MENU

出揃ったPOWER9サーバー、AI・クラウド対応を大きく拡大 ~スケールアウト、スケールアップ、Linux専用、AI向けなど多様なラインナップ

日本IBMは8月7日、POWER9サーバーのハイエンドモデルとなるエンタープライズ・サーバー「Power E980」と「Power E950」を発表した。これによりPOWER9サーバーの全モデル、11機種が出そろった。

 

POWER9サーバーが
達成した3つの特徴

 POWER9サーバーは、2017年12月のPower AC922を皮切りに、2018年2月にスケールアウト・サーバー、5月にLinux専用サーバー、そして8月のエンタープライズ・サーバーへと、約8カ月をかけて全11モデルの発表が行われた。

 先駆けとなったPower AC922(以下、AC922)は「AI向けに設計された業界最先端のサーバー」(発表リリース文)で、AI・HPC・アナリティクスの領域を拡大する先進機能と高性能を備えるPOWER9サーバーの門出にふさわしい登場であったと言える。

 POWER9サーバーは、「プロセッサをAI・クラウド向けにデザインし直したPOWER8の後継となるPOWER9をベースに設計されたサーバー」(日本IBM)で、汎用向けとAI・HPC向けの2つのラインナップがある(図表1)

 

 

 特徴は3つあり、1つ目は、POWER8の1.5倍というプロセッサの性能向上に合わせたシステムスペックの強化・拡充である。最大メモリはPOWER8の4倍、メモリバンド幅はXeonの1.4倍、さらにPCIe Gen4やNVMe、CAPI2.0、NVLink2などの広帯域データ転送技術の採用により、より巨大なデータやより複雑なディープラーニングへの対応を可能にした。

 2つ目は、「クラウド・モデル」の全モデルへの適用である。POWER8サーバーではエンタープライズ・モデルのE850以上に限ってPowerVMを標準実装したクラウド・モデルを提供していたが、POWER9サーバーではIBM iとAIXが稼働する全モデルに拡大され、スケールアウト・サーバーもクラウド・モデル対応となった。そのため、製品の型番から「C」が廃止された(従来は「E850C」などと末尾にCを付けて表記。図表2)。プライベートクラウドやハイブリッドクラウドに向けての環境整備である。

 

 

 3つ目は、信頼性・セキュリティの向上である。日本IBMの久野朗氏(システムズ・ハードウェア事業本部サーバー・システム事業部コグニティブ・システム事業開発 IBM i統括部長)は、「製品のスペック表には記載されない強化ですが、ハードウェアの設計自体を見直し、信頼性・セキュリティを大きく向上させています」と、次のように語る。

「最近のサイバー攻撃は、アプリケーションやOS、ミドルウェアだけでなくハードウェアも対象に加え、組織的かつ大規模に実行されています。IBMではこうした脅威の状況を踏まえてハードウェアからハイパーバイザー、OSまでエンド・トゥ・エンドで脆弱性を排除すべく、徹底した機能改善を実施しました。他のプラットフォームにはない信頼性と強固なセキュリティこそ、POWER9サーバーの特徴です」

 

久野 朗氏 日本アイ・ビー・エム株式会社 システムズ・ハードウェア事業本部 サーバー・システム事業部 コグニティブ・システム事業開発 IBM i統括部長

 

 また、日本IBMの黒川亮氏(システムズ・ハードウェア事業本部サーバー・システム事業部コグニティブ・システム事業開発部長)は、「今年初めに、POWERを含めて各社のCPUやネットワーク機器の脆弱性が問題となり世界中で緊張感が走りましたが(Meltdown、Spectre問題)、IBMは自社でチップやOSを研究・開発しているので即座に対応し、いち早く対策を打ち出しました。こうした体制も、POWER9の信頼性・セキュリティを支える基盤と言えます」と述べる。

 

黒川 亮氏 日本アイ・ビー・エム株式会社 システムズ・ハードウェア事業本部 サーバー・システム事業部 コグニティブ・システム事業開発部長

 

 

革新的な拡張性を備える
ハイエンド・モデルE980・E950

 エンタープライズ・サーバーは、Power E870とPower E880の後継機となるPower E980(以下、E980)と、Power E850後継のPower E950(以下、E950)の2モデルとなった。またE950はE850と同様にIBM iのサポートはなく、LinuxとAIXのみの稼働である。

 E980とE950は、下位のスケールアウト・サーバーと比較して、1サーバーで大きなスケールアップ性能を備えるため、「エンタープライズ・サーバー」と呼ばれる。

 最上位のE980では、プロセッサは32?192コア、メモリは64TBまで拡張でき、このスケールに対応する超広帯域のデータ転送を内部バスおよび外部周辺機器との接続で実現している。ノードあたりのメモリバンド幅は最大920GB/s。I/Oでは、PCIe Gen4スロットをノードあたり8個、IPL時間の短縮のためのNVMe搭載スロットをノードあたり4個備え、さらに最大16台のI/O拡張ドロワーが接続可能。筐体は5Uのサーバー本体と2Uのコントロール・ユニットで構成される(図表3、図表4)

 

 

「E980は、大量トランザクションや高負荷バッチを担うアプリケーション・サーバー、データベース・サーバーやビッグデータ分析、大規模なサーバー統合など、お客様のニーズを1台で実現できるよう設計された最強のスケールアップ・サーバーです」(久野氏)

 ここでE980の性能を、前身のE880と比較してみよう。

 図表3でまず気づくのは、ソケット数やCPUコア数が同一でありながら、「最大rPerf」値と「CPW値」に大きな差があることだろう。

「rPerf(Relative Performance)」値とはIBM独自のベンチマーク値で、2000年発表のpSeries 640の商業用ベンチマーク値を「1.0」とした場合の相対値。

 E980の最大rPerf値を見ると5,081で、E880(3,905)の約1.3倍。CPW値は274万3000CPWで、こちらもE880(206万9000CPW)の約1.3倍である。この性能向上の理由についてはPart 2で詳しく触れるので、そちらをご覧いただきたい。

 

 

5万2500CPWの性能をもつ
エントリーモデルS914

 エントリーモデルのPower S914(以下、S914)は、POWER9サーバーでは唯一タワー型とラック型(4U)の2タイプが用意されているモデルである。どちらも1ソケットで、4・6・8コアの3種類のプロセッサを選択でき(8コアはラック型のみ)、最大1TBのメモリ、本体と拡張用筐体 (EXP24SX ストレージ・エンクロージャ)に合わせて283GB?1.19PBのSSDを搭載可能である。ただし4コアの場合のメモリは最大64GB、ディスクは6TBまで。
I/O関連では、PCIe Gen4を2スロット、CAPI2.0 スロットを2個、内蔵RDXなどを備えている。

 処理性能は、4コアのP05モデルで52,500CPW。S814(4コア、37,440CPW)の約1.4倍、そのS814の前身のPower 720 Express(4コア、28,400CPW)からは約1.8倍の性能向上がある(図表5)

 

 

 また、6コアのP10モデルの処理性能は78,500CPWあり、S814・6コア(56,400
CPW)の約1.4倍、Power 720 Express(6コア、42,400CPW)からは約1.9倍の性能向上になる(図表6)

 

 このようにS914は、多くのIBM iユーザーの基幹業務処理をカバーして余りあるコンピューティング・パワーを備えている。今後は、その余力として残るパワーをいかに活用するかという課題に、ユーザーとベンダーはあらためて、真剣に取り組まざるを得なくなると思われる。

 その点で、スケールアウト・サーバーの全モデルがPowerVMを標準装備したことは大いに注目される。IBM iのクラウド的な活用を促進する基盤整備と見てよいだろう。 

 なお、そのほかのスケールアウト・サーバーやLinux専用モデル、今年5月に新モデルがリリースされたPower AC922については、別のPartにまとめたので、そちらをご覧いただきたい。

 

EnergyScaleを強化し
周波数・消費電力を最適化

 このほか、プロセッサの能力とシステムの負荷状況に応じて動的にプロセッサの動作周波数や消費電力を最適化するEnergyScale機能が強化され、「ダイナミック・パフォーマンス・モード (DPM)」と「マキシマム・パフォーマンス・モード (MPM)」がPOWER9サーバーに新たに搭載された。

 MPMはシステムのパフォーマンスを最優先したい場合のモードで、必要に応じてプロセッサを最大周波数で動作させることができる。DPMはシステムの消費電力を抑えたい場合のモードで、システムの稼働状況に応じて動作周波数を下げることが可能である。

 消費電力の管理・コントロールが、オンプレミスのサイトやプライベートクラウド環境で大きなテーマになりつつあることをうかがわせる。

 

 

 

3通りの移行パスをもつ
エンタープライズ・サーバー

 図表10に、エンタープライズ・サーバーの移行パスをまとめた。キャパシティ・リセット、MES、BOX置き換えの3通りがあり、キャパシティ・リセットはコア数を2対1の比率で置き換えることにより無償アップグレードが可能な移行パス、MESはシステムリソースの有償のアップグレードである。

 また、同じマシン・レベルのE880CとE980、Power 795とE880Cとの間で「Power Enterprise Pool」を組むことができ(3台以上も可能)、一方の筐体のワークロードでコンピューティング・リソースの不足が生じた場合、Mobile CoD機能を使ってリソースを自由に移動させることができる。 日本IBMでは、プロジェクトの段階に応じた稼働コアの最適配置や、障害・災害対策用サーバーの平常時稼働コア数の削減、保守作業などによる計画停止の際の継続運用などにも適用できる、と説明している。

 

[i Magazine 2018 Autumn(2018年8月)掲載]

 

 

新着