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AIがコードを書く時代に、技術者は何を学ぶのか  ~TEC-Jプレジデント 柿本達彦氏が語る、AIと人間のこれから

生成AIの急速な進化により、システム開発の現場や技術者の仕事、学び方が大きく変わろうとしている。日本IBMの技術者コミュニティ「TEC-J」で2025年からプレジデントを務める柿本達彦氏は、30年以上にわたりテクノロジーの変化を最前線で経験してきた。柿本氏にTEC-Jの活動と、AI時代の技術者に求められる「人間力」について話をうかがった。

柿本 達彦 氏

TEC-J プレジデント

日本アイ・ビー・エム株式会社
技術理事
コンサルティング事業本部

ネットワークからDX、生成AIへ
30年余りの技術変化を最前線で経験

—— 最初に、経歴からお話しいただけますか。

柿本 私は広島出身で、1993年にIBMに入社し、ネットワークのスペシャリストとして仕事を始めました。ちょうどメインフレームからオープン系へ移行し、TCP/IPがビジネスで使われ始めた時期です。1995年にはWindows 95が登場し、インターネットも一気に広がりました。

私はOSI、SNA、TCP/IPと3つのプロトコルに携わり、その後はホスト系とオープン系をつなぐネットワークを担当しました。主にネットワークのソフトウェア側を担当していました。

—— その後、米国にも行かれたのですね。

柿本 はい。ネットワークをやっていたことで、幅広くシステムを見ることができたのだと思います。1999年から2001年まで米国に赴任し、メインフレーム向けTCP/IP製品に関するIBM Redbooksを執筆しました。ちょうど2000年問題の時期です。2001年に帰国し、その後はアーキテクトに転じました。

—— アーキテクトになってからは、どのような仕事をされたのですか。

柿本 帰国後は約10年間、大規模なシステムインテグレーションに携わり、官公庁や金融機関のシステム刷新などを担当しました。

その後、IBMとAppleがグローバルでパートナーシップを締結したころにモバイルのチームへ移り、BtoCやBtoEなどのチャネル系システムの更改に携わりました。当時はUI/UXやデザインシンキングが注目され、企業にとってDXの入り口になりやすかったのがチャネルでした。

—— 企業システムのフロント部分からDXが始まったのですね。

柿本 そうです。ただ、フロント側だけが更改されても、バックエンド側もそれに対応しなければ、本当の意味でのDXにはなりません。そこで、チャネルのDXをトリガーに、バックエンドを含めたエンタープライズレベルのDXを進めていきました。

この考え方は生成AIでも変わりません。顧客とのチャネルをAI化すれば、バックエンドにはAIが利用できるAPIが必要になり、データもAIが理解できる形に整備する必要があります。つまり、フロントの変革を起点に、企業全体の変革を進めていくわけです。

先輩の誘いでTEC-Jへ参加
20年以上にわたり活動を続ける

—— そうしたキャリアの中で、TEC-Jの活動にはどのように関わってきたのですか。

柿本 TEC-Jは1999年に、Academy of Technology(AoT)の日本支部という位置づけでスタートしました。私が参加したのは、アーキテクトになってから2年ほど経った2003~2004年ごろです。TEC-Jで活動していた師匠格の先輩に「TEC-Jに参加して勉強しないか」と誘われ、ワーキンググループに参加したのが始まりでした。

それ以来ずっと関わっています。TEC-Jでは、ふだんの仕事では接点のない方々ともつながることができ、本当にいろいろなことを教わりました。そこにはとても感謝しています。

—— その後、運営にも携わるようになったのですね。

柿本 2016~2017年ごろから3年間ほど、ステアリングコミッティのメンバーとして運営を担当しました。そして2025年からプレジデントを務めています。任期は2年間です。

エンジニアだけでなく
多様な人材が集うコミュニティへ

—— プレジデントになって、TEC-Jで特に取り組もうとしたことは何ですか。

柿本 1つは、多様性をこれまで以上に広げたいということでした。

私が所属していたIX(Interactive Experience)では、デザイナー、コンサルタント、エンジニアが1つのチームとなって、お客様に価値を届けていました。たとえば、デザインシンキングでアイデアを出しても、それを技術的に実現するエンジニアがいなければ、絵に描いた餅になってしまいます。

そうした経験から、TEC-Jもエンジニアだけでなく、デザイナーやコンサルタントが参加するコミュニティにしたいと考えました。ステアリングコミッティにもそうしたメンバーに加わってもらい、多様性を広げていきました。

—— 現在のTEC-Jでは、どのような活動が行われていますか。

柿本 活動の中心はワーキンググループです。カテゴリーは、それまでの7~8から5つに集約しました。ビジネスや社会IT、エクスペリエンスデザイン、アーキテクチャやテクノロジーに加え、リーダーシップやプロフェッショナルスキルといった「人間力」に関するテーマも扱っています。

成果発表の場として、春と秋にイベントを開催し、ポスターセッションを行っています。春はメンバー募集、秋はその年の成果発表が中心です。さらに四半期に1回程度、「ショーケース」という成果発表の機会も設けています。

4分の1を超えるワーキンググループがAI関連
クラウドは「テーマ」から「前提」へ

—— 今年のワーキンググループを見て、何か特徴を感じますか。

柿本 ワーキンググループには、その時々のトレンドがかなり反映されます。今年はAI関連が非常に多く、AIを主眼にしたテーマだけでも全体の4分の1を超えています。

IBMが注目する技術領域にはAI、量子、半導体がありますが、特にAIは非常に幅広い分野に関わります。「AI for IT」と呼ばれるIT開発への適用や、「AI for Business」というビジネスでの活用に加え、デザインの高度化やAI倫理、社会への影響など、今は何を議論してもどこかでAIが出てくる状況です。

—— 逆に、以前は大きなテーマだったハイブリッドクラウドは、目立たなくなりましたね。

柿本 クラウドはもう当たり前になり、「テーマ」ではなく「前提」になったのだと思います。AIやセキュリティなど、さまざまなサービスを支えるプラットフォームとしてクラウドがあります。

実際、IBM Cloudだけでなく、AWSやGoogle Cloudなどのハイパースケーラーとオンプレミスをつないだソリューションを日常的に作っています。ハイブリッドクラウドは、それだけ当たり前の存在になったということだと思います。

半年で変わるAIの世界
問われる技術者の「人間力」

—— そのAIは、柿本さんご自身のお仕事、そしてTEC-Jの活動にどのような影響を与えていますか。

柿本 とにかく驚くのは、スピードの速さです。3カ月前、6カ月前と今とでは、仕事のやり方が全然違う。特にこの1年くらいで、ものすごく加速しています。

私自身、金融機関で生成AIを使った自動応答のコールセンターサービスに携わり、そこで初めて「AI for Business」に本格的に関わりました。実際の案件に携わったことで自分事になり、そこから本気で勉強し始めました。ところが、そのころに作っていたエージェントのアーキテクチャも、今ではかなり変わっています。

—— どのように変わったのですか。

柿本 たとえばコールセンターでは、名前や住所、本人確認などの手順があります。以前はそれぞれに専用のエージェントを用意し、Pythonのプログラムでつないでいました。今は、汎用的なエージェントに役割と必要なスキルを与え、ワークフローも外から与えることで、1つのエージェントがさまざまな処理を行えるようになっています。半年くらいで、作り方が全然変わってしまいました。

—— システム開発の現場も変わりましたか。

柿本 大きく変わりました。IBMでもAIを使った開発支援が全社的に展開され、今ではゼロベースですべてのプログラムを書く人は、ほとんどいないのではないかと思います。AIがないと仕事が進まない、というくらいになりつつある状況です。

TEC-Jでも同じです。スクリプトの作成だけでなく、講演や研修の文字起こしからブログを作るといったことにもAIを使っています。本当に仕事の仕方ががらっと変わりました。

—— AIでそこまでできると、人が介在する余地はなくなるのではないか、という感覚もあります。

柿本 ただし、ファクトチェックは必要です。それと、私がよく言うのですが、AIが作るものには「魂がこもっていない」ということです。

—— それはどういう意味でしょう。

柿本 薄っぺらいというか、表面だけなのです。AIはきれいな文章を作れますが、それをなぜ伝えたいのか、何を大切にしているのかという人間の「思い」までは込められていません。

—— それはコーディングでも同じですか。

柿本 そこは正直、私にもわかりません。ただ、AIが書いたコードには、コメントの付け方などに特徴があり、わかる人が見ればAIが生成したとわかることもあるそうです。

難しいのは、開発者の技術力をどう判断するかです。以前なら、その人が書いたプログラムが判断材料になりました。しかし、AIがコードを書けるようになると、それだけでは本人の能力を判断できません。

—— そうなると、人材育成にも影響しますね。

柿本 そこは非常に大きな課題だと思います。これまで技術者は、自分でプログラムを書き、失敗して、直すという経験を重ねながら技術を身につけてきました。しかし、AIが最初からコードを書いてくれるようになると、その学び方そのものが変わります。

一方で、AIを使わないという選択肢も現実的ではありません。だからこそ、AIを使いながら人間自身の技術力をどう育てていくのか。そしてAIが作ったものをそのまま受け取るのではなく、そこに人間の「思い」や「魂」をどう込めていくのか。

生成AIが急速に進化する今、それが私たちにとって非常に大きなテーマだと思います。

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