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研究プロジェクトのメンバーをサポートする体制を強化 ~JGS齋尾和徳氏に活動状況と取り組みを聞く

齋尾 和徳氏 

2019年度 日本GUIDE/SHARE委員会
情報システム企画部会(IP2)部会長

三菱総研DCS株式会社
PMO部 担当部長

 

毎年、研究テーマへの参加者を募り、テーマごとに研究プロジェクト・チームを結成して、1年間の研究活動の後に、プロジェクトの締めくくりとしてチームによる論文執筆を課題としている「JGS研究プロジェクト」。世界的に見ても稀なユーザー研究会活動を展開するJGSは、今何をテーマとして、どのような取り組みを推進しているのだろうか。情報システム企画部会(IP2)の部会長を務める齋尾和徳氏に話をうかがった。

 

 

自発的に習得していく
習慣が不可欠

IS magazine(以下、IS) 初めに齋尾さんのご経歴をお話しください。

齋尾 2001年に入社して、当初は銀行系のお客様の大型案件に入り、お客様先への常駐やシステム開発を経験しました。この10年ほどは経営企画へまわり、当社の中期経営計画やM&A戦略を立案する仕事に従事し、2年前から人材育成を担当しています。

IS どのようなことに取り組んでいるのですか。

齋尾 当社はIPA(情報処理推進機構)の「ITスキル標準」をベースにした人材評価・社内認定制度を設けていましたが、最近のデータサイエンスやセキュリティ、IoTなどの領域の人材育成にそぐわなくなってきたので、経済産業省が推進する「iコンピテンシディクショナリ」に合わせて制度を置き換えるプロジェクトを推進してきました。

 もう1つは、若手の人材育成です。当社はこれまで、金融やネットワークなど特定分野のスペシャリストを育てる人材育成を展開してきました。しかし現在は、エンジニアが基盤もアプリケーションも理解し、お客様と会話しながら一緒になって企画・開発を進められるようなマルチな人材が求められています。

 そこで、そうしたマルチなスキルを備える人材を育成するためのプログラムを作り、「人財育成アカデミー」と呼ぶ部門を設置して、その担当をしています。

IS どのようなプログラムですか。

齋尾 入社直後の新人を対象にした3年間のプログラムです。従来は1つのプロジェクトを4~5年担当させ、その分野の深い知見をもつことを促してきましたが、人財育成アカデミーでは1年単位でいろいろな案件を経験させます。初年度はクラウド基盤、2年目は製造アプリケーション、3年目は金融アプリケーションといった展開です。そして3年間でSIという仕事・ビジネスの全体を把握させ、その過程で当人の適性や興味・関心を見極めて、個々の部門へ配属します。「T型・π型人材」で言えば、最初の3年間で「横棒」を経験させるやり方です。

IS 成果は出ていますか。

齋尾 まだ2年目で“卒業生”はいませんが、今までの新人と違うなと思えるのは積極性です。本人が担当しているのは1つの案件でしかありませんが、アカデミーのメンバーが参加する進捗会議などで他のメンバーが携わっているさまざまな案件に深く触れるので、視野や関心の幅が広がるとともに、いろいろな刺激を受けるようです。その結果、担当中の案件とは関係ないものでも、調べたり開発したり社内で発表するようなことが増えています。

IS それは興味深い変化ですね。

齋尾 長いエンジニア人生を考えると、自ら学んで体得し、自発的に新しいスキル・技術を習得していく習慣が不可欠です。人財育成アカデミーを、それを醸成する場にしたいと思っています。

IS 最近は会社の壁を超えた社外コミュニティの活動も活発です。社員がそうしたコミュニティに関わることについては、どうお考えですか。

齋尾 なるべく早いタイミングで、どんどん出ていってほしい、という考えです。社外コミュニティへの参加は“対外試合”のような側面もありますから、学べることも多く、社内だけにいるのとは視野が違ってきます。人脈が広がるのも大きな財産です。社外のコミュニティへの参加は、会社としても促進しています。

IS JGSのほかに、齋尾さんご自身も何か経験していますか。

齋尾 三菱グループにIT系のエンジニアが集う「三菱CC研究会」があり、それに参加してきたのと、「日本ITストラテジスト協会」というITストラテジスト試験(情報処理技術者試験の1区分)の合格者で構成されるコミュニティの運営に携わっています。メンバーは現在約750名で、全国に8支部あります。過去に2年ほど会長を務めました。

 

研究チームの傾向は
2つに分かれる

IS JGSではどのようなご担当ですか。

齋尾 JGSには3年前に参加し、昨年度から情報システム企画部会(IP2)の部会長を担当しています。IP部会は昨年度、応募者数が多く14チームとなったため、他の部会とのバランスを考慮して部会を2つに分け、私はIP2の部会長となりました(図表1)。IP1はIoTやRPA、IP2はコグニティブやウェアラブル、スマートスピーカーといった比較的新しいテーマをカバーしています。

 

IS 部会長のお仕事は何でしょうか。

齋尾 大きくは2つあり、1つは2カ月に1度のリーダー会への参加、もう1つは担当部会の論文の審査です。リーダー会は、研究チームのリーダーとIBM・ISEのアドバイザー、部会長がメンバーとなり、進捗の確認と時どきの議題について意見を交わします。論文の審査は、各チームの1年の研究成果である論文の評価です。今年度は7本を読み、部会の委員・IBMのアドバイザーの方たちと審査会をもち、優秀賞ほかを決めました。

IS 新年度(2019年度:2018年9月~2019年9月)の応募状況はいかがですか。

齋尾 今年度は、現時点で64社・260名の応募があります。昨年度が65社・283名の応募でしたから、例年並みの状況です。

IS 応募の内容に変化はありますか。

齋尾 ここ数年の傾向ですが、AI・Watson、RPA、ブロックチェーン、セキュリティ関連のテーマに非常に多くの応募があります。その一方、IBMメインフレームやプロジェクト管理、人材育成といった従来からのテーマにも依然として一定数の応募があります。

 私がJGSに参加した当初はIBMの製品・技術に関わるテーマがたくさんありました。しかし、この1~2年はRPAやIoTなど特定のIBM製品にとらわれないテーマが増えてきています。

 それとWatsonは、以前はWatsonの技術や仕組み自体が研究対象でしたが、今はどのテーマにもWatson/コグニティブが関係してきて、広範な普及を感じさせます。委員のなかには「コグニティブはどのテーマにも当てはまるのだから、あえてコグニティブをテーマにしなくてもよいのではないか」という意見さえあるくらいです。

IS 研究チームに何か変化はありますか。

齋尾 傾向としては、大きく2つに分かれます。1つは、研究テーマに関連する製品・技術をふだんから使用していて、技術的に深掘りしたいという人が集う専門性の高いチーム。もう1つは、研究テーマにはまだ取り組めていないが、深く知りたいという人が参加するチャレンジ精神旺盛なチームです。

IS 新年度では、「特別プロジェクト」が組まれていますね。

齋尾 特別プロジェクトは、先進的過ぎて手が届きにくいようなテーマを取り上げて、通常とは異なるサポート体制で実施するものです。前回(2015年度)はWatsonで、今回は「量子コンピュータ」です。最初の半年に量子コンピュータの基礎を学び、後半の半年で量子コンピュータの活用について検討・研究を重ねます。IBMの量子コンピューティングの専門家に講演いただくことなども予定しています。約20名の応募があり、注目度の高さを感じます。

 

研究プロジェクトは
人間力が鍛えられる場

IS JGS自体の課題は何でしょうか。

齋尾 これだけ大所帯になり部会が細かく分かれると、安定してアドバイスする体制を築くのが難しくなっている側面があります。

 そこで昨年度から、進捗を確認するためのチェックシートを設け、各部会からプロジェクト運営委員を出して、横の連携を強化する取り組みを開始しています。

 もう1つの取り組みとしては、論文審査の公平性と透明性、納得性を高めるために「論文評価ポイント」を作成し、それに基づいて審査する方式に改めました(図表2)。項目ごとに点数を設け、その合計点でシスティマチックに評価します。この基準は研究チームにも公開し、個々の論文に対する講評も各チームに返すように改めました。

 

 また、それとは別に、JGS論文のあるべき形式・体裁についても定義し、文書化しました(「JGS論文形式不備について」)。一歩ずつではありますが、組織としてメンバーをサポートできる体制を強化しています。

IS JGSに参加するメリットは何だとお考えですか。

齋尾 研究プロジェクトなのでテーマに関する知識を深められるのはもちろんですが、それ以上に、初めて顔を合わせた人たちが1年をかけて論文を作成するというプロセスが、人間として一回り大きくなれる機会じゃないかと感じます。そうしたことは社内で研修をいくらやっても経験できないことで、JGSは人間力が鍛えられる場だと思っています。

[IS magazine No.21(2018年9月)掲載]