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JPNICがブログ「ウクライナ侵攻とインターネット」を公開 ~ウクライナ侵攻以降のインターネット基盤に関する動向を整理・要約

JPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)は3月11日、「ウクライナ侵攻とインターネット」と題するブログを公開した。

2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降、インターネット基盤に関してどのような動きがあったか、下記の書簡などの要点の紹介をとおしてまとめている。

◎ウクライナ副首相からICANN CEOへの書簡(2月28日)
https://www.icann.org/en/system/files/correspondence/fedorov-to-marby-28feb22-en.pdf

ウクライナ副首相は以下の3点をICANN CEOに対して要請。同様の要請をRIPE NCC(地域インターネットレジストリ)へも送付予定と明記。以下、断りのない要約はすべてJPNIC。

・ロシアの国別トップレベルドメイン ccTLD (.ru、.su、.PФ)の無効化
・これらccTLDに対するのSSL証明書の無効化推進
・ロシア連邦に設置された2つのルートDNSサーバの無効化 

◎ICANN CEOからウクライナ副首相宛ての返書(3月2日)
https://www.icann.org/en/system/files/correspondence/marby-to-fedorov-02mar22-en.pdf

ウクライナ副首相からの要請に対するICANN CEO(ヨーラン・マルビー氏)の回答。「無効化」の権限はICANNにないので要請には応えられないという内容である。

・ICANNはインターネットの一意な識別子を管理する独立した技術組織であり、単一でグローバルな相互運用可能なインターネットの識別子に関する安全性・安定性・堅牢性を推進する団体である。
・このインターネットに関する技術調整は、政治利用されるべきではなく、また、正常機能を担保するためであり、機能を止めるためではない。
インターネットは分散システムで、誰か一人が止められるようになっていない。IANAの機能に関するポリシーもマルチステークホルダーコミュニティによって策定され、一方的な意思決定の影響を受けにくい構造はグローバルな公益に寄与している。
・ccTLDに関するICANN/IANAの機能は、各国の適格な運用者からの要求を精査して実施することがそのほとんどであり、グローバルに合意されたポリシーにおいては一方的な要求によってドメイン名を切断することは不可能である。
・ルートDNSサーバの運用、SSL証明書の発行はICANN以外の団体によって行われており、ICANNは権能を持たない。

JPNICのブログは、ウクライナ副首相が書簡に記した「プロパガンダや偽情報を防ぎ、市民が正しい情報を得ることを助けるため」という要請の理由に対するICANN CEO マルビー氏の応答として、「市民が信頼できる情報と多様な視点を得ることができるのは、インターネットへの広く自由なアクセスによってのみ可能」という言葉を紹介している。

◎RIPE NCC理事会 重要業務の提供に関する決議について(2月28日)
https://www.ripe.net/publications/news/announcements/ripe-ncc-executive-board-resolution-on-provision-of-critical-services

決議文の要約は以下のとおり。

・通信手段が国内の政治的紛争や国際紛争・戦争などで影響を受けるべきではなく、正しく登録されたインターネット番号資源の提供もこの一部である。
・理事会は、グローバルインターネットコミュニティおよびサービス提供地域の全会員に対してNCCがサービスを中断なく提供するために、合法的なすべての手段を講じる準備がある。
・インターネットサービスの提供者すべてを平等に扱い、NCCが提供する情報やデータが政治的影響や偏向がなく権威として信頼されることが、NCCが30年の間運営を続けることができた根本的な理由である。

◎RIPE NCCからウクライナ副首相宛ての返書(3月10日)
https://www.ripe.net/publications/news/announcements/ripe-ncc-response-to-request-from-ukrainian-government

ウクライナ副首相からRIPE NCCへの書簡は、2月28日のICANN CEO宛てに送付された書簡と同様の内容だが、RIPE NCC宛てには「ロシアからの全会員に対する、IPv4およびIPv6アドレス利用権の取り消し」が含まれていたという。返信の要点は以下のとおり。

・RIPE NCCはコミュニティが策定したポリシーとオランダ法に拠り統制されており、一方的な取り消しなどを実施することはできない。さらに、インターネット番号資源は政治的成果の実現のために使われるべきではなく、そのようなアクションはロシアだけでなく全世界のインターネットに対して深刻な影響をもたらす。
・そのような取り消しは即時的な効果が薄い上に、安定したインターネット運営に必要なグローバルな調整に予測できない影響をもたらし得る。
・要請には応えられないが、ウクライナ国内の会員に対する支援を申し出たい。

◎インターネットソサエティ(ISOC) CEOの声明「なぜ世界はインターネットを弱体化させる動きに抗しなければならないか」(3月2日)
https://www.internetsociety.org/blog/2022/03/why-the-world-must-resist-calls-to-undermine-the-internet/

インターネットソサエティ CEO アンドリュー・サリバン氏の声明は、以下のとおり。

・大きな政争が起こるたびに「彼らをインターネットから締め出すべきだ」という主張が聞かれるが、そのような主張にISOCは反対する。
・今回の紛争では、ロシアのコンテンツの封鎖を求める声、ロシアのネットワークの経路広告を止めようとする主張、さらに物理的回線を切断しようとする主張が見られた。これらは国境を意識するように作られていないというインターネットの根底を理解していないし、ある国を切り離すという考えは、自分の国を切り離すという考えと同じように間違っている。
・インターネットは接続条件が悪い時にも驚くほど復元性が高く、現在のネットワークサービスは世界中のさまざまなところとの通信を前提として成り立っている。ロシアでは自国だけインターネットから切断する試みを行っているし、別の国では社会統制のためとしてインターネット遮断を行っているが、これらは「ローカルインターネット」ではなく単純なインターネットの全面的拒否である。経済発展を阻害し、市民の利益を奪っている。インターネットの切断で偽情報は防ぐことができるが、同時に真実も届かなくなる。
・政治的な判断で相互接続先を取捨するような制御を大事業者が始めると、必ず他国政府がそれに気づき、そのような制御がエスカレートする。早晩にネットワークのネットワークとしてのインターネットは崩壊する。
・現在たくさんの人々が紛争下で生活しているが、インターネットは世界の動向を知り、彼らの苦難を世界に伝える役目を担う。政府の意思だけに従うならば、我々はインターネットがもたらす機会すべてを失いかねない。誰もがアクセスを持つべきだ。

◎ICANN発表「ICANNによる継続的インターネットアクセスのための緊急財政支援」(3月6日)
https://www.icann.org/en/announcements/details/icann-allocates-emergency-financial-support-for-continued-access-to-the-internet-06-03-2022-en

ICANN理事会は、3月6日に下記の決定をした。以下の要約はアイマガジン編集部。

・ICANN理事会は、緊急事態におけるインターネットへのアクセスを支援するために初期100万ドルの資金援助を決定。
・ICANN理事会はICANN CEOに対し、インターネットの固有識別子システムのセキュリティ、安定性、回復力を支援するためのプロセスの開発と資金配分を指示。特に、緊急事態においてインターネットアクセスが危うくなった場合の緩和策を支援するための資金配分を指示。
・ICANN理事会は、今回の決定がウクライナ国内にいるユーザーのインターネットアクセスの維持・支援に役立てられることを期待。

JPNICのブログではこのほか、以下の動きに触れている。

◎CENTR(欧州のccTLD地域組織)によるロシアのccTLDレジストリである.RU Centerの会員資格を一時中止(3月1日)
https://centr.org/news/news/suspension-ru.html
◎Nominet(英国のccTLDレジストリ)によるロシア国内のレジストラからの登録を一時中止(3月10日)
https://www.nominet.uk/an-update-on-ukraine/

 

*JPNICブログ「ウクライナ侵攻とインターネット」
https://blog.nic.ad.jp/2022/7359/

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