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Z世代のIBM i担当者たち ~第1回 20代の女性担当者たちが語り合う IBM iへの期待、課題、未来

 

 

歴史が長く、営業・技術ともに男性のベテラン担当者が目立つIBM iの世界。技術者の高齢化や世代交代の遅れが指摘されるなかで奮闘し、確実に自分の足場を築きつつある20代の女性担当者たちがいる。彼女たちが日々感じるIBM iの実態、業務への期待、そして解決すべき課題を語り合う。

出席者(写真左から)

吉田 春奈氏
ソリューション・ラボ・ジャパン株式会社
ビジネスソリューション事業部
製造ソリューション部

石川 りか氏
株式会社イグアス
テクノロジー製品本部
システム製品営業部

松田 三奈氏
ベル・データ株式会社
サービス・デリバリー
第1インフラストラクチャー・サービス
第1 POWER Systems

古閑 さくら氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBM Power
第二テクニカル・セールス

 

IBM iの世界に入った若いパワーたち

i Magazine(以下、i Mag) 皆さんはどのぐらいIBM iビジネスに携わっていますか。まず簡単にキャリアからお話しください。

古閑 私は日本IBMに入社して2年目です。IBM Powerのテクニカル・セールスと呼ばれる、IBM Powerの技術営業部門に所属しており、提案活動やパートナー様への技術的なご支援、セミナー講演、情報発信など幅広く活動しています。

古閑 さくら氏

吉田 ソリューション・ラボ・ジャパンに入って6年目になります。製造ソリューション部に所属し、開発者として主に生産管理システムの開発・構築に携わっています。

松田 ベル・データに入社して3年目です。現在は技術者として、お客様がIBM Powerをバージョンアップする際の移行支援・移行作業が主な仕事です。

石川 私は皆さんと少し違って、営業部門に所属しています。VAD(Value Added Distributor)であるイグアスに入社して2年目です。システム製品営業部に所属し、IBM PowerやIBMストレージなど主にIBMのハードウェア製品の営業担当者として、ビジネスパートナーの皆さんとともに仕事を進めています。

i Mag IBM i関連部署に配属されたとき、どのような研修を受けられたのですか。

松田 ベル・データでは入社後1年間、しっかりと研修を受けます。まずアイ・ラーニングで一般的な研修を受け、アルゴリズムやプログラムの仕組みなどITの基礎教育を受け、それから社内でIBM PowerやIBM iに特化した教育を受けました。

松田 三奈氏

石川 私もアイ・ラーニングで、ITの基礎について3カ月ほど研修を受けました。それから社内のIBM iスペシャリストからIBM iの歴史や特徴、利点など、製品営業に必要な情報を学びました。

吉田 私は最初からプログラマーになるための研修を受けました。最初に外部で簡単にJavaやLinuxなどオープン系のプログラミング知識を学び、それから2カ月ほど社内研修でRPGやCL、画面の入出力といったIBM iのコーディング教育を受けました。その後3カ月ぐらい、OJTでジュニアプログラマーとして訓練されました。

古閑 入社年度によってカリキュラムが違うようですが、私のときはプログラミング研修などの技術研修は基本的にOJTと自習のみで、12月まで営業研修のみを受講しました。その後に所属長の勧めもあって、IBM Powerとして専門とするOSをIBM iと決め、そこからIBM PowerやIBM iの情報を先輩から教わったり、具体的に講演のスピーカーとして必要な情報を収集していきました。IBM iについては体系的な研修というより、そのときに必要な情報を適宜学んでいくという感じですね。

i Mag 最初にIBM iの担当になるとわかったとき、IBM iについてどのような印象をもちましたか。

古閑 日本IBMでIBM iを担当しているのは比較的年齢層の高いベテランばかりで、若手が少ないのです。だからライバルもいないし、のびのび自由に仕事ができると感じました。

吉田 私は最初にRPGのプログラマーになると聞いたとき、「RPGってロールプレイングゲーム?」と思ったぐらい、ITやプログラミングに関する知識をもっていなかったので、5250画面を見ても「こういうものなんだ」と、まったく違和感はなかったです。

吉田 春奈氏

石川 私もITの知識はなく、自分のPCでWindowsを触ったことはあるけれど、サーバーやOSの仕組みなどまったく知りませんでした。だから馴染みのない新しい世界に足を踏み入れた印象でした。

松田 私は両親がともにIBMのSEで、IBM iに関する話も耳にしていました。だからよい意味でも悪い意味でも、IBM iはレガシーシステムであるというイメージをもっていました。そうした背景を知ったうえでベル・データに入社しているので、すぐにIBM i担当になったときも特段驚きなどはなかったです。

IBM i担当とわかったとき
ガッカリしたか、しなかったか

i Mag 正直に教えてください。最初にIBM i担当になるとわかったとき、ガッカリしませんでしたか。

古閑 IBM PowerおよびIBM iを最初に見たとき、「スターウォーズの映画に登場するコックピットにあるようなマシンだな」と思った記憶があります。日本IBMではデータ&AIとか、ソフトウェア部隊が何かと注目され、華やかな印象があるので、自分がIBM Powerというハードウェア担当になったときは正直ちょっと寂しさを感じました。

でも私は配属後すぐに、Merlinを学ぶところからスタートしたのです。2022年に登場したMerlinはCI/CDやDevOps、コンテナなどの集合体で、いわば最新テクノロジーが詰め込まれたようなソフトウェアなので、自分は最先端に触れているというワクワク感がありました。

吉田 IBM iの担当になった最初のころに、「IBM iはこの先、なくなるかもしれない」という噂を耳にして、「自分はなくなるかもしれないシステムのプログラマーになるのか」と、衝撃を受けました。でも経験を重ねていくうちに、IBM iは今でも多くのユーザーが利用しており、企業にとって最も重要な基幹システムを運用する基盤はそんなに簡単にはなくならないと、実感するようになりました。

とくに入社3年目ぐらいに生産管理システムを担当するようになって、「こんな重要なシステム基盤がなくなるはずない」と、強く思いました。そのうち、「もしかしてIBM iを開発・運用できる技術者がいなくなれば、IBM iはなくなるのかもしれない。それなら自分がIBM iの技術者になって、IBM iがずっと継続するように頑張ろう」と、思うようになりました。

石川 私も配属が決まってIBM iをネットで検索すると、すぐに情報が出てこないし、悪い意味でのレガシーとセットで語られることも多いので、「大丈夫なのかな」と不安に思ったことがあります。でもビジネスパートナーの方々と直接お話しするうちに、これだけ多くのお客様が利用するシステムが簡単になくなるわけないと実感しました。レガシーは悪者になりがちですけど、裏を返せば、それだけ長い歴史があり、長く愛されてきた証でもあります。IBM iが技術者や若手の少ない世界であるなら、経験やスキルを積んでいくことで、この世界の貴重な人材になり得るチャンスがあるんだと考え直しました。

石川 りか氏

松田 私は両親の影響もあり、IBM iを理解したうえで入社しているので、ビックリもガッカリもありませんでした。新米SEとして何もかもが新しい経験だったため、目の前に出された課題について無我夢中で学んできました。ただ両親には今でもIBM iについて話が通じるので、それだけ長い歴史のあるシステムであると実感しています。長く生き残っていたIBM iの強みを、日々の業務の中で目にする機会が多いのは幸運だと思っています。

IBM iがもっと普及するのに
必要な施策とはなにか

i Mag IBM iの課題、そしてIBM iの世界がもっと広がるのに必要な施策は何だと思いますか。

吉田 やはり情報の少なさ、とくに若手技術者に向けた情報の不足が課題です。オープン系の情報はちょっと検索すれば、溢れるような情報を見つけられますが、IBM iの場合は、それなりの検索リテラシーが必要になります。

石川 同感です。とくに初心者や若手に向けた情報が不足していますよね。この世界に入ってみなければわからない、ではなく、この世界に入ってみなくても簡単に情報を入手できるようになってほしいです。それから私はベテラン世代のIBM iに対するイメージを変えてほしいと願っています。IBM iをよく知る人、ベテランの営業担当者ほど、市場規模が小さいことやテクノロジーが古いことなどを指摘する場面が多いです。それを聞いていると、若手は希望をもてないし、やる気を出せなくなってしまいます。ベテランの営業や技術者にはもう少し、夢や希望を語ってほしいです。

松田 セミナーでの情報発信や若手が気軽に参加できるようなコミュニティづくりも必要ですよね。それに技術者としては、実際に手を動かせるようなワークショップの開催を希望します。あとはIBM iの使い方、「こんな風に使える」とか「IBM iを利用して、こんな業務を実現できた」など、具体的なイメージをもてるような、そして新しい取り組みへの着眼点となるような、事例を含めた情報がもっと必要であると感じます。

吉田 私は日々プログラミングに従事している立場から言うと、コーディングのヒントや命令の使い方といった具体的なプログラミング情報をすぐに探せるサイトがあれば便利だと感じます。日々の業務の中でも、フローは書けるけれど、この場合にどの命令を使えばいいのか、といった具体的なことがわからないです。いくらサイトを探しても、ぶ厚いマニュアルを開いても回答を探せず、結局は社内でベテラン技術者を頼って解決策を得るといったことが少なくありません。

石川 製品営業の立場から見ると、やっぱり情報を取りやすい商材のほうが提案につながりやすいという実感があります。忙しい業務のなかで、時間をかけて検索しても、なかなか有益な情報がヒットしないと、お客様への提案にも反映されにくくなります。やはり情報へのアプローチのしやすさ、入手しやすさは重要だと思います。

松田 移行支援・移行作業に従事していると、基幹システムならではの危険性を感じる場面が多くあります。たとえばたった1つの設定値が違っているだけで、システムが停止してしまう事態になり得るのがIBM Powerです。そうしたリスクを避けるためにも、十分な情報武装が必要です。

古閑 IBM iの担当になったばかりのころ、必要な情報を探せないことに気づいて、それなら自分で発信してしまおうと考えて始めたのが、私がQiitaに書いている『IBM i駆け出し日記』というコンテンツです。今年3月から始めたのですが、私自身の勉強の記録だとか、ちょうど学び始めたMerlinの情報をわかりやすく伝えるコンテンツとかを発信しています。

それにIBM iの担当になって気づいたのですが、米国のIBM本社が発信している英語のコンテンツはけっこう豊富です。あるいは社内でIBM iを担当するベテラン技術者はいろいろな情報をドキュメントとして蓄積しています。そこで私はそれらを公開すべく、英語コンテンツを日本語に翻訳したり、ベテラン技術者が蓄積している情報をQiitaに掲載したり、講演でお伝えしたりする努力を続けています。それに10年前のコンテンツを、私なりに解釈し直して掲載することも意識的に実行しています。10年前の情報でも今日の日付で発信すれば、情報が動いている印象がありますからね。

石川 イグアスも、『iWorld Web』というIBM iの総合情報サイトを運営しているのですが、そのなかで初心者向けの動画コンテンツを掲載しています。IBM i初心者の目線で考え、社内のスペシャリストから情報を収集しながら、私が制作に携わりました。これも「情報がないなら、自分で発信しよう」の一例ですね。

吉田 私たちのような若手世代の集まれるコミュニティがあるといいですよね。なにかのコミュニティに参加しても、ベテランばかりで話しに入っていけないなど、とてもハードルの高い印象があります。

古閑 今年8月に、日本IBM主催でIBM iの若手技術者に向けたセミナーを開催しました。その名も、『若手技術者のための IBM i 次世代開発環境について考えるデモセミナー』といって、20代から30代ぐらいの若手技術者を対象にしたセミナーです。これがとても好評で、もっと開催してほしいというご要望を多くいただきました。私も若手技術者に向けたコミュニティの必要性は強く感じていて、こうしたセミナーをベースに、具体的に動き出すにはどうすればいいかを検討中です。

松田 若手世代のコミュニティには期待が高まりますね。同じ世代同士で、気軽に情報交換したり、意見を言い合ったりできる場があると業務にも有効活用できると思います。実際、今日はこんな風にお話しする場を頂いて、皆さんの意見を聞くことができて、非常に刺激になりました。

i Mag 皆さんはIBM iに関するご自身のキャリアをこの先、どのように描いていますか。

古閑 今はIBM iを仕事にしていて毎日がすごく楽しいですし、自分はこのプラットフォームに向いていると思っています。だからずっとIBM iに携わっていきたいです。できればVisual Studio VodeやGitのようなOSSの情報を発信して、IBM iとオープンソースの連携をもっと広められる存在になりたいですね。

吉田 皆さんのお話を伺っていて、自分自身の知識不足を実感しました。自分からもっと積極的に情報を取りに動かなければいけないし、社内研修だけでなく外部のセミナーやコミュニティに参加して、情報入手に努める必要があると痛感しました。そうした経験を重ねながら、お客様にもっと向き合って、ご相談に乗ったり、技術的な視点から解決策をご提案できる実力を付けたいです。

石川 私ももっとIBM iの知識量を増やして、営業からの問い合わせに的確に答えられるようになりたいです。それに社内であっても、部門という垣根を越えれば、ある意味でお客様であり、社内に向けてもビジネスパートナーの方々に向けても、「完成形」をご提供できる存在になれるよう努力したいです。

松田 私は、自身の目標としてプロジェクトマネージャーを目指しています。現場で学んで経験を積みながら、インフラもアプリケーションも業務内容にも精通して、多くのステークホルダーが交わる大規模プロジェクトを円滑に運営していけるようなPMになりたいです。

i Mag 皆さんよりもっと若い方々に向けて、IBM iの世界をアピールしてください。

吉田 IBM iは金融や製造など日本の産業の中核業務を支えるプラットフォームです。長い歴史がある一方、最新テクノロジーを吸収した新しいプラットフォームでもあります。将来にわたって継続し続ける力強いシステムなので、ぜひこの世界に足を踏み入れてほしいですね。

石川 IBM iは自身の付加価値を形成しやすい世界だと思います。若手人材が少ないからこそ、実力をつけやすいし、すぐに活躍できる場があることを理解してほしいです。

松田 IBM iはいろいろな企業の基幹業務が稼働しているので、さまざまな業界の人と交わるチャンスが広がっています。それにお客様に伺うと、「うちのマシンはこれまで一度も電源を落としたことがない」という言葉を耳にするケースが少なくありません。停止しないシステムの凄さを、ぜひ身近に感じてください。

古閑 IBM iはOSにDB、セキュリティ、ネットワーク、実行管理、オープンソースがすべて統合されたプラットフォームで、ITを学ぶ最適なスターターキットと言えます。この素晴らしい踏み台を超えて、ぜひITの世界に触れてほしいと思います。

 

[i Magazine 2023 Autumn(2023年12月)掲載]

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