステムへ送るという仕組みです。

 エッジに置くサーバーをリモートで管理・コントロールするのはかなり大変です。しかしIBM iならば自動でIPLして立ち上がり、自動運用が可能です。

 IBM iというと、センター側での活用を考えがちですが、そうではない使い方もあるという好例で、そうした逆転の発想がブレークスルーになると思っています。

i Mag IBM iを使いこなしている、IBM iをよく知るユーザーからしか出てこない発想ですね。

三ヶ尻 本当にそう思います。その観点で言えば、IBM iユーザーの多くは自社でアプリケーションを開発・運用して業務の中身や流れをよくご存じなので、マシンラーニングやディープラーニングをやりやすいはずと見ています。マシンラーニングやディープラーニングを実践するには、業務を理解し、どのようなデータを分析すればよいかを知っていることが必須ですから、その点でIBM iユーザーには大きなアドバンテージがあります。

i Mag オープンソースのRへの対応も、データの活用が目的ですね。

三ヶ尻 はい。RやPythonなどを利用することによって、IBM i上でデータの加工と解析を行い、活用まで一貫させることができます。1つのOS環境上ですべて完結できるのは、IBM iならではのメリットです。

 オープンソースの分野では、革新的なアプリケーションが次々に登場しています。それを使わない手はないので、今回は需要の多いRに対応しました。

 IBM iでは、Zend/PHPをサポートした10年以上前(2006年)から、オープンソースの活用に積極的で、かつ意欲的です。そして昨今のDXの急速な広がりをオープンソースが支えている側面もあるので、オープンソースへの取り組みを加速させています。

 IBM i用オープンソースの配布では、従来からの5733-OPSでの提供を終了し、RPMとYumのサポートに切り替えました。RPMは、Red Hat系ディストリビューションのパッケージ管理に使われているもので、IBM iでのオープンソースの導入や管理がさらに容易になります。

 

IBM Db2 Mirror for iが示す
DXへの備え

i Mag セキュリティについては、どのような進展がありますか。

三ヶ尻 今回のIBM i 7.4では、個々のオブジェクトに対してユーザー権限をきめ細かく設定できるように権限収集機能が拡張されました。セキュリティの中心が、ユーザーからデータへと変化しつつあることのOSレベルでの反映で、一段深いセキュリティの拡張です。

 データの可用性の向上では、IBM Db2 Mirror for iが大きな機能追加となります。広帯域で高速、低レイテンシーのRoCEネットワークを使って、2台のIBM iのメモリ同士を直接接続し、双方のデータベースへの同時書き込みを可能にしたソリューションです。

 IBM i環境におけるこれまでのHA(高可用性)ソリューションは、ディスクI/Oレベルで同期を取るのが一般的です。これに対してIBM Db2 Mirror for iはメモリ間で同期するので、スピードと可用性のレベルが違います。IBM iでは初めて登場したアクティブ/アクティブの同期HAソリューションです。

i Mag 従来のHAを超える高可用性ニーズは、どのようなユースケースで求められているのですか。

三ヶ尻 たとえば海外展開している製造業、24時間止められない物流システムでIBM iをお使いのお客様は、日本でも少なくありません。そうしたお客様にとってはRPO(目標復旧時点)とRTO(目標復旧時間)を限りなくゼロに近づけることが命題です。そもそもDXは、止まらない・止められないシステムを前提としていることが大半です。その意味で、IBM Db2 Mirror for iはDXへ向けた備えの1つと言えるかと思います。

 

オープン系言語に対応するだけでなく
オープン系の開発手法も取り込める

i Mag 開発環境についてはどうですか。

三ヶ尻 従来にも増して、オープンな手法でIBM iプログラムを開発できる環境を拡充しました。ただし、SEUで開発してきたRPGⅢの資産を、無理にILEやフリーフォーマットによる開発に変える必要はありません。

 一方、開発環境としてはオープンテクノロジーを取り入れることで開発生産性を高めることができます。たとえば、オープンソースの世界ではテキストベースでプログラミングしますが、IBM i 7.4以前からあるRDi(Rational Developer for i)のiProject機能を使うと、RPG Ⅲのソースコードもテキストファイル化してオフラインで開発可能となり、Gitと連携してバージョン管理も行えます。

 つまり、言語を変えるだけがオープンなのではなく、オープン系の開発手法を取り込めるのも、IBM iのオープン化の価値の1つです。オープンな手法を取り入れていくなかで、RPGⅣへのシフトも徐々に進めていただけます。多様な開発スタイルに対応できることがIBM iの特徴であり、メリットです。

i Mag 今、お話をうかがっただけでも多彩な拡張ですね。

三ヶ尻 はい。しかし、オールインワンという最初期からの軸はまったくぶれていないのです。つまり、これまでの投資の保護、データベースの標準装備とシングルレベルのストレージ、オープンソースを含めたテクノロジーの統合、仮想化による複数のワークロードの稼働、重厚なセキュリティ、という根本理念には何の変更もありません。

 IBM i 7.4の拡張の中身を含めて、IBM iの設計思想の先進性を改めて実感していただけるのではないかと思います。

三ヶ尻 裕貴子氏

日本IBMへの入社以来、エンジニアとしてキャリアを積んできた。2000年代初めに日本IBMシステムズ・エンジニアリングにて、IBM i案件の技術サポートを数多く担当。2008年から日本IBMのITS部門でデリバリーに従事し、PMなどを経験した。2013年から現職。Power Systems/IBM iの凄さの普及を、技術面から支える活動に従事している。

 

[i Magazine 2019 Autumn(2019年8月)掲載]

 

 

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PART 1 オールインワンの軸は曲げずにDXを支える技術の幅を拡大 

三ヶ尻 裕貴子氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
システム事業本部Power Systemsテクニカル・セールス 部長

PART 2 DXを見据えたメジャーリリース IBM i 7.4の到達点
PART 3 アプリケーション開発機能の拡張・変更点
PART 4 超高可用性を実現するIBM Db2 Mirror for i
PART 5 SQL対応を大幅に拡大 Db2 for i関連の機能拡張
PART 6 SQLが簡単に使える機能を満載 ACS V1.1.8の強化ポイント
PART 7 Db2 for iのREST接続とオープンソース対応を拡充
PART 8 データのセキュリティを強化オブジェクトごとに権限設定が可能に