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日本アイ・ビー・エム株式会社

3.11後のBCP強化内容

・事業継続に大きな脅威をもたらす東京湾北部地震を想定
・3.11の経験を経た改善点をBCPに反映
・データセンターの燃料確保や非正規社員への情報伝達を強化

3.11時の対応

ITツールを随所に活かした
迅速な災害対応

GIE(Global Integrated Enterprise)、すなわち「世界で1つの企業」としての事業運営モデルを掲げるIBM。同社はエンタープライズ・リスクマネジメント(ERM)についても、地域性や業種・業態の特性を考慮しつつ、グローバルに連携して事業における脅威を特定する。

最高経営会議の機能の一環としてERMを考え、自然災害からサイバーテロ、パンデミック、円高や人材問題に至るまで、事業計画に影響を与える脅威を最高経営責任者自らが評価。それぞれにリスクオーナーを任命し、脅威を最小化すべく事業継続計画に反映する。

日本IBMでもこの方針に沿って、2012年はグローバル共通および日本固有の脅威に対して5つの対策を講じている。その重大な脅威の1つが首都直下地震、中でも最も甚大な被害が想定される東京湾北部地震である。

そのBCPの内容を解説する前に、東日本大震災でのIBMの動きを見てみよう。

2011年3月11日14時46分の地震発生からわずか4分後、14時50分に、日本IBMでは製品保守サービス部門の危機管理対策本部が立ち上がった。社員に対する安否確認メールが発信されたのは14時59分。15時5分には本社2階に全社災害対策本部を設置し、被災状況の把握を開始。18時27分に社員の帰宅を促す館内アナウンスが流される。翌12日には交通機関の混乱を懸念し、翌週月曜日からの自宅勤務などが指示されている。

図表1のとおり、同社は1995年の阪神・淡路大震災以降、継続的にリスクマネジメントを積み重ねてきた。

災害対策本部の副本部長として陣頭指揮をとった江口昌幸執行役員(お客様プログラム・経営品質・社長室担当)は、阪神・淡路大震災をはじめいくつかの地震で用いられた災害対策規定と、新型インフルエンザへの対応経験を活かし、災害対策本部の発足から3 〜4時間で、「社員の安否確認」「被災地の状況把握と支援」「お客様ビジネスの状況把握」「被災への緊急支援策」「社員への情報伝達」「人事関連の対応」「計画停電への対応」という7項目の管理体系を作り上げた(計画停電への対応は、東京電力が実施を発表した12日に追加)。

社員の安否確認にはじまり、被災地域にある事業所の状況確認と支援、ユーザーのビジネス状況の把握、救援情報共有ツール「Sahana」の提供や保守サービスの特別対応を実施する過程では、同社の最大の経営資源であるITツール群の効果的な活用が随所に見られた。

例えば地震発生から4分後に立ち上がった保守サービス部門の危機管理対策本部は、チャットシステム「Sametime」で会議を招集し、以降24時間体制で、最大50名程度のメンバーが参加しながら情報を共有・伝達した。

災害対策本部ではLotus Notesで全情報を一元管理する一方、現場や社員への情報伝達手段としてもイントラネットや同社ホームページ、さらにツイッターなどのソーシャルメディアを積極的に活用している。

さらに自宅待機に際しては、e-workで業務を継続した。同社では2000年からe-work制度を、2010年からは常時自宅で勤務するホームオフィス制度を採用し、Sametimeによる在席確認や電話会議などをフル活用した在宅勤務体制を構築している。パンデミック対策として重視してきたこのe-workは今回も十分に機能し、地震翌週は首都圏に自宅がある社員の多くが活用したため、業務に支障は出なかったという。

江口 昌幸 氏 執行役員 お客様プログラム・経営品質・ 社長室担当
江口 昌幸 氏
執行役員
お客様プログラム・経営品質・社長室担当

3.11後のBCP

東京湾北部地震を想定した
BCPを半年で策定

一応の落ち着きを取り戻し、災害対策本部を解散させた昨年5月からの4カ月間で、日本IBMでは今回の震災対応に関する改善プロジェクトを立ち上げた。

「 全部門で約40項目の改善点を洗い出しました。それらは経営判断を要するものから、部門裁量レベルまで多岐にわたります」と語るのは、矢島典子氏(社長室&RMOリスクマネジメント・オフィス)である。

例えばユーザーのIT資源を預かるデータセンターでは、自家発電装置を動かす重油と輸送手段の確保が今後の重要なテーマとして浮上した。同社では3日分の燃料を常時備蓄しているが、多くのデータセンターがそうであったように、震災直後の重油不足と計画停電による混乱で、3日の備蓄が十分なのかどうか判断できず、燃料の確保に奔走した。

また3月12日に正社員に出した自宅勤務指示が派遣社員や業務委託先の社員に伝わらず、非正規社員の多くが3月14日、閑散としたオフィスに出社する事態となった。そのため連絡系統の見直しが必要であるとの指摘が寄せられた。

さらに安否確認システムについては携帯メールが滞留したため、訓練時や過去の例と違って、安否確認に時間がかかり混乱を招いた。これは滞留の緩和により徐々に機能するようになったが、これも見直しが必要とされた。

こうした改善点を踏まえ、2011年9月〜2012年3月の半年間を費やして、同社は首都直下地震を想定したBCPを策定している。IBMが考えるBCP検討プロセスは図表2のように、評価(Assess)・計画(Plan)・実施(Execute)の3段階・8ステップで進められる。

第1ステップでは脅威の想定として、中央防災会議が2005年に発表した被害内容を前提にした。東京湾北部でM7.3、震度6強の地震が発生した場合、ライフラインの復旧は目標日数として電力6日、ガス55日、上水道30日、通信(固定電話)14日とされている。

隅田川に面する本社ビルをはじめ、豊洲・晴海・幕張など湾岸部に重要拠点を擁する同社にとって、この地震は事業継続に最も大きな脅威を与えると考えられた(今年3月、地震を起こすプレート境界が中央防災会議の想定より10㎞程度浅く、湾岸部などで震度7に見舞われる可能性があると発表されたため、現在同社でも想定被害の見直しに着手している)。

事業継続の最優先課題はデータセンターにあるユーザーのコンピュータ資源の保護、および被害のあった顧客システムの保守・復旧である。さらに部門ごとに、例えば経理部門であれば、買掛金および給与の支払い、最低限の決算業務といった必要不可欠かつ最小限の業務を洗い出している。

そして導き出された対応全体サマリーでは事業継続ポリシーとして、「社員安全確保・事業所設備の保全」「お客様の事業継続支援」「企業機能維持」の3つを掲げ、被災想定を3ステップに分類している。

第1ステップは、「一時的な停電・通信不安定」な状況で、この場合は15分以内に初動(災害対策本部の設置)を東京で開始する。第2ステップは、「3日程度の停電・通信不安定(7日程度で事業所復旧)」で、15分以内に初動を大阪で開始する。そして第3ステップは、首都圏の主要な事業所が長期にわたり使用不能になる事態を想定し、意思決定機関(本社業務の一部)を移転させる。

移転先は、首都近郊の候補地として静岡県伊豆市にある研修施設や大阪事業所など、被災の少ない拠点へ状況を判断して柔軟に対応する。これはサマリーであるが、実際にはこのシナリオに沿って、中枢機能の移転を含む詳細な実施手順が策定されている。

ちなみに同社が利用するサーバー群は全て国内外のデータセンターに配置されている。業務で使用するアプリケーションの役割に応じて、データバックアップを含む管理レベルを世界共通のルールで区分し、管理されているため、一般のユーザー企業の多くと違って、サーバー資源については地震の影響を受けにくいと考えられる。

3.11気づきの反映
データセンターの燃料確保や
非正規社員への情報伝達

3.11での改善項目は、このBCPに反映された。

例えばデータセンターの自家発電装置を維持する燃料確保については、複数の石油事業者と優先契約を結び、タンクローリーなどの輸送手段も確保している。

非正規社員への情報伝達については、イントラネットへのアクセス権を付加し、一部の非正規社員についてはe-workの利用を可能にした。派遣会社と協議し、災害発生時の自宅待機については日本IBM側が派遣費用を負担することで合意している。

さらに携帯メールの滞留で遅れた安否確認については、72時間で全社員の安否が確認できるようプロセスを改善した。

今年3月には、東京湾北部地震を想定したBCPに沿って、実際に訓練を実施している。

「 普段から準備していたことはある程度実行できますが、今回の震災のように想定外の事態が立て続けに起きた場合は、その場の判断と柔軟な対応力が必要です。東京湾北部地震を想定してBCPの策定に努力していますが、おそらく予期せぬ多くの事態に直面するでしょう。そうした危機対応では明確な指揮命令系統、適切な権限委譲、情報の一元化による混乱回避の3つを整えておくことが必要です。3.11の経験でそれを強く実感しました」と、江口氏は最後にこう指摘している。

矢島 典子氏 社長室&RMO リスクマネジメント・オフィス
矢島典子氏
社長室&RMO
リスクマネジメント・オフィス

CompanyProfile
本社:東京都中央区
設立:1937年
資本金:1353億円
売上高: 8681億3400万円(2011年12月)
業務内容:情報システムに関わる製品・サービスの提供
http://www.ibm.com/jp/