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プロジェクトdX|DXと千羽鶴―変わる勇気と変わらない勇気(田中良治)

本コラムも10回目を迎えました。

このコラムの投稿をお引き受けした頃には、10回も続けられるとは思ってもみませんでした。またDXが注目されているテーマとは言え、そんなに皆さんとシェアできるネタもないと勝手に思い込んでいました。

これまでのコラムでも申し上げてきましたが、「思い込み」は変革の目を曇らせるので、まだまだ皆さんにシェアできることを見つけたら、このコラムで紹介していきたいと思います。

今回は、「変わる勇気」と「変わらない勇気」について、考えたこと、気づきをシェアしたいと思います。

『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』(東洋経済新報社刊)を皆さんご存知のことと思います。チャールズ・A・オライリー氏、マイケル・L・タッシュマン氏の著作で、入山章栄氏の監訳そして冨山和彦氏の解説で、日本語訳が発刊され、経営論として日本でも注目を集めています。

両利きの経営を要約すると、企業の新規事業探索の重要性を説いています。

これまでに収益を上げた実績ある既存事業を妄信し、深く追求しすぎる、もしくは変化を求めず固執し続ける経営のリスクに警鐘を鳴らしているのだと理解しています。

不確実であっても、将来性のある事業を実験的にでも行っていくことが重要であることを訴求していると思います。

経営環境の変化により、現在利益を上げている企業であっても、それまでの成功体験にしがみつき、同じようなことを繰り返すだけでは、いずれ衰退するリスクを認識させてくれます。多くの経営者がこの経営論の重要性に共感を得る背景には間違いなく、経営環境の激変を肌で感じていることがあります。

インターネットの出現などから、経営環境の変化が加速してきました。

さらにコロナ禍で、これまで見えなかった不都合が可視化されており、企業に変革を迫る波は、これまで以上です。新しいサービスが次々と生み出される時代では、これまで通りの仕事だけにこだわっていては、いずれ立ちいかなく可能性がどの企業にもあり、対策を取る必要性があるのです。

両利きの経営では、すでに確立されたビジネスモデルだけではなく、他の可能性を探していくことを、「知の探索」と「知の深化」という表現を使って示しています。

「知の探索」は新しい事業、ビジネスモデル、変化への挑戦で、「変わる勇気」が支えます。

そして、「知の深化」はこれまでの事業、ビジネスモデルが支えてきた大切なことを振り返り、続けていくべきことを見極めて遂行する「変わらない勇気」が重要になると思います。

さて長すぎる前置きとなりましたが、ここから、本日のタイトルに冠した「千羽鶴」をテーマに、本題に入ります。

あなたが、恩人もしくは旧知の方から、「息子が高校野球をしていて、なんと甲子園への出場が決まった」と知らされたシチュエーションを思い浮かべてください。

その方からは、「息子のここまでの健闘を讃えて、そしてさらなる高みを目指す次のステージを応援したいので、千羽鶴を贈りたいのだけど、手伝ってもらえないか」と依頼されたとします。しかも期限は明朝までに、という時限条件があります。あなたは何とかしてあげたいと思っています。

1000人を集めて1人1羽ずつ折れば、すぐに終わらせることができ、明朝には間に合います。100人でも1人10羽ずつ作成できれば、時間的には大丈夫そうです。

20年以上前のバブル期、昭和の時代で活躍した馬力を売りにするビジネスプレーヤーたちであれば、労働力がふんだんにあることから、そんな人海戦術的な解決策を考えるでしょう。

実際、私はそんな時代、インターネットが世に現れてその利用拡大の加速が予感され始めた頃に、あるコンシューマー向けのチャネルシステムで、ピーク取引をシミュレーションした高負荷検証を人海戦術で実現しました。

対応可能な社内の人材を多数集めるとともに、アルバイトを大量に集めて一気に取引してもらうことで、その検証を実現したのです。

今なら大量の取引をシミュレーションできるテクノロジーがあり、それを活用すれば実現できます。人を投入せずに検証できるのは当たり前のことで、そのテクノロジーは労働人口減少、少子高齢化という日本の社会課題の解消にも大きな力になる存在です。

その当時、デジタルチャネルはシステム構築前の予想をはるかに上回る取引の高負荷によって、サービスの不具合が顕在化するようになり、問題視され始めた頃でした。

サービス開始までの時限条件があるなか、今までのやり方に捉われていては、高負荷検証をできないままサービスインを迎えてしまいます。安定したシステムを構築し、安心・安全なサービスを提供するために、高負荷シミュレーションによる検証を実現するにはどうしたらよいか。考え抜いた末の苦肉の策が、人海戦術による検証作業でした。

現在、日本の平均年齢は世界のそれを10歳以上も上回り、労働人口は減少の一途をたどり、少子高齢化が社会課題である時代ですから、千羽鶴も人手をかけずにやる方法を見出すべきなのかもしれません。

実現できるテクノロジーの出現も秒読みだと思います。人間の手先も定型的なものなら再現できるかもしれませんし、3Dプリンタも解決策になるかもしれません。

そのような、これまでに捉われない発想が求められ、その発想を実現できる可能性も高まっています。実際に変わる勇気を持てば、変えられる環境は整ってきています。

でも千羽鶴は、思いを込めるべき人が、その思いを込めて作るからこそ意義があり、意味があるというのも事実で、「変わらない勇気」「変わってはいけない勇気」なのだとも思います。徹夜してでも(仕事だったら働き方改革には反するかもしれませんが)、明朝までにやり抜くのが正解なのかもしれません。

DXという言葉がバズワード化し、変革が求められる時代、間違いなく「変わる勇気」を持つことはとても重要で、それを受け入れる文化、そして失敗を恐れない、失敗耐力が求められる時代です。一方で、「変わらない勇気」もリスペクトされ続けるものだと思っています。

今回は、まとまりのない、とりとめのない話をしてしまったかもしれません。そう感じる方がいらっしゃれば、悪しからず、ご容赦ください。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

田中良治
株式会社ソルパック 取締役CDTO
(沖縄経済同友会、一般社団法人日本CTO協会、一般社団法人プロジェクトマネジメント学会所属)

 


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第1回 今こそ変革の武器に! 日本企業の持つ強みは元サッカー日本代表監督イビチャ・オシム氏も評する“現場力”

第2回 変革実現に求められる企業カルチャー(前編) ~対極の発想をする

第3回 変革実現に求められる企業カルチャー(後編)~経営層の意識改革

第4回 DXプロジェクトがこれまでのプロジェクトと異なる理由

第5回 迫られる企業経営変化への対応と変革に必要とされる3つのエンジン

第6回 これから企業が取り組むべく3つのトランスフォーメーション・ロードマップ 

第7回 デジタル先進企業へ進化するための3つのポイント

第8回 デジタルトランスフォーメーションで高度化する事業活動

第9回 DX人材になることは自身の意識改革? Behavior Transformationかも?

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