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IBM iユーザーの「重い課題」、アプリケーションの運用・保守に取り組む |村松 光徳氏 トライビュー・イノベーション株式会社

村松 光徳氏
トライビュー・イノベーション株式会社
代表取締役社長

 

最近、IBM i市場をリードしてきた古参のベンダーに交じって新しいIBM iソリューションを提供するスタート10年前後のベンダーの活躍が少しずつ目立つようになってきた。トライビュー・イノベーションもそうした1社で、先ごろIBM iユーザー向けの新しいサービスをリリースした。同社を率いる代表取締役社長の村松光徳氏に、同社の取り組みと戦略をうかがった。

 

トライビュー・イノベーション株式会社
本 社:東京都中央区
設 立:2012年
資本金:950万円
売上高:11億6400万円(2023年12月期)
従業員数:85名(2023年4月)
https://www.triview-innovation.com/

ソリューション重視への
ビジネスモデルの転換を経験

i Magazine(以下、i Mag) トライビュー・イノベーションは2012年の創業ですが、それまではどのようなご経歴ですか。

村松 1985年に新卒でトッパン・ムーア ビジネスシステムズ(現 NDIソリューションズ)に入社し、システム/36の営業担当になりました。それからほどなくして名古屋へ転勤となり、1992年にその地のユーザー企業に転職してシステム部門の責任者となり、そこで5年ほど勤めた後にIT業界に再び戻り(1997年)エヌエスアンドアイ・システムサービス(2012年にJBCCに吸収)の社員となりました。そして2011年に退職し、翌年(2012年)7月にトライビュー・イノベーションを立ち上げています。仕事としては一貫して、IBM iに関わり続けています。

i Mag 村松さんが仕事を始められた1980年代後半から90年代は、ミッドレンジ機のビジネスに活気があったころでしたね。

村松 日本IBMと組んでハードウェアの商談をたくさん手がけました。ただし90年代後半にはハードウェアだけでは真のお客様満足につながらないと考え、ソリューション提案を優先した販売にビジネスモデルを変えていきました。お客様の悩みや課題をお聞きして、その解決策と一緒にハードウェアを販売するというモデルですね。1997年にIT業界へ戻って、その変化を痛感しました。エヌエスアンドアイ時代のソリューション・ビジネスの経験は、私にとって1つの転機だったと思っています。

それともう1つの貴重な経験は、中堅・中小のお客様とのお付き合いです。IBMと組んだビジネスは大企業が中心でしたが、私はその合間に名古屋から少し離れた岐阜や静岡などの中堅・中小のお客様によく足を運んでいました。

中堅・中小のお客様というのは、商談規模は小さく、ITスキルも相対的には低いのですが、一度懐に飛び込んでお付き合いが始まると、息の長いビジネスになります。経営の観点からこのことを見ると、安定とビジネスの広がりをもたらす、とても重要なビジネスの鉱脈だと思いました。私はそうしたことを若き日の名古屋時代に叩き込まれたと思っています。

今こそチャンスと考え
IBM iユーザー向けサービスをリリース

i Mag 2012年に創業されてからはどのような歩みですか。 

村松 初年度(半年間)は私を含む従業員6人で売上高1930万円という、苦しいスタートでした。しかし次年度は1億円を超え、2018年からは右肩上がりを続け、昨年度(2022年12月期)は売上高11億円を超えるところまできました。従業員数も、創業時の6人から85人へと増えています。

事業としては、中堅企業様向けの「TRUST事業」と大手企業様向けの「ENTEPRISE事業」を軸に、システム開発の上流支援からソフトウェア開発、運用・保守、エンジニアの提供まで、さらにはホスト系からオープン系まで、お客様のICT環境をトータルにサポートしています(図表1)。そしてTRUST事業の中から、とくにIBM iのお客様向けに切り出したのが「IBM iアプリケーション運用保守サービス」です。

図表1 トライビュー・イノベーションの製品・サービス

i Mag それはどういうサービスですか。

村松 IBM iのお客様とお話ししていると、これまで運用・保守をお願いしてきたベンダーが事業から撤退し困っているとか、RPGがわかる技術者が退職して運用・保守を担う人がいないといった声が聞こえてきます。ほんとうはそうした状況こそベンダーにとってビジネスチャンスなのですが、しかし業務アプリケーションの運用・保守は、インフラの運用・保守とは比べものにならないくらい難しいので、ベンダーは簡単には手を挙げられないのです。つまり、お客様の業務を支えるアプリケーションの運用・保守は、お客様の業務に精通していないとできない世界なのです。当社のエンジニアたちは企業システムで経験を積んできていますから、今こそチャンスとみて「IBM iアプリケーション運用保守サービス」をリリースしました。

“個人商店”から会社組織への転換を
ビジネスの全局面で進める

i Mag 事業・経営に話を戻しますが、今はどのような状況ですか。

村松 最近の実績は、2019年〜2022年の3年間で売上高が約3倍、従業員数も約3倍に伸びています。非常に順調と言えますが、じつは今が一番苦しいところなのです。

当社は創業から現在まで、私がひとりで事業プランを考え、その実行も私が先頭に立ってリードしてきました。つまり個人商店だったのですが、企業サイズが大きくなった今、それではまったくダメで、権限の委譲や分業体制が不可欠です。そのうちツケが回ってくるだろうと、今気持ちを引き締めて対処を進めているところです。 

i Mag たとえば、どのような対処ですか。

村松 本社機構を固めるとか、事業のほうでもお客様が増えることによってさまざまなリクワイヤメントを頂戴するようになるので、それへの分業による対処などです。経営、既存事業、ニュービジネス、人材育成などすべてにわたって将来を見据えた改革が必要だと思っています。当社は目下、第4次中期経営計画(2022年〜2024年)を推進中ですが、その表に出ない大きなテーマが「個人商店から会社組織への転換」だと自覚しています。

i Mag 創業から従業員が100人を超えるあたりまでに、どの企業も同様の経験をするようですね。

村松 そう思います。今こそ踏ん張りどころと思っています。

i Mag 村松さんが考える、会社が成長していくポイントは何でしょうか。

村松 人です。そしてお客様やパートナー様、社員、協働者、社会全体に対して感謝の気持ちを常にもっていることが重要だと考えています。ただしその感謝の気持ちは、個々の社員が自分に対して「持て」と迫るようなものではなく、会社にいて同僚・上司との会話や行動をともにする中で醸成されていくものだろうと思っています。

人や社会に感謝する気持ちを常にもっていると、“人間力”と言うべき、自律的で公正かつ創造的な活動を行える“力”が備わってきます。営業であろうがエンジニアであろうが、あるいはスタッフであろうが、人間力が仕事を支え、会社を伸ばしていく原動力であると確信しています。

i Mag トライビュー・イノベーションの強みは何ですか。

村松 当社はエンジニアが社員全体の8割以上を占めますが、そのエンジニアが高いコミュニケーション能力をもっていることが強みです。一般的にITビジネスにおけるエンジニアの立ち位置は、営業の後ろに控えていて、営業を通してお客様とやり取りをするというものです。しかしそれではすべての面で対応が遅くなり、しかも技術的な解決策が正しく伝わらない恐れもあります。当社のエンジニアはお客様と直接会話をし、一緒になって解決策を考えていくコミュニケーション能力を備えています。シンプルなことですが、他社のどこのエンジニアに敗けない優越した力で、企業競争力の源泉だと思っています。

i Mag そのことで、何か特別な研修プログラムを組んでいるのですか。

村松 先ほども申し上げたように、ベースは会社における日々の会話でありコミュニケーションですが、それとは別に年に1回、当社の顧問である日本IBMのOBに「リーダーシップ」をテーマにセミナーをやっていただいています。IBM流のフレームワークと日本IBMのOBがビジネス現場で鍛えた人間哲学とを融合したオリジナルのセミナーです。これは創業以来、毎年続けています。直近では経営幹部を集めて、5年後・10年後の当社を考えるセッションを実施していただく予定です。これは私抜きで行い、本音で当社の課題を語り合い未来を描くというセッションになるはずです。

ニュービジネスを推進
第1弾は新タイプのチャットボット事業

i Mag 今年および今後の事業戦略をどのように描いていますか。

村松 既存のTRUST事業とENTERPRISE事業は、販路の拡大がテーマです。中堅・中小のお客様が主たる対象ですが、最近大手企業からの問い合わせや案件が多いので、今年から積極的に働きかけていくつもりです。販売チャネル戦略の確立と営業地域の拡大も続けます。ニュービジネスについては、これまで投資らしい投資をしてこなかったので、フォーカスエリアを定義して投資を行い、取り組んでいきます。

ニュービジネスとしてはいくつかありますが、公にしているのは「MotionChat」と呼ぶキャラクター動作型チャットボットの事業で、キャラクターが身振り手振りを添えてサイトへのアクセス者と会話を行います。当社も「ミスミ アイ」(図表2)という名前のイメージキャラクターを創造し、サイトに訪れるお客様と会話をしています。このチャットボット事業の延長上にはメタバースなどを含め、お客様の基幹システムや基幹データを活かす新しいICTビジネスが無数にあると考えています。

図表2 「ミスミ アイ」

i Mag ユーザーにはどのように対応していきますか。

村松 強力な製品・ソリューションを揃えることも重要ですが、それにも増して、すべてのエンジニアがプロジェクト・マネジメントの視点でお客様の課題を捉え、解決策を提示できることが重要だろうと思っています。お客様の課題は常に多種多様で多面的です。そして今ある技術も多種多様で、新しい製品・技術もどんどん登場してきます。そうした中で、エンジニアが個別の技術や製品だけに取り組んでも、解決できるお客様の課題はごくわずかです。それよりもプロジェクト・マネジメントの技量をもち、お客様の課題に柔軟に向き合えることこそ重要です。お客様への対応ということでは、いつもそのことを強調しています。

i Mag エンジニアの採用も活発なようですね。

村松 当社の事業を現在の2倍、3倍に伸ばしていくには、優秀な人材の確保が欠かせません。目下さまざまな策を講じて、とくにエンジニアの採用を進めています。「Planet Labs」と呼ぶプロジェクトもその1つで、地方に住んでリモートベースで働きたいというエンジニアを組織化する取り組みです。その雇用形態も社員中心ではなく、新しい働き方の感覚も汲み取って、柔軟に設計したいと考えています。

i Mag 7月にオフィスを移転するそうですね。

村松 現在の3倍近い広さとなります。まずは飛躍のためのベースを整備します。優れた社員は、快適なオフィス空間と融通無碍な企業文化から生まれると思っています。

(撮影:内田和稔)

 

[i Magazine 2023 Spring(2023年5月)掲載]

 

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