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「脱3270」を推進するメインフレーム運用・開発の新しいユーザー・インターフェース ~代表的な5つのツールとユースケース

 
Text=劉 紅爍 日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング
 
従来からメインフレームを扱うためのインターフェースとしては、3270エミュレータ(以下、3270)が主流である。マウスを使わない軽量な操作が特徴で、幅広い場面で活用されている。
 
3270エミュレータに慣れているユーザーにとっては3270が最高のユーザー・インターフェース(UI)かもしれないが、今時のUIやリッチな開発支援機能を備えたツールと比較すると、従来のやり方では運用・開発の生産性を高めにくい場面が多くある。
 
たとえば、多くの現場では以下のような課題がある。
 
◎システムの運用管理で管理するリソースが多く、手作業の割合が多い3270の操作ではミスが発生しやすい
◎今時のGUIと比べると、テキストベースの3270は見た目や操作感が初心者には馴染みにくい
◎3270からz/OSを操作する時、独特なパネルの使い方やコマンドを覚えるまで時間がかかり、若手のスキル育成が困難
◎コード開発支援機能が乏しい
 
近年、メインフレームシステムのモダナイゼーションによる業務の効率化が話題になっている。UIの改善は運用や開発の効率性を高め、過去の資産を活かしながら最新の技術に適合したシステムに置き換えるという意味でモダナイゼーションの一環と言える。
 

z/OSを操作する新しいユーザー・インターフェース

3270を扱う現場を改善するアップローチとしては、以下が考えられる。
 
◎システム運用管理作業の一部を自動化し、手作業の部分を減らすことで作業の効率化を実現
◎各機能それぞれのパネル操作やコマンドを覚えなくてもz/OSを操作できるUIを利用することで、作業の簡素化を実現
◎初心者にとって親しみやすいGUIを利用することで、人材確保や若手技術者の育成につながる
◎リッチなコード開発支援機能を利用することで開発の効率化を実現
 
上記のアプローチを実現するために、現在では以下のようなインターフェースを利用できる。
 

z/OSMF

 
z/OS V2R2以降、z/OSMFはベースエレメントに含まれて出荷されている。さまざまなシステム管理作業に対して単一の制御インターフェースを提供するため、Webブラウザからシステム稼働状況の確認や構成変更など、各種作業を直感的に行える。
 
z/OSMFを利用する際、z/OS上のパネル操作やコマンドが分からなくてもメニューから操作できるため、若手にとっても扱いやすい。
 
3270エミュレータのすべての機能には対応していないが、よく利用されるISPF、SDSF、WLMなどの基本機能が実装されている。基本機能に加えて、ワーフフロー機能やREST APIも提供されており、作業の自動化やAPIを利用したアプリケーション開発にも活用できる(図表1)。
 
図表1 z/OSMF
 

Visual Studio Code 

 
マイクロソフト社のフリーなエディターツールであるVisual Studio Code (以下、VS Code) は、軽量で手軽に使えるという特徴があり、開発でも人気がある。
 
近年、VS Codeをベースとしたメインフレーム開発環境の整備が進んでおり、Extension機能によってさまざまな機能拡張が実現されている。
 
たとえば、Zowe ExplorerとZowe CLIをセットアップすることで、VS Codeからホストに接続し、各種データセットの編集、JOBのサブミットやJOBLOGを確認できる。
 
また、IBM Z Open Editorを組み合わせることで、IBM Z Open Editor提供のコーディングサポート機能を利用でき、ソース構文の色分け表示やリアルタイムでの構文チェックも可能である。さらに有償製品のDebuggerやビルドツールを利用すれば、よりリッチな開発支援機能を利用できるようになる(図表2)。
 
図表2 VS Code
 

Zowe

 
上記で紹介したVS CodeのExtension機能は、Zoweフレームワークの一部がベースになっている。
 
Zoweは、z/OS上のリソースを新しい技術を使って活用するためのフレームワークとして提供されているオープンソースのプロジェクトであり、いくつかのコンポーネントを提供している。
 
たとえば、仮想デスクトップから各種プラグインを利用してz/OS上のデータセット、JES資源やUSSファイルなどのリソースを操作できる。
 
また、Zowe CLIというコマンドライン・インターフェースもあり、これを介して、Windows、MacOSやLinuxのターミナルから簡単にメインフレームへアクセスできる。
 
Zoweは、クラウドプラットフォームと同じ感覚で開発者がメインフレーム上で安全に開発や運用を行うことを目指すプロジェクトで、さまざまなプラグインや開発に便利な機能やツールを提供している。
 
独自のプラグインを開発してカスタマイズもできるため、z/OSの使い方の幅が広がることが期待できる(図表3)。
 
関連サイト
Zowe(Home)  https://www.zowe.org/
 
図表3 Zowe
 

IBM Developer for z/OS 

 
IBM Developer for z/OS(以下、IDz)はCOBOL、PL/I、高水準アセンブラ、C/C++などの開発ツールをEclipseベースで提供する製品である。有償ツールではあるが、以前から提供されており、機能も豊富に搭載されている。
 
IDzのクライアントからホストに接続し、COBOL、PL/I、JCLなどのリソース編集、コンパイル/リンク・エディットと実行を行える。また、JCLのサブミットやTSOのコマンド実行などのz/OSオペレーションも可能である。
 
COBOLなどのリソースのリアルタイムな構文検査機能も備えているので、開発者にとっては使いやすい。使用する機能に応じてホスト側には複数のコンポーネントを導入する必要があるが、各種コンポーネントと連携してデバッグ、ソース管理、ライフサイクル管理、問題診断などさらに豊富な機能を利用できる(図表4)。
 
図表4 IDzのクライアント画面
 

SSHクライアント

 
SSHクライアントとは、遠隔からシステムに接続して操作するSSH(secure shell)のクライアント側のソフトウェアである。Windowでよく使用されるTeratermは代表的なSSHクライアントの1つである。MacにはSSHクライアント・ソフトが標準で付属しているため、Macユーザーはシェルを使用してSSH接続を行える。
 
z/OS V2R2から、OpenSSHはz/OSのベースに含まれて提供されているので、簡単なセットアップでSSHクライアントから接続できるようになった。
 
接続するだけで利用できる機能としては、たとえばUNIXコマンドやTSOコマンドの実行、JOBのサブミットなどがある。さらにREXXやShell Scriptの自作ツールなどを使えば、さまざまな拡張機能を実現できる(図表5)。
 
参考サイト
GitHub Lightweight Command Utility on USS
 
































































図表5 自作ツールを利用してTeratermからジョブを実行する例
 
上記で紹介した各種UIを一覧にして図表6にまとめた。
 
図表6 z/OSの主な操作インターフェース一覧
 
各UIはそれぞれの主な想定ユーザー、前提、操作感や想定利用場面などが異なる。3270を廃止すべきというわけではなく、利用目的によって適切なUIを使ったほうが、効率性が高まる場合があるため、インターフェースの改善を検討する際にはぜひ参考にしてほしい。
 

新しいインターフェース一を活用するユースケース 

 
以下に、新しいインターフェースにより実現したユースケースをいくつか紹介しよう。
 

活用例1   システム管理者によるz/OSMFの活用-システム稼働情報の確認

 
多くの現場では、システムの稼働状況を確認する時、3270端末の各種パネルを操作したり、SDSFからコマンドを発行したりする必要がある。
 
各種コマンドと機能それぞれのパネル操作を覚える必要があるので、慣れている人はスムーズに作業できるが、スキルがないと操作に手間がかかる場合もある。このような場面では、z/OSMFを利用することで、パネル操作やコマンドを覚えなくてもブラウザから各種情報の確認、構成の変更をより便利に行える。
 
利用例a  ジョブの実行状況やシステム構成の確認・変更
 
z/OSMFのデスクトップやSDSF機能では、ジョブの実行状況、JOBLOGおよび各種システム構成情報をブラウザから直感的な操作で確認できる(図表7)。
 
図表7 z/OSMFのデスクトップとSDSFの操作画面例
 
また、SYSPLEX管理機能では、実際にコマンドを覚えなくても、SYSPLEXのリソース確認および動的構成変更を各種メニューで便利に行える。各種情報はテキストだけではなく、図やグラフでも表示されるため、より直観的に情報を確認できる(図表8)。
 
図表8 SYSPLEX管理機能の操作画面例
 
利用例b ワークロードの管理
 
ワークロード管理機能を利用すれば、WLMのISPFパネル操作のスキルがなくても、わかりやすいメニューを使用してWLM定義の確認や変更を行える(図表9)。
 
図表9 ワークロード管理機能の操作画面例

 

活用例2  システム管理者によるz/OSMFの活用-ソフトウェア管理

 
従来、ソフトウェアのServerPac導入ではISPFダイアログを使用する必要があるため、ダイアログのスキルがないと導入が困難であった。また、ソフトウェアをメンテナンスする際、PTFのRECEIVE、APPLY、ACCEPTなどのジョブを作成・実行する必要があり、PTF適用状況の確認にはSMP/Eパネル操作を理解する必要がある。
 
近年では、PSI(ポータブル・ソフトウェア・インスタンス)形式のソフトウェアのServerPacが提供されており、データセットのアローケーションや導入ジョブの実行など一連の作業をWebインターフェースから実施できるようになった。
 
ウィザードに従って作業を実施できるため、従来のISPFダイアログの操作スキルがなくても簡単にServerPacを導入できる。
 
また、ソフトウェア管理機能から導入したソフトウェアへのPTF適用やソフトウェア関連の各種レポートを作成できるため、SMP/Eをあまり意識せずにソフトウェアを管理できる。
 
さらに、z/OSMFにはソフトウェアのプロビジョニング機能もあり、インフラ担当者が事前にJCLやワークフロー等のテンプレートを準備することで、利用者が新しいz/OSやミドルウェアのインスタンスを利用したい場合に、z/OSMFからメニューをクリックするだけで、インスタンスの自動作成や削除が行える(図表10)。
 
図表10 ソフトウェア管理作業とz/OSMFの対応機能
 

活用例3  システム運用担当者によるz/OSMFの活用-定常作業のワークフロー化

 
多くの環境では、一部の定常作業をExcelなどの手順書を見ながら繰り返し作業する必要がある。作業内容によっては手動でJCLを作成、実行、確認しながら実施する必要があるので、手作業が多く、オペレーションミスも発生しやすい。
 
このような課題に対しては、定常作業のワークフロー化というアップローチが考えられる。ワークフローはガイド付きの一連のステップのセットとも言える。
 
管理者が定常作業のワークフロー定義ファイル(XMLファイル)を事前に作成しておけば、作業担当者がこの定義ファイルをz/OSMFから読み込むだけで、作業ステップの一覧を作成できる。
 
ワークフローの各ステップからJCLやREXXの作成と実行ができ、実行後のJOBLOG確認もブラウザ画面から行える。また、前提条件を満たせば各ステップの自動実行も可能であり、作業の効率化にも活用できる。
 
管理者が作業一覧画面から作業ごとに担当者を割り当てたり、作業の実施状況を確認できるため、作業管理も容易になる(図表11)。
 
図表11 ワークフローの画面例
 
さらに、z/OS Management Services Catalogという機能を使用してワークフローをサービスとして作成・公開することもできる。これにより、利用者が自らワークフローを読み込む必要がなく、カタログ内のサービスを実行することで、ウィザードに従って変数の指定やワークフローの実行を行うことができる(図表12)。
 
図表12 z/OS Management Services Catalog機能の画面例
 

活用例4  開発担当者によるVS Code、IDzの活用

 
ISPFインターフェースはコード開発支援機能が乏しいため、オープン系の開発ツールに慣れている人にとっては使い勝手に劣る場合がある。
 
従来、z/OS上の開発支援ツールとして、EclipseベースのIDzツールが提供されていた。最近ではこれに加え、オープン系の開発ツールとして人気の高いVS Codeもz/OSアプリケーションの開発に利用できるように機能拡張されている。
 
VS CodeやIDzを利用することで、今時の高機能エディタでソースを編集し、リッチなコード開発支援機能を利用できる。ホストに接続しているため、コンパイル・リンクや実行用ジョブのサブミット、JOBLOGの参照・保管にも便利である(図表13図表14)。
 
図表13 VS Codeの画面例
 
図表14 IDzの画面例
 
 
ここに挙げたインターフェース以外にも、最近はAnsibleからもz/OSを操作できるようになっている。
 
参考サイト
z/OSの操作を自動化するAnsible
 
これらのOSSやz/OSMFには無償で利用できる機能が多いので、試しながらスモール・スタートすることもできる。多くのユースケースではUNIX/Linux技術者のスキルを活用でき、使い方によってはさまざまな機能拡張が可能である。
 
z/OSの運用・開発の新しいインターフェースを利用することで、作業の効率化だけではなく、人材確保や若手技術者の育成が期待できる。メインフレームの運用・開発環境の改革を検討される際には、ぜひ新しいインターフェースの活用も検討いただければ幸いである。

著者
劉 紅爍氏

日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
メインフレーム・テクノロジー
Advisory IT Specialist

2016年に入社以来、主にz/OSとプロセッサ周りを担当している。複数のお客様のz/OS、ハードウェア移行プロジェクトの技術サポートに携わっている。

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