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Tealeaf on Cloudによる顧客行動分析 ~より高度な顧客体験分析へ

 今日では、モノやサービスをオンラインで購入するのは日常的な光景である。しかし思ったようにプロセスを進められず、購入完了まで苦労したり、途中で諦めてしまった経験のある人も多いと思われる。

 たとえば住所やクレジットカード番号を正しく入れたつもりが、なかなか次の画面に進めなかったり、クーポンコードがどうしても適用できずに購入を諦めるようなケースが挙げられる。

 本稿では、ユーザーが困難な経験をする原因となるWebサイトの課題点を洗い出し、サイトの改善およびコンバージョン(購入完了)率の向上につなげていくソリューションである「IBM Tealeaf」(以下、Tealeaf)の概要や仕組み、分析方法を紹介する。

 

IBM Tealeafとは

 TealeafはIBMが2012年に買収した顧客体験分析ソフトウェアであり、ワールドワイドで600社以上の導入実績がある(*1)。主要な機能としては、以下の2つが挙げられる。これらはTealeafが提供するポータル画面から利用する。

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(*1) IBM Tealeafのプレスリリース http://www.ibm.com/jp/press/2012/05/0902.html

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① セッションの検索・再生

 キャプチャされた全セッションからさまざまな検索条件により、セッションを抽出・リスト化する。またセッションを再生し、ユーザーが実際に遷移したページや、ページ内でのクリック箇所、文字入力、プルダウン選択などの行動を再現する(図表1)。

② 分析レポート

 さまざまな切り口で分析レポートを作成し、顧客行動分析に活用する(図表2)。

 分析対象としてWebサイト(PC/モバイル)、ネイティブ・アプリケーション(iOS/Android)、およびハイブリッド・アプリケーションに対応している。

 また提供形態は、以前はオンプレミスのみであったが、現在は「IBM Tealeaf Customer Experience on Cloud」(以下、Tealeaf on Cloud)として、SaaS型のサービスも提供されている。

 Tealeaf on Cloudではマンスリーで機能追加・拡張が行われており、オンプレミスよりも短期間で導入・利用開始できるので、SaaS型のTealeaf on Cloudは現在の主流となり国内での導入事例が増加している。

 本稿では、Tealeaf on CloudでWebサイト(PC/モバイル)を分析対象とするケースを前提に記載する。

 

顧客行動をキャプチャする仕組み

 Tealeaf on Cloudで顧客行動をキャプチャするには、Tealeaf専用のJavaScriptである「UIC SDK」を分析対象のWebサイトに組み込む必要がある。それ以外には既存サイトへの変更が不要なので、短期間での導入・利用開始が可能になる。

 UIC SDKはウィザードを使用して、ベースとなるJavaScriptを作成し、要件に合わせて各種パラメータ設定や個人情報の送信をブロックするためのマスキング定義を行う。

 分析対象のWebサイトに実装されたUIC SDKにより、ユーザーがWebサイトを表示したタイミングで「DOMスナップショット」と呼ばれるWebサイトのHTML情報が取得され、ユーザーが使用するブラウザからTealeaf on Cloudに直接送信される。

 またユーザーが使用しているブラウザ、OS、デバイスなどの環境情報、クリック箇所やテキスト入力された文字などのデータが、JSON形式のデータフォーマットでTealeaf on Cloudに送信される。

 送信されるデータは「pako JS」(オープンソースの圧縮エンコーディング・ライブラリ)と呼ばれるJavaScriptを使用することで、データサイズが圧縮される(*2)。Webサイトのソースにもよるが、通常は20K?30KB以下に圧縮されることで、ユーザーが体感するレスポンスへの影響を最小限に抑えられる。

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(*2) IBM Tealeaf によるオンラインでのカスタマー・エクスペリエンスの改善 https://ibm.co/2j1IDBS

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 なおWebサイトに表示された画像データは、UIC SDKではキャプチャされず、セッションの再生時にTealeafポータルを表示しているブラウザ、またはSaaS上のTealeafサーバーが実際のサイトから画像データを取得し、再生画面に表示する仕組みである。

 Tealeaf on Cloudでは送信されたデータを1つのセッションにまとめるために、送信データ内に含まれるCookie情報を使用している。使用されるのは、UIC SDKが生成するTealeaf独自のCookie(TLTSID)、もしくはWebサイトにある既存のCookieである。なおCookieによりセッショニングを行う仕組みのため、複数のドメインをまたがるサイトでは1つのセッションにはならず、別々のセッションとなる点に注意が必要である。

 クリックやテキスト入力などのユーザー操作のほかに、モバイル特有のジェスチャ(ダブルタップ、スワイプ、ピンチイン/ピンチアウトなど)の取得も可能である。Hammer.jsと呼ばれるオープンソースのJavaScriptライブラリを追加実装することで、ユーザーのジェスチャを再生時にアイコンで確認できる。

 

個人情報のマスキング

 UIC SDKにより、すべてのリクエスト/レスポンス・データをキャプチャできるが、そのなかには個人情報などキャプチャの対象から外す必要のあるデータも存在する。

 Tealeafでは、UIC SDK内にマスキング定義することで、レスポンスに含まれるWebサイト上に表示された情報と、リクエストに含まれるユーザーの入力情報をともにマスキングできる。

 マスキングにより、ブラウザからTealeaf on Cloudへ送信されるデータ内には、個人情報が一切含まれない状態となる。ページの再生時には、マスキングされた箇所は「XXXXX」などの文字列に置換されるので、Tealeafユーザーは一切確認できない。

 定義方法としては、マスキング対象箇所のINPUT/SELECTタグのName属性、CSSセレクタ、Class名などをUIC SDK内に指定する(図表3)。

 なおWebサイトの更新により、マスキング対象に指定した定義が外れるリスクが考えられるので、マスキング対象箇所には共通のClass名(”class=privacy”など)を設定し、UIC SDKでそのClass名を定義することを推奨する。

 

セッション検索・再生

 セッション検索ではセッション開始時間、クライアント環境情報(OS、ブラウザ、モバイルデバイス)、フリーテキストなど、さまざまなキーを使用してセッションを検索できる。Tealeafでは特定の事象(エラーメッセージの表示、ボタンクリックなど)を検知するための「イベント」を定義するが、そのイベントが発生したセッションだけに絞り込むことも可能である。

 検索条件は複数指定できるので、たとえばあるエラーメッセージが発生し、かつ購入完了に至らなかったセッションを検索することもできる。

 検索結果のリストからセッションを再生すると、ユーザーが実際に遷移したページや、ページ内でのクリック箇所、入力した文字などがハイライト表示される。顧客の実際の体験が正確に再現されるため、同じ箇所を何度もクリックしていたり、同じページを行ったり来たりしているような困難を伴う行動の発見につなげられる。

 Tealeafをコールセンターで活用しているある事例では、サイト内で困難に直面したユーザーからの問い合わせに対し、会員番号などユーザーを特定する情報をもとにセッションを検索・再生し、ユーザー状況を確認したうえで、即座に的確なガイドを行う。顧客満足度向上につなげているケースである。

 

レポート分析

 Tealeafでは要件に合わせてさまざまな切り口でレポートを作成することで、顧客行動の分析が可能である。切り口の例としてはセッション時間、ページビュー数、ページ滞在時間、ステップ数(クリックやテキスト入力などのアクションを実行した回数)、エラーメッセージ表示などがある。

 またレポート上のデータをセグメント化し、コンバージョン(購入完了)したセッションと途中で離脱したセッションを分けたり、OSやブラウザの種別などに分けて表示できる。

 たとえば、あるエラーメッセージが表示されたセッションをコンバージョン/離脱で分けることで、エラーメッセージによるコンバージョンへの影響を分析できる。もし通常のコンバージョン率よりもかなり低かった場合、そのエラーがコンバージョンに大きな影響を与えていることがわかる。

 この場合、ユーザーがエラーに直面しないようにする、エラーが出た場合の対応方法をわかりやすくガイドするといった施策の実施によって、コンバージョン率の改善につなげられる。

 さらに上記のレポートのほかに、オーバーレイという分析機能を使用することで、実際のWebサイトのイメージを使用して視覚的に顧客行動パターンや問題点を明らかにできる。オーバーレイには5種類の分析レポートがあるが、ここでは以下の2つを紹介する。

① フォーム分析

 入力フォームごとに離脱状況、入力時間、繰り返し入力回数を表示。困難が発生している入力フィールドを特定できる(図表4)。

② ヒートマップ分析

 ユーザーのクリック状況を表示。たとえば実際にはリンクされていないにも関わらず、多くのユーザーがクリックしているような箇所を特定できる。

 Tealeafではレポートから、困難を経験している可能性が高いセッションを絞り込み、実際のセッションを再生することで詳細な顧客行動を分析できる点が、Google AnalyticsやAdobe Analyticsといった定量分析に主眼を置くWeb解析ツールとの大きな差別化ポイントになっている。

 

困難分析

 Tealeaf on Cloudにはコグニティブ機能として、「困難分析」と呼ばれる機能が新たに追加されている。困難を抱えているセッションを割り出すには、通常は前述したようなセッションの検索・再生、イベントやレポートの作成が必要であるが、この機能を使えば人の手をほとんど介さず自動的に検出できる。

 これにより、ページごとに困難を抱えているセッション数や割合、困難の度合いを示す困難スコア、困難の要因を確認できる(図表5)。またそれらのセッションの再生も可能である。困難の要因としてロード時間、ステップ数、繰り返しパターンがデフォルトで用意されているが、困難に関するイベント(エラー表示など)を作成して登録することも可能である。

 

今後の展開

 TealeafはWatson Marketingという製品ポートフォリオに含まれているが、同じポートフォリオに含まれるその他のオファリングであるDigital Analytics、Journey Analytics、UBXと統合し、「IBM Watson Customer Experience Analytics」(以下、WCXA)と呼ばれる顧客体験分析プラットフォームの一部として提供される予定である(*3)。

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(*3) IBM Watson Customer Experience Analytics https://ibm.co/2gLhimB

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 WCXAによりPC、モバイル、ソーシャル、eメール、オフライン(店舗やコールセンター)など、さまざまなチャネルをまたがった顧客行動分析への活用が期待されている。

[IS magazine No.17(2017年7月)掲載]

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著者|猶木 光彦 氏 

日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
アナリティクス・ソリューション
アドバイザリーITスペシャリスト

1999年、日本IBMシステムズ・エンジニアリングに入社。主にWebSphere PortalやWebSphere Application Serverなどのミドルウェア導入・構築案件に多数参画し、近年はIBM TealeafなどWatson Customer Engagement製品の技術サポートにも携わっている。

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