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新生トーウンの新たな挑戦、DXを推進する多様なシステムで、人の役割を進化させる |辻本貢氏 ~IBM iの新リーダーたち❻

辻本 貢氏
株式会社トーウン
取締役 常務執行役員
管理本部長 兼 関連会社統括部担当 兼
情報システム部長 兼 品質・安全管理部長

近年、物流業界を取り巻く環境は目まぐるしく変化し、多種多様な課題に直面している。トーウンは最新ITを積極的に活用して、これら課題の解決に挑戦する。IT部門を統括し、物流業務のDXを推進する同社の辻本 貢 取締役 常務執行役員に、経営とIT活用のコンセプトを聞く。

人材不足をITで解決する
「働きたい会社」「働き続けたい会社」へ

i Magazine(以下、i Mag) 辻本さんはいつごろから、IT部門を統括する立場になられたのですか。

辻本 私は大学を卒業した1996年にトーウンサービス株式会社(現 トーウン)に入社し、当時の持ち株会社への出向や東北地方にある事業所の所長などを経験したのち、2005年に経営戦略部副部長および情報システムグループマネージャーに就任しました。会社のIT部門を統括するようになったのは、それ以来です。2013年に執行役員、2015年に取締役、2021年に取締役常務執行役員に就任し、現在は経営管理、人事労務、総務、経理、情報システム、品質安全管理、関連会社統括など、管理部門全体を統轄しています。

i Mag トーウンは2019年7月に、創立60周年を迎えられましたね。

辻本 そのとおりです。1995年にグループ4社を統合合併してトーウンサービスを設立してからも、すでに25年が経過しました。創立60周年を迎えて、会社の経営基盤も安定し、順調に事業を拡大していることから、社員が一致団結してさらなる事業拡大を目指せるように、2021年1月にCI戦略の一環として、トーウンサービスから、長年愛称として親しまれてきたトーウンへ社名を変更しました。親会社である株式会社トーモクが東証一部から東証プライムへ移行し、これまで以上のスピードで世界標準の考え方へ転換しているなか、当社もグループの一員として、パラダイムシフトへの対応を加速させています。

i Mag どのような経営コンセプトの下で、IT活用を考えておられるのですか。

辻本 当社は今年から、第6次中期3カ年経営計画をスタートさせました。コンセプトは、「新生トーウンの新たな挑戦」。事業拡大、事業改革、子会社・関連会社のシナジー創出、品質安全、ESGやSDGsの取り組みを重点課題としています。これらを達成するためには、今まで以上にITが重要な役割を果たします。

物流業務は低賃金、重労働といったブラックなイメージをなかなか払拭できず、物流事業者はどこも人材不足が深刻です。お客様からも親会社からも、SDGsやTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への対応を求められていますし、働き方改革への取り組みや2024年問題(乗務員残業時間規制)といった法規制への対応も必要です。なにより、社員が「働きたい」「働き続けたい」「働いてよかった」と思える企業づくりは、喫緊の経営課題です。当社では、それをITの力によって解決していきたいと考えています。

DXを推進する多様なシステムを
IBM iの物流システムが支える

i Mag トーウンにとってのDXを、どのように考えていますか。

辻本 DXには企業ごとに多様な捉え方がありますが、当社にとってのDXは省力化、即時化、ペーパレス化を実現することで、生産性の向上や新たな付加価値の創造、そして高度なスキルが必要な業務へと、人の役割を進化させていくことだと考えています。

考える、工夫する、アイデアを創造するような時間を生み出すことで、仕事のやり方を変えていく。そのようにDXを定義し、ITを活用していくことで、外部からの雇用・登用に頼るだけでなく、いわゆる「人財」を企業内から創出できます。それが物流業界の抱える人材不足への解決策につながると考えています。

i Mag 具体的には、どのような取り組みを進めているのですか。

辻本 人が判断したほうが生産性を追求できる業務と、ITの利用で合理化・省力化・自動化を確実に進められる業務を精査し、それぞれの役割分担を考慮しつつシステム化していくべきだと考えています。

たとえば、これまで手作業で運用していた業務、人が介在しなくても自動化できる定型業務は、AIやRPAなどを積極的に活用してシステム化を推進しています。人が煩わしいと感じる業務、緊急性を伴う判断、これまで手作業で行ってきた業務などを対象に、「T-Series」と称してシステム化を進めています。

例を挙げるなら、災害発生時に家族を含めた社員の安否確認やお客様からお預かりしている商品の安全確認。あるいはトラックにスマートデバイスを搭載し、乗務員の健康状態や運行状況、天候データと連携した配送経路の状況確認、配車係からの運航指示や注意伝達などを実現する「T-Smails」もありますし、「T-Board」と呼ばれる経営管理システムや、「T-Room」という名の社員ポータルなどを構築していきます。

i Mag 基幹システムはIBM iで運用されていますね。

辻本 そうです、こうしたDXの推進を可能にしているのが、IBM i上で再構築した独自の物流システムです。「物流は情報なり」という言葉が象徴するように、物流事業者にとっての物流システムは競争力の最大の源泉です。当社の基幹システムはすなわち物流システムであり、それがシステムの根幹を形成していると考えています。

当社では一時期、PCサーバー上で国産ベンダーが開発したパッケージ型の物流システムを利用していました。しかしパッケージ型の物流システムはいろいろと制限があり、当社の業務やニーズに必ずしも合致していませんでした。またニーズに合致させるためのカスタマイズやちょっとした手直しにも、外注コストが発生します。

そこで2009年にIBM iへ移行し、完全自社開発型で独自の物流システムを構築しました。

これは、当社のコンセプトの1つである「お客様とともにさらに飛躍へ」を体現するシステムです。お客様の要望にどれだけ対応できるかが求められ、お客様ごとに求められるニーズに沿ってカスタマイズできる柔軟性が重要になります。ITでの標準化は行き過ぎると、すべてのお客様に柔軟に対処するのが難しくなります。そこで、IBM i上での再構築を決定しました。

完全自社開発型のシステムで、企画から開発・保守・運用を、パートナーである外部ベンダーの支援を受けながら、内製型で構築しています。お客様ごとに異なるニーズにシステムで迅速かつ柔軟に、そしてきめ細かく対応することが可能であり、たとえば新規のお客様との取引を開始する場合も、1カ月以内に必要なデータや機能をすべて準備できます。

この物流システムはDXを推進する多様なシステムのバックボーンであり、自社開発型であるがゆえに、パッケージ製品を運用していた時期に比べると、年間のランニングコストをほぼ半減させることに成功しました。その分の予算を、DXに象徴される新規システムの開発に投入しています。

ちなみにIT投資の判断基準は、業務に関する標準化、正確性、効率性、即時性を達成できるかどうか、当社の業務プロセスに馴染むかどうか、業務手順を変更できるかどうかを考慮したうえで決定しています。業務プロセスの刷新、業務構造と体質の変革を担うことを、導入の最終目標に据えています。

DXと人材育成
「異次元」をキーワードに新たな発想へ

i Mag 情報システム部の人材育成については、どう取り組まれているのですか。

辻本 まず2022年4月に、情報システム部の組織改革に着手しました。基幹システムの企画・開発・運用・保守、およびサーバー管理などIT環境の整備を担う部署として情報システムグループがあり、それとは別部隊として、AIやRPA、IoTなどの最新技術を駆使してDXを推進するデジタル推進グループを発足させました。デジタル推進グループは基幹システムの開発・保守などの従来業務から分離し、よりユーザー寄りの開発に特化できるように編成しました。現在、情報システム部は社員4名、外部パートナーから派遣された常駐の開発者5名の合計9名で構成されています。

どの企業も同じかと思いますが、人材育成は大きなテーマであり、私自身も日々、「どう人材を育成するか」に悩んでいます。言われたことをそのまま実施する人材ではなく、自分で考え、新しいアイデアを発想し、自ら課題を発見し、その解答を導き出せるような人材を、10年後にどれだけ揃えられるか、どうすれば育てられるかを常に考えています。

私は最近、情報システム部員に対して、これまでの目線を変えるためのキーワードとして、「異次元」という言葉をよく使います。つまり普段とは次元の異なる発想力をもつ、という意味です。お客様や現場のニーズによく耳を傾けることは重要ですが、言われたことをただ実行しているだけでは、これまでの延長線上の改革にしかならない。発想をもっと飛躍させ、新しいアイデアを着想するためのキーワードが「異次元」なのですが、これはなかなか難しいですね。オフィス内だけでなく、飲み会などさまざまなコミュニケーションの機会を捉えて、システム部員たちの考えを聞き、発想の小さな芽を伸ばしていきたいと考えていますが、なかなか一朝一夕にはいきません。目下、人材育成は私自身の最大の課題でもあります。

i Mag  IBM iに対する評価はいかがでしょうか。

辻本 IBM iには、絶大な信頼をおいています。自社開発型の物流システムを運用する場合、サーバー管理が重要なファクターとなります。PCサーバーはシステム構成が複雑で、障害発生時の対応に高いスキルと経験が必要です。これにBCP対策としてのバックアップ構成やセキュリティ対策が加わるため、運用管理業務はさらに煩雑でした。

当社はもともとIBM iユーザーでしたが、さまざまな理由から、PCサーバー上で稼働する物流パッケージへ移行した経緯があります。実はPCサーバーを運用していた時代に、ウイルスによるシステムダウンを経験しました。復旧に5日間を要し、全国の配送センターではオーダー取引や伝票作成などをすべて手作業で処理する状況に追い込まれ、お客様にもご迷惑をおかけしました。全社員の努力で、大きな損害は発生しませんでしたが、システム基盤の信頼性や堅牢性がいかに重要かと思い知りました。

前述したようなパッケージ製品の機能の限界に加え、この時のシステムダウンから教訓を得て、パッケージから自社開発型に切り替え、PCサーバーから再びIBM iへ回帰しました。それ以来、一度もシステム停止を経験したことはありません。今は、あらためてIBM iの堅牢性や信頼性の素晴らしさを実感しています。DXを支えるバックボーンとして、今後もIBM iを有効に活用していきたいと考えています。

 


辻本 貢氏
1996年に、トーウンサービス株式会社(現 トーウン)に入社。2005年に経営戦略部副部長および情報システムグループマネージャーに就任。2013年に執行役員、2015年に取締役、2021年より現職。トーウントラフィック(株) 取締役、宝樹運輸(株) 取締役、(株)仙台トーウン 取締役を兼務。

株式会社トーウン
本 社:埼玉県さいたま市
創 業:1959年
設 立:1995年
資本金:5億7400万円
売上高:288億円(2022年3月期)
従業員数:686名
https://www.tohun.co.jp/

[i Magazine 2022 Autumn(2022年11月)掲載]

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