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IBM、ハイエンドモデル Power E1080を発表 ~AI、セキュリティ、ハイブリッドクラウド向けにチップレベルから新設計、業界初 オンプレミスでOpenShift・RHELの従量課金

日本IBMは9月9日、新世代の「Power10プロセッサ」を搭載したPowerサーバー・ファミリーの最初のマシンとして、エンタープライズサーバー「IBM Power E1080」を発表した。

今後普及が進むと見られるハイブリッドクラウドやAI、エッジコンピューティング向けに、チップレベルから新たに設計された、IBMとしては初のマシンとなる。また、エンタープライズ用サーバーとして市場最速で、最高レベルのセキュリティ機能と、脱炭素・脱CO2を実現する環境配慮型の特徴を備えるマシンでもある。

販売戦略としては、業界初となるオンプレミス環境におけるRed Hat OpenShiftとRed Hat Linuxの分単位の従量課金(計画)や、ハイブリッドクラウド環境全体で共通の従量課金方式を採用する予定であることを公表した。また、Power E1080の購入者に対して環境省「温室効果ガス排出算定・報告・公表制度」に基づく「SDGs割引」の適用や、IBM Powerの普及のための「IBM Powerコミュニティ」の発足も発表した。

Power E1080は、現行のPower E980と比較して、チップレベルとハードウェアの実装レベルで大きな技術革新を達成した(図表1)。チップでは線幅ルールを14nm(ナノメートル)から7nmへと細線化し、トランジスタ数は80億個から180億個へと高集積化、さらに搭載コア数を12から15へと拡大し、処理性能を1.5倍以上に引き上げた。

「チップとハードウェアの設計を一からやり直したことにより、パフォーマンスが大幅に向上し、さまざまな先進機能の搭載が可能になった」と、日本IBMの間々田隆介氏(テクノロジー事業本部 IBM Power事業部 製品統括部長)はPower E1080の特徴を話す。

 

図表1 Power各世代の主なスペック
図表1 Power各世代の主なスペック

 

パフォーマンスに関しては、以下のデータを公表した。

・x86サーバー(Xeon Platinum)と比較して、コアあたり2.5倍の性能向上
・x86プロセッサの2倍のメモリ帯域幅
・x86サーバーと比較して、コアあたり4.1倍のOpenShiftコンテナを実行
・8ソケットのSAPベンチマークで世界新記録(図表2

最後のSAPベンチマークを走行させたときの高パフォーマンスは、Power E1080がSAPアプリケーションやAI推論プログラムのようなメモリ集約型のワークロードに向くマシンであることを示している。

 

図表2 SAPベンチマーク結果の比較  資料:IBM(編集部により一部変更)
図表2 SAPベンチマーク結果の比較  資料:IBM(編集部により一部変更)

 

Power E1080で搭載した新機能の1つは、「透過的なメモリ暗号化」である。アプリケーションを実行すると、CPUとメモリ間で自動的に暗号化が実行される機能で、「メモリバスを監視して命令を読み取ろうとする悪意のあるプログラムや、メモリモジュールを詐取して中身を抜き取ろうとするサイバー攻撃に対処可能になる」と、間々田氏は説明する。

またPower E1080は、CPUのコアごとに、Power E980の4倍となる4つの暗号化エンジンを搭載した。これにより、標準的なAESの暗号化では、Power E980の2.5倍の高速処理を実現した。この暗号化による他の機能や処理性能への影響はないという。

さらに将来への備えとして、量子コンピュータを使った暗号解読アタックに対応可能な「耐量子暗号化」と「完全準同型暗号化」機能も搭載した(図表3)。

 

図表3 Power E1080のセキュリティ機能の拡張 資料:IBM
図表3 Power E1080のセキュリティ機能の拡張 資料:IBM

 

Power E1080の新機能のもう1つのハイライトは、AIへの対応である。これに関しては、CPU、キャッシュ、メモリ、メモリ帯域幅などのAI処理に必要なリソースの大幅な拡張(前掲の図表1)や、ペタバイト級のメモリクラスタ構成を可能にする「メモリインセプション(Memory Inception)などの新機能に加えて、CPUコアごとの4つの「Matrix Math Accelerator(MMA)エンジン」の搭載がある。

これは、AIの推論で使う行列計算を高速化するためのエンジンで、Power E980と比較して5倍のAI推論処理の高速化を実現した。

また、Power E1080では、機械学習やAIモデルを作成するためのオープンソースのライブラリ「ONNX(Open Neural Network Exchange)」をサポートした。ONNX対応の学習済みAIモデルは、コードの変更なしに、x86サーバーからPower E1080へデプロイできる。

「AIというと、今までは専用の高機能な環境がないと利用できないと思われてきた。AIプログラムを開発するための学習フェーズではGPUを駆使する高度な環境が必要な場合もあるが、データから知見を抽出する推論フェーズでは、もっとライトウエイトな環境で十分。Power E1080ならば、基幹システムのすぐ横で基幹データなどを対象に推論を行い、そこから得られた知見をただちに業務判断に活かすような、データのある場所でAIを活用することが可能になる」と、間々田氏(図表4)。

 

図表4 Power E1080のAI関連機能の拡張 資料:IBM
図表4 Power E1080のAI関連機能の拡張 資料:IBM

 

日本IBM/IBMは、今回のPower E1080のリリースで、「俊敏性を実現する(Engineered for Agility)」と「摩擦レス(Frictionless)」というキャッチフレーズを掲げ、マーケティング・キャンペーンを展開している。

これについて日本IBMの黒川亮氏(理事 テクノロジー事業本部 IBM Power事業部長)は、「IBMが今年、世界の3000人のCEOに“今後2~3年に最も追求することは何か”と尋ねたところ、“業務の俊敏性と柔軟性の強化”という回答が多数を占めた。現在の予測不可能な社会・経済を前に、会社の要求に俊敏に応えていくには、動的で効率的な拡張性の仕組みをもつシステムが不可欠。他システムを圧倒する処理能力と強固なセキュリティ機能を備え、摩擦レスなハイブリッドクラウドを可能にするPower E1080が、今切実に求められている俊敏性を実現する」と言い、ハイブリッドクラウドによって可能になる「摩擦レス」について、次の4点を挙げた。

・ビジネス要求にすばやく対応
 Power E1080の優れた拡張性、オンプレミス・オフプレミスを包含する従量課金

・コアからクラウドまでのデータ保護
 プロセッサレベルの暗号化、オンプレミス・オフプレミスを通貫するセキュリティ

・知見獲得と脱炭素の両立
 CPUコア搭載のAI推論エンジン、ONNXで利用可能な学習モデルをコード変更なしで実行可能

・可用性と信頼性を最大化
 新たに組み込まれたSMPインターコネクトによる高度な回復と自己修復機能、Power Virtual Serverとの連携による災害対策・BCPの高度化

Power10ファミリーのエントリー機やスケールアウト・サーバーの出荷時期は「近い将来」、Power Virtual Serverでのサービス提供時期は、「目下、データセンターのロケーションやサービス開始時期の協議に入っており、近日中」(黒川氏)との回答だった。

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