黒川 亮 IBM Power 事業部長に聞く ~IBM Power E1080が実現する「俊敏性」と「摩擦レス」とは何か

IBMは、IBM Power E1080を「俊敏性」と「摩擦レス」を実現するプラットフォームであるとグローバルにアピールし、その必要性をメッセージしている。今なぜ「俊敏性」と「摩擦レス」か。黒川亮 IBM Power事業部長にメッセージの狙いを聞く。

黒川 亮氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
理事 テクノロジー事業本部   IBM Power事業部長

世界のCEOは、企業の「俊敏性」獲得に取り組む

i Magazine(以下、i Mag) 今回のIBM Power E1080(以下、E1080)のリリースにあたってIBMは「俊敏性を実現する(Engineered for Agility)」と「摩擦レス(Frictionless)」という言葉で製品を訴求しています。これはE1080のどのような特徴を捉えたものでしょうか。

黒川 IBMは20年以上にわたって世界のCEOを対象に調査を実施し、毎年「IBM CEO Study」を公表しています。その最新の調査で、CEOの56%が、今後2~3年に積極的に推進する項目として「アジャイルで柔軟なオペレーション」をトップに挙げておられます。この「アジャイルで柔軟なオペレーション」とは、言い換えれば俊敏性ですが、その端的な例がファイザー社のお取組みではないかと思っています。

ファイザー社はご存じのように新型コロナ用のワクチン供給で世界を救う活動を展開していますが、その活動の基盤にIBM Power(以下、Power)があるのです。つまり世界からさまざまに寄せられるワクチン提供の要請に対して、開発と製造、流通をダイナミックに組み替え得るシステムを支えているのがPowerです。しかも医薬品ですから、システムには高度な安全性やセキュリティも求められます。そうした要件にもしっかり応えているのがPowerなのです。

新型コロナの時代になってビジネスの先行き不透明さはいっそう増しています。IBMからのメッセージは、ビジネスが先行き不透明だからこそ状況を即座に捉え、俊敏に対処できる仕組みやシステム基盤が必要というものです。E1080はまさにその「俊敏性」を実現するために、数々の先進機能を備えたサーバーなのです(図表1)。

図表1 俊敏性を実現するIBM Power E1080のソリューション

自由に移行できる「摩擦レス」
連携・共存の「摩擦レス」

i Mag 「摩擦レス」はどのような特徴を捉えているのですか。

黒川 これは1つの大きなトレンドを反映しています。米国でSAP HANAをPowerに乗せてお使いのお客様は、2020年まではオンプレミスとパブリッククラウドの割合は半々でした。

ところが、そのSAP HANAをクラウドでお使いのお客様の57%が、2021年中にオンプレミスに戻るという動きになっています。理由はコストやパフォーマンスなどさまざまですが、重要なのはクラウドかオンプレミスかというプラットフォームとしての良し悪しではなく、移行しようと思ったらスムーズに移行できるという柔軟性です。

Powerならそれができるので、クラウドからオンプレミスへの移行の動きになっているのです。このSAP HANAユーザーの動きは、お客様は今後、最適なプラットフォームを求めてクラウド間やクラウドとオンプレミスの間を頻繁に移行・再移行を繰り返すというトレンドを先取りしています。

そのために必要なのは摩擦レスの仕組みを備えていることで、PowerはPower Virtual ServerとオンプレミスのIBM Power機器でそれを既に実現しているのです(図表2)。

図表2 Power10サーバーによるハイブリッドクラウド&AIの推進

それともう1つの動きは、1台のPowerのなかでのIBM i、AIX、Linuxの連携・共存です。注目したい話題として、世界で物流事業を展開している海外のお客様が、E1080が発表になるとすぐに4ノード・240コアという最大規模のシステムを購入されたことがあります。

ちょっと耳を疑うような話なので米国の担当者に事情を聞いてみると、本番用は80コアでIBM i、40コアがOpenStack用に割り当てられ、残り120コアはコンテナ用とのことです。

これが格好の例だと思えるのは、とくに日本ではIBM iならIBM iだけ、AIXならAIXだけをPowerにのせて利用されるお客様が非常に多いからです。これまでも、IBM iとAIXを別々のPowerでお使いのお客様に筐体統合をご提案してきたことがありますが、性能的には1台で十分であるにもかかわらず、なかなか動かれませんでした。

しかしコロナになってコスト削減や運用管理の効率化が待ったなしの状況になって、日本でも動きが出てきたなと感じています。つい先日も、Powerの筐体統合がそんなに簡単なら、エッジに置いてあるLinuxサーバーを基幹サーバーに統合しようというお客様の話をうかがったところです。

i Mag 筐体統合だけでもコストメリットは大きそうですね。

黒川 データセンターを運営しているSIer様のシステムで試算したところ、計5400コアのシステムが30台のPowerでまとまるという結果でした。設置スペース、電源なども大きく削減でき、運用工数や要員も縮小できます。それほど大型のシステムでなくても、数台のPowerを統合するメリットは大きいはずです。それとシステム基盤の費用だけでなく、Power上で利用しているソフトウェアの運用コストも縮小できることがわかっています。

i Mag E1080の記者発表では、AI処理と基幹システムとの摩擦レスも強調されていましたね。

黒川 それは俊敏性ともつながる点ですが、プロセッサ・コアにAI推論エンジンを搭載したことによって、Power上で基幹データを対象にAI推論処理ができるようになりました。従来は基幹データを推論エンジンのあるプラットフォームへ移行して処理するやり方でしたから、手間と工数、スピードがぜんぜん違います。

i Mag 新しい利用シーンを拓いたという印象ですが、これも隣接するLPARでIBM iとLinuxを共存・連携させる使い方ですね。

黒川 新しいPower10サーバーはチップレベルから設計をやり直し、ハイブリッドクラウドとAIに最適化させたマシンですから、これからは新しいワークロードがいろいろ出てくると思います。IBM iのお客様には、買収したRed HatのソリューションやAPIによるDXを、Powerの王道の取り組みとして、強力にご提案していくつもりです。その新しい使い方を、お客様やパートナーと一緒になって見つけていきたいですね。

プラットフォームの性能・機能が
DX(ソフトウェア)の鍵を握る 

i Mag ところで、DXというとソフトウェアの話が中心です。DXに取り組むときにPowerが必要になる理由は何でしょうか。

黒川 デジタル・トランスフォーメーションは、さまざまなモノ・コトをデータ化して、デジタル技術を駆使してビジネスモデルを変革し競争優位を得ようとする取り組みです。そこでは必然的に、膨大なデータの処理や複雑な仕組みが伴います。そのときに大前提となるのは、DXの話では陰に隠れてしまっていますが、プラットフォームの性能であり機能であるはずです。

つまりCPUの能力やI/Oが制約になっては、あるいは基盤の機能に制限があっては、どんなにディスラプティブ(破壊的)なソフトウェアがあったとしても、画に描いた餅にしかならないからです。

この3~4年、SAP HANAに代表されるようなメモリインセンティブなアプリケーションやデータウェアハウスの仕組みの導入がPower上で進んでいて、DX対応という点で私たちも手応えを感じています。E1080はさらにその領域を広げるだろうと思います。

i Mag Powerの利用の変化で、注目していることは何ですか。

黒川 この1~2年好調なのはハイエンドのPowerですが、Power9サーバーをリリースした当時(2018年)はAIニーズもあってローエンドが中心でした。最近はハイエンドのデータ処理基盤としてのニーズが広がりつつあります。

それとRISCプロセッサが再評価・再注目されるなかで、Powerへの関心が高まっていると感じています。グローバルな話題としてはARMでありRISC-Vですが、Powerの超高速処理性能や、業務に適用させやすい点が評価されているのだろうと思います。

実際、ハイパースケールなパブリッククラウドでもPowerが使用されており、先日のIBM Power 2021でご講演いただいたキヤノン様は、空間全体を3Dデータ化するボリュメトリックビデオ技術をPower上で開発し活用されています。Powerの並列処理やAI処理性能が活かされている好例と言えます。今後、映像処理から音声処理やゲーム、人材マッチングなどの領域でまったく新しいソリューションが、Powerを前提として登場してくると見ています。

i Mag 販売戦略のほうでは、従量課金やSDGs割引などがありますね。

黒川 従量課金(Power Private Cloud Solution with Dynamic Capacity)はグローバルでは昨年からご提供しているものですが、日本では今年からになりました。利用開始時にふだんお使いになる基本のコア数とメモリ量を決めていただき(1コア〜、256GBメモリ〜)、それを超えた場合に使用した分だけ1分単位に課金されるという形態です。現在オンプレミスのスケールアップ、スケールアウトで実現していますが、今後Power Virtual Serverにまたがるケースでもご利用いただけるように計画しています(図表3)。

図表3 Power Private Cloud Solution with Dynamic Capacityによる従量課金

i Mag SDGs割引はどのようなものですか。

黒川 既存のサーバーをPower10で集約して年間20トンのCO2削減効果が見込めるお客様に、環境省の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」に基づく割引を適用させていただくものです。E1080とストレージのFlashSystem5000などが対象ですが、CO2削減やSDGsに取り組んでいるお客様のお役に立てることは何かないかと考えて作ったオファリングです。

i Mag IBM Power Salonも開設されましたね。

黒川 Powerのご利用が、SoEやDXへ向けて大きく広がりつつありますので、E1080の発表を機にPowerに関わる方ならどなたでも参加でき、自由に語り合える場がほしいと思いました。毎月第2水曜の朝9時~10時、オンラインでの開催と決めて、Powerの最新情報やお客様による事例のご紹介、スペシャリストによるQ&Aなどを続けていきたいと考えています。11月10日からのスタートです。お客様、ビジネス・パートナー様、ソリューション・ベンダー様に幅広く参加していただき、朝の始動前の雰囲気のなかで自由闊達に交流できればと考えています。

 

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