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アクセシビリティは、究極のユーザー体験を提供する ~IBMのリードUXデザイナーが「デザイナーによくある誤解」も指摘

国際障害者デーの12月3日、IBM アクセシビリティ部門のリードUXデザイナーであるアレクサンドラ・グロッシ氏が、「アクセシビリティがもたらす究極のユーザー体験(Accessibility offers the Ultimate User Experience)」と題するブログをアップした。グロッシ氏はその中で、アクセシビリティに関して開発者・デザイナーがもつ一般的な誤解と、ベストプラクティスを採用する時期が来た理由について書いている。興味深い内容なので、紹介しよう。

グロッシ氏は生まれながらの聴覚障害者で、16歳のときに右耳に、30歳のときに左耳に人工内耳を装着した経歴をもつ。2018年にIBMに入社し、現在アクセシビリティ部門でリードUXデザイナーとして活動するかたわら、国際障害者連盟(International Disability Alliance)の「iData」プロジェクトのリーダーを務めている。iDataプロジェクトは、障害者に関する調査・分析・発表・閲覧のためのプラットフォームで、グロッシ氏はアクセシビリティの担当であるという。

 

IBM リードUXデザイナーのアレクサンドラ・グロッシ氏
IBM リードUXデザイナーのアレクサンドラ・グロッシ氏

 

グロッシ氏は、「アクセシビリティへの取り組みは、多くの使い古された定説に基づいている」と指摘する。そして、生まれた時から耳が聞こえない私にとって最も腹立たしいのは、「ある日突然、障害者になる可能性があることを忘れないで」という決まり文句だと記し、次のように述べる。

「これは、アクセシビリティに関心を持つのは、それが自分自身に何らかの影響を及ぼす可能性がある場合だけだと仮定しています。共感は、優れたデザインを生み出すために不可欠な要素であるだけでなく、人間性を定義する特性でもあります。デザイナーは、インクルージョンのためのデザインを始めなければなりません。それは、収益に貢献するからでも、イノベーションを促進するからでもなく(どちらも正しいのですが)、デザイナーは参加できるユーザーを選ぶべきではないからなのです。ユーザーを選択的に扱うのは、ユーザー中心設計とは言えません」

グロッシ氏は、アクセシビリティを考えるうえで障害となる、デザイナーによくある誤解を挙げている。

誤解:アクセシブルなデザインとは、色とコントラストだけである

色やコントラストは重要だが、それだけではアクセシビリティを考慮したデザインのすべてをカバーできません。デザイナーは、ユーザーの操作方法をすべて考慮しなければなりません。たとえば、視覚以外の要素はあまりにも軽視され、偶然に任されることが多くあります。

たとえば、目の不自由なユーザーがWebサイトやプログラムを利用する際に必要となる、支援技術によって読み取られる、表示的には隠されたテキストが挙げられます。これが見落とされていると、キーボードによるナビゲーションが利用しにくくなります。デザインチームは、マウスを使わないユーザーがどのように空間をナビゲートできるかを考慮しなければなりません。

誤解:アクセシビリティはコストがかかりすぎる

アクセシビリティを考慮してプロジェクトを開始することは、長期的に見てより多くのコストを節減することになります。製品の適合性を高めることを怠ると、結局はコストがかかり、面倒なことになります。

これは「アクセシビリティの左遷(shifting accessibility left)」という言葉で表されます。デザイナーがプロジェクトの初期段階でベストプラクティスをプロセスに組み込むことで、アクセシビリティへの配慮を軽減できます。また、アクセシビリティをイテレーションに含めることで、チームにとってのトライ&エラーが削減されます。

誤解:デザインシステムを使えば、自動的にデザインがアクセシブルになる

Carbonのようなデザインシステムは、アクセシブルなフレームワークを作成するのに非常に役立ちますが、すべてのデザインを自動的にアクセシブルにできるシステムはありません。また、アクセシビリティの全体像を理解せずに部品をカスタマイズすると、部品にアクセスできなくなることがよくあります。

誤解:アクセシビリティは難しすぎる

アクセシビリティに配慮したデザイナーになることは、最初は難しく感じるかもしれません。他の新しい技術と同様に、時間、練習、そして努力が必要です。時間が経つにつれ、簡単になり、自然にできるようになります。つまずいたり、恥ずかしい失敗をしたりするかもしれませんが、あなたの製品やユーザーには大きなメリットがあることを保証します。

グロッシ氏は、ユーザー中心設計がテクノロジー設計のための最良のアプローチであるように、システムがアクセシブルであることは「究極のユーザー体験」の提供につながるという。そのためには、アクセシビリティのベストプラクティスを取り入れることだと強調する。

 

アレクサンドラ・グロッシ氏「アクセシビリティがもたらす究極のユーザー体験(Accessibility offers the Ultimate User Experience)」
https://www.ibm.com/blogs/age-and-ability/2021/12/03/accessibility-offers-the-ultimate-user-experience/

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