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デジタルツイン活用の勘所 ~「期待」と「誤解」を整理し、正しく理解して、真の活用にむけたアプローチを提案

 

text=青田 健太郎  日本IBM

デジタルツインとは 

デジタルツインとは、さまざまな目的で使用できる物理的資産、プロセス、人、場所、システムなどのデジタル複製を指す[1]。主な特徴は、

①オブジェクトやシステムのライフサイクル全体を仮想的に表現
②リアルタイム・データを元に更新
③シミュレーション、機械学習、推論を使用して意思決定を支援

にある。

デジタルツインの6つのコア機能
デジタルツインの6つのコア機能
デジタルツインとシミュレーション
デジタルツインとシミュレーション

これまでにデータ分析・シミュレーションでは解決できなかった社会課題・ビジネス課題が解けるのではないか、という期待がかかる一方で、その定義はまだ非常に曖昧であり、価値が十分に発揮されているとはいえない[2]。本稿では、真のデジタルツイン活用にむけたアプローチを提案したい。

デジタルツインへの期待

データの視覚化
収集したデータを物理空間のコピーとして表現し、予測できないデータ同士の関連性を見出したり、観測が難しい死角や予期しないタイミングで発生する事象を抽出できる。

デジタルツインによるデータの視覚化
デジタルツインによるデータの視覚化

大規模シミュレーション
データの収集・モデル化、デジタル空間への反映までを自動化すれば、環境構築コストの大幅な削減、シミュレーション対象の拡大が見込める。

デジタルツインによる大規模シミュレーション
デジタルツインによる大規模シミュレーション

高度な予測
リアルタイムで物理空間のデータを収集し再現させ、現実と同じ条件でシミュレーションできる。また、天候の変化や事故の発生などの外部要因の影響も検証できる。

デジタルツインによる高度な予測
デジタルツインによる高度な予測

デジタルツイン活用にまつわる誤解

一方で、デジタルツインの特徴や効果に対する誤解も多々見られる。

①見える化すれば課題は解決する
デジタルツインの効果に見える化は含まれるが、特徴ではない(見える化がしたいなら、それに特化したソリューションを使うべき)。

②現実世界の正確な(精密な)コピーである
現実世界のすべてを正確にデジタル化することは非現実的だし、完璧なデジタルコピーによって得られる効果はほとんどない(詳細にデータを収集して分析したほうが低コスト)。

③すべてのデータをリアルタイムに収集すべきだ
データが必要だが、全てのデータが必要なわけではないし、すべてがリアルタイムに収集されなければいけないわけでもない。データがそろっていればデジタルツインが実現できるわけでもない。

デジタルツインを正しく理解する

デジタルツインの定義と効果を、その対象と時間軸で評価すると、下記のように表せる。

デジタルツインの位置づけ
デジタルツインの位置づけ

おおまかにいえば、データの鮮度と使いみちによって、適用すべき技術はデータ解析・リアルタイムデータ解析・シミュレーション・デジタルツインと分類できる。デジタルツインはシミュレーションよりさらに未来までの予測を実現する。

デジタルツインは目的が主体の行動予測・解析(右下)にありながら、データ収集やシミュレーションの対象は周辺環境(右上)にまで及ぶ。観測対象を主体だけでなく周辺環境まで広げ、相互に及ぼし得る影響までシミュレーションすることで、多様な条件下における事象まで予測が可能となる。

デジタルツインを活用する

デジタルツインをさらに発展させ、活用するためには、現状の把握・現実とのギャップの明確化、技術開発を進めつつ、すでにある技術を正しく活用することが重要だ。

デジタルツインの実態
デジタルツインの実態


先に述べた誤解と照らし合わせると、下記のようなアプローチが考えられる。

①見える化すれば課題は解決する
まず課題・目的を明確にし、システム構築・データ収集のコストに見合った技術を選択する。データを視覚化しそこから特徴や傾向を抽出するだけなら、データ解析で十分。

②現実世界の正確な(精密な)コピーである
目的がある程度先の予測でありデジタルツインの採用が正しい選択だとして、予測の対象はなにであって、対象に影響を及ぼしうる周辺環境とはなんなのか。予測はどの程度正確である必要があるのか。ここを見据えた上で、再現する対象とシミュレーションモデルの精度を決定する。

③すべてのデータをリアルタイムに収集すべきだ
②と同じく、目的と前提を明確にした上で、リアルタイムで状況を再現すべき対象かどうかを判断する。過去に起きた事象の再現で十分であればリアルタイムである必要はないし、フィードバックのタイミングがリアルタイムである必要がない場合も、こだわる必要はない。

デジタルツインを単なるシミュレーション技術から進化させるためには、より正確に、多様な条件下における行動を予測するために、周辺環境のシミュレーション技術を成熟させる必要がある。今後は周辺環境のデータに着目し、主体のシミュレーションモデルと相互作用させることによって、より正確で幅広い予測が実現できると考える。

[1] Wikipedia:「デジタルツイン」、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』bit.ly/3Bg1C0e
[2] Adam Mussomeli, Brian Meeker, Steven Shepley, and David Schatsky: Expecting digital twins, Deloitte Insights 
bit.ly/3dkPyD2

著者
青田 健太郎 氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBM Consulting Technology Orchestration
Senior Project Manager /
Senior Managing Consultant
TEC-J ステアリング・コミッティーのメンバー

日本語入力システムのソフトウェア開発者、車載組み込みソフトウェアのプロジェクトマネージャーを経て、2015年 日本IBMに入社。IVI(In-Vehicle-Infotainment)開発のプロジェクトマネジメント支援、組み込みソフトウェアの品質管理コンサルティング、自動運転車両のアーキテクチャ開発支援など、多岐にわたる業務に従事。2019年からデジタルツインを応用した自動運転車両のシミュレーション評価システムの開発に携わり、以降領域を問わず、デジタルツイン/シミュレーション技術を応用したソリューションの開発・提案・プロジェクト推進をリードしている。

*本記事は筆者個人の見解であり、IBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。


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