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コミュニティ活動で培ったオープンソース技術と知見を活かし、IBM iユーザーの新陳代謝をお手伝いしたい |牛田吉樹氏 ~IBM iの新リーダーたち❼

牛田吉樹氏
株式会社中部システム
代表取締役社長

牛田吉樹氏は、IBM i技術者としてはちょっと変わった経歴の持ち主である。RPGを本業の仕事としながらオープンソースのコミュニティ活動に打ち込み、その空気とマインドをたっぷりと身につけているからだ。その牛田氏が社長となり、RPGとオープンのハイブリッド・ソリューションに注力している。

IT業界でやってみたい、と
製造業から転身

i Magazine(以下、i Mag) 牛田さんはITにいつ出会ったのですか。

牛田 前職は製造業で建材を作る仕事に就いていたのですが、情報システムの担当者が管理職に昇進することになって、実務を引き継いだのがきっかけです。

会社の基幹システムはSQL ServerとAccessの構成でした。そこで書店へ行って参考書を見つけ、見よう見まねで触り始めました。そのうちに、私が作ったレポートやフォームについて“よくできていて助かった”とか、ちょっとした改修に“使いやすくなった”という声をもらうようになったのです。ITを使って仕事を効率化するのはとても面白く、手を動かすのも楽しい仕事だなと興味を覚えました。それがITへの目覚めだったかもしれません。

i Mag それから3年ほどで(2001年)、中部システムへの転職となりますね。

牛田 ITに対してますます興味が募り、IT業界でやってみたいという気持ちになったのです。とは言っても、ITはプロフェッショナルたちの高度な世界という思いが強く、自分にはまだまったくそのスキルがないという自覚もありました。

i Mag 当時の中部システムはどんな感じだったのですか。

牛田 RPG一本、AS/400一筋の会社で、大きな会社の開発案件を継続的に受注して順調に回っていました。私は先代社長のあとを番犬のように付いていき、案件のサポートをしていました。私がRPGを習得したのは、そのサポートの中でです。とにかくプロフェッショナルの世界に一歩でも早く近づきたいと思っていましたから、必死で勉強しました。人の2倍も3倍も努力をしないと追いつけないと思ってましたね。

そのうちに、うちの会社で自分の色を出すとしたら何ができるだろうと考え始めたのです。

i Mag どう考えたのですか。

牛田 RPG一本の会社でしたから、PC系や下回りの開発・保守はすべて外の協力会社に出していました。しかし外の力に頼るのではなく、自分たちでユーザーのニーズに応えたいとの思いが強くありました。それで、当時の私は、そういった先進的な技術の部分は「若い世代が担うべきだろう!」と考えて、勉強し始めたのです。

そして徐々にですが、身につけたスキルでお客様にPC系からIBM iオープンへのシフトを促す提案ができる会社になっていきました。

社長は技術にはとても厳しい人でしたが、エンジニアは自由にやらせたほうがいいという信念があったのでしょうね。リーマンショック(2008年)になって仕事が激減すると、「こんな時だからこそ、自分たちに何ができるのかを考えろ」と社員に言うような社長でした。

オープンソースの
コミュニティ活動に励む

i Mag その社長の言葉に促されて、牛田さんは何を実行したのですか。

牛田 当時、Java系のGroovyとGrailsという言語・フレームワークに興味をもっていたので、東京や横浜、名古屋などでコミュニティの集まりがあるとよく出かけていました。社長は業績が厳しいときでも、そういった教育に関する費用は惜しみなく出してくれましたね。

コミュニティに集まるメンバーたちは、当時の自分にとってすごく刺激的でした。みんな仕事を終えてから夜に集まり、自分のMacBookを持参、Twitterでつぶやき、はてなブログに投稿というスタイル。技術者の“三種の神器”のようで、それだけで「カッコいいー!」と思ったものです。

そこで、私もはてなブログを始めて、自分でテストしたことや経験したことなどをポツポツと書き始めました。ちょうどそのころにIBM iがMySQLをサポートしたのですが、Db2 for iとMySQLを連携させるためのストレージエンジンについてどこにも情報がなかったので、テストして、そのことを書いたのです。そうしたら「OpenSource協議会 -IBM i」の奥村さん(奥村捨吉氏、当時会長)から、「情報共有させてください」という連絡をいただいたのです。このコメントはブログを始めて初めて貰ったコメントで、とてもうれしかったですね。

i Mag OpenSource協議会が外部との連携を模索していた2009年ごろですね。

牛田 それから奥村さんとやり取りするようになり、奥村さんのつながりでOpenSource協議会のメンバーたちと交流するようになりました。

その一方で、コミュニティ活動が楽しくなって、地元で「静岡Developers勉強会」(shizudev)を仲間たちと立ち上げました。最盛期には30人を超えるメンバーが集まりました。

i Mag shizudevではどんなことをやっていたのですか。

牛田 技術書の読書会がメインで、月に1回、1人が1章を担当して内容を紹介するという持ち回りの勉強会をやっていました。最初のテキストは『プログラミングHaskell』でしたが、関数型という独特の難易度の高い言語で、それに比べるとRPGなどの手続き型言語はやさしいなと感じたことを覚えています。

RPGとオープンを使う
ハイブリッド開発へ

i Mag 仕事のほうはどうだったのでしょうか。

牛田 会社のほうはリーマンショックから持ち直して、少しずつ案件が回り始めていました。その一方で、少数の会社に依存し過ぎることへの反省から、取引先を広げる営業が始まっていました。それと並行して技術も、RPGとオープンを分けて考えるのではなく、両方のよさを活かして、ハイブリッドな開発をする方向へ進めていきました。

ただ言葉だけでは何も伝わらないので、実際にPHPで動くデモサイトを作成しお客様に見せることで、徐々に採用が広がっていったのです。「PHPでこんなことができるの? 驚いた!」というのが、お客様の最初の反応でしたね。それは今も変わらなくて、PHPやオープンソースを使ったことのないIBM iユーザーの反応は同じです。そしてこれらの成果もあり、WebとRPG、CL、COBOLとを連携させてシステムを効率化するソリューションが、中部システムの強みになっていった気がします。

i Mag  そのPHPに関して、「CS^2」を開発したのはどのような経緯ですか。

牛田 IBM i用のPHP(オープンソース)である「Zend Server Basic for IBM i(以下、Zend Server Basic)」の提供元(Perforce社)がIBMと共同で、後継の「コミュニティPHP」を2019年12月にリリースしました。当社のようなユーザーはコミュニティPHPに移行すればいいはずなのですが、調べてみると単純な移行では現行システムが動かないことがわかったのです。

たとえば当時のファースト・アナウンスでは、Db2 for iに接続するためのモジュールがサポートされず、ODBC接続が推奨されていました。当時のほとんどのユーザーはibm_db2を利用していたので、コミュニティPHPのODBC接続を使うにはアプリケーションの改修が必要となったのです。

このままではご支援しているお客様に大変なご迷惑をかけてしまうと思い、自力でモジュールの開発を始めました。しかし、コンパイルが通らなかったり、コンパイルは通ってもテストでエラーになるなど、どうしてもうまくいかなかったのです。

行き詰ってしまい、よいモジュールはないかとネットで世界中を探し始めました。そうしたらSeiden Groupのサイトに行きあたり、「コミュニティPHPへの移行サービス」の説明文の中に「Db2 for iへの接続」という文字を見つけたのです。

i Mag それでどうしました?

牛田 すぐにサイトの問い合わせフォームから「Db2 for iへの接続はほんとうに可能なのですか?」と尋ねました。するとすぐに「もちろんです!」という返事が、モジュールの開発者でSeiden Groupの社長でもあるアランさん(Alan Seiden氏)からありました。それからコミュニティPHP用のDb2 for i接続モジュールを提供してもらい、日本語環境でテストをして、2020年9月に両社共同で日米同時に「CS^2」を発表しました。CS^2は、Zend Server BasicからコミュニティPHPへ移行するときに発生する各種問題を解決するための支援サービスです。今はコミュニティPHPをお使いの多くのユーザーにご利用いただいています。

i Mag Seiden Groupとはその後どのような関係ですか。

牛田 CS^2の技術支援を受けるのに加えて、アランさんには技術的な相談もしています。この間も、「Laravel(PHPフレームワーク)を使うほどの重い案件ではないけれど、何かお奨めのよいフレームワークはない? 」と尋ねたら、「Slimなんかいいと思うよ」という返事が返ってきました。聞いてみるとSlimの開発者(Rob Allen氏)と友人だそうで、アランさんは周囲の評価などもよくご存じです。そして「アランが言うなら間違いない」とSlimを採用しました。ある意味で私は、アラン信者ですね。アランさんを含むSeidenチームからは、ほんとうにたくさんの刺激を受けています。

IBM i開発を支援する
テンプレート集をリリースへ

i Mag そしてCS^2のリリースから約半年後(2021年4月)に社長に就任されます。IBM iユーザーの状況についてはどう見ていますか。

牛田 新しい技術を含めてシステムに積極的に取り組んでいるユーザーとそうでないユーザーにはっきりと分かれるように感じています。そうでないユーザーは古い仕組みのままIBM iを使っていて、新しい技術や新しいやり方をご存じありません。また新しい機能や技術が登場しても、それを使わないユーザーがあまりにも多いと感じています。とても残念な状況で、私たちはIBM iユーザーの新陳代謝を、RPGとオープンソース技術を使ってお手伝いしたいと思っています。

i Mag  何か方策を考えていますか。

牛田 今年はIBM iの開発を手助けするテンプレート集のリリースを考えています。お客様が少し手を加えるだけで自社用のプログラムになるというテンプレート集です。入力系や照会系、バッチ処理系や運用系などいろいろ。言語もRPG、CL、PHP、JavaScirptなどいろいろなテンプレートを想定しています。

i Mag  どこに狙いを置いているのですか。

牛田 意図としては、IBM iの開発やRPGで悩んでいるユーザーが課題を解決し、IBM iを継続的に活用していこうというマインドになっていただくことです。実際、「自分たちのRPGは相当に古いのではないか」とか「最新のRPG開発はどうなっているのか」「IBM iでPHPやJavaScript開発ができると言うけれど、どうしたらよいかわからない」という悩みを抱えているユーザーは非常に多いと思います。

まだ検討をスタートしたばかりですが、テンプレートの原型自体は当社が受託開発などで活用しているものなので、お客様がご利用しやすいスキームに整えさえすれば、インパクトのある製品になると思っています。当社のビジネスという側面ももちろんありますが、IBM i市場が活気づく一助になればという思いが強くあります。

 


牛田吉樹氏
株式会社中部システム
代表取締役社長

2001年中部システム入社。RPG技術者として数多くの受託開発案件を担当する一方、オープンソースの習得も並行して進め、コミュニティ活動にも積極的に参加する。2021年に社長就任。アイマガジンサイトでブログ「ushiday@Hackな日々」を連載中。2022年12月にはQiitaアドベントカレンダーに参加し、「RPGLE」をテーマにスタッフだけで25日間の投稿を完了した。

撮影:武藤慎哉(ゆのみふぉと)
撮影:武藤慎哉(ゆのみふぉと)

株式会社中部システム

本 社:静岡県静岡市
設 立:1996年
資本金:300万円
https://www.cscweb.jp/


[i Magazine 2023 Winter(2023年2月)掲載]

 

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