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IBM i ベンダー各社の取り組み(上)|Power Systems Virtual Serverを考える④

 

 

日本情報通信株式会社

Power VSの留意点を解決する
マネージドサービスを提供

 

 日本情報通信のIBM iクラウドサービス「NI+C Cloud Power」は、2018〜2020年の3年間にユーザー数を倍増させ、「約100社、250区画」の規模となった。この急速な伸びの背景には、「ユーザーのBCP意識の高まりと、IBM iの長期にわたる安定運用に対するニーズ、より信頼性の高いクラウドを求める動きがある」と、バリューオペレーション本部の小山将輝氏(クラウドサービス部 第1グループ長)は分析する。

 NI+C Cloud Powerは、充実した設備と豊富なサービスを特徴とするクラウドサービスである。冗長構成済みのIBM iをさらに東西のデータセンターに配置し、オンプレミスにおけるSI経験とクラウドにおける移行・構築・運用経験をベースに、IaaSからアプリケーションレイヤまできめ細かなマネージドサービスを提供する。この1〜3月には東西のデータセンターに高性能ストレージPowerMAX(EMC製)を設置し、OSジャーナルに依存しないハードウェアレベルのレプリケーションを「日本で初めて」、サービスメニューに追加する。小山氏は「IBM iで、オンプレミスとIBM Cloudの両方の経験を豊富にもつのは当社だけ」と胸を張る。

 同社ではPower VSの推進も事業方針として掲げている。ただし、手放しの推進というわけではなく、「留意点がいくつかあります」と話す。

 1つは、システムの停止が許されない場合、クラウド上のリソースの不具合による障害やベンダーの都合による計画停止を見越したシステム設計が必要になるという点である。

「クラウドの世界では“システムは停止する”のは常識です。IBM iの世界では考えられないことですが、どのクラウドサービスでも現に起きていることなので、システムの特性に応じた、稼働し続ける仕組みが不可欠です」(小山氏、以下引用は同氏)

 もう1つは、IBM Cloud特有のネットワーク構築・運用の難しさである。小山氏は「IBM iのユーザーやパートナーにとっては、x86エリア側のゲートウェイアプライアンス(VRA)の維持・運用がとくに難しいのではないか」と言い、「Power VSのネットワークの設定・検証にはネットワークエンジニアの参画が欠かせません」と指摘する。

 3番目はコストである。Power VS自体は低い料金設定だが、それを利用するためのネットワーク関連費用はPower VSを上回る。「Power VS上で基幹システムを本番稼働させるならIBMの有償プレミアムサポートも必要になるので、綿密なコスト設計が求められます」

 同社では、Power VSユーザー向けにDirect Link 2.0を共有型で提供する低料金のネットワークサービスと、ネットワークからIBM iシステムまでの設計・構築・運用のすべてをカバーするフルマネージドサービスを準備中である。そして、Power VSでHAソリューションの「アベイラビリティ・ゾーン(AZ)」サービスがIBMによって提供されるまでは、本番機はNI+C Cloud Power上に配置し、Power VSは開発・テスト・検証用として利用する形態を推奨していくという(図表4)。

「当社のようなIBM iパートナーの役割は、お客様にシステム基盤を意識させずに基幹システムを使っていただくマネージドサービスの提供にあると考えています。Power VSは、IBMパートナーの役割がサービス型へとシフトしていく大きな転換点になると見ています」

 

 

 

ネオアクシス株式会社

Toolboxをサブスクリプション対応させ
インターネットEDIへの移行を支援

 

 ネオアクシスの「Toolbox for IBM i」は、IBM i用EDIツールの「デファクトスタンダード」と言ってよい製品である。もともとは日本IBMが「TOOLBOX/400」の製品名で販売していたものを、2006年にネオアクシスへ移管。同社がメンテナンスを引き継いで「累計4000社以上」(シニアエキスパートの白石昌弘氏)のベストセラーへと育て上げた製品である。またそれと並行して10種類に及ぶToolboxシリーズもリリースしてきた。

 Toolbox for IBM iのEDI機能としての強みは、IBM i上で稼働し、JCA手順、全銀ベーシック手順、全銀TCP/IP手順の各通信手順に対応している点である。ただし、これらの“レガシー手順”は2024年1月にINSネットディジタル通信モードが終了するためインターネットEDIへの切り替えが必須である。

 そこで同社は、2018年にJCA手順の後継であるJX手順対応の「Toolbox JXクライアント」を、2019年に全銀ベーシック手順および全銀TCP/IP手順の後継となる全銀TCP/IP手順・広域IP網に対応する「Toolbox全銀TLS+」を開発し、投入してきた。Toolboxシリーズにはこのほか、V.24通信カードを利用せずにEDI通信が行える「Toolbox for UST」がある。

 以上の4製品は従来、オンプレミス用としてライセンス販売(売り切り+保守契約)されてきたものだが、Power VSの日本スタートに伴い、同社では製品を改良してサブスクリプション型のライセンス形態を追加し、昨年12月に発表した。これによりPower VS上で月額ベースの利用が可能になった。また、以前からサブスクリプション型のライセンス形態で提供してきたレガシーEDIとインターネットEDIのマルチプロトコルに対応した「Toolbox EDI Service」も、同時にPower VS対応になった。

 Toolboxシリーズの各製品はこれまで、IBM iのシリアル番号に紐づけてライセンス管理がなされてきた。しかしPower VSでは利用中のマシンのシリアル番号は付与されるもののベンダー側の都合による区画の移動によりシリアル番号が都度変わるため、シリアル番号によるライセンス管理が行えない。そのため「マシンシリアルにとらわれないライセンス管理の仕組みを新たに作りました」と、白石氏は話す。

 また、Power VSへの対応として、Power VSへの移行・運用をトータルにサポートする「IBM iライフサイクル・サポートfor Power Virtual Server」を提供する予定である。「IBM iライフサイクル・サポートfor Power Virtual Server」は、実績のある「IBM iライフサイクル・サポート」のサービスラインナップの中に、標準的なタスクをパッケージ化した「エントリーコース」を追加したもので、「エントリーコース」によってPower VSへの低コストかつ短期の移行が可能になる、と同社は強調している。

 

 

 

株式会社アイエステクノポート

UT/400-iPDCなど主要ツールを提供
ライセンスの持ち込みも可能

 

 アイエステクノポートのグラフィカル帳票作成ツール「UT/400-iPDC」は、クラウドサービスでの実績が、「すでに実績がある」(代表取締役社長の金澤廣志氏)。複数のIBM iクラウドベンダーがオプションサービスの1つとして同ツールを提供してきた経緯があり、そのなかにはOEM契約によりベンダーのサービス名で提供されているものもあるという。

 製品の提供形態は、オンプレミスと同様に、案件ごとに契約書を交わし、ユーザーが使用するクラウド上のIBM iにその都度、インストールするというものだった。

「オンプレミスではP05のお客様が大半です。しかし、クラウドでは利用できるIBM iがP10やP20であることがよくあります。そのような場合は、お客様の事情を考慮してP05の料金でお使いいただけるよう弾力的なサービス提供を行ってきました。Power VSでも同様に、柔軟に対応していくつもりです」(金澤氏)

 同社は、Power VSの日本スタートに合わせて、主要製品をサブスクリプション対応にした。Power VSではサブスクリプションのみとなるが、オンプレミスで利用する場合は、ライセンスまたはサブスクリプションのいずれかを選択できる。また、現在オンプレミスで利用中のユーザーで保守契約を結んでいれば、「ライセンスをPower VSへ持ち込んで継続できる」という。 

 サブスクリプション化の第1弾は、UT/400-iPDCのほか、IBM i開発保守支援ツール「SS/TOOL-ADV」、開発ソース管理ツール「i-SM4d」、プロジェクト管理/リソース管理ツール「S/D Managerシリーズ」の4製品。

「お客様のクラウドへの流れはトレンドであるので、いつかはサブスクリプション対応にする必要があると考えてきました。Power VSの日本スタートが格好のタイミングとなりました」と、金澤氏は話す。

 Power VSにおける契約期間は、UT/400-iPDCは「基幹システムと一緒に使うものなので、3~5年間」とし、開発支援関連のSS/TOOL-ADVやi-SM4d、S/D Managerシリーズは、「プロジェクトなど短期的な利用のほうが多いと考え」、期間や料金を設定する予定。

 製品ライセンスの管理方法については、「現在検討中」。「お客様の面倒にならない方法を検討しています」(金澤氏)という。

 技術面では、日本語環境の構築で、「お客様やベンダーの間で混乱が起きるのではないか」と懸念を述べる。

「オンプレミスのIBM iは日本語が1次言語なので言語環境を意識することなく利用できますが、Power VSは英語なので、日本語環境の構築が必須になります。当社は帳票関連のツールが多く、言語環境の切り替えや設定に苦労してきましたが、Power VSではその経験を活かして、Power VSへの移行・利用でお困りのお客様やベンダーをサポートしたく思っています」(金澤氏)

 

 

株式会社オムニサイエンス

PHPQUERYを提供、オンプレミスと同様の
基幹データ活用環境をPower VS上で実現

 

 オムニサイエンスは、データ活用・BIツールの「PHPQUERY」をPower VSで提供する。
 すでにPower VS上にPHPQUERY環境を構築し、オンプレミスからの接続やデータの参照・抽出のパフォーマンスなどを検証済みだが、「レスポンスの遅延や不具合などはまったくなく、快適に利用できています」と、IBM iビジネス事業部の矢口藤夫氏は話す。

 当面は、ユーザーが利用するPower VS上にユーザーごとのPHPQUERY環境を構築しサービスを提供する計画。ユーザーがPower VS上のシステムを対象にデータ抽出などを行う場合は、オンプレミスからPower VS上のPHPQUERYにアクセスして操作を行う。クラウドなのでどこからでもアクセス可能だ。

 将来的にはPower VS上に独立したPHPQUERYサーバーを設置し、文字通りのSaaSとして、サービスを提供することを視野に入れている。オンプレミスから利用する場合は、PHPQUERYサーバー上のユーザー固有の区画にアクセスし、データセンター内のネットワークを介してPower VS上のデータを利用する。

 2014年にリリースされたPHPQUERYは、IBM i用のデータ活用・BIツールとしては最後発の製品だが、当初から月額のサブスクリプション制を採用し、低料金と先行製品を上回る操作性・機能性でユーザー数を伸ばしてきた。

 取締役COOの下野皓平氏は、Power VSは「PHPQUERYにとって大きなチャンス」と次のように語る。

「企業システムの利用環境がクラウドへと進むなかで、IBMがIBM iのIaaSサービスを提供することは、クラウドに躊躇されていたお客様への強力なメッセージになると感じています。また、そのなかでPHPQUE
RYを手軽に使っていただく環境が整うことは、大きなチャンスです。クラウドならではの使い方にも精力的に対応し、使いやすさと機能を向上させていくつもりです」

 

 

株式会社イグアス

Maxavaとサービスをセットで提供
HA・BCPソリューションをSaaS化

 

 イグアスの「イグアスPower on Cloud BCPサービス」は、オンプレミス側に本番機、Power VS上にバックアップ機を配置する災害対策ソリューションで、システムの初期構築や障害対応支援をIBM iに精通したイグアスのエンジニアが行うというサービスである。

 IBM iユーザーの間ではここ数年、BCPのニーズが高まっている。しかし、IBM iをもう1台、災対用として購入するのは初期コストや運用管理面で負担が大きく、また本番機をクラウドへ移行するには諸条件の整備が必要なため時間や工数がかかる、と考え、BCP導入に踏み切れないユーザーも少なくない。

「イグアスPower on Cloud BCPサービス」はそうしたユーザー向けのソリューションで、「月額の低料金ですぐにBCPをスタートできる」点を同社では強調している。

 HAツールとして推奨されているのは、MAXAVAの「MAXAVA HA Enterpri
se+」「同SMB」の2製品で、求めるHAソリューションの要件に応じて選択できる。MAXAVAのクラウドにおける実績は、海外では200社以上、国内でも利用例があるという。

 イグアスでは現在、Power VS上に開発・検証環境を用意し支援サービスを提供する「開発・検証環境サービス」や、クラウドへの移行と運用監視を支援する「マネージドサービス」を検討中という。

 

 

株式会社福岡情報ビジネスセンター

最初は「Power-PMS生産管理システム」
新製品はすべてPower VSに対応させる

 

 2011年からIBM iおよびオープン系のクラウドサービスを提供し数多くの実績をもつ福岡情報ビジネスセンターは、Power VSの利用・推進に非常に意欲的である。代表取締役社長の武藤元美氏は、「Power VSは、IBM iのお客様がクラウドに着手される大きなきっかけとなり、IBM iクラウド市場の拡大にも弾みをつけると見ています」と、取り組みの背景を説明する。

 現在、Power VS上で提供する「Power-PMS生産管理システム」のデモ版を準備中で、1月中に公開の予定。トライアル版やSaaS版は、実行環境であるLANSAのマシンシリアル対応やWebブラウザ対応などが完了次第、スタートさせる計画という。

 Power-PMS生産管理システムは、同社のPowerクラウドセンターで提供中のSaaS型生産管理システム。ワークフローや生産予測・計画・製造、生産実績管理、在庫管理など生産管理業務に求められる機能をパッケージ化した製品で、採算管理システムや倉庫管理システム、製品ラベル発行システムなどとの連携機能も多数備える。

「Power-PMS生産管理システムがPower VSで使えるようになると、全国のIBM iユーザーが手軽に高機能な生産管理システムを利用できる環境が整います。料金もP05レベルに低く設定し、お客様の生産DXをクラウドのスピードでご支援していくつもりです」(武藤氏)

 同社では、今後リリースする製品はすべてPower VS対応にする計画という。

 

関連記事:Power Systems Virtual Serverを考える

①本格始動のIBM iクラウドサービスは、課題解決の突破口か

②  IBM Power Systems Virtual Serverを詳細チェック!

③ IBM iベンダーのPower VS戦略

④IBM iベンダー各社の取り組み(上)

 ・日本情報通信株式会社
 ・ネオアクシス株式会社
 ・株式会社アイエステクノポート
 ・株式会社オムニサイエンス
 ・株式会社イグアス
 ・株式会社福岡情報ビジネスセンター

⑤IBM iベンダー各社の取り組み(下)

 ・株式会社IIJグローバルソリューションズ
 ・三和コムテック株式会社
 ・株式会社ランサ・ジャパン
 ・ベル・データ株式会社

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