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「動かない基幹システム」 国産ERPパッケージに見切りをつけIBM iへ回帰する | 株式会社博運社

株式会社博運社

本社:福岡県糟屋郡
設立:1957年
資本金:8918万円
従業員数:878名(2022年1月)
事業内容:一般貨物自動車運送事業、貨物利用運送事業、倉庫業、物流コンサルティング業務など
https://www.hus.co.jp/

九州各県に拠点とネットワークを擁する総合物流企業。1957年に「博愛の心をもって幸せを運ぶことを使命とする」との理念で創業し、現在はトラック保有台数が約433台、営業倉庫の延べ床面積が約14万6500m2と、福岡県で最大手の物流企業に成長している。

IBM iの利用を中止し
国産ERPパッケージを採用

博運社は長年にわたるIBM iユーザーで、運送・倉庫・車両管理を軸とする自社開発型の基幹システムを運用している。

2014年に代表取締役社長に就任した眞鍋和弘氏は専務取締役時代、セキュリティの強化と運用管理業務の削減を狙いに、かねてからシステム開発・保守を委託していた福岡情報ビジネスセンターのクラウドサービス(FBI Power クラウドサービス)へ、IBM iを移行させた。

「当時、ITの開発・運用はすべて外部委託すべきと考えていました。ITは技術の進化が著しく、常に最新スキルをキャッチしながら内製でシステムを実現していくのは、人材確保を含めて当社のような中堅企業には難しいと思いました。そこで福岡情報ビジネスセンターのような信頼できるパートナーにすべて任せたほうがよいとの判断の下、Power Systemsのリプレースタイミングで、クラウドサービスへの移行に踏み切りました」(眞鍋氏)

眞鍋 和弘氏 代表取締役社長

ところがその後、次期システムの在り方を検討するなかで、IBM iの利用を継続するのではなく、オープン系サーバーで稼働するクラウド型の国産ERPパッケージを採用すべきとの声が社内で上がり始める。

眞鍋氏のコンセプトである「事業推進に適したシステムの構築」を実現するには、IBM iでは不十分であるとの考え方が支配的になった。

ちなみにこの意見はIBM iの高い運用性や拡張性を熟知するシステム部門ではなく、経営企画を担当する社長直下の部門から上がってきたという。

そこで国産ERPパッケージと福岡情報ビジネスセンターの2社コンペで、双方を比較検討することになった。結論から言うと、2016年に導入が決定したのは国産ERPパッケージである。採用理由は将来性とコストパフォーマンス。一見すると国産ERPパッケージのほうが、導入コストがはるかに低額であった。

「今から考えると、国産ERPパッケージはカスタマイズ費用を一切含まない提案でした。IBM i上の既存システムを活かしながら、当社が今後目指すべき新たな業務機能を独自開発で反映した福岡情報ビジネスセンターの提案と比べると、そもそもの要件レベルが大きく異なっていたわけで、単純に比較すべきではありませんでした。しかし当時は、『IBM iには先がない、このまま継続すべきではない』との社内の声に押され、国産ERPパッケージの採用を決めました」(眞鍋氏)

国産ERPパッケージから撤退し
IBM iへ回帰

本稼働予定を2017年9月と定め、基幹再構築プロジェクトがスタートした。しかしプロジェクトは難航を極めたという。

同社のように、不特定多数の荷主企業の貨物を1台の車両にまとめて積載する輸送形態を「特別積み合わせ貨物運送」(通称、特積み)というが、この国産ERPパッケージには特積みでの導入実績が皆無であった。

「パッケージ製品なので、今までの業務機能を実現するだけでも、カスタマイズに次ぐカスタマイズで、開発コストが膨大に膨むことがわかってきました。プロジェクトは紛糾し、2017年の稼働目標は大幅に遅れ、2020年11月になんとか国産ERPパッケージによる新基幹システムの本稼働にこぎ着けました」と語るのは、現在ITを担当する経営本部事務センター長の小戎正光氏である。

小戎 正光氏 経営本部 事務センター長

IBM iと並行運用のまま、国産ERPパッケージが本稼働して2週間。この間、新しい基幹システムはまったく利用できない状況に陥った。

「システム部門はなんとか動かそうと奮闘しますが、まったく動かせませんでした。クラウド型なので、その間も日々の運用コストが発生し、残業代ばかりが増えていきます。このままでは日常業務が停滞し、先々も見通せないと考え、国産ERPパッケージを捨てて、IBM iに戻ることを経営判断として決断しました」と語る眞鍋氏は、同プロジェクトの最大の失敗要因を次のように指摘する。

「そもそも不安を抱えた船出でしたが、最大の失敗要因は、『ERPは魔法の杖』だと過信したことでしょう。導入を決めた担当者たちはERPさえ導入すればうまくいく、未来は広がると錯覚していました。多額の初期費用と4年という歳月を捨てるのは、手痛い勉強代となりましたが、経営にとってITの何が重要かを考える貴重な機会となりました」(眞鍋氏)

国産ERPパッケージの利用中止を決断してからの、同社の動きは速かった。まず福岡情報ビジネスセンターに依頼し、既存システムの運用保守を継続するとともに、新たにDXアドバイザー契約を締結した。現在は週に1回、システム部門と福岡情報ビジネスセンターがディスカッションの場を設け、今後のDX構想を討議している。

またIBM iの利用中止を決めた背景にある問題を洗い直し、福岡情報ビジネスセンターの提案を受けて、「SS/TOOL-ADV」(アイエステクノポート)によるRPGプログラムの分析・可視化サービスの利用を開始した。

現在も利用を継続中であるが、約3カ月程度で、「ブラックボックス」「継ぎはぎだらけ」と指摘されていたプログラムはほぼ見える化でき、棚卸しが可能な状態になっているという。

「お話ししたように、国産ERPパッケージを決める以前は、アウトソーシング型でITを運用すべき、との考えでした。しかしここまでの経験から、今は内製体制の重要性を実感しています。システムを改善していくには、現場のニーズを的確に反映していくことが重要ですが、それにはITで業務課題をどう解決できるかを発想できる人員を社内で育成していく必要があります」(眞鍋氏)

ドライバーや倉庫作業者、そしてオフィス業務の担当者などから、現場の課題を顕在化させるため、「問題解決シート」の提出を勤務評定に反映させるなどの人事体制を整え、問題・課題の抽出を図っている。

また現在のシステム部門は福岡情報ビジネスセンターからの出向者を含め3名の人員を擁している。全員がRPGの開発スキルを備えているが、小戎氏によると、「今後はフリーフォームRPGの利用で、若手技術者の育成に努めるほか、外部ベンダーへ積極的に出向させてスキルの獲得を推進するなど、内製力の強化と人材育成に取り組んでいく方針」とのこと。

「現場業務を改善し、属人化を解消していくには、徹底して業務の単純化・標準化を図っていくことが必要です。その先に、AIやIoTによる自動化があるはずです。『現場ありき』の目線で課題を抽出し、それを柔軟にシステムへ反映していく環境を目指していきたいと考えています」と語る眞鍋氏。いったん導入した国産ERPパッケージを捨て、IBM iへ回帰した同社の経験は、DXを実現していくうえでの大きなエンジンになるだろう。 

図表 基幹再構築プロジェクトの流れ

 

[i Magazine 2022 Winter(2022年1月)掲載]