量子システム開発の新たな展開、IBMがQiskit Runtimeを発表 ~古典コンピュータとのI/O回数を削減し、処理時間を短縮

IBMは今年2月4日発表の量子コンピューティングのロードマップで、2021年に量子カーネル部分の「Qiskit Runtime」と127量子ビットの性能をもつ量子ハードウェア「IBM Q Eagle」をリリースする、と宣言していた。そしてその公約どおり、1つ目のQiskit Runtimeが5月11日(現地時間)に発表された。

IBMの現在の量子システムは、ユーザーが古典コンピュータ(PCなど)上のQiskitプログラムを使ってIBM Qを作動させ、その結果を古典コンピュータが受け取って解釈し、それを基に再度、IBM Qに対してリクエストを発行して処理を行わせるという繰り返しの計算処理を行う仕組みである。

その繰り返しの回数は、水素化リチウム(LiH)のような小さな分子の挙動シミュレーションでも数百万回に及ぶという。つまり、IBM Qで処理させるプログラムが複雑になるほど古典コンピュータと量子ハードウェア間のI/O回数が増え、最終的な結果を得るまでの時間が長くなる。

今回発表されたQiskit Runtimeは、古典コンピュータと量子ハードウェア間のI/Oオーバーヘッドを大幅に削減する実行モデルでありアーキテクチャ。IBMの検証によると、2017年に6量子ビットの量子ハードウェアで45日間かかっていた水素化リチウムの挙動シミュレーションが、Qiskit Runtimeを使うことによって9時間で済んだという。すなわち120倍の高速化を達成したという。

下図はQiskit Runtimeを利用する量子システムの構成で、「Execute」のUser側「Qiskit Program」とその右側の「Qiskit Program」間の繰り返し(Iterative)のI/O処理がQiskit Runtimeによって削減される。Qiskit Runtimeはクラウド上のコンテナ環境で稼働するPythonプログラムである。

Qiskit Runtimeを利用する量子コンピューティング・システム構成

なお、今回発表のQiskit Runtimeは機能制限のあるベータ版で、完全版は2021年第3四半期のリリース予定。また127量子ビットのIBM Q Eagleは今年後半にリリースされると見られる。

量子コンピューティングの研究・開発は、これまでは量子エラー訂正や耐障害性の向上など量子回路自体の品質向上に重点が置かれてきた。今回のQiskit Runtimeは、ハイブリッドな量子システム全体のパフォーマンスを向上させる取り組みで、今後はこの分野でも研究・開発が進みそうである。

 

・IBM基礎研究所のブログ「IBM Quantum delivers 120x speedup of quantum workloads with Qiskit Runtime」(英語)

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