事例|武蔵野 「利益」のためにこそ最新技術を活用

システムの改築・開発を精力的に進める

2012年にコールセンターシステムを
再構築しGUI化、作業効率を改善

武蔵野の情報システム化は、1980年のシステム/36の導入から本格的に始まる。以来30年以上にわたり、RPGをベースに基幹システムを構築し、改修を加えつつ運用してきたが、2010年代になってITノウハウの属人化による将来的な運用・保守の懸念や、多種類の開発環境やデータベースの混在による運用管理の負担増などが顕在化し、大きな問題となっていた。

そこで、作業効率の悪さがとくに指摘されていたコールセンターシステムの改築に乗り出したのが2011年である。コールセンターではそれまで、コールしてきた顧客から名前、住所、電話番号などを聞き出して顧客情報や売上情報などを検索していたが、その確認を行うには5250の3つの画面を切り替えながら行う必要があり、手間と時間がかかっていた。

導入した新しいコールセンターシステムは、日本アバイアのIP-PBX「Avaya Aura Communication Manager(以下、ACM)」をベースとするCTIアプリケーションである(図表1)。顧客からコールがあると電話番号から即座に顧客情報を画面表示するようにし、5250の3つの画面で参照していた内容をタブを用いた1画面に集約した。その結果、情報へのアクセスが格段に速くなり、1件あたりの応答時間の短縮と、問い合わせの処理件数の増加を実現できた。「顧客情報の参照が簡単で、電話の内容が理解しやすくなりました」が、導入当初のオペレーターらの感想である。

 

【図表1 画像をクリックすると拡大します】

 

基幹系の標準開発ツールとして
Visual LANSA Frameworkを選定

このCTIアプリケーションの開発には、ランサ・ジャパンの「Visual LANSA Framework」を採用した(2011年春)。そしてその採用と同時に、3名のシステム部員にLANSAのトレーニングを受講させ、自社で開発を進めることとした。

Visual LANSA Frameworkで開発したのは、AvayaのActiveXコントロールを組み込んだCTIクライアントとWindowsサーバー上で稼働するCTIプログラムである。CTIクライアントは、IBM i上の基幹システムと連動し、顧客データベースなどから情報を取得して表示できる。プログラムは20本、ファイル数は30本で、1日2時間の開発で約2カ月を要して2012年7月に完成した。そしてこれ以降、同社はLANSAを「共通開発スキル」と位置づけ、基幹システムの開発・改築用ツールとして利用していくことを決めた。これは、CTIアプリケーション開発時の生産性とスピードを高く評価したからである。

ITを活用して全社員の
残業時間を40%削減せよ!

同社が次に取り組んだのが、2014年の「ダスキン精算システム」である。このシステムの開発には、月平均76時間だった残業時間を「月45時間未満にする」という大きな目標が与えられていた。Part 1で小山昇社長が触れていた残業時間削減の取り組みである。

そしてこの命題を解決する対象としてシステム部が目をつけたのは、清掃用品を納品し使用済み品を回収して回るダスキンクリーンサービス業務の効率化である。

この業務は、システムの導入以前は、次のような作業で進められていた(図表2図表3)。

 

【図表2 画像をクリックすると拡大します

【図表3 ダスキンクリーンサービスの業務スナップ

 

まず、在庫担当者は、営業担当者が翌日に回る営業先のリストを印刷し、倉庫から必要な商品を取り出して用意しておく。営業担当者はその日に回る顧客先リストと顧客へ渡す伝票を紙で出力し、配送する商品などを積み込んで、営業に出発する。1日に回る営業件数は、おおよそ50?60カ所の事業所か、または約100軒の家庭である。

次に顧客先では、予定の商品を納品し、使用済みとなった商品を回収する。このとき納品や回収の予定数に変更があったら、持参した伝票に手書きで修正し、顧客へ渡す。

そして、すべての訪問を終えたら帰社し、納品・回収の実績値を記入したリストを営業サポートへ提出する。営業サポートはそのリストを見て、在庫管理システムへの入力を行う――というのが、ダスキンクリーンサービス業務の概略である。

2014年にiPadとLongRangeを活用し
ダスキン精算システムを構築

システム部がこの業務を対象に構築したのは、紙に出力していた各種リストをアプリ化してiPadで表示させ、iPad上で修正・変更・追加を行うことにより、出庫、納品、回収、精算の各業務を一貫処理する「ダスキン精算システム」である(図表4)。

 

【図表4 画像をクリックすると拡大します

iPadの活用は、小山社長の号令のもと、2012年からパートとアルバイトを含めて全従業員が使用していたので、あらかじめ決めていた。開発ツールとしては、当初iPad用アプリケーションの開発で使い慣れていたFileMakerを検討したが、iPadとIBM i上のDB2との連携やVPN通信に難があったので棚上げとし、その後、ランサ・ジャパンの「LongRange」が発表になったのを機に検討を再開し、採用を決めた。

LongRangeは、iPhone・iPadやAndroidなどのネイティブ・アプリの開発に特化したツールで、IBM i上のRPG・COBOL・CLなどのプログラムとの連携機能を備える。ネイティブ・アプリのUIは、メニューやアイコンなどのパーツ/プログラムを豊富にそろえる「LongRangeスタジオ」を使って簡単に設定でき、ビジネスロジックの開発はLongRangeスタジオのほか、既存のIBM i開発ツールも利用できる。

武蔵野ではLongRangeを、ネイティブ・アプリとIBM iとの連携に優れる点と、オフライン環境でも利用できる点を評価して採用を決めている。開発は2013年11月にスタートし、2014年3月にカットオーバーした。

ダスキン精算システム導入後
営業担当者の行動が変わる

このダスキン精算システムの導入後、営業担当者の行動は大きく変わった。

営業の当日、営業担当者はiPad上のアイコンをクリックして訪問先のリストをダウンロードし、顧客先で納品数や回収数が変更になったらiPad上で修正して、帰社後に基幹システムへアップロードするだけになった。紙を使用するのは、顧客に渡す伝票だけである(図表5)。

 

【図表5 画像をクリックすると拡大します

これにより、それまで毎日20~30分かかっていた精算・入力作業と月末の棚卸し作業が不要になり、それと同時に、紙のリストへの記入といった煩雑な作業が減って時間ができたため、新規顧客開拓の営業回数を増やせるようになった。また、紙からの入力がなくなったことにより、入力ミスをゼロにできたことも導入効果の1つである。

顧客への伝票と修正処理が
非効率なまま課題として残る

2014年3月にサービスインしたダスキン精算システムは、「業務がスムーズに進む」と好評で、営業、在庫管理、精算の各業務で定着し利用されてきた。

ただしそのなかで、顧客へ渡す伝票と、納品や商品の回収で変更があったときの修正処理だけは、従来の形のまま残されていた。つまり、変更を記入した伝票を帰社後に営業サポートに提出し、それを営業サポートがシステムへ登録するという形である。

「ダスキン精算システムの導入後も、お客様への伝票は事務所で印刷したものを持参し、変更があれば、手書きで修正してお渡ししていました。伝票の枚数は1日平均2000枚以上もあり、その印刷・管理だけでも相当な時間がかかります。そのうえ、伝票の変更は全体の3分の1ほどにも上り、その修正部分の基幹システムへの反映は、営業サポートが手書きの内容を確認し入力するという2重の手間もかかっていました。この部分はダスキン精算システムを構築した当初からの課題で、その解決に取り組んだのが『伝票レス・プロジェクト』です」と語るのは、システム部の須貝佑介課長である。

 

システム部の須貝佑介課長

伝票を廃止し、顧客先で
自筆印刷する構想が浮上

システム部が新たに構想したソリューションは、顧客へ持参する伝票を廃止し、商品の納品・回収時に、その明細を記載した「領収書」を携帯型プリンタで印刷して手渡すというものである。携帯型のプリンタであれば、納品や回収する商品の数に突然の変更があっても、その場でスマートデバイス上のデータを修正することで対応できる。さらに、スマートデバイス上の実績データを帰社後にアップロードして基幹システムに反映させれば、営業サポートによる入力を省力化可能である(図表6、図表7)。

 

 

【図表6 画像をクリックすると拡大します

 

【図表7 伝票レス・システムのiPadとプリンタ

 

 

これを実現するシステムの要件として、システム部では、オフラインで利用できることと、印刷スピードの2点を重視した。

実は同社では、ダスキン精算システムの構築時にもモバイルプリンタの導入を検討したことがあり、そのときはプリンタの印刷スピードが遅かったため、システム化を断念した経緯がある。また、今回のプロジェクトでも、当初はWi-Fi対応のプリンタしかなかったので、いったんはプロジェクトを中断していた。Wi-Fi型ではネットワークのあるオンライン環境でしか使えない制約があり、さまざまな場所へ出向くクリーンサービスの業務には適さないと判断したのである。そこへ、「オフラインでも使えるBluetooth対応のプリンタが登場しました」との連絡がランサ・ジャパンからあり、プロジェクトが再び動き出した。

同社ではもともと、iPhoneを想定してシステム化の検討を進めていた。「iPadは、お客様先で操作するにはサイズが大きすぎると考え、iPhoneをベースに検討していました」と、須貝氏は話す。しかし、実際にiPhone上でアプリを表示させてみると画面が小さすぎて文字や数字が見づらく、また全画面を見るのに画面をスクロールしなければならない使いづらさもあった。そこで急遽、iPadにデバイスを切り替え、iPad用のアプリケーションに作り変えた。

2017年にLongRangeを使い
伝票レス・システムを構築

構築した「伝票レス・システム」は、LongRangeで開発したネイティブ・アプリと、エプソンの携行用小型プリンタ「EPSON TM-P20」で構成されるシステムである。EPSON TM-P20はBluetooth対応で、オフラインでも使える。そしてLongRangeとプリンタをつなぐドライバ・ユーティリティ(iPad上に配置)には、iウェア社の「PrintAssist」を選択した(図表8)。iPad上のアイコンをクリックするとネイティブ・アプリが起動して伝票を表示し、画面上の「印刷」をタップすれば印刷できる仕組みである。

 

【図表8 画像をクリックすると拡大します

「伝票レス」は現在、家庭向けのみとし、事業者向けには適用していない。事業者向けの伝票は記載事項が多く、どのように領収書に収めるか、調整すべき事項がいろいろあるからである。

システムの開発は2017年1月にスタートし、6月にカットオーバーした。導入後にもいくつかの不備が目につく。「まだ改善すべきことがたくさん残っています」と須貝氏は言う。

「紙の伝票を使っているときは、紙を繰ることでスピーディに作業ができましたが、伝票レスになるとiPadの画面上ですべてを操作しなければならず、操作性と使いやすさがポイントです。そこを、あるべき形にどう近づけていくかが今後の課題です。また営業担当者に慣れてもらうこともテーマで、営業担当者の使い方をよく見極めて改良していくつもりです」(須貝氏)

各種業務システムを改築・統合し
2014年に顧客情報システムを整備

一方、2012年に導入されたコールセンターシステムは、そのGUIをベースにした操作性と使いやすさ、生産性が高く評価され、その後、営業サポート用の「顧客情報システム」の核となるシステムへと発展してきた。

顧客情報システムは、ダスキン営業部やダスキンお掃除部門などの各業務システムをサブシステムとして統合したもの(図表9)。その統合にあたっては、従来の5250システムをVisual LANSA Frameworkを使ってCTIアプリケーションへと切り替える改築を行った。コールセンターシステムは、そのベースとなるシステムである。

 

【図表9 画像をクリックすると拡大します

これにより営業サポート担当者は、タブの切り替えで各業務システムにアクセスできるようになり、マウスやバーコードリーダーを使った作業が可能になった。5250画面とは違い、初心者でも操作が容易である。

「ただし操作性を追求したので、その分、スピードが犠牲になりました。営業サポート担当者は1日に数千件の伝票を入力するので、作業スピードの低下は大きな痛手です。また、伝票のバーコードをスキャンするときに、マウスからバーコードリーダーへのもち替えが必要となり時間のロスが生じることも弱点でした」と、須貝氏は話す。

システム部では、2014年4月の顧客情報システムの構築以来、これら弱点の克服をテーマにしてきたが、2017年4月にその解決策としてタッチパネルと赤外線リーダーによるソリューションを導入した(図表10)。

 

【図表10 画像をクリックすると拡大します

須貝氏は、「タッチパネルは、マウスやキーボードよりもスピーディに直感的に操作できます。それとバーコードをかざすとスキャンできる赤外線リーダーの採用により、従来よりも速い、生産性の高い作業が可能になりました」と述べる。タッチパネルは、視認性と操作性のよい27インチの大型モニターを採用し、各営業サポート担当者のデスクに配備した。

 

27インチのタッチパネル・ディスプレイ

 2017年にクラウドへ全面移行
社内の全データもBOXへ移す

同社は2017年3月に、それまで本社に設置していたIBM iと各種サーバーを外部データセンターへ移設した(IP-PBXは5月)。またこれに伴い、「データセンターと本社とのデータ伝送スピードを確保するため」(須貝氏)、ネットワーク回線をより広帯域に変更した。

「データセンターへの移設は、2016年の熊本地震でお客様が被害にあい、事業停止の深刻な状況を目の当たりにしたことがきっかけです。クラウドストレージのBOXの導入も大きな目的はデータの共有ですが、背景には熊本地震があります。当社が社会的な責任を果たしていくには、システム面でやるべきことがまだたくさんあると考えています」(須貝氏)

 

・・・・・・・・

COMPANY PROFILE

株式会社武蔵野

本社:東京都小金井市
創立:1964年
資本金:9900万円
売上高:60億7056万円(2017年3月)
従業員数:800名(2017年3月)
事業内容:武蔵野地域のオフィス・店舗・家庭を対象としたダスキン事業(クリーンサービス・ケア事業)およびシニアケア・サービス、全国の中小企業を対象とした経営サポート事業など

http://www.musashino.co.jp/

・・・・・・・・

i Magazine 2017 Autumn(8月)掲載