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深刻化する要員不足の現状とIBM iユーザーの取り組み ~人材確保に挑戦するユーザーとベンダーの状況

「IBM iユーザー動向調査 2023」から見えてくる
システム要員不足の現状

日本の産業全域で人材不足が深刻である。労働市場における需要と供給のバランスが崩れ、少子高齢化が拍車をかける。少子高齢化が進むことで労働力が一層減少するという、2030年問題への懸念も指摘されている。

もちろんIT分野も例外ではない。 「2025年の崖」を持ち出すまでもなく、 経済産業省によると、2030年にはデジタルサービスの需要次第で45〜80万人のIT人材が不足すると警告している。

産業全般で、そしてIT業界全般で人材不足が進行するなか、IBM iを利用するユーザー企業のIT部門も同様である。むしろ長い運用の歴史があり、固有の開発・運用スキルが求められるIBM iユーザーでは、人材不足がことのほか深刻であると言えるだろう。

本誌が2023年に実施した「IBM iユーザー動向調査 2023」の集計結果には、その状況が如実に表れている。

この調査は2023年7〜8月にWeb上で実施したもので、有効回答数は871件。すべてIBM iユーザーからの回答である。IBM iに関するさまざまな状況、取り組み、関心、懸念や課題などを34問にわたって調査している。

図表1はそのなかから、情報システム全般の課題・問題を尋ねた結果である。

図表1 情報システム全般の課題・問題

 

さまざまな課題があるなかで、72.3%と最も多くのユーザーが指摘するのは、「システム要員の不足」であり、ほかの課題・問題を引き離している。

本調査は2019年、2022年、2023年と直近で3回実施しているが、ほかの課題・問題には経年で大きな変化は見られない。これに対し「システム要員の不足」だけが、2019年は58.7%、2022年は69.9%、2023年は72.3%と年々数字が伸びている、つまり深刻化の傾向を見せているのである(図表2)。

図表2 システム要員の不足に関する変化

ちなみに図表1に挙げたほかの課題・問題のなかで、「システム要員の不足」に続き、2〜8位には情報、知識、スキル、企画・立案力、構築力、提案力など、いわゆる何らかの「人の力」の不足に関する指摘が並ぶ。

人材育成と情報共有はコインの表裏のような関係にあるが、ここでは人員の絶対数だけでなく、技術者・開発者の個々人が備えるべき力量の不足に悩むIBM iユーザーの現状が見えてくる。

さらに図表1の下位には、「取引先メーカー・ベンダー・SIerからの情報提供の不足」「取引先メーカー・ベンダー・SIerからの技術力の不足」「外注ベンダーの管理が難しい」と、外部ベンダーに関する指摘が並んでいる。

現在、ユーザーの最も近くにいて導入・開発・運用を支援するのは、メーカーであるIBMではなく、ベンダーやSIerである。ユーザーは自社の人材不足、あるいは技術力や情報の不足を認識し、その解決策として外部ベンダーへ向けられる期待は高い。課題・問題のなかにベンダー関連の項目が並ぶのは、こうした期待感の裏返しであると言えるだろう。

また図表3は、IBM i上で開発に利用している言語の種類を尋ねた集計結果である。

図表3 IBM iで利用中の開発言語

最も使用されているのは、予想に違わずRPGで、RPG Ⅲは77.8%、RPG Ⅳ(ILE RPG)は65.0%が利用中である。

ちなみに3回の調査結果を比較すると、RPG Ⅲの利用率に大きな変化はないが、RPG Ⅳでは2019年が56.7%、2022年は62.4%、2023年には65.0%と、年々数字が伸びており、RPG Ⅳの中で固定フォームを使用しているのは50.7%、フリーフォームが22.5%という結果であった。RPG開発においては、ⅢからⅣへのスキルトランスファーは少しずつ前進しているように見える。

いずれにしてもRPGの利用は多く、IBM iユーザーの多くが指摘するシステム要員の不足は、「IBM i上で最も使用されているRPGにより開発・保守できる要員の不足」と解釈することができる。

IBM iユーザーを悩ませる
システム要員不足の背景

IBM iユーザーが悩むシステム要員不足について、その背景に目を向けてみよう(図表4)。

図表4 IBM iユーザーを取り巻く要員不足の背景

運用の歴史が長く、かつプログラム資産の継承性が高いIBM iでは、長年にわたりアプリケーションに改修を加えながら使用している例が多く、技術力や知識が属人化しやすい傾向にある。

システムをよく知るベテラン技術者が高齢化し、退職定年していく一方、その技術力や知識を継承する若手世代、後継者が育っていないと危惧する声はここ何年も聞かれてきた。

それに加え、開発・運用・保守を担ってきた一部のベンダーがIBM i市場から撤退したという状況もある。また長い開発・運用の過程でドキュメント類が失われ、システムがブラックボックス化しているがゆえに、知識やスキルを次の世代へ継承しにくいという状況が、後継者育成を阻んでいる側面もある。

現在のシステム要員数から考えると、IBM iユーザーのIT部門は大きく3つのグループに大別できる。

1つ目は、「ひとり情シス」や「ゼロ情報シス」などと呼ばれるような、限りなく少人数でIT部門を運営しているユーザー群。これらのユーザーはもともと外注率が高く、日常的に開発・運用・保守を支援する外部ベンダーと密接に連携しているケースが多い。

2つ目はこれと対局にあり、開発ボリュームの大きい案件は外部に委託する場合もあるが、できるだけ社内で開発・運用・保守を進めようと考えるユーザー群である。いわゆる内製主義を標榜するユーザーであり、企業規模にもよるが、中堅・中小企業でも10名前後のシステム要員が所属し、人材育成・獲得にも積極的である。

そしてこの2つの中間に位置するのが3つ目のグループ、つまり2〜4名程度のシステム要員を擁し、今までアプリケーション保守や小規模の開発は社内で手掛けてきたユーザー群である。

どのグループもそれぞれに人材不足の課題を抱えているが、最も深刻なのが3つ目のグループ、すなわち2〜4名程度のシステム要員を擁し、これまでアプリケーション保守を社内で手掛けてきたユーザーであると思われる。

IBM iはもともと、RPGという使いやすい開発言語の存在もあり、アプリケーション保守を自前で行う体制が色濃く残っていた。しかし前述したように担当者の高齢化や後継者不足という問題に直面し、自前のアプリケーション保守が難しくなりつつある。

今運用している基幹システムをどうすれば維持できるのか、ベンダーの元へは悲鳴に近いような、待ったなしのSOSが寄せられているのが現状である。

要員不足を解決する3つの手段
アウトソーシング、社内の人材育成、ツールの導入

システム要員の不足を解決する手段は、大きく3つに分けられる(図表5)。

図表5 システム要員の不足に対する解決策

1つ目はアウトソーシングすること。アプリケーション保守からIT部門の機能を丸ごと外部に委託するまで、アウトソーシングの内容は異なるが、社内で担う人材を確保できないなら、外部ベンダーに任せようという考え方である。

2つ目は、社内で人材を育成・確保すること。外部に人材不足を補うリソースを見つけられないのであれば、社内で人材を教育し、内製力を高めて自社で開発・運用を進めようという考え方である。

これにはIT経験のない新卒社員を教育・育成するケースもあれば、一般的なIT経験のある人材を中途採用し、IBM iのスキルを学習させるケースなど、対応方法はいろいろである。

3つ目はツールやソリューションを採用して自動化・効率化・省力化を推進すること。ツール/ソリューションを導入することで開発・運用にかかる工数を省力化し、技術者1人当たりの労働時間を削減しようという考え方である。 

RPGに代わり、ローコード/ノーコードツールの利用を増やして開発生産性を高めたり、クラウドサービスなどを採用して、日常的な運用管理の負荷、障害発生時の対応、マシンリプレース時に求められる作業時間を削減する場合もある。

今回の特集取材では、要員不足に関してベンダー側が掲げる対応サービスの筆頭がアプリケーション保守であることがわかってきた。

アプリケーション保守はこれまで、各ベンダーが付き合いのあるユーザーに対して実施するケースが多く(実際にはユーザーのシステム開発に携わったケースが多い)、表立ってサービスの存在を訴求するケースは少なかったように思える。

しかし最近は、「当社が開発していないシステムでも保守が可能」であると、アプリケーション保守サービスをメニュー化し、表看板に掲げてユーザー獲得の手段としてアピールするケースが確実に増えつつある。

これには、ユーザー側の意識の変化が反映されていると言える。

今までユーザー側には、「自分たちが開発したアプリケーションの保守を外部に委託する」、あるいは「アプリケーションを開発したのとは異なるベンダーに保守を委託する」ことは難しいという意識が強く根付いていた。

確かに開発に携わっていないアプリケーションの構造や内容は把握しづらく(把握するのに多くの工数や予算が必要となる)、各ユーザー(あるいは開発者の)プログラミングに関する独特のクセなどもあり、アプリケーション保守を外部に委託するのは難しい面があった。

しかし最近は、アプリケーションを可視化・分析するツールの登場などもあり、短期間で構造や影響範囲などを把握できるようになった。アプリケーション保守サービスを提供しているベンダーはほぼ例外なく、最初の時点でこうしたツールにより既存プログラムを可視化し、保守の範囲や頻度を特定してからサービスを開始している。

アプリケーション保守は、ユーザー側の業務内容やアプリケーション構成、システムの運用状況を把握する重要な手がかりとなる場合が多い。ベンダー側としてはアプリケーション保守サービスを一種のドアノックツールとして活用し、人材育成に向けた教育サービス、さらにそれ以上の本格的なアウトソーシングサービスや開発/SIなどにつなげていきたいという思惑がある。

3社のIBM iユーザーが取り組む
「攻めの要員対策」

次に、IBM ユーザーが進めている要員対策に関する取り組みを見てみよう。

IBM iユーザーの「攻めの要員対策」として、今回の特集では3社を紹介している。SBSリコーロジスティクス、ジャストオートリーシング、日本サニパックの3社である。いずれも社内人材の育成・確保・活用に積極的に取り組んでいる。

まず3社に共通するのは、経営戦略に沿ったシステム化戦略を推進するなかで、さまざまな要員対策・施策を展開している点である(図表6)。

図表6 現実とのギャップを埋める要員対策

どの企業もシステム化戦略を立てるとき、予算、期間、技術、要員を検討する。そして現実とのギャップがあれば、そのギャップ(=課題)を埋めるべく施策を検討する。システム部門が直面する課題が多岐にわたることは、図表1や図表2が示すとおりである。このことは、今回紹介した3社も例外ではない。

SBSリコーロジスティクスは約2年弱に及ぶ大型プロジェクトのスタートにあたって、RPG要員の決定的な不足という問題に直面した。同時期に平行して進んでいた大型プロジェクトにRPG要員をとられていたからである。

ジャストオートリーシングは、10年来の目標である整備工場向けシステムを構築するには、まだ機が熟していないと考えてきた。世の中の技術、部員のスキル・経験、企業のITリテラシーなどがシステムの構築・運用に必要なレベルに届いていないと判断できるからである。

また日本サニパックは、大小さまざまなシステム化案件を少人数のシステム要員により同時並行で進めるために、常に工夫をこらす必要があった。

3社の「攻めの要員対策」は、このあとそれぞれ詳しく紹介するが、SBSリコーロジスティクスはオープン系技術者をRPG技術者へ転換し戦力とする施策、ジャストオートリーシングは整備工場向けシステムへの「布石」を仕組みを通して打ち、目標へ近づく施策、日本サニパックは業務部門やベンダーを“仲間・協力者”とするマネジメント施策を展開し、成果を上げてきた。

システムは経営を支えると言われる。当たり前のことのようだが、そこでは、経営が目指すものをシステムの立場で紐解き、そこにシステム化のチャンスと課題を見出していく「攻めの姿勢」が不可欠である。

3社の「攻めの要員対策」は、3社それぞれの「攻めの姿勢」にほかならないことを教えてくれる。

人材不足、要員不足は一朝一夕では解決できず、教育には時間が必要である。外部ベンダーを活用した即効性のある対策、ある程度長い目で見て人材を育成・活用する対策を使い分けながら、経営戦略とIT戦略の双方からのアプローチを図ることが重要である。

IBM iの資産継承性には定評があるが、真の継承性は人材があってこそ可能になる。そのことは、あらためて言うまでもないだろう。

 

[i Magazine 2023 Autumn(2023年12月)掲載]

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