MENU

事例|大東 AS/400からWindowsサーバーへ再びIBM iに戻ってユーザー満足度を大幅に向上

Windowsサーバーでのパッケージ利用経験から、自社仕様によるIBM i上のシステムを開発

 

 


国産ERPパッケージを利用し
AS/400からWindowsサーバーへ


静岡県は東京・名古屋などの大消費地に近く、東海道の主要幹線が東西に走り、陸・海路の交通に恵まれた立地環境にあるため、多彩な産業が集積している。 中でも東部地域は、日本の基幹産業である自動車や製紙パルプ、工作機械、化学をはじめ、近年では医療・ウェルネス産業なども進出し、活発な産業集積地域に変貌しつつある。

大東はこの静岡県東部を基盤に、1955年の設立以来、産業設備機器の専門商社として活躍してきた。本社のある三島市近郊(静岡県駿東郡)を中核に、沼津・掛川・富士など静岡地区に営業網を展開し、顧客である製造企業が生産拠点を擁する京都やメキシコにも拠点を広げる。顧客の要望に応じて、1本のボルトから大型の工作機械まで、あらゆる産業設備・機器を提供している。

同社は1990年代初頭にAS/400を導入して基幹システムを運用したのち、2006年にWindowsサーバーへ移行。5年の運用を経て2011年に再び、IBM iの基幹システムに戻るというシステムの変遷をたどっている。その経緯を、営業本部営業管理課でIT運用を担当する稲川進次課長に聞きながら、詳しく見てみよう。

稲川氏は、あるITベンダーでPOSシステムのSEを務めたのち、1993年に同社に入社し、それ以来1人でシステム運用を担ってきた。入社当時はAS/400上で、ある業務パッケージを大幅にカスタマイズし、受発注、売掛・買掛、請求、在庫などの販売管理システムを運用していたという。

その基幹システムをWindowsサーバー(Windows Server 2003)上で稼働する国産ERPパッケージへ移行したのは2006年のことであった。

「ちょうどAS/400の更新時期を迎えていました。それまではWindowsサーバーのスペックや信頼性に漠然とした不安を抱いていたのですが、2006年頃には大幅に改善した印象があり、移行しても大丈夫ではないかと感じました。AS/400は長く運用し、ずっと安定的に稼働していたのですが、ちょうど更新時期の直前にディスクがトラブルに見舞われたこともあり、イニシャルコストの削減効果も重視して、Windowsサーバーへの移行を決断したのです。正直に言えば、『いつまでもAS/400ではなく、新しいオープン系のサーバーを使ってみる時期ではないか』と感じて、移行に踏み切りました」と、稲川氏は当時の状況を語る。

導入したのは、Windowsサーバーで稼働する、ある国産ERPパッケージだ(図表1)。当初から自社開発型ではなく、パッケージ製品の導入を決めていた。商社という業務特性に合致し、かつ海外製のERP製品に比べてカスタマイズ対応も可能である点を評価した結果の導入であった。

 

【図表1】旧システムの概要


「コストダウンが見込めるWindowsサーバーを利用する場合、そのコスト効果を最大化するには、カスタマイズを最小化する必要がありました。つまりよく言われているように、業務の側でシステムに合わせるのが鉄則です。導入した当初は、社員の努力によってそれが可能であると考えていました」(稲川氏)

ただしこの見通しは、少々甘かったと言わざるを得なかったようだ。

追加カスタマイズの連続に疲弊
レスポンス改善も課題に

業務は伝票処理が中心になる。同社ではトランザクション量が多く、月間1万件の処理を5?6名のオペレータが担当する。スピードが何より求められるが、5250画面でのキーボード入力から、マウス操作中心のGUI画面に変わり、ただでさえ入力効率が低下したのに加え、前システムと比較した機能の不足や使い勝手の悪さが指摘され、さまざまな部門から稲川氏のもとに改善要望が寄せられるようになった。

そこでエンドユーザーからの要望に応えるため、本稼働直後から、外部ベンダーの手を借りてカスタマイズ開発に着手した。一定期間でカスタマイズを終わらせる予定が、結果的には導入後2年にわたり、延々と追加カスタマイズが発生し続けることになったという。

エンドユーザーと外部ベンダーの間に立ち、開発の進捗管理や要件の調整、エンドユーザーへの説得、さらなる修正の依頼など、稲川氏はその頃を、「追加カスタマイズの調整に疲れきっていた」と振り返る。

また導入から3年目には、DB(Oracle)サーバーのレスポンスにも問題が生じていた。稲川氏が手にするその頃の資料には、今後の課題として、以下のような項目が書き連ねてあり、検索スピードに対する根強い不満のあったことがうかがい知れる。

(1)売上実績照会検索のスピードアップ(得意先コード指定の全検索)

(2)受発注照会のスピードアップ(得意先コード、未入荷指定の検索)

(3)ピックアップシール印刷のスピードアップ

(4)得意先条件抽出リストのスピードアップ

同社では顧客の要望に可能な限り対応するため、取り扱い商品は際限がないと言っても過言ではないほど「多品種」となる。さらにJANコードをもたない商品も非常に多く、商品マスターに準拠した効率的な入力が望めないケースも多々見られる。業務に携わる社員にとってはキーボードからの入力の容易さ、検索のレスポンスが、業務の生産性を左右する非常に大きな要素となるわけだ。

こうした多くの課題を抱えるに至り、導入後4年目には、「もう一度、パッケージ製品を利用する以外の形で、IBM iへ戻る」ことを稲川氏は密かに決断していた。2010年のことである。

 

 

再びIBM iへ
自らの手で要件定義書を作成


2010年8月、以前から付き合いがあり、静岡に本拠地を置くアドバンスシステム(株)が、稲川氏の要請で来社。IBM i上で現状のトランザクション(受注データ)と同等の条件による100万件程度の検索処理を、ベンチマークとして同社に依頼した。

「追加カスタマイズを繰り返し、システムが複雑化したことで、処理スピードが低下したことも原因の1つと思われますが、やはりDB2 for IBM iに比べると、オープン系のDBは処理能力が弱いと実感していました。そこで同じ処理をIBM i上で実行すると、どのぐらいの改善が見込めるかを、自分の目で確かめておきたかったのです」(稲川氏)

この時のベンチマークで、IBM iの処理能力に十分な確証を得た稲川氏は、自らプログラム構成図を作成し、それによる本数と仕様概要をもとに、アドバンスシステムから開発費用の概算を得た。同時並行して、9月には新システムのハードウェアに関し、(株)カワイビジネスソフトウェア(以下、KBS)からプレゼンを受けている。

さらに同年12月の役員会で、概算の予算と新システムに関する構想を説明。承認を得た翌2011年1月に、稲川氏と営業部長、4名の業務担当者から構成されるプロジェクトチームが発足。2カ月の間、ほぼ毎週、チームでの打ち合わせを繰り返し、稲川氏自らの手で仕様書と概要設計書を作り上げていった。もちろん前職でのSE経験が、稲川氏1人での仕様書作成を可能にしたのは言うまでもない。

「開発コストを最小化するためにも、自分の手で仕様書を作成することが重要だと考えていました。外部ベンダーに設計から依頼すると、ゼロから説明せねばならず、コミュニケーションにも時間がかかり、コストも工数も膨らみます。2006年から4年間の運用で、業務の流れやエンドユーザーの要望は熟知していましたので、その経験を糧に、IBM i上で今後もずっと、長く使い続けられるシステムを完成させようと奮闘しました。開発を依頼したアドバンスシステムはIBM iでの開発経験が豊富で、いろいろなアドバイスを得られたことにも助けられました」(稲川氏)

 

IBM i上で本稼働
ずっと使い続けられるシステムへ


2011年4月に、仕様書の最終版が完成した。すぐにアドバンスシステム、KBSを交えた3社で、役員向けの仕様説明会が開催され、ここで正式に稟議が決裁されている。

そして同年4~9月、アドバンスシステムによる開発が進められた。主にRPGを使用し、部分的にPHPを使ってWebアプリケーションの画面を作り込んでいった。10月からはテストの実施と並行し、KBSが基幹サーバーとしてPower 720を本社のサーバールームに導入。同年12月、同社の新年度の開始とともに、新システムの運用がスタートした(図表2)。

 

【図表2】新システムの概要

帳票や画面の開発は最小限に抑えることで、開発コストの削減に注力している。その代わりに、IBM i用のExcelアドインツールである「i-EQBOX」(KBS)を導入。あらかじめ作成しておいたレイアウトとi-EQBOXで抽出したデータを合成できるので、依頼のあった帳票を、稲川氏自らの手で作成している。

新システムはWindows時代とはまったく異なる業務システムとして完成し、エンドユーザーから寄せられていた多くの要望が反映された。本稼働後、営業や業務に合わせた仕様変更は1件も発生していない。

「エンドユーザーからの不満や要望があれほど多かったのがまるでウソのように、満足度の高い運用が実現できました」と語る稲川氏。現在はバックアップ作業と、時折求められる簡易帳票の作成以外にほとんどIT関連の作業はなく、多くの時間を営業管理の業務に費やしている。WindowsサーバーからIBM iへの移行とともに、IT専任であった稲川氏の業務も大きく変化したようだ。

その後、2015年1月に、キーエンスの5250エミュレータ搭載型のハンディターミナルを導入し、文字スキャナ機能を利用した商品管理を実現している。バーコードをもたない大量の在庫商品でも、商品型番をテキストスキャンできるので、商品管理の効率性は劇的に向上したという。

今後は、東南海地震などに向けた災害対策の強化が、IT面でのテーマとなりそうだ。

「AS/400時代のシステムのままで使い続けることは難しく、Windowsサーバーに移行しなかったとしても、どこかで再構築のタイミングを迎えていたと思います。しかしWindowsサーバーでのパッケージ運用を経験したことで、あらためてIBM iの素晴らしさと、パッケージではなく自社仕様で作り込むことの重要性を認識できました。IBM iとPCサーバーではイニシャルコストを比較しがちですが、信頼性や運用管理性、処理能力、そして資産継承性など、IBM iにはイニシャルコスト以上に重要な優位性があると実感しています」と、稲川氏は取材の最後を締めくくった。

・・・・・・・・

稲川 進次氏

営業本部 営業管理課
課長

・・・・・・・・

COMPANY PROFILE

株式会社大東

本社:静岡県駿東郡
創業:1943年
設立:1955年
資本金:4000万円
従業員数:40名
事業内容:産業設備・機器の販売
http://www.daito-hl.co.jp/

・・・・・・・・

i Magazine 2016 Summer(8月)掲載