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プロジェクトdX|迫られる企業経営変化への対応と変革に必要とされる3つのエンジン(田中良治)

「探索」「アジリティ」「共創」が
変革をリードする3つのエンジン

DX実現のカギは、「事業環境の変化に迅速に対応することはもちろん、ITシステムのみならず企業文化(固定観念)を変革することにある」

これは南山大学理工学部ソフトウエア工学科で、「DXレポート2(中間とりまとめ)」(経済産業省)でも中心的な役割を担ったとされる故・青山幹雄教授が強調されているメッセージです。私はこれに共感しています。

今回は企業経営の変化・変革への対応をテーマとして、青山教授が強調されていたメッセージを私なりの理解でお話しします。

VUCA(ブーカ。Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の4つの単語の頭文字をとった造語)と呼ばれ、不透明かつ対極の時代における企業経営に、変革が迫られていることは誰も疑う余地はありません。

変革を加速させるためのエンジン装備には、企業カルチャーとそれを支える人財の新化が、これまで以上に重要視されるはずです。

変化対応が迫られている企業経営には、以下3つのトランスフォーメーションが求められています。

1 ITトランスフォーメーション
2 制度、プロセスのトランスフォーメーション
3 個々人のマインドセット、企業カルチャーのトランスフォーメーション

セールスフォースドットコムの小出伸一代表取締役会長兼CEOも、同様の内容をコメントしていました。

変革は仮説検証の繰り返しで完成形に近づいていきますが、それを導く3つのエンジンとなるのが、「探索」「アジリティ」「共創」です。

図表1 変革を導く3つのエンジン

期待価値の変化に高くアンテナを張って、少しでも早くそれを察知し、新しい価値を「探索」し、創造することが求められています。

また「アジリティ」は経営判断のスピードをあげるため、データ利活用を高度化し、アジャイル開発の活用を最大化して、対応スピードを加速させることを意図しています。さらにさまざまなデータの利活用は、期待価値の変化の素早い察知にも大きな効果をもたらします。

そして新しいビジネスモデルの変革は、今までの枠組みに捉われることなく、新しいパートナーとの「共創」にも躊躇なく判断する必要が生じてくるはずです。これまでに捉われていては、この枠は超えられません。

なので、ビジネスモデルの変革で成功する多くの企業では、企業との共創力の強化、養成のため、これまでには考えられないような人材交流を行うケースも増えています。

日本IBMの山口明夫代表取締役社長執行役員も、共創力の強化として人材交流の有効性を、本年の入社式で新卒社員へ向けたメッセージに含めていました。

今までの枠組みにとらわれない
今を疑う

私は過去のこのコラムで紹介してきたとおり、自社で「高い技術力と人間力を持つ人財育成に貢献し、現場力を向上させ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する新しい武器で社会と自社の新化を目標」とした技術革新戦略室という組織を昨年7月に立ち上げ、その執行に責任を持つCDTOに就任しました。

立ち上げた、と紹介していますが、同じ年の6月に当社に移籍したばかりですので、昨年7月とはその直後になります。

現在の会社で、私は社内のこれまでを知らないがゆえ、自社のこれまでの成功体験や固定観念に固執することはありません。

これまでには捉われない変革者、改革者役として、時には社内の抵抗勢力とぶつかりながらも、「今を疑い」「高速に仮説検証し」「変革を推進して具現化できるカルチャーを生み出す」ことに挑戦しています。

1年経った今、まさに事業拡大を模索し、新しいビジネスモデルの事業を創出することに、現在進行形で取り組んでいます。

私は、今まさに「今までの枠組みにとらわれない」「今を疑う」を心がけ、また実践しているところですが、思い返すと、過去にも何度かそんな挑戦をしてきました。

古くは学生時代まで遡ります。大学では体育会サッカー部に所属し、最上級生になった時にはチームの主将を任されました。その頃も「今を疑う」を実践していました。

私が大学生だった頃の体育会では、上位下達で先輩の言うことは絶対、下級生は先輩の言うことには原則従うことが正とされているようなカルチャーが根付いていて、私の所属した大学サッカー部だけでなく、多くの大学で同じような空気がありました。

振り返ると、まさに過去の成功体験に支えられていて、これまでこそが、これからも模範としてリファレンスされるという妄信的な文化の中での活動で、「昭和な」という表現で揶揄されるようなカルチャーだったと思います。

これまでを疑う時間もないほどのスピード感が日本経済にあり、その成長経済に支えられていた世の中の縮図の1つが体育会運動部だったのかもしれません。

しかしその当時から、私はその体育会の常識に疑問を持ちました。

挨拶やマナー、気遣いといった、チームの卒業生、先輩、後輩といった仲間に対してのみならず、相手チームに対しても、そしてチームに関わる多くの関係者をリスペクトするというどんな時代にも通用する、よき体育会文化もありました。

その一方、雑用は何でも下級生、特に一番立場の弱い1年生というのに疑問を持っていました。ですので、そういう慣習をなくす活動指針を打ち出し、1年生がやることが当たり前だったことを学年に依存せず、部員全員でやることにしました。

自分たちが下級生の時の慣習をひっくり返されたチームの上級生たちの一部には、それをよいと思わないメンバーもいましたが、その抵抗勢力と対峙しながらも、変革・改革を断行しました。

今と同じだなぁと、ふと思い出しました(笑)。

 

田中良治
株式会社ソルパック
CDTO 上級執行役員(一般社団法人CTO協会所属)

 


プロジェクトdX|実現を支えるプロフェッショナルの流儀は人間力

第1回 今こそ変革の武器に! 日本企業の持つ強みは元サッカー日本代表監督イビチャ・オシム氏も評する“現場力”

第2回 変革実現に求められる企業カルチャー(前編) ~対極の発想をする

第3回 変革実現に求められる企業カルチャー(後編)~経営層の意識改革

第4回 DXプロジェクトがこれまでのプロジェクトと異なる理由