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日本総研とアビームコンサルティングが「プロアクティブ人材」に関する実態調査を実施 ~40代が最もプロアクティブ度が低く、自律型人材育成のキーはミドル層にある

日本総合研究所(以下、日本総研)とアビームコンサルティングは6月6日、企業の人的資本経営推進におけるキーファクターの1つである、キャリア構築に向けて自律的に行動する「プロアクティブ人材」の実態と、従業員のプロアクティブ化を促進する環境要因を明らかにすることを目的として、企業に勤務する2万400人を対象とした大規模調査を実施した。実施期間は2022年1月6日(木)~12日(水)。

日本総研およびアビームコンサルティングは、「プロアクティブ行動」の構成概念を、キャリアを自ら築いていくための自律的な行動カテゴリとなる、「革新行動」「外部ネットワーク探索行動」「組織化行動」「キャリア開発行動」の4つと定義している。

同調査では、これらのプロアクティブ行動の実践度合いを5段階で測定し、数字が大きいほど「プロアクティブ度」が高いとした。今回、このプロアクティブ度が4.0以上の人を「プロアクティブ人材」、2.0以下の人を「非プロアクティブ人材」としている。

主な結果は以下のとおりである。

1 従業員自身の職務成果、キャリア実現度、仕事への意欲の3要素すべてにおいてプロアクティブ人材の数値は非プロアクティブ人材の2倍高く、プロアクティブ度はアウトカム(個人の職務成果やエンゲージメントなどに与える影響)に相関する

同調査では、プロアクティブ人材が企業にとって有益な人材であるかどうかを分析するため、プロアクティブ度とアウトカム(社会や業績に与える影響)の関係性を捉えた。

組織内における自身の評価を示す「職務成果」、自身のキャリアの実現度合いを示す「自己実現」、仕事に対する意欲・熱意などを示す「ワークエンゲージメント」の3要素をアウトカムとし、それぞれプロアクティブ人材および非プロアクティブ人材ごとに数値を調査した。その結果、3要素すべてで、プロアクティブ人材のほうが、非プロアクティブ人材の2倍近くの数値を示し、プロアクティブ度の高さがアウトカムの高さに直結することが認められました。このことは、プロアクティブ人材の育成自体が企業価値向上につながることの示唆と言える。

アウトカムとプロアクティブ度との相関関係(出典:「プロアクティブ人材の実態に関する総合調査」)

2 プロアクティブ度は20代から40代にかけて減少し、40代が最も低い値であるため、ミドル層に対するプロアクティブ度の維持・向上施策が重要視される

プロアクティブ度について、年齢別および男女別の違いも調査した。その結果、プロアクティブ度は20歳代から40歳代に向けて下がっていき、その後60歳代に向かって持ち直していく傾向があることが明らかになった。

特に業務上中核的な存在であることが多い40代が最も低い値となっており、低下幅は男性のほうが大きいこともわかった。

年齢帯別のプロアクティブ度(出典:「プロアクティブ人材の実態に関する総合調査」)

これは、入社当初はプロアクティブであった人材が年齢を重ねるにつれて非プロアクティブな人材に変容していることを示す。プロアクティブ度の減少に直面しているミドル層に対していかにプロアクティブ度を維持・向上させていくかが、今後の重要な経営課題の1つになると考えられる。

3 プロアクティブ度が高い人材は転職回数が少なく、プロアクティブ度の向上施策は人材流出にはつながらない

各人のこれまでの転職回数についても調査した。その結果、転職回数が0回だった人の割合は、プロアクティブ人材で47.2%、非プロアクティブ人材で40.7%であった。反対に、転職回数が4回以上だった人の割合は、プロアクティブ人材で7.3%、非プロアクティブ人材では9.5%であった。

プロアクティブ人材のイメージとして、「ドライ」「次々に転職をする」というイメージが持たれる場合もあるが、同調査結果からはむしろ逆で、定着率はプロアクティブ人材のほうが高いという結果になった。

転職回数とプロアクティブ度との相関関係(出典:「プロアクティブ人材の実態に関する総合調査」)

この結果からは、プロアクティブ度の向上施策を打っても人材の流出にはつながらず、むしろ記載の通り企業価値の向上に貢献すると言える。

4 チャレンジを認めてくれる職場や裁量・やりがいのある職務であるほどプロアクティブ行動が活発化する

プロアクティブ度は環境によって変化する可能性があるのかについても分析した。その結果、「(その人の職場は)サポートがあり、チャレンジを認めてくれる職場であること」(職場特性)、「(その人の職務は)裁量があり、やりがいのある職務であること」(職務特性)という環境において、従業員のプロアクティブ度が高くなるという関係性が確認できた。

職場特性・職務特性とプロアクティブ度との相関関係(出典:「プロアクティブ人材の実態に関する総合調査」)

以上の結果から、プロアクティブ人材のワークエンゲージメントは高く、企業業績への貢献と自ら思い描いたキャリアの実現を両立している傾向が見られた。企業にとっても本人にとっても、理想的な「やりたいことを、業務を通じて実現し、成果が伴っている状態」にある人材と評価できる。加えて、離職という企業にとってのリスクが低い人材であることも注目したい点である。

ただし、プロアクティブ度は20代をピークに年齢と共に下がる傾向があり、「放置すると下がる」恐れがある。一方で、プロアクティブ度は職場特性や職務特性によって数値が異なることから、マネジメント次第で維持・向上させることが可能とも言える。

2022年3月の「人的資本経営に関する調査」(経済産業省)では、「人材投資の投資対効果の把握はまだまだ進んでいない」という経営者の問題意識が浮き彫りとなった。人材1人1人のパフォーマンスの重要性が高くなる縮小社会下では、プロアクティブ人材の価値も一層高まる。今後は、プロアクティブ度を人的資本への投資対効果の測定指標として活用し、上司が1人1人の意志に寄り添いながら、それぞれのプロアクティブ度を高めていくことが企業価値の向上に不可欠となると、同調査では指摘している。

 

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