Text=岡本茂久(日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング)、富澤瑞穂(日本IBM)
前編では空間コンピューティングの普及に必要な条件を挙げ、スマートフォンや現状のウェアラブルデバイスで実現できるユースケースやソリューションを紹介したが、ここでは昨年から今年にかけて動きの激しいデバイス部分の進化を中心に追ってみたい。
Apple Vision Proの登場でどう変わったか
2024年はApple Vision Pro(以下、Vision Pro)やスマートグラスの発表が相次ぎ、Meta Questも機能アップデートでキャッチアップするなど、デバイス面での進化が感じられた年だった。
AppleのXRデバイスは長年望まれ、噂だけが先行し、発表前から「ほしいデバイス」の筆頭に上がっていたほどだ。ついに2024年の2月に米国で発売され、日本では6月に発売となった。
円安の影響もあって、日本ではとても高価に思えたことも話題になった。AppleはVision Proの発表の際に、「新しい空間コンピュータ」として、従来のXRやMRといった言葉と差別化を図っている。
図表1に、代表的なHMD(ヘッドマウントディスプレイ)であるMeta Quest3とVision Proを比較してみる。
Meta Quest3は現在VR市場の覇権をとっているデバイスだが、前のモデルに比べて、起動したアプリ内で周囲の現実を表示する「パススルー(シースルー)」の解像度が飛躍的に上がり、MRアプリ環境としてのポテンシャルを持つに至った。
操作には専用コントローラかハンドトラッキングを用い、そこから伸びているレイ(光線)が突き当たったところを対象として制御を行う。
Meta Quest3もVision Proも、密閉型のHMDを装着した上でぶつからないように周囲の環境を十分認識する必要から、基本的に屋内使用が前提である。飛行機や列車での移動中にも、トラッキングがユーザーを起点にするような「トラベルモード」を両者とも用意している。
これらのデバイスでは、ユーザーの周囲を取り巻く「空間」をアプリの操作場所として用いる。Meta Questでは専用のコントローラ(またはトラッキングされた手)を用いるが、Vision Proでは、目線で対象物を指定して、手のゼスチャーで操作する。眼で選択して、手で決定するという組み合わせである。
ハンドトラッキング自体はHMDで珍しくはないが、センサーが下方を広くサポートしているため、手の操作自体は膝に置いた状態でもできる。連続して操作しても、手が疲れない。これは先進的な体験だった。環境の照明条件をリアルタイムに3Dモデルに反映するのも、現実感・没入感を高める演出になっている。
図表2は、ユーザーに一定距離で追随してくるキャラクターのデモアプリをVision ProとMeta Quest3で作成し、照明が暗い空間で実施したもの。Quest(左)では照明条件が変わらないので多少浮いている感があるが、Vision Pro(右)では外界の照明を反映するので、キャラクターが「そこに居る」現実感が高い。

アプリの開発には、空間コンピューティング用に拡張された「VisionOS」をプラットフォームとし、Swiftで書いたコードをMacのXcodeでビルドして、Wi-Fi接続したVision Pro実機にデプロイする(Unity向けのフレームワークもあるが、最終的なステップでXcodeによりビルドする)。
開発者用のUSBの有線ケーブルもあるが、バンドごとに交換が必要で、日本では未発売である。VisionOSにはMac上で稼働するシミュレーターが用意されており、2Dではあるが実行時のイメージは掴め、空間内で視点の移動もできる。
実際の開発経験から
筆者らは、以下の機能を備えたVision Proアプリを、ある大手製造業向けに開発した。
・3Dモデルを表示、サーバーから取得したデータで状態を反映
・ユーザーが触ることで表情や大きさを変更
・表示リストからユーザーが選択して3Dモデルに反映する状況データを変更できる
Vision Proでの体験は非常にリッチで、カメラ越しに映し出された周囲も現実に近くて歪みがなく、Meta Quest3に比べると、iPhoneがRetinaディスプレイになったときのような衝撃を受ける。
もちろん3Dモデルとして表現可能なので、立体的なジオラマで地理情報を俯瞰で確認したり、工業製品情報をさまざまな角度から拡大縮小・回転しながら見たりするようなアプリを開発することもできる。以下、開発の上で留意すべき点について解説する。
開発環境としてUnityかSwiftかを選ぶ
前述したとおり、VisionOSアプリの開発は、最終的にはXcodeでビルドするが、3D空間や表示ロジックは、Unityを用いる選択肢もある。
「PolySpatial」は、VisionOSアプリ開発用に用意されたUnityのフレームワークである。SwiftではなくUnityを中心に開発してきた開発者も、学習コストをあまりかけずにVisionOSアプリを開発できる。
しかし空間オーディオや一部のヴィジュアルエフェクトなど、まだ部分的にしか対応していない機能もあるので、注意が必要である。
開発者にiOSアプリ開発の素養があれば、VisionOSアプリの開発もSwiftが活かせる。既存のiOS/iPadOSの「平面」アプリを、Vision Proで稼働するように移行するのは容易である。あとは文字の大きさや操作UI(ボタンやスクロールバーなど)を、今回の操作系に合うように調整すればよい。
ガラスコーティングのUIを採用すると、デフォルトのパネルは空中に浮いた曇りガラスのような平面に情報が書かれることになるので、ビジュアル的にも優れている。
SharedSpace か ImmsersiveSpaceか
アプリの形態によっては、複数のアプリを同時に機動できる。たとえばプロ野球の結果を確認しながら、別ウィンドウのブラウザでニュースを確認し、また別ウィンドウのメモアプリに書き込むといった、デスクトップPCで行うようなマルチタスク作業を空中で行うことが可能である(SharedSpaceアプリ。Questでも3つまでマルチWidgetで可能)。
この場合、アプリは空間上の固定した場所に出現する。表示位置の変更は、アプリ起動後に手動で操作することになる。
現実とリンクしたMR的な表現、たとえば自分自身と常に一定距離に追随するようなキャラクターを配置する、あるいは部屋の机の向こうにオブジェクトが隠れる(オクルージョン)といったことを行うときは、周囲を占有するアプリ(ImmsersiveSpaceアプリ)として開発する必要があるので、注意が必要だ。起動したときは、並行して先に起動していたアプリはその間隠されて、非表示となる。
UnityのPolySpatialでも、アプリのウィンドウ構成としてBounded Volume(境界あり)とUnbounded Volume(境界なし)を選択することになり、それぞれSharedSpaceアプリ、ImmsersiveSpaceアプリに相当する。
Vision Proは、待ち望んでいた層には熱狂的に受け入れられたが、一般に普及しているかといえば厳しい。重量はQuestと同等であるものの、価格差があり、また体験に至るまでのステップでは、HMDをまず身につけたあと、本人の眼に合わせたキャリブレーションを行わないと、眼で対象を指定するUXなので使いにくくなる。
Questと違ってメガネ着用のままの装着に対応しておらず、矯正にオプションのインサートレンズの調達が必要になる点も敷居が高い。在庫が減らないので、いったん生産を停止するとのニュースも入ってきた。
Vision「Pro」という名前からして、一般向けではないとの考えもある。非日常的なエンターテイメントコンテンツも楽しめる高精細なシミュレーション環境としては、ほかに追随を許さないレベルに達している。
Vision Pro発売の意義は、「XR/空間コンピュータによる将来の体験はこのようになる」ということを、具体的に示す1つの橋頭堡を築いたことにある。続々と提供されたMeta Quest3のアップデートも、空間ビデオ(ステレオ立体動画)のビューやUIの改善など、Vision Proを踏襲した内容が多い。Appleは数年以内に、より低価格帯の一般向けモデルを販売すると見られている。後継機は、価格・重量などでマイナス要因をある程度軽減する必要がありそうだ。
技術革新と水面下の普及が進むスマートグラス/ARグラス
前述したように、HMDはスペックを盛り込んで高品質な没入体験を提供する一方、身につけるまでの抵抗感や、重くて長時間の持続的な使用に課題があり、一般人がスマートフォンのように生活に欠かせないものとして使ったり、持ち歩いたりする存在にはなっていない。
ずっと装着していられない、という課題を克服するのは軽量なメガネ型デバイスである。一部のスマートグラスは、バッテリーやアプリが駆動する本体部分を、スマートフォンや専用パックなどの別コンポーネントに移設することで、表示とセンサーに特化して軽量化を果たしている。
2024年はスマートグラスの新製品の発表も相次いだ。ARグラスを提供しているXREALは、XREAL One、XREAL One Proを発表した。視野角は以前より広く、自社製チップを搭載することで遅延が少なくなり、ゲーム機につないで空中に表示したディスプレイで、アクションゲームをプレイするのに適しているという。
図表3は、同社の初代スマートグラスである「XREAL Light」と、新機種「XREAL One」の部品展開である(後者は展示会で筆者撮影)。
また日本では未発売だが、Ray-Ban Metaが売れているという。
一見普通のメガネに見える50g前後のデバイスで、カメラで静止画・動画を撮影できるスマートグラスだが、ディスプレイ表示はない。視線が向いている方を撮影しているのだから、あらためて確認する必要がないという割り切った考えだ。このほかSNSへの送信や動画配信、スピーカーとマイクも搭載しているので、通話や音声でのコントロールもでき、AI連携での翻訳など、機能を拡張していくとしている。
Metaは、さらに次世代ARグラス「ORION」を発表している。ウェーブガイド(後述)のディスプレイにガラスではなく炭化ケイ素を用いており、さらなる軽量化を見込んでいる。プロジェクター部分も小型で電力効率の優れるマイクロLEDを用いており、視野角も70度と確保されている。入力に腕の筋電も用いることができるので、手をポケットに入れたままで操作できるなど、先進性が期待されている。
国産ではNTTコノキューがARグラス「MiRZA」を発表。ディスプレイ部はウェーブガイドに似たPinTILT方式を採用し、現場業務にも向いた軽量なデバイスを目指している(図表4)。
スマートグラスとARグラスはどう異なるか
いろいろと記述してきたが、ここで整理してみる。
「スマートグラス」は、情報の表示や通信機能を備えた、メガネ型のウェアラブルデバイスの総称である。なかでもユーザーの視界に仮想情報を表示する部分が拡張現実(AR)に対応し、高度なトラッキング技術で周囲の状況を認識し、ユーザーの位置や入力を把握して、3Dオブジェクトやリアルタイムな情報などを、現実にオーバーレイして表示できるものを、「ARグラス」と呼ぶ。
スマートグラスでも、スマートフォンやPC画面をミラーリングした「空間ディスプレイ」やGPS情報に基づいた位置情報案内などは行えるが、空間コンピューティングのデバイスとしては狭義にARグラスのほうを指す。
業務用スマートグラスの条件
製造業や建設業、流通や医療といった業務の現場でも、空間コンピューティングの恩恵は多大だが、業務用スマートグラスは、一般消費者向けのスマートグラスと比べて、特定の業務や産業用途に特化して設計され、耐久性や機能性が重視されている。
その仕様は、以下のような特殊な用途に対応している。
◎防塵・防滴性能
工場や建設現場など、粉塵や水滴が多い環境での使用を想定。IP規格(例:IP66)に準拠したモデルが多い
◎耐衝撃性
高所作業や移動中の使用を考慮し、2mなどの落下にも耐える設計である
◎割り切ったディスプレイ機能
必要最低限の情報を表示することで、作業者の集中力を妨げない。このため、ディスプレイ部分が片目だけであるなどの透過型ディスプレイが一般的である
◎音声操作やハンズフリー機能
両手を使う作業が多い現場での利便性を向上。音声認識でマニュアルをページ操作できる
◎長時間のバッテリー駆動
例:6~8時間
◎作業を画像/動画で記録できるカメラ搭載
◎遠隔支援をサポートするAR機能
◎作業服や安全ヘルメット着用の上からでも装着できる
製品としては、RealWear NavigatorシリーズやVuzix M400シリーズなどがある。図表5はVuzixのスマートグラスで、M400(左)は有機ELディスプレイ、M4000(中)はウェーブガイド方式のパネル、Z100(右)はグラスタイプのウェーブガイド(単色)である。
グラス型デバイス進化の核心部分
ここまで述べてきたようにスマートグラス/ARグラスの進化は著しいが、以下のようないくつかの傾向が見られる。
① 割り切った機能
②グラス部分の軽量化
③キラーコンテンツとなるユースケース
以下に、ぞれぞれの点について見ていこう。
① 割り切った機能-欲張らない設計、機能の取捨選択
HMDは、周囲への没入や解像度などすべてのスペックに対応するため、搭載するセンサーやカメラが膨大で、重量が大きくなる。
これに比べてスマートグラス/ARグラスは前述したとおり、バッテリーや通信モジュールの外部化のほか、表示部分や周囲の認識も割り切った作りになっている。空中に表示したコンテンツをその場に固定し、自分が相対位置を動くには、6DoF(空間内で動ける自由度が6軸)が必要だが、自席に停止した状況での空間ディスプレイ機能に特化し、3DoFに留めて軽量化・低価格化を狙うタイプもある。
業務用スマートグラスでは、緑一色で文字列だけが表示される簡易な片目ディスプレイを採用することで、モジュールの小型化を図っている製品もあり、現状のRay-Ban Metaに至ってはディスプレイ機能がサポートされていない。スマートウォッチのように、すでに普及しているスマートフォンと連携し、一部の必要な機能だけを分担・独立させることで存在感を出している。
② グラス部分の軽量化-ディスプレイ部分の新技術の投入
以前の記事(「空間コンピューティングを考える ~新デバイス『Apple Vision Pro』に見る次世代XRの最新形」)で、AR/MRのディスプレイには、ビデオシースルーと光学シースルーがあると書いた。
グラスタイプの製品は視界の縁などのデメリットを加味しても、省電力化・軽量化の恩恵を得られる後者を採用しているが、ディスプレイの光学方式はさらにプリズム方式、バードバス方式、ウェーブガイド方式の3種類に大別される(図表6)。
透明な導光板(ウェーブガイド)に映像を投影する方式は、従来型に比べてさらなる小型化・薄型化を果たしている。メガネと区別がつかないようなスタイルも実現しつつあることで、今後の普及における本命技術とされている。
XREALのARグラスのように、バードパス型のまま薄型化に進化しているデバイスもある。この分野はさらに、裸眼3Dディスプレイにも採用されている、自然な奥行きを提示する「ライトフィールド」、任意方向にビームを走査でき、小型化・高速に期待できる「光フェーズドアレー」などの技術革新が次世代の採用候補として注目されている。
③ キラーコンテンツとなるユースケース ―空間ディスプレイとAI連携
空間コンピューティングとしてのウェアラブルデバイスは、「これは日常的に必要な機能であり、ほかでは代替できない」というようなユースケースを実現できたときにこそ、普及が進むと考えられる。そのうちの1つは、すでに言及している「空間ディスプレイ」である。
空間ディスプレイは、PCやスマートフォン、ゲーム機などの画面をミラーリングし、空間に仮想の外部ディスプレイとして配置できる。デバイスによっては複数枚表示することも可能で、オフィスや家庭でのスペースを節約できる。
HMDでも空間ディスプレイの機能はある。Vision ProではMacに接続して、横1万ピクセルもの「ウルトラワイド・ディスプレイ」の使用が可能だ。手元のキーボード部分はイマーシブ空間状態でも、そこだけ現実空間として表示される。
図表7では、Vision Proを空中に浮かぶMacの仮想ディスプレイとして用いている。イマーシブモードで周囲をCGにしていても、手元のキーボード部分だけ現実を表示ができ、「ウルトラワイド」サイズ選択で32:9の広大な領域の表示が可能である(MacM1で横1万ピクセル)。
スマートグラスであれば、列車や飛行機で移動中に大画面で動画を楽しむなど、マルチ画面の作業環境を出先に持ち出せるし、ユーザー本人にしか見えないので、情報が隣席から覗き込まれることもない。専用アプリとして再開発する必要もないので、マニュアルを作業現場で表示しながら使うのにも適している。
もう1つ期待されているのが、AI連携である。AIアシスタントがウェアラブルデバイスに加わり、今視線を向けている対象の説明や適切なAR表示をしてくれたり、道案内してくれるようになれば、手放すことのできないデバイスとなる。
これは、家庭に普及が進んでいるAmazonのアレクサのような音声認識アシスタントを、顔に装着している状況と考えればよいだろう。
各デバイス上のアプリから、外部サービスのAIと連携するソリューションがすでに続々提案されているが、HMDやスマートグラスでは、OSレベルで搭載される動きがある。
Vision ProはVisionOS 2.4でApple Intelligenceに対応済みで、文章の校正や自然な言葉での写真検索、画像生成といったことが可能である。
今年中に対応機種が発売予定の次世代OS「Android XR」では、Google Geminiと連携して、経路情報の画面上での表示、見ている文字列を自動で翻訳する機能などが予定されている。
Meta社もRay-Ban MetaにAI機能を持たせて、音声で容易に操作できるようになっている
AIとの連携は、スマートフォンやタブレットでも、情報検索や文章・画像作成支援、スケジュール作成など幅広く進んでいる。スマートグラスでは、PCやスマートフォンのキーボード、マウス、フリック入力に比べて入力手段が弱点とされるが、移動中に会話や視界情報からAIが気を利かせた情報を提示してくれれば、大幅にカバーされる可能性がある。ここまでくれば、スマートフォンを取り出すシーンが減ってくるだろう。
空間コンピューティングの開発環境
まだどのデバイスが覇権を握るかは、予断を許さない状況にある。開発環境もOpenXR/Android XR、Meta Horizon、MRTKなどとOS/SDKが複数立ち上がり、群雄割拠状態だ。Ray-Ban Metaには現状、SDKが提供されていないので、カスタマイズアプリなどは開発できず、標準仕様のまま使うことが求められる。
メガネ本来の機能である視力矯正を満たすため、インサートレンズを提供しているデバイスも多いが、共通仕様化による入手のしやすさなども普及のポイントになってくるだろう。
空間コンピューティングの今後の普及
現在の普及度合いについて、以下にまとめてみる。
・スマートフォンやPCを用いた体験は、試すための敷居は低いが、没入感や使い勝手で恩恵が少ないため、イベントなどでは活用されるものの、日常的に用いるまでになって至っていない。
・専門的なプロ用デバイスやHMDは、必要な事業者やアーリーアダプターには行き渡っており、さらなる普及は鈍化している感がある。
・1日中身につけていられるメガネ型などのウェアラブルで、AI連携し、入力や生活・業務のサポートサービスが十分見込まれるレベルに達していれば、一気にスマートフォンと同等の普及が進む可能性はある。
以上は、装着するデバイス側に処理機能やAIが搭載されている例だが、物理現実と仮想情報が連携する空間コンピューティングでは、環境側に機能やAIを溶け込ませるように設置することも考えられる。
例としては、「実際は狭い室内だが、立体音響により、より広大な異なる空間であることを仮想的に再現する」「人の出入りを見守って、移動パターンから店舗側で興味のありそうなコンテンツを個人向けに表示する」、あるいは「誘導経路を環境側で用意して、装着デバイスに表示する」などがある。
スマートグラスは「メガネの再定義」の印象があるが、AR表示は車のフロントガラスや電車の窓など、車窓側に搭載される未来も模索されている。
ガートナーの2025年の10の「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」にも選ばれている空間コンピューティングは、現場で取り扱う情報の拡張や、時間や距離を超えたコミュニケーションという「体験価値」を提供し、AI技術とも親和性が非常に高い。
デバイスや使い勝手、UX設計も含めて、今後も進化や検証が進んでいくであろう。それが必要なもの、当たり前のものとして普及する頃には、デバイスの採用も進んで、投資に見合う品質・価格帯になっていくと考えられる。

著者
岡本 茂久氏
日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
Robotics Edge Lab.
コンサルティングITスペシャリスト
1997年、日本IBMに入社。2005年から日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリングに出向。エンタープライズ・コラボレーションのミドルウェア、ECソリューション、グラフデータベース、Watson APIなどのAIソリューションを担当。現在はAR/VR・空間コンピューティングのビジネス活用の先進事例やメタバースプラットフォーム構築のリード、グラフデータベースのAI活用を中心に取り組んでいる。

著者
富澤 瑞穂氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
シニア・アドバイザリー・アーキテクト、シニア・テクニカル・スペシャリスト
TEC-J ステアリング・コミッティーのメンバー
2000年、日本IBMに入社。金融、損保、自動車、航空、旅行、メディアなど幅広い業界でプロジェクトをリード企画?本番運用までフルスコープでデリバリーを中心にアーキテクトとして活動。近年は、XRを用いて新たな価値を創造するDXプロジェクトをリード。
◎空間コンピューティングの現在と未来への期待
*本記事は筆者個人の見解であり、IBMおよび日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリングの立場、戦略、意見を代表するものではありません。
当サイトでは、TEC-Jメンバーによる技術解説・コラムなどを掲載しています。
TEC-J技術記事:https://www.imagazine.co.jp/tec-j/
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