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RPAの機能とインパクトを知ろう!|業務の効率化・改善に劇的な効果をもたらすRPAの特徴・仕組み

人がPC上で操作する手順を記録して、自動的に再現するRPAツール。
これによって、従来システム化から取り残されていたさまざま業務の自動化が可能になるが
RPAツールがもつインパクトはそれにとどまらない。
企業全体の生産性向上につながる数々の効果をもたらすのだ。

 

手動の操作を記録し
自動で再現するソフトウェア

RPA(Robotic Process Automation)ツールは、人がPCの画面で行った手動の操作を記録して、そのとおりに、自動で再現できるソフトウェアである。

たとえば、得意先からメールで送られてきた注文書の内容を受注管理システムに入力する業務シーンを思い浮かべていただきたい。受注担当者は、メールを開き、注文書の内容をチェックし、さらに在庫管理システムにアクセスして在庫状況を確認、納期回答のメールを取引先に送信する。次に、受注管理システムの受注入力ページにアクセスして、受注日、受注番号、得意先名、商品名、数量、受注金額などを入力していく。

ごくふつうのシンプルな業務シーンだが、メールを開く、内容を確認する、システムにアクセスする、入力するといったさまざまな動作・手続きが組み合わされて一連の作業が行われている。RPAツールは、このような手入力、ないし人が介在する作業を自動化することが可能である。

手入力作業と
情報システムとのチェーン

別の観点で見ると、企業の業務は、手入力の作業と、そこから先の処理を自動化する情報システムとのチェーンによって構成されている部分が多い。受注管理で言えば、受注担当者が手入力で注文内容を登録すると、受注管理システムが作動して受注伝票や注文請書を作成し、それを営業担当者がPDF化して得意先へメール送付したり、あるいは発送担当者が出荷指示書に基づいて在庫管理システムを操作し、出庫・発送作業を行ったりする。このように、手動→システム→手動→システムのチェーンで業務が遂行されている(図表1)。

 

【図表1】システム化の「空白」を埋めるRPA

 

この「手動」部分は、処理としては小規模で、かつ多数の細かい作業で構成されるため、投資効果の観点から、これまでシステム化の対象とはされてこなかった。言わば、システム化の「空白」部分である。

RPAツールは、この「空白」部分を自動化できる。そして、そのような「空白」は企業の至るところにあり、それらの自動化は、企業のシステム化率を総体的に上げ、企業全体の生産性の向上をもたらす。それがRPAのインパクトなのである。

 

手順やルールが明解ならば
すべてRPA化可能

RPAツールは、人がPC上で操作するものは、基本的に自動化できる。操作の記録・登録という点ではマクロ機能に似ているが、マクロ機能が単一のアプリケーションに範囲が限られるのに対して、複数の異なるアプリケーションやシステムをまたいで操作を記録・登録できるのがRPAツールである。

自動化の対象となる業務は、非常に幅広く、多岐にわたる(図表2)。手順やルールが明解な業務であれば、自動化が可能である。たとえば、次のような例が挙げられる。

 

【図表2】自動化の主な対象業務

・定型的な繰り返し業務(入力、転記、アプリケーション操作など)

・業務システムからのデータ取得

・EDI・Web受注・Webバンキング処理

・見積書・報告書などの作成と

メール操作

・経費精算処理

・Webからの情報収集

・数字の照合など整合性・

・同一性チェック

 

RPAツールの
3つの基本機能と仕組み

ここからは、RPAツールの機能と仕組みについて触れてみよう。

RPAツールは、画面上の操作を解析する機能と、それを記録して一連のフローとして連結するプログラム作成機能、そのプログラムを動作させるための実行機能の3つで構成される(図表3)。このほか、作成したプログラムを統合的に管理・統制する機能もあるが、これを別製品としているRPAツールも多い。

 

【図表3】RPAツールの概要

 

画面上の操作を解析する技術には、「画像認識」「UI識別」「座標指定」などがある。

画像認識は、操作対象のボタンやセルなどを画像データとしてキャプチャし記録するもの。仕組みとしては、RPAのプログラムを実行するときに、事前に記録した画像データを呼び出して照合し、操作対象を特定する。その照合の精度を調節する機能もあり、操作対象として特定できない場合は、判断を求めるメッセージが表示される。

UI識別は、Web画面ならHTMLソースを構造解析してタグによって操作対象を特定する方式。Windowsアプリケーションの場合は、MS Automation API、Javaアプリケーションの場合はJava Access Bridgeを用いて操作対象を特定する。このほか、基幹アプリケーションを対象とする製品では、3270/5250対応のホストエミュレータ機能をRPAツール内部にもち、操作対象を特定する。「IBM i対応」の製品は、5250エミュレータを内蔵しているので処理が正確で、かつ速い。

座標指定は、PCの画面を2次元の座標に見立て、操作対象を座標データで特定する方式。X軸・Y軸の座標データなので、画面サイズが変わったり、操作対象の表示位置が変わると、RPAプログラムが正確に動作しない場合がある。

大半のRPA製品は、これらの解析技術を複数採用しているのが一般的である。そのため、どのRPAツールも「PC画面に表示されるアプリケーションは何でも自動化できる」ことをアピールしているが、解析機能自体は製品ごとに異なるので、ツール選定の際にはプログラム作成機能や操作感と併せて確認し、目的に合う製品を選ぶ必要がある。

 

サーバー型と
デスクトップ型

RPA製品は、RPAプログラムの配置場所で製品のタイプが分かれる。大きくは「サーバー型」と「デスクトップ型」の2タイプがあり(両方をもつ製品もある)、サーバー型はサーバーにRPAプログラムを配置し、デスクトップからアクセスして作業を行う。複数のPCで利用するのに便利で、RPAプログラムの修正・変更や管理を集中して行え、RPAプログラムの追加・削除も容易である。実績としては、事務センターやコールセンターなど事務処理を集中的に行う部署で数多く利用されている。

一方のデスクトップ型は、個々のPCにRPAプログラムをインストールして利用するタイプである。ユーザーの身近に配置するので、部門ごとの自動化ニーズに対応しやすい。ユーザーのPCに搭載する場合もなくはないが、RPAプログラムの実行中はマウスやキーボードが使えなくなるので、専用のPCを用意するのが一般的である。

 

人的ミスの減少など
業務改善にも効果

RPAの導入メリットに関しては、『KPMG Insight』誌が米国HfS Research社の調査データを紹介している。それによると「エラー率の減少」がトップで、「定型タスク品質の改善」「業務プロセス実施スピードの向上」が続いている(図表4)。要するに、人的ミスの減少、業務品質の向上、業務のスピードアップということで、つまりRPAは、システムの「空白」を埋める効率化や生産性の向上だけでなく、業務の改善にも大きな効果をもっているのである。

 

【図表4】RPA導入効果に関する調査結果

 

RPAの導入効果については、AutoMateを販売する三和コムテックが、自社の業務への適用例を公表している。同社によると、従来、1件あたり5分、毎月400分かかっていた手入力の作業が、AutoMateによる自動化によってすべて不要となったという。さらに、400分が0分になるという時間短縮に加えて、人的ミスや担当者の負担の解消という効果も、同社では挙げている(Part 2で紹介)。

導入に踏み出した企業は
まだ1/4程度

図表5は、主なRPA製品の一覧である。既に多数の製品が入手可能である。

【図表5】主なRPA製品

ユーザーの導入状況については、調査会社ガートナージャパンが興味深い調査データを公表している(2017年5月に395社を対象に調査)。それによると、RPAを「すでに導入済み」なのは全体の14.1%、「導入中」「導入予定」は13.8%、「導入を検討中」は11.6%、「導入予定/検討なし」は60.4%という結果である。つまり、導入に踏み出したのは、まだ全体の1/4程度なのである。

RPAによる自動化は、従来手作業で行っていた業務に効率化と改善をもたらす。その個々の業務の効率化・改善の積み重さなりは、企業全体の業務効率化と生産性向上につながる。ガートナージャパンの調査結果からは、RPAツールの早期導入が、企業の競争力向上のための戦略にもなり得ることが見えてくるだろう。

 

導入サポートの強化と
AI活用のRPA化に取り組む

ここからはITベンダーの動きを見てみよう。

IBM分野で最大のソリューションプロバイダーであるJBCCは、2017年4月からRPAへの本格的な取り組みを開始している。もっともSIerとして長い歴史をもつ同社では、「昨今のRPAブームの以前からバックオフィスの自動化を数多く手がけてきました」と、ソリューション事業 クラウド&ビジネス・ソリューション事業部の岡元信弘氏(先進ソリューション推進部部長)は話す。

たとえば、家具メーカーの事例では、家具の梱包に使用する段ボールを、従来は紙の指示書を見て手動で裁断機を操作し手入力で保証書を作成していたものを、指示書の内容をQRコード化し、それを出荷現場で読み取ることによって機械が自動で段ボール原紙を裁断し、さらにWordへの転記と印刷も自動で行い保証書を作成できるようにした。

もう1つは食品メーカーの事例で、仕入原価の変更や為替予約の影響に伴うマスターの見直しや仕訳処理などの変更を手作業で行っていたが、基幹システム(IBM i)から仕入原価などの情報をCSVで自動取得し、それをERP用とExcel用に新たに開発したマクロと連携させることによって、ERPシステムへの登録の際に自動採番される伝票番号などを、Excelに自動で保存できるようにした。

以上は、JBCCの“RPAブーム以前のRPA的取り組み”の一部だが、こうした多数の経験と、現在市場に出回っているRPAツールの特性を踏まえて岡元氏は、「RPA導入では、属人化・標準化・人材育成の3つの課題をクリアする必要があります」と、次のように指摘する。

「RPAは投資効果が非常に高い半面、属人化されている業務のやり方をそのまま自動化してしまう恐れがあり、環境の変化にかえって柔軟に対応できなくなる危険性をもっています。また、現在のRPA化は、人が従来から行っている作業の置き換えに過ぎないため、過度の導入による標準化の遅れが懸念されます。そうならないためにRPAに精通した人材の育成やベンダーによる支援が不可欠です」

そこで、JBCCが今取り組んでいるのが、「RPA導入サポートの強化」である。これは、RPAによる自動化プログラムを利用するユーザーがトラブルに遭遇した際に、VDI(仮想デスクトップ)の仕組みを使って直接、サポートや運用保守を行うもの。「VDIのモジュールをユーザーのデスクトップに配置して、システム部門に代わってトラブルの解決や運用保守を行います」と、岡元氏は言う(図表6)。

 

【図表6】JBCCの今後の取り組み

さらにもう1つの取り組みは、「Class 2」と呼ぶ、AIを活用したRPA化の支援である。JBCCではRPAによる自動化を、Class 1?Class 3の3つに分類している(図表7)。Class 1は、定型的な業務の置き換え、Class 2はAIによる非定型業務や例外対応などの自動化、Class 3はより高度なAIを利用し、プロセスの分析・改善や意思決定までも自動化するRPAである。

 

【図表7】RPAの発展段階と主な適用領域

「Class 2、Class 3のRPA化によって、メールや電話への自動応答や、注文書などの読み取り・内容チェック?受注管理システムへの登録などの自動化が可能になります」(岡元氏)

また、開発支援ツールのGeneXusとAIを活用する高度な自動化にも取り組んでいる。これは岡元氏によると、「現在、システムとシステムの間でやむを得ず手動で行っている作業の自動化で、最終的には一連の業務を無人化する取り組みです」というものだ。

このほか、契約書の作成・締結・管理に関する処理を自動化する電子契約サービス「Agree」(GMOクラウド製)も推進している。

「RPAツールにはそれぞれ特徴があり、お客様のご要望や状況に応じてを使い分けていくのが最善です。現状では、どの企業でも多くの業務で煩雑な手作業を必要としています。JBCCではそこに着目し、RPA化によって人手作業をなくすことを目標に置いています」と岡元氏は話す。

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i Magazine 2018 Spring(2月)掲載