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メンバー同士が腹を割って話し合える、新しいIBM iコミュニティの形とは ~「AS/400倶楽部」をリードする 福岡情報ビジネスセンター 長田吉栄氏に聞く

福岡情報ビジネスセンター(FBI)が「AS/400倶楽部」への貢献で、日本IBMから表彰された。同会は、IBM iのユーザーとベンダーが最新情報や利用経験を共有し合うコミュニティで、FBIとベル・データが事務局を務める。昨年(2021年)6月に“復活”し、活発な活動を続けている。同会の仕掛け人であり会全体の運営をリードする長田吉栄氏に話をうかがった。

長田 吉栄氏

株式会社福岡情報ビジネスセンター
取締役 CHRO
人財開発・社会貢献担当役員

i Magazine(以下、i Mag) 長田さんが2010年に旧AS/400倶楽部を始めたのは、どのような経緯だったのですか。 

長田 私は2010年に日本IBMのSE職から西部地区部長となり九州研(*1)の担当に着任したのですが、そのときに北陸研(*2)で「AS/400倶楽部」というIBM iユーザーの集まりをやっているのを知り、九州研でもやってみようとパイロット版としてスタートしました。私はSEとしてIBM iに長く関わってきたので幸いにしてお客様の知り合いも多く、すぐに人が集まりディスカッションの場になるだろうと始めたのです。そうしたら思いのほか好評で、2011年に九州研の正式な例会になりました。

それから2020年のU研解散(*3)までAS/400倶楽部を続けましたが、今やっているAS/400倶楽部は、かつてのAS/400倶楽部と雰囲気はほとんど同じです。最初からユーザーとベンダーが集う会でしたし、ベンダーからの露骨な売り込みは厳禁、各社の取り組みやネタをデータとともに開示し、胸襟を開いて語り合おうという考えが浸透しています。

i Mag 参加者は参加の意義をどこに見出していたのでしょうか。

長田 ユーザーはIBM iに関して、IBMやベンダーからの情報提供が年々少なくなることに危機感を抱いていたのだろうと思います。それと、近場のユーザーがIBM iをどのように使っているのか、知りたいと思いつつも情報がなかなか入ってこないことに、もどかしさも感じていたのだろうと思います。だからこそ、IBM iについて情報交換できる場ができたら積極的に関わるようになったのでしょう。そのことは志のあるベンダーも同じだったろうと思います。

私は、AS/400倶楽部が解散になるというときに、地場で顔を突き合わせた情報交換や意見交換ができなくなることを一番危惧しました。

もちろんIBM Community JapanのIBM i ClubやIBMのPower Salonのようなオンラインの集まりもあります。それは全国のIBM iユーザーと交流できる貴重なチャンスですし、AS/400倶楽部とは違った情報も提供されるでしょうから、AS/400倶楽部のメンバーには「IBM i ClubやPower Salonにも参加しましょう」と勧めています。しかし、深く知り合っていない者同士がオンラインで腹を割って話せるかというと、それはやや疑問です。

i Mag それで、FBIに移籍してすぐにAS/400倶楽部を復活させるのですね。

長田 入社してほどなくして社長の武藤(元美氏)に相談しました。武藤とは、IBM時代にIBM iのお客様のプロジェクトやご支援を一緒にやってきた仲ですので、私の思いはすぐに通じました。

ただし、FBIとベル・データが事務局になることに参加者は抵抗感を覚えるのではないかと思ったのです。旧AS/400倶楽部はIBMが事務局でしたから、ユーザーとベンダーの双方に等距離でいられます。しかし、ベンダーであるFBIとベル・データが事務局を兼ねるとなると、ベンダーの企画として見られ、成立しないのではないかと懸念したのです。

i Mag それでどうしたのですか。

長田 旧AS/400倶楽部のメンバー企業を1社1社訪ねて、「AS/400倶楽部をFBIとベル・データが事務局となって復活させたいのだけれど、参加されますか」と聞いて回りました。そうしたら、みなさんウェルカムで、むしろそういう場が必要と思っていたと言ってくださったのです。

i Mag それはうれしい声ですね。長田さんは、旧AS/400倶楽部が長く続いた理由をどう見ていますか。

長田 それはメンバーのみなさんが継続して出席し、惜しみなく情報を提供してくださったからだと思います。ときには所属企業のこと(内情)を、そこまで話していいのかと思えることもありましたね。それと、バラエティに富んだ内容も理由の1つだったでしょう。RPGのプログラミング・コンテストを開催したり(有志が仕様とデータを準備)、RPGの経験のない人がWebとDBを勉強して本番化したり、RPGを扱えない部署に異動した人がプログラミングなしにRPAを構築したり、といろいろなことをやりました。そしてIBMのテクニカル・メンバーに毎回、情報を提供してもらったことも大きかったと思います。もちろん、毎回実施していた懇親会も大きな魅力だったはずです。

i Mag 長田さんのIBM iに対するこだわりはどこから来ているのですか。

長田 私は1986年に日本IBMに入社し、九州のシステム/38のお客様を担当するアカウントSEからキャリアをスタートさせました。そして2年後(1988年)にAS/400が発表されたのですが、私はそのコンセプトとアーキテクチャにすっかり魅了されてしまい、AS/400こそ自分の仕事の中心と思い、膨大な数の紙のマニュアルをすべて当時の勤務地だった鹿児島に送ってもらい、とことん勉強しました。AS/400に関することならすべて知っておきたいというのと、お客様から何を聞かれても答えられるにようにしようという考えからでした。

そうこうするうちに、AS/400周りでその場で解決できないトラブルが起きると、レスキューとして駆けつける役割になりました。さらに好きが高じて、ロチェスターのレジデンシー・プログラムにも数カ月間参画しました。

その後、ソリューション・スペシャリストやCITA(お客様担当アーキテクト)、SE部長へと担当が変わっていくのですが、2010年に九州・沖縄のIBMユーザー研究会の担当となるまで20年以上にわたって、何かしらAS/400・IBM iに関わっていたのです。その意味では、IBM iは私の20代から40代前半までの仕事人生そのものでしたし、愛着も思い入れもあるというわけです。

i Mag その長田さんから見て、今のIBM iの状況はどう映っていますか。

長田 あらためてIBM iってすごいと驚嘆します。縁あって30年以上も関わることになりましたが、「枯れたオフコン」だなんてとんでもない! 優れたアーキテクチャと堅牢性を維持して資産を継承しつつ、今なお進化を続けていることに、誇らしさすら覚えます。最近IBM iから離れたお客様が再度戻ってくるケースを耳にしますが、その理由はとても納得がいくものです。RPGで生産性高く構築した競争力のあるシステムは、そう簡単に他のプラットフォームに置き換えられないでしょう。

その半面、IBM iでできることがここまで増えると、IBM iの新しい技術にチャレンジするベテランはそう多くないのでは、と危惧します。RPGは書きやすく生産性が高いので、それに慣れているエンジニアはほかに移りにくいのかもしれません。そのことは弊社でも同様で、ベテラン組は新しいことに対して腰が重いようです。

私が今若手のエンジニアに言っているのは、RPGは知っておくに越したことはないけれども、むしろFFRPGやIBM iのDB、さらにはMerlinのような新しい開発環境を勉強して、IBM iのデータと他のプラットフォームとを連携する仕組みを体得してほしいということです。IBM iのよさを引き出すために、外部との連携術を学ぶということ。要するに、これまでのRPG中心の発想を変える必要があると思っています。

i Mag AS/400倶楽部を九州以外へ広げる考えはないのですか。

長田 それはメンバーのみなさんにご意見を伺いたいところですね。見知った者同士が胸襟をひらいて話し合い、懇親会でさらに語り合うというのが基本ですから、やみくもに広げるのは難しいと思います。私個人的にはIBM時代に関わった九州・沖縄のユーザー企業が少しずつでも増えていけばいいと思っています。

ただし、AS/400倶楽部のような集まりを九州以外で作るのが難しいとは思えません。数カ月に1回集まるような形にして、日頃の悩みや課題をフランクに語り合える機会を(最初はゆるくても)作ることができれば、それで成立です。ちょっとお世話をする事務局やファシリテータのような役割は必要ですが、そういう人は各地に一人や二人必ずいると思いますし、所属がベンダーでもユーザーでも関係ないのではないかと思うのです。

i Mag 若い世代の参加促進について何か考えていますか。

長田 資産継承や世代交代は大きな課題の1つですが、先日、昔のAS/400倶楽部のメンバーから、次回は若手を、教育も兼ねて参加させたいと連絡をもらいました。そうした教育目的や人的ネットワークを広げるための参加もありだなと思っています。前回の集まりでは、「RPGは大嫌いだけれどIBM iは大好き」という30代の人が参加して活発に発言されてました。若手やビギナー層の人が発言しやすいようなムードや仕掛けを作っていくことも重要ですね。

i Mag オンラインとリアルの集まりという形は、このまま続きそうですか。

長田 参加人数が30人を超えると、会場のキャパシティの問題や、福岡以外からの参加もあるので併用にならざるを得ないと思っています。それとオンラインの便利さを知ってしまうと、もう元に戻れませんね。コロナ禍の状況をみながらではありますが、懇親会前提で継続できればと考えています。

私は参加される方に、AS/400倶楽部はセミナーではありません、発言をベースにしたコミュニティです、と申し上げています。参加者がAS/400倶楽部の一員と思う意識さえあれば、オンラインでもまったく問題ないと思っています。

*1:九州研:九州IBMユーザー研究会。U研の地区組織 
*2:北陸研:北陸IBMユーザー研究会。U研の地区組織
*3:U研:全国IBMユーザー研究会連合会。2020年に解散 
*4:IBM i Club:IBM Community Japan中のIBM iユーザーのためのオンライン・コミュニティ
https://www.ibm.com/ibm/jp/ja/ibmcommunityjapan.html


長田 吉栄氏

株式会社福岡情報ビジネスセンター
取締役 CHRO
人財開発・社会貢献担当役員

日本IBMに入社後、SEとしてシステム/38、AS/400の導入・保守、SIプロジェクトのPM、お客様担当システムズ・アーキテクト(CITA)を経て、SE部長として九州・沖縄地区のお客様を担当。その後九州・沖縄地域の地区部長としてIBMユーザー研究会、地域有識者会議「九州フォーラム」事務局長、地域外部団体渉外としての業務を歴任。2021年3月に福岡情報ビジネスセンター(FBI)に転職し、人財開発・社会貢献を担当。

[i Magazine 2022 Summer(2022年7月)掲載]

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