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IBM iクラウドの新領域を切り拓く「PowerクラウドNEXT」が目指すもの ~奥迫 勇一郎氏(日本情報通信)× 上野 誠也氏(ベル・データ)

日本情報通信とベル・データはPowerクラウドに関する提携を2023年5月に結び、新しいアーキテクチャに基づく「PowerクラウドNEXT」の提供を2024年1月より開始している。
サービスの内容、陣容は従来からのスケールを大きく上回る。PowerクラウドNEXTの狙いと戦略について話をうかがった。

奥迫 勇一郎氏 日本情報通信株式会社 執行役員 クラウド事業本部 本部長
上野 誠也氏 ベル・データ株式会社 取締役 Power事業部 事業部長

それぞれの課題を
補完し合える協業へ

i Magazine(以下、i Mag) 両社の提携はどのようなことから始まったのですか。

上野 最初は“Powerクラウドの先行きをどう見ていますか”といった雑談レベルの話でした。そうしたらマーケットやお客様の見方で一致することが多く、“このまま話を継続させたら面白そうですね”となって、NDAの締結へと進みました。2022年11月のことでしたね。

奥迫 そして12月初めに両社のメンバーが集まって初めてのミーティングを開催しました。それから約3カ月の間に、非公式な打ち合わせを含めると30回ほどミーティングを行っています。12月21日に中間報告、翌年の3月22日に最終報告というスケジュールで進みました。

i Mag かなりのハイペースですが、どのようなことを議論したのですか。

上野 大きくは5つの論点があり、協業の狙い、市場・顧客の分類、提供価値と両社の役割、事業計画、将来展望について話し合いを重ねました。12月下旬に大筋で合意し、最終報告へ向けて議論を深めていったという感じです。

i Mag 両社のカラーや活躍の領域はかなり違うと思いますが、協業の相手としてどこに魅力を感じたのでしょうか。

奥迫 当社は大型のお客様を中心にビジネスを展開してきたので、お客様の数を追う営業体制は敷いてきませんでした。しかしPowerクラウド市場の今後を考えると、市場の拡大に対応できる営業力が必要です。その点で、ベル・データは非常に魅力的に映りました。それと、ベル・データがPowerクラウド上で提供中の付加価値サービスですね。システム連携のためのB-Core API-HUBやアプリケーションツールのBSATシリーズ、ソース・オブジェクトなどアプリケーションの解析ソフトであるX-Analysisなど。そうしたサービスと経験も、市場拡大への対応に欠かせない要素と考えていました。

上野 当社のほうでは2つの課題がありました。1つはPowerクラウド市場が加速度的に伸びていくとき、ハイスペックなマシンや環境をどのように調達し続けていくのかという課題。もう1つは、多様化し高度化するPowerクラウドへのニーズに対応していくための、エンジニアのステップアップやリスキリングです。そのようなことを考えていくと、日本情報通信と組むことによってスピード感をもってPowerクラウドの将来を描けると思えました。

また日本情報通信が提供中のServiceNowを適用した高度化された運用基盤はいろいろな点で魅力でした。お客様のユーザビリティを飛躍的に高められるのはもちろんのこと、一方で運用を効率化し、運用担当者の負荷を軽減できます。そうなると市場の拡大にあわせていろいろな手を先手で打っていけます。

両社のクラウドサービスの流れ

2024年1月に
「PowerクラウドNEXT Gen 1」をリリース

i Mag それぞれの課題を補完し合える相手と考えたわけですね。そして2023年4月に提携を発表し、今年1月に「PowerクラウドNEXT Gen 1(Generation 1)」の提供へと進みます。Gen 1はどのような内容ですか。

奥迫 両社で構想した新しいアーキテクチャに基づくPowerクラウドサービスです。両社のこれまでの経験に基づくノウハウを活かした新しい基盤である、ということを最初にお伝えしたく思います。

スタート時は横浜と大阪のリージョンにベースを設けました。CPUリソースは、固定、バースト、アジリティの3種類でご提供し、必要なスペックやパフォーマンスに応じて選択いただけます。バーストはCPUの上限値までベストエフォートでご利用いただけるモデル、アジリティはリソースの総量でご契約いただき、その範囲内でいくつでも区画を設定できバーストも可能なモデルです。

奥迫 勇一郎氏

サービスを自由に選択可能な
セミオーダー型へ拡

i Mag リソース提供メニューについて、もう少し詳しく教えていただけますか

奥迫 お客様のニーズを捉えて、従来とはメニュー体系を大きく変えました。当社では従来の販売モデルを「Tシャツモデル」と称していました。CPUリソースとメモリ、ストレージをTシャツのS・M・Lのようにサイズごとにパッケージ化し販売していたのです。

ところが市場が広がりニーズが多様化すると、S・M・Lだけではフィットしないというお客様も増えてきます。そこで従来のS・M・Lのパーツをぜんぶバラして、CPUは0.05を最小のベース契約としてそれ以上は0.05コア刻みで、メモリは1GB単位、ディスクは100GB単位で自由に組み合わせられるようにしました。つまりセミオーダー型に変更したのです。

上野 サービスも同様にセミオーダー型に変えました。お使いになりたいサービスを自由に選択し、組み合わせられる方式です。IBM i OSのバージョンアップ、PTFの更新、アプリケーション保守なども選択式でご利用いただけます。

それとPowerクラウドNEXTの大きなアドバンテージと考えているのは、「ストレージコピー」です。従来日本情報通信で災害対策に有効なメニューとして提供していたものを、標準でお使いいただけるようにしました。横浜のリージョンに配置した本番システムのデータは、デフォルトで大阪のリージョンにレプリケーションされます(大阪→横浜も同様)。本番環境として利用中のリージョンが災害時に利用できない場合に、もう一方のバックアップ側のリージョンでシステム全体のデータが保持された状態でシステムを立ち上げることができます(事前にバックアップ側でCPU・メモリの予約が必要)。その後、本番環境の復旧後にデータを戻すことも可能です。お客様は高度な災害対策を標準で利用できることになります。

上野 誠也氏

奥迫 PowerクラウドNEXTへのアクセスは、FIC、NMS Plusセキュアドネットサービス、お客様のネットワーク、インターネットVPN(SSL-VPN)の4つから選択いただけます。インターネットVPNはテスト(PoC)用などですが、それ以外はお客様のプライベートネットワークを引き込んで社内ネットワークと同様に使うことができ、それまでのネットワーク体系を大きく変更せずにご利用いただけます。

i Mag FIC(Felexible InterConnect)はどのようなサービスですか。

奥迫 NTTコミュニケーションが提供する次世代インターコネクトサービスで、AWSなどのパブリッククラウドやオンプレミスのデータセンターと閉域網で接続するための基盤です。PowerクラウドNEXT環境はFICのクラウドサービス事業者として主要なクラウドサービスと結線されているのでAWSやSalesforce、Boxなどとの接続が即座に実現します。FICによって新しいステージに入ると言えるかと思います。さらに、B-Core API-HUBの併用によって基盤からアプリケーションまでスピーディに連携できるようになります。

ユーザーに「カスタマーポータル」と
「サービスカタログ」を提供

i Mag 運用面ではServiceNowが採用されているのですね。

奥迫 その通りです。お客様は、お客様ごとに提供される「カスタマーポータル」を通して運用状況やインシデント管理、お問い合わせへの対応状況などをご確認いただけます。

それと、カスタマーポータルでは「サービスカタログ」もご提供します。利用可能なミドルウェア、ソリューション、サービスを一覧にしたページが提供され、サービスを選択すると料金が表示され、お客様は必要なサービスを選択することができます。

i Mag Powerのクラウドサービスとしては画期的な仕組みですね。

上野 PowerクラウドNEXTの目玉であり、アドバンテージの1つです。お客様は、IBM iソフトウェアの利用に関する煩雑な手続きがいっさい不要になります。IBM iのソフトウェア・ベンダー様にはカタログへの登録にどんどん参加していただきたいと考えています。ベンダー様ソフトウェアをPowerクラウドNEXTに載せるにはライセンス料金の月額化が必要ですが、それが可能ならば商圏が大きく広がります。目下はIBM Power上で稼働するすべてのサービス/ソリューションをPowerクラウドNEXTに載せることが目標です。

また、ソフトウェア製品をおもちでないベンダー様は、再販パートナーとしてご参加いただけます。IBM iを継続させていく意思をおもちのパートナー様たちと幅広いエコシステムを築くのが、PowerクラウドNEXTの将来イメージです。

i Mag サービスカタログはすでに利用可能ですか。

上野 今年5月の提供を予定しています。掲載するサービスの準備を現在急ピッチで進めているところです。

営業はベル・データ
基盤の企画・設計・運用は日本情報通信の担当

i Mag 営業面での両社の連携はどのようになりますか。

上野 お客様への営業はベル・データが行い、契約もベル・データと行っていただきます。日本情報通信はサービス基盤の企画設計と運用管理を担当します。インフラから上位層のIBM iの付加価値サービスの提供はベル・データの担当です。

i Mag 両社の既存のクラウドユーザーはどのような扱いになるのでしょうか。

上野 ご利用中のクラウドサービスが続く限りお使いいただくことが可能で、IBM i OSやIBM Powerの保守サポートが終了したタイミングでPowerクラウドNEXTへの移行をお勧めしていきます。両社とも10年くらいのスパンでお客様の移行を考えています。

i Mag ロードマップをみると、Gen 2が2025年に提供予定となっています。Gen 2はどのような内容ですか。

奥迫 大きくは2つの拡張を予定しています。1つはRed Hat OpenShiftによるコンテナ基盤の提供、もう1つはパフォーマンス・モニタリングツールなどによる高度なマネージドサービスの提供を考えており、現在、検証しています。

一般のITユーザーからすると、Powerクラウドは閉じられた特殊な世界のように見えているのではないかと思います。もちろんそんなことはなく、むしろPowerという強力な基盤の上でさまざまなサービスが利用可能です。OpenShiftは他のクラウドサービスとPowerクラウドNEXTとの連携性を高めるためのツールであり、他のサービスからPowerクラウドNEXTへの移行を促進するインパクトも秘めています。

PowerクラウドをIBM iの狭い世界に閉じ込めるのではなく外部への開かれたプラットフォームとすることも、PowerクラウドNEXTの将来像です。

PowerクラウドNEXTのシステム構成

 

[i Magazine 2024 Spring(2024年4月)掲載]

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