Home インタビュー-座談会 高度なシステムは、かえって非効率を生む 全員が手軽に使えることこそ本質|小山昇氏◎武蔵野

高度なシステムは、かえって非効率を生む 全員が手軽に使えることこそ本質|小山昇氏◎武蔵野

by iida

小山 昇氏

株式会社武蔵野 代表取締役社長

 

スモールテリトリ・ビッグシェア戦略で
シェア85%を達成

i Magazine(以下、i Mag) ダスキン事業が好調のようですね。

小山 ダスキンのような掃除用品のサービス業界は25年前から売上規模を落とし続けていますが、当社は継続的に売上を伸ばしています。その理由は、狭い限られた領域で大きなシェアを獲得する、「スモールテリトリ・ビッグシェア」戦略を徹底しているからで、シェアは現在、85%になります。なぜこれが実現できるかというと、他社が在庫管理などを紙とペンのアナログでやっているところを当社は率先してデジタル化し、業務の効率化を進めてきたからです。

たとえば、お客様への納品で「モップを追加」とか「このスポンジは次回から不要」といった変更があったら、お客様の目の前でiPad上の伝票を修正してレシートを発行し、さらにそのiPadを本社の基幹システムへ通信でつなげば、各種マスターデータの変更・修正は完了です。当社もかつては持参した伝票を手書きで修正してお客様へ手渡したり、営業が本社へ戻ってから営業サポートに実績シートを提出し、営業サポートの担当者はそれを見て在庫管理システムに入力するなどの非効率な作業を行っていました。そうしたことを、ITの力を借りて改善し続けてきたのです。

この種のシステム化には、それなりに大きなコストがかかります。しかし、システム化によって生まれた時間をお客様の新規開拓などに充てれば、投資額を上回る業績を上げることが可能です。つまり、バックヤードのデジタル化によって利益を出しているのが当社なのです。そこが、ビッグシェアを獲得できた最大の要因です。

i Mag 経営サポート事業はどのような状況ですか

小山 ダスキン事業の売上高が1桁成長の25億円なのに対して経営サポート事業は2桁成長の35億円で、経営サポート事業がダスキン事業を規模と成長率で上回っています。

経営サポート事業が好調なのは、ダスキン事業という実際のビジネスの「現実・現場」を踏まえてコンサルティングが行えているからです。経営は机上の空理空論を振りかざしても前へ進めません。改革するとなったら、理念だけでなく具体的に、会議や社員教育をどう行うのか、懇親会をどのように実施するのか、といったことまでを含めて地に足の着いた実践哲学が必要です。

当社はダスキン事業で実践してきたこと、実践していることを経営サポートのお客様にすべてお見せしています。それが経営サポート事業が好調である理由です。経営サポート事業とダスキン事業は車の両輪です。経営サポート事業の営業・コンサルティング部門には、ダスキン事業で10年以上の現場経験をもつ者しか配属していません。

i Mag 企業ITについて、どのようにお考えですか。

小山 企業のITで最も肝に銘ずるべきは、一握りの人だけが使えるような高度なシステムはいらないということです。要は簡単な仕組みで、組織員全員が使えることこそ重要なのです。当社には75歳の社員が6名いますが、全員ほかの社員と同じようにiPadを使って仕事をしています。今、いろいろな会社で「xx歳以上はIT音痴だからシステムを与えても無駄」という声を耳にしますが、とんでもない考え方で、会社のなかに全員が使えないようなシステムがあると、そこがシステムの一貫性が途切れるポイントとなり、業務の非効率が生まれる原因となります。

i Mag それを避けるポイントは、操作性や使いやすさですか。

小山 そうです。操作性や見栄えは実は非常に大切なことで、企業はそこにもっと投資すべきなのです。ITの高度化とは組織の全員が使えること、と考えるべきです。

i Mag 具体的にどのようなことを実施してきていますか。

小山 たとえば業務システムにアクセスするとき、ふつうはIDとパスワードを入力しますが、現場ではそんなまどろっこしいことをやってはいられませんから、アプリ化してアイコンをクリックしたらアクセスできるようにしています。また、稟議システムはアルバイトやパートの人も使いますが、起案されたら次の承認者の画面にポップアップで通知し承認を促す工夫をして、稟議の50%は1日で決裁できるようにしています。当社では、午前中に起案され承認されたら、その日の夕方に経費が振り込まれるルールです。そのスピードを実現するために、操作性や見栄えをとくに意識して開発しています。

システム化の新しい次元に進むには
古いシステムをすべて捨てる

i Mag 世の中には「活用されない企業システム」が多々ありますが。

小山 企業システムでうまくいかない理由の筆頭は、業務を理解していないシステム担当者や外注業者に開発を丸投げしてしまうことです。そうすると、見栄えはよくても中身はとんでもないものが出来上がります。そうならないように、当社ではダスキン事業の現場経験をもつ者にシステム開発を担当させています。それもフレームワーク作りだけとし、後工程の開発は外注業者に任せます。フレームワークとは、システムの目的や使い方を定義したもので、その基本的な考え方は私が提示しています。

当社もかつてはシステムのほとんどを自前で開発していました。自前で開発することのメリットはノウハウが自社にたまるのと、それをもとに事業化も考えられることですが、とはいえ、ITの進歩は日進月歩です。そのスピードに追いついていくには相当の努力と継続的な投資が必要です。原点に戻れば、当社の目的はシステムを使うことであって、自社開発自体にはありません。そこで数年前に方針転換をし、スピードと最新技術を得るために、必要に応じて外部のパートナーを利用することにしたのです。

しかし、外部にシステムを任せるにしても丸投げはダメで、主導権を握っておく必要があります。それがフレームワークで、システム担当者は外注をコントロールできるだけの知識やノウハウを身につけておくことが絶対の要件になります。

i Mag ほかに「うまくいかない理由」はありますか。

小山 もう1つは、システムを開発するときに、最初から完璧なシステムを求めることです。最初から完璧なシステムを作ろうとすると必要以上に時間がかかり、それだけ利用開始が遅れます。新しいシステムはバグがあって当然なのです。だから100点になるのを待つのではなく、80点前後で見切り発車し、あとはバグや不具合が出るたびに修正していく。これが正しいシステム開発の考え方であり、スタートの切り方です。新規開発のシステムは早く動かすことこそ重要で、最初から完璧を求めてはいけないと考えるべきです。

それと、開発したシステムを早く全社で使いたいあまり、いきなり全社展開するのもうまくいかない要因です。新規システムの導入は全社一斉に行うのではなく、一部の部署、一部の人たちから始めるのが成功のポイントです。小さな範囲でバグや不具合を修正し、完成度を徐々に高めながら全社へ段階的に展開していくのです。スモールスタートにすれば、修正の影響範囲が小さくて済み、ダイナミックな変更にも柔軟に対応できます。

i Mag 「新しいシステムをいかに使わせるか」で苦労している企業は少なくありません。

小山 社員がそれまでの慣れたやり方を変えることに「ノー」という気持ちをもつのはふつうです。だから、新しいシステムを導入しただけでは使ってもらえません。その心理を無視して「社員の自発性に委ねる」などと言うのは愚の骨頂で、時間の無駄、お金の無駄としか言いようがありません。社員は新しいことが嫌なのではなく、習慣を変えることが嫌なのです。つまり問題はシステムを使う社員ではなく、システムを使わせる会社側の工夫のなさにあるのです。

当社では最近、オンライン・ストレージのBOXを導入しました。おそらく、「これからはPCではなくBOXへデータを保存しよう」などと号令をかけても、移行は遅々として進まなかったでしょう。社員にとってはPCへの保存のほうが慣れているし、簡単だからです。

私が指示したのは、既存のPC(約100台)をぜんぶ捨て、新しいPCを購入してハードディスクの5%だけを使えるようにし、残り95%は使えないようにする。それと同時に、共有のデータをためていたNASサーバーとPrimeDrive(クラウド型のオンライン・ストレージ)を期日を決めてすべて廃止してBoxに切り替える、というものでした。つまり、ある時点で古い仕組みは使えないようにしたのです。そして予定した期日には、社員全員がBoxを使うようになりました。

社員は、悪いことは教えなくても実践しますが、よいことは教えただけではやりません。そのよいことを強制的にやらせるのが社長の仕事です。

i Mag そこまでして導入したBoxのメリットは何ですか。

小山 一番は、アクセスログが確実に取れること、そして社内、社外、現場のどこからでもアクセスでき、セキュリティレベルが非常に高いことです。Boxを利用する概念としては「大きな図書館」で、会社に分散しているさまざまなデータを1カ所に集約でき、アクセスすればすべてのデータを見られるのがBoxのメリットです。また、たとえばExcelなら50世代までログが見られるので、誰がいつ何をしたかを詳細に把握できるのも大きなメリットです。

Box導入の大きな動機としてあったのは、徹底したデータの共有です。会社の個々人の机やPCのハードディスクのなかには、業務に関わるたくさんの書類やファイルが詰まっています。多くの社員はそれを個人のものと思い込んでいますが、実際は組織の財産なのです。そして組織の財産であるにもかかわらず組織の財産として共有され活用されていないのが、大半の会社の実態です。しかし、会社のデータがぜんぶBoxに入ってしまえば、共有は容易です。

IT投資の計算式をもち
従業員の心理を見抜いて施策を実施

i Mag これまでのIT投資で失敗はなかったのですか。

小山 それはあります。たとえば2012年に導入した最初のiPadが失敗でした。アルバイトとパートを含めて全従業員に支給するためにWi-Fiモデルを350台、電話付きモデルを200台の計550台を購入したのですが、いざ使い始めてみると、Wi-Fiモデルを支給されたパートはWi-Fiがつながるところでしか仕事ができず、非常に非効率であることが判明したのです。Wi-Fiモデルを選択したのは、Wi-Fiがつながるところなら無料でデータ通信が行えるので、月々基本料金が発生する電話付きモデルよりも「お得」と考えたからです。要するに、スペックだけを見て安さに目がくらんだ私の失敗です。

とはいえ、こうした失敗は別にどうということはありません。新しいテクノロジーの導入に失敗はつきものだからです。大切なのはそのあとで、その失敗を次の成功にどうつなげるかです。

私はすぐに電話付きモデルに買い替えるように指示しました。もったいないと思えても、いつでもどこででもiPadが使えるので仕事が効率よく進むというメリットが得られるのと、電話付きモデルの月額基本料金を5000円としたら、時給1000円の人の残業時間が月5時間減ったらトントンになるという計算が立ちます。実際は増えた電話代よりも減った残業代のほうが大きくなったので、すぐにペイできました。つまり、これまで3時間かかっていたのを1時間でできれば、2時間分の利益が出たのと同じと考えられるということです。

 i Mag IT投資の計算式ですね。

小山 それについてもう少し触れると、当社が2015年度に残業時間の削減に着手したとき、従業員約800名の平均残業時間は月に76時間でした。それを1年後に月45時間未満に減らすという目標を立てたのですが、実際は35時間となり、現在は平均17時間になっています。1人あたり月59時間の残業が減ったということは、時給1000円とすると月に5万9000万円の純利益が出たのと同じことで、1年に換算すれば70万8000円。全従業員で計算したら、70万8000円×800人で年5億6640万円の純利益に相当します。

とはいえ、残業の削減で生じた利益をそのまま会社の利益にしてしまったら、従業員はどんどん辞めていきます。残業が減ると残業手当や休日出勤手当が減り、そうした手当を生活給の一部と考えている従業員にとっては死活問題になるからです。

そこで私は、残業削減によって増えた利益を従業員に還元することとし、残業が減っても所得が下がらない仕組みを作りました。簡単に言えば、残業が少ない社員には賞与を多くし、多い社員は賞与を少なくするということです。

私がシステム担当者に「ITを使って残業時間を減らせ」と命じたときは、「期間は半年。予算は1億円まで無条件で使っていい」としましたが、仮に達成したのが目標の45時間だったとしても、4カ月足らずで1億円の投資を回収できます。だから、こうした投資をもったいないなどと言う経営者は、IT投資の計算式をもっていないことを自ら露呈しているのです。

システム要員には100点を求めない
ベテランになったら他部署へ異動させる

i Mag 残業削減は業務改革であり、働き方の改革でもありますね。

小山 そうです。ただし、人件費の削減が目的ではなく、今の時代に残業がマイナスでしかないから改革に取り組んだのです。厚労省が発表している有効求人倍率を見れば、雇用環境が「超売り手市場」に移行しているのがわかります。これまでは「人が辞めたら新たに採用すればいい」で済みましたが、超売り手市場になると、人を集めること自体が厳しくなり、まして中小企業が新規採用するのは困難になります。そうなると、社員の定着率を上げることに取り組まざるを得なくなり、働き方の仕組みそのものを見直さなければなりません。

それと、新卒社員が「ゆとり世代」になって、給料はそこそこでいいからつらい仕事はやりたくない、自分の時間が欲しい、という意識に変わりました。これまでの新卒社員とは大違いです。だから残業や休日出勤の多い会社は学生にとって人気がなく、入社してもすぐに退職してしまいます。そうした状況のなかで、これまでの人事制度では生き残っていくことができないと考えたのが、残業問題に注力した理由です。

i Mag IT要員の人材育成については、どうお考えですか。

小山 私は新卒採用の段階で、ITを担当させる者を決めています。ITはロジカルな世界で、応用力や発想力も求められますから、論理的に思考でき、物事を柔軟に考えられる人間にしか向きません。しかし現場を知らないと独りよがりなシステムを作ることになるので、システム部へ配属する前に必ずダスキン事業の現場を経験させることにしています。

そしてシステム部へ配属となったら、100点は求めず90点のシステム要員になるように育成します。どんな者でもシステムの現場で経験を積めば90点までは容易ですが、90点から100点へ引き上げるのは大変です。100点はいわば専門家、エキスパートの世界です。それと残りの10点は、それを得意とするベンダーへアウトソースすればいいだけのことだからです。

システム部でベテランとなったらほかの業務部門へ配置替えします。システム的な思考のできる者が業務部門へ加わることのメリットが大きいのと、会社の基幹を担うシステム部へフレッシュな風を送り込めるからです。

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i Magazine 2017 Autumn(8月)掲載

 

 

 

 

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