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ビジネスパートナーの連携とコミュニティの形成を軸に、課題解決を目指すIBM iビジネス戦略 ~Keyman Interview 山崎秀治氏 日本IBM

山崎 秀治氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 IBM Power事業部
Power事業開発部 兼 IBM i統括本部
部長

2023年7月、山崎秀治氏はIBM Power事業部の部長に着任した。担当するのはPower事業開発部とIBM i統括本部。IBM i戦略とそれを支えるビジネスパートナー戦略を牽引する中枢である。着任から3カ月、さまざまなユーザーとビジネスパートナーに会い、IBM i市場の現状と課題を理解し、その解決に向けて動く山崎氏に聞く。

「価格」「人材」「情報」に関する
ユーザーやパートナーからの要望

i Magazine(以下、i Mag) 最初に、日本IBMに入社してから現在までに担当された業務の内容を伺えますか。

山崎 私が日本IBMに入社したのは1995年です。最初に配属されたのは当時のAS/400製品事業部で、そこでプロモーションや販促業務に携わりました。1999年からはAS/400の製品営業に従事し、さらにそこからAS/400だけでなく、メインフレームやストレージも含めたハードウェア全般を担当するようになりました。

担当したお客様の業種や事業規模もさまざまです。最初は大手製造業や流通業のお客様、次に業種を問わず中堅・中小のお客様、そしてIBM製品を使っておられないお客様を専任で担当していた時期もあります。また通算5年ほどは大阪勤務があり、首都圏とは違った特色を持つお客様を経験しました。直近は電力・ガス、通信、メディアといった業種を主に担当していました。もともとはSEとして日本IBMに入社したのですが、結局一度もSE職には従事せず、今に至るまでずっと営業を担当しています。

i Mag  2023年7月に現在の部署へ部長として着任されましたね。

山崎 そうです。私のいる部署は、Power事業開発部 兼 IBM i統括本部です。Power事業開発部は一部の大手ユーザー様を除いた全国のお客様を担当しており、その広い領域で当社のビジネスパートナー様とともにIBM Powerの営業活動を推進しています。またIBM i統括本部では、IBM iを訴求するためのマーケティング全般に従事しています。

着任以来、さまざまなユーザー様やビジネスパートナー様にお会いしました。今お話ししたように、入社してすぐにAS/400を担当したわけですが、今回久しぶりにいろいろな方にお会いして、懐かしさを感じました。昔と変わらぬ雰囲気があるというか、お客様がIBM iのよさを熱心に語られたり、導入当時に開発したアプリケーションの改修を重ねつつ今も使い続けているとのお話を伺ったり、よい意味で昔と同じで、久しぶりに戻ってきたと感じましたね。

i Mag いろいろな方々にお会いになって、IBM iに関する問題や要望をお聞きになったと思いますが、解決が必要だと強く感じている課題には何がありますか。

山崎 地方のユーザー様、ビジネスパートナー様を含めて、いろいろな方々から本当に多くのご意見を頂戴しています。大きくまとめれば価格、人材、情報という3つのご要望に代表されます。

まず価格ですが、IBM Powerは世界的な部材不足などもあってパーツの製造コストが高騰しているのに加え、歴史的な円安もあり、昔よりも価格が高くなっているのは事実です。とくにP05のような比較的ローエンドマシンをお使いのお客様が保守サービス終了に伴い、新しいマシンへのリプレースを検討する際に、価格が大きなハードルになっているというご指摘を各方面からいただいています。

製品価格は日本サイドだけではコントロールできず、なかなか難しい問題ですが、IBM Power Virtual ServerのようなIBMが提供するクラウドサービス、あるいはビジネスパートナー様が提供する各種クラウドサービスのご提案を検討するなどして、お客様の最適な選択をご支援するように進めています。

ビジネスパートナーの連携と
コミュニティの形成

i Mag 次に、人材についてはどう考えていますか。

山崎 人材の不足、システム要員の不足という問題について、ユーザー様からもビジネスパートナー様からも、どこへ行ってもお聞きします。

長くIBM iのアプリケーション保守、システム運用をお一人で担当してきたシステム要員が定年を迎えて退職し、今後を引き継ぐ若手が育っていない。あるいは担当していたベンダーがIBM iから撤退するなどして、保守の担い手がいないという状況ですが、年を追うごとに深刻化していると感じます。アプリケーションの運用保守を担う人材が確保できないのに、IBM iをこのまま使い続けてよいのか、オープン系への移行を検討すべきではないかと、経営レベルの判断を迫られているというお話もお聞きします。

IBM iは資産継承性に優れたプラットフォームですが、昔のプログラムがそのまま動いても、それを開発・保守できる人材がいなくては、結局は使い続けることはできません。人材がいないという理由でIBM iからの撤退を検討する動きは何としても阻止したいですから、この問題は日本IBMとしても大きな課題であると捉えています。

i Mag 価格、人材に続く3つ目は、情報の不足という課題ですね。

山崎 そうです。IBM iはオープン系などに比べて、メディアやネットでの情報が不足していることは以前から指摘されています。それに加えて、最近はビジネスパートナーの方々からもっとIBM iの存在をメディアなどに露出させてほしいというご要望をよくいただきます。IBM iの存在感が希薄であることが、このまま使い続けてもよいのかどうかという不安を招いているというご指摘です。

i Mag 解決に向けて、どのように動こうとしていますか。

山崎 人材と情報については、「IBM iの将来に本気で取り組んでいただけるビジネスパートナー同士の連携」、そして「IBM iの最新テクノロジーを本気で議論するコミュニティの形成」という方法で解決していきたいと考えています。

1つ目の「ビジネスパートナー同士の連携」についてですが、ビジネスパートナー様の中にもタイプがあって、もともとの会社の成り立ちとしてハードウェア販売のビジネスを展開している会社、システム開発を主体に進めておられる会社、そしてソリューションやツールを販売している会社と、大きくは3つに分けられます。

現在それらのパートナー様は担当するお客様に対して、すべてのサービスを提供していることも多いのですが、本来はシステム開発には強いけれど、インフラ系のノウハウはあまり持っていないとか、あるいはその逆といったように、各社それぞれに得手・不得手があります。ユーザーニーズが複雑化・高度化している現在、ベンダー1社で何もかも対応するのは難しくなっており、とくに地方ではその傾向が顕著です。そこでビジネスパートナー様がそれぞれの得意分野をうまく活かしながら連携し、協業するようなエコシステムを形成できるように、日本IBMとして支援していきたいと考えています。

これは言葉では簡単ですが、パートナー同士の連携はお互いのビジネスが絡む話で簡単ではありません。ただ、たとえばIBM iビジネスの将来に本気で取り組んでいただけるパートナー様が連携し、全国で人手不足に悩まれているユーザー様をサポートするため、各社がIBM iに関する最新テクノロジーのスキルを持った人材を増やし、共通の人的リソースプールを作り上げる。そして状況に応じて得意分野を活かしながら、お互いが柔軟にその人的リソースを活用していくような体制が整えば、人材不足の問題も少しは解決の方向へ向かうのではないでしょうか。

アプリケーション保守、人材派遣、教育、ソリューション活用、そして開発やSIなど、1社で何もかも対応するのは難しいですが、複数のビジネスパートナー様がチームとなって一体で取り組み、互いに人材を弾力的に活用していけるようになれば、解決していける課題も多いと捉えています。

ビジネスパートナーを活性化する
仕組みづくりへ 

i Mag 情報不足については、どのような施策が考えられますか。

山崎 それには2つ目の「IBM iの最新テクノロジーを本気で議論するコミュニティの形成」が重要であると考えています。2023年はその一策として、「若手技術者のための IBM i 次世代開発環境について考えるデモセミナー」を開催しました。これはその名のとおり、ビジネスパートナー様やユーザー様でIBM iの開発・運用を担う若手技術者を対象に、情報提供やスキルアップを目的にしたセミナーです。

IBM iの技術者、イコール高齢化というイメージがあるのですが、若い人ばかりを集めたセミナーは日本IBMとしても初めての試みでした。東京・名古屋・大阪・福岡の4都市で開催し、「IBM iのこういう使い方を初めて知った」との感想をいただくなど、いずれも大変に好評でした。定期的に開催してほしいとの声も多く、2024年にも同様の計画を進めています。強い手応えがあったというか、若手技術者の育成に向けたよい流れができつつあるので、これをベースに若手技術者のコミュニティ化を進めていけたらとも考えています。

また今年は久しぶりにIBM iの開発拠点である米ミネソタ州ロチェスターへの見学ツアーを開催しました。2019年までは毎年開催していたのですが、コロナ禍もあってしばらく休止し、2023年に再開しました。こちらもユーザー様やビジネスパートナー様から担当者の方々が参加されましたが、ロチェスターでセッションを担当するスピーカーに若手技術者が多かったことが印象的だったとの感想をお聞きしました。IBM iの本拠地で若い技術者が開発に携わっているのは、IBM iの将来に希望がもてると、喜んでいただけたようです。

これらの取り組みを通じて、ユーザー様、パートナー様同士で自らIBM iの最新テクノロジーを本気で議論するコミュニティを形成するきっかけになればと考えています。

人材の育成と情報の共有は、コインの表裏のような関係にあると考えています。人材育成にも情報共有が不可欠ですから、2024年も情報の提供やコミュニティの形成、そして多様なメディアへIBM iの存在がもっと露出するように、マーケティング戦略を考えていくつもりです。 

i Mag 2024年に向けてのIBM i戦略はどのように展開しますか。

山崎 現在いろいろと検討している段階です。IBM iビジネスは大変に好調で、日本IBM社内での期待も高いです。IBM iビジネスを積極的に展開しているパートナー様のビジネスを活性化していける仕組みづくりが、私たちのミッションであると考えています。情報や人材の不足に起因して、私たちの気づかないうちにお客様がIBM iから撤退する道を進まれることは、何としても阻止したいと思っています。

2024年は今年以上にビジネスパートナー様の活性化、人的リソースの配置、マーケティング予算の配分に注力しながら、IBM iのビジネス戦略を推進していく予定です。

山崎 秀治氏
1995年、日本アイ・ビー・エムに入社し、AS/400製品事業部に配属。2002年、流通・製造業の大手企業を担当し、AS/400製品営業として営業職をスタート。2008年、中堅・中小企業担当ハードウェア営業として、主にIBM以外のユーザーを担当。2011年、関西支社にハードウェア営業として着任。2019年、通信・メディア・公益担当、サーバー営業部長に就任。2023年より現職。

 

(撮影:広路和夫)