探求!ビジネス活用が進むXR技術とは ~VR、AR、MRの進化を支える技術革新とソリューション領域

今まではエンターテイメントや教育・シミュレーションの分野で使われることの多かったVRやARだが、昨今は一気にビジネス活用が進んでいる。そこで本稿では、VRやARにはどのようなソリューションが適用されているのか、今後はどのような方向に進むのかを探ってみたい。

現実と仮想情報を融合させ
人の感覚にフィードバックする技術 

XRは、VR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)、MR(Mixed Reality:複合現実)など、現実と仮想情報を融合させ、その結果を人の感覚にフィードバックさせる技術を総称したものである。

VRは背景・環境もCGで作成した仮想世界だが、ARは現実世界にCGの仮想情報を重層して表示する。MRはさらに、現実と仮想情報が融合・相互作用したVR/ARの上位概念とされている。

共通点は、3Dデータや位置関係を取り扱う「空間コンピューティング技術」である。この分野は進化が早く、毎年のように技術革新が起きているが、現状の開発環境を簡単にまとめると図表1のようになる。

図表1 VRやARの開発環境の整理

2D/3Dゲーム開発から発展してきたUnity(開発言語:主にC#)やUnreal Engine(C++、Blueprints Visual Scripting)、iOSの開発環境であるXcodeで3D空間を構築し、専用デバイスやスマートフォン向けにビルドしたアプリをインストールして利用する。

ARアプリの場合はデバイスのカメラとの紐付け、位置合わせのための仕組み(画像・物体マーカーやGPS、空間推定トラッキング)のために専用のライブラリを実装するほか、ARKit(iOS用)やARCore(主にAndroid用)など、プラットフォームに特化したフレームワークも選択肢となる。

このほか、WebAR/VRもある。ネイティブアプリがスマートフォンや専用デバイスでローカルへのアプリのダウンロード/インストールが必要であるのに比べ、WebAR/VR ではWebブラウザでURLにアクセスするだけでよく、アプリはブラウザ内で稼働する。

用いられる主なライブラリは、WebGL(ブラウザ上で2D/3Dのレンダリングを可能にするJavaScript API)に対応しているThree.js、これを簡易に扱えるようにしたラッパーであるA-FrameやBabylon.jsなどが挙げられる。

以上はWebVRを可能にするが、AR.jsなどのライブラリを取り入れることで、画像マーカーやロケーションベースに対応したWebARも可能である。

昨今のXRビジネス
急成長市場として注目 

MIC総研が実施した主要ベンダー40社に対する事業実態調査によると、2019年度のビジネス向けXRソリューション市場は140億円、VRソリューションの売上高は85億円、AR/MRソリューションは売上高55億円となった。

2020年度は前年度比37.1%増の192億円規模となり、その後も平均成長率45.8%で推移すると予想されている(ビジネス向けXRソリューション市場の現状と展望2020年度版)。

XRは主に、教育・研修、検証、作業支援、プロモーション支援、レジャーなどのソリューション分野で活用されている。

昨年はCOVID-19感染拡大で人の移動が制限されるなか、XRは最もFace to Faceに近いコミュニケーションとして大きく注目を集めており、バーチャル会議やバーチャル店舗、遠隔からの作業支援など、その活用の幅を広げている。

ガートナーは2020年11月に2021年版「戦略的テクノロジ・トレンド」を発表した。10のトップ・トレンドの1つに、「場所を問わないオペレーション」がある。

これには、「仮想世界と物理世界を融合させた、消費者や従業員に最適化されたエクスペリエンスを提供するようになる」と記述されており、XRのビジネス利用に言及したものと考えられる。

VRのビジネス利用 
コロナ禍で進化するバーチャル会議

 2020年は、コロナ禍による「集まれない・外出できない」状況で、急激にVRへの注目度が高まった。よく聞かれた利用形態に「バーチャル会議」や「バーチャルイベント空間」、あるいは「バーチャルツアー」がある。

バーチャル会議とバーチャルツアーは厳密には、図表2のように分類できる。

図表2バーチャル会議とバーチャルツアー

バーチャル会議 

バーチャル会議は、「仮想の」ルームを作ってそこに複数の人数が集まり、その場でスライド表示やホワイトボードに書き込みをするなど、勉強会やイベントなど交流の用途で用いられる。

各ユーザーは3Dのアバターで表示され、Oculus Quest2などのHMD(ヘッドマウント・ディスプレイ)を使えば、頭の傾きやハンドトラッキングに対応して身振り・手振りを反映するので、表現豊かなコミュニケーションを実現できる。

サーバー側では複数アクセスを受け付け、リアルタイムにセッションを共有する機能が必要になる。

バーチャルツアー

バーチャルツアーは「現実の」施設、たとえばショッピングモールや工場・学校などへの見学や訪問体験をさせたい場合に採用される。

360度の写真や3Dスキャンで現実の空間をデジタル化し、そこを歩き回れるようにしている。基本はシングルアクセスなので、通常のWebページのコンテンツとして実装可能である。

もちろん3DスキャンやCGで実際の部屋空間を再現したデジタル空間に、複数人で集まって交流するというハイブリッドな方式も考えられる

バーチャルツアーの構造であるが、まず3Dで球体を作って、その内側に360度カメラで全方位が撮影された画像や動画を貼り付ける。

球体の中心にカメラ視点を設置して、視界を再現する。ちょうど全天球のプラネタリウムを見るような構造だ。

カメラ視点の向きを、アプリを実行するスマートフォンやVRのHMDのような専用デバイスの傾き入力、キーボードから入力した上下左右の方向移動に対応することで、人間が首を回したような視点変更の結果を再現できる(図表3)。

図表3 360度によるバーチャルツアーの構成

球体上に配置したポイントをクリックやポインタービームで指定すると、次のポイントから撮影した写真に遷移することで、ある程度、この空間内を移動しているような体験を実現できる。原理的には、GoogleMapのストリートビューと同じである。

この構造を再現する専用ソフトウェアもあるが、Webコンテンツとしてゼロから開発するのであれば、前述したWebVRが作れるJavaScriptを使用する。

UnityでもWebGL用にビルドできるので、バーチャルツアーを作成できるが、公式にはモバイルブラウザに対応してないので(2021年5月現在)、注意が必要である。

あるいは専門サービスに依頼する方法もある。Matterportが有名で、3Dスキャンと360画像を併用した高精度なサイトを作れるほか、同サービスをクラウド上に公開できる。

バーチャル会議室

バーチャル空間を作成して他ユーザーと交流が図れるサービスで、VRデバイスやPCブラウザなどから参加する。今後は、リモートWeb会議に置き換わるサービスとして期待されている(*1)。

*1
リモートユーザーとコミュニケーションを取れるTV会議などの設備が充実した現実の貸しオフィスのことを「バーチャル会議室」と呼ぶこともあるが、ここではVR上でネットワークを通じて、複数ユーザーが個々のリモート環境からアクセスできるサイト/サービスのことを指す

共通の機能としては、資料や3Dデータを共有すること、ゲームのようにキャラクターメイキングした3Dアバターを操作することなどがあり、音声やチャットにも対応する。「いいね」やファンファーレのようなエモートアクションが可能なサービスもある。

それぞれに特徴や向き・不向きがあるので、図表4を参照してほしい(サービス内容は随時変わる可能性あり)。

ビジネスプランを提供しているサービスの多くは有料で、「ホワイトボードの使い勝手が充実している」「資料をアップする先のリポジトリを正確に管理している」などの特徴がある。

図表4 バーチャル会議室/イベント空間サービス

バーチャル会議室のメリットとしては、Oculus QuestのようなVR用のHMDを着用した場合に没入感があって会議に集中できること、またゼスチャーを反映したアバターでのコミュニケーションは、顔見せのWeb会議とはまた違ったリアルな交流体験が得られるなどの点が挙げられる。

その反面、デバイスへの初期投資やビジネス向けのサービス料、HMDの長時間着用による疲労といった考慮点もある。ただしこれらもグラス型のVRデバイスが近い将来登場すれば、状況は変わるだろう。

既存サービスを利用するのではなく、ゼロから開発する場合は、3D空間や3Dアバターとその操作体系、アップロードしたスライド資料の表紙などのほか、複数ユーザーの同時アクセス時のセッション共有の仕組みが必要となる。Unityの場合は、Photonというマルチプレーヤー用パッケージをサーバー側で構成して組み合わせることが多い。

また、オープンソースであるMozilla Hubsをクラウド(基本的にAWS)上に構築し、カスタマイズして使用することも考えられる。

ARのビジネス利用 
遠隔利用など多彩なサービス提供へ

図表5は、XR開発会社のゲイリー・ヘイズ氏が2009年に ARを技術面から5つのタイプに分類した上で、16種類の主要なビジネスモデルをまとめ、「ポピュラーかニッチか」という商業的な価値の2軸でマッピングしたものだ。

図表5 検討されたARのビジネスモデル(2009年)

ARも技術革新が加速しているが、10年以上前に考案されたモデルにもかかわらず、ショッピングやトレーニング、拡張イベントに用いるなど、今ある利用形態がほとんど網羅されていて先見性を感じ取れる。

今日では、どのようなビジネス形態が有用だろうか。その1つの解として、Microsoftが「MR/ARの効果が実証された利用シナリオ」(2020年、Microsoft)をリリースしている。同社のHoloLensが前提だが、AR一般にも当てはまる(XR Kaigi 2020 SPECIAL SESSION 「さらなる進化を続ける Mixed Reality の世界について」)。

ARのビジネス利用例としては、以下が挙げられる。

・トレーニング&シミュレーション
特殊な状況への対処方法を習得

・遠隔支援
必要なときに、専門家によるリモートからの支援
現場の作業員が見ている情報を共有

・作業支援&タスク管理
ステップ・バイ・ステップの作業ガイド
作業員はより迅速かつ正確にタスクを完了

・デザイン&プロトタイピング
CADやBIMファイルを3Dデジタルツインに変換

・セールスアシスタンス
商品の構成やカスタマイズを視覚的に顧客に紹介

・コンテキストデータ表示
リアルタイムデータを必要なときに必要な場所で利用

この中から、ARによる遠隔支援(リモートアシスト)について説明していきたい。

遠隔支援

遠隔支援では、現場作業者が専門家の意見を聞きたい時に、スマートフォンやスマートグラス、MRゴーグルのアプリを使って遠隔地の専門家と画像を共有し、ARやチャットでリアルタイムに支援を受けられる(図表6)。

図表6 ARによる遠隔支援(リモートアシスト)のユースケース例

現場では、デバイス側のアプリが搭載するカメラ機能で対象を3Dスキャンしており、ARで表示された矢印やアイコンなどの記号、文字列、図表などが説明箇所に正確にアノテーション(注釈の付与)される。アノテーションは、遠隔側からも現場側からも書き込める。

具体的な作業や操作イメージを共有することで、生産性の高い作業が可能になり、専門家が現地に向かったり、映像だけで共有するのに比べて、コストや支援開始までの時間を軽減できる。ちなみに共有セッションには、複数の支援者が参加できる。

ここで紹介している例はトラブルシューティングだが、工場見学やリモート査察対応といった業務にも適用可能である。

ARの遠隔支援に向けては、IBM ソリューションとして「IBM Augmented Remote Assist」が提供されている(図表7)。

図表7 IBM Augmented Remote Assist

フロントエンドはiOSやAndroidで稼働するアプリで、遠隔支援者を同一セッションに3名まで招待可能である(4名同時接続)。このアプリには、Vuzixなどのスマートグラスに対応したバージョンもある。

このようにVR/ARのビジネスシーンへの活用は進んでおり、コロナ禍で注目され、あらためてその有用性が検証された。今後もさらに加速すると考えてよいだろう。

今後の普及の鍵を握る技術

ここからは普及の鍵となる技術革新から、今後の方向性を探ってみよう。

昨年もXRデバイスやフレームワークは、多くのバージョンアップや新製品が発売され活況を呈した。

図表8は、その一部である(ディスプレイに特化したデバイスなどは除く)。

図表8 2020年前後のXRデバイスの動向

上部が専用デバイスで、右側がAR/MR、左側がVRに区分している。このうちスマートフォンで実施するVR(ここではスマートフォンを差し込んで簡易ゴーグルとして両眼用に表示されたコンテンツで使うタイプ)は、市場縮小の気配がある。

Oculus Quest/Oculus Quest2が登場し、この分野のシェアを圧倒しつつあることが影響しているかもしれない。

ARについては、スマートフォンの能力を用いたフレームワークが引き続き活発であるが、その一方、2019年暮れに発売されたHoloLens2に象徴されるように、高級・高機能のMRデバイスの登場による二極化が進んでいる。

その隙間に入るだろう存在が、軽量で装着しやすく、かつ没入感のあるようなAR/MR体験を提供するAR(MR)グラスである。

図表9では、ARKitやARCoreなどスマートフォンAR、ARグラス、MRゴーグルのそれぞれについて特徴、使い勝手のメリット/デメリットを比較した。ARグラスは先行して登場したNreal lightを念頭に置いている。

図表9 スマートフォンAR、ARグラス、MRゴーグルタイプの比較

スマートフォンは広く普及しており、追加投資が不要で、参入の敷居が低い。ただしそのAR体験は四角い画面の枠の中に限定されており、仮想世界を小さな窓から覗くような印象である。

一方、ゴーグルタイプでは自分が仮想情報を表示する世界に身体ごと没入することで、自分との距離感や大きさも肌感覚で感じられる。しかしデバイスが高価なのと、装着の心理的コストや他の作業との切り替えに敷居の高さがある。

これらに対してARグラスは、装着が簡易で、仮想世界に入る体験を容易に得られるので、スマートフォンARとMRゴーグルの差を埋めるものと期待されている。

Nreal lightを始めとするARグラスは、カメラ、センサー、表示部品、スピーカーに特化し、バッテリーやアプリの稼働部分は、有線で接続したスマートフォン側に担わせることで軽量化を果たしている。

またスマートフォンは、メニュー操作用のコントローラーにもなる。文字入力が克服すべきポイントの1つとなるが、ゴーグルタイプと同様に、ハンドトラッキングやバーチャルキーボード、QRコードからの読み取りや音声入力、アイトラッキング(視線入力)が解決策の候補となるだろう。

もう1つの注目すべき進化は、部屋や外界の表面・深度などの空間情報を正確に測定・デジタル化する測定技術である。ここではLiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)を例に挙げよう。

LiDAR(「光検出と測距」もしくは「レーザー画像検出と測距」と呼ばれる)は、光を用いたリモートセンシング技術の1つで、パルス状に発光するレーザー照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離やその対象の性質を分析する。

将来の自動運転車、森に覆われた山岳地帯の地形把握、空からの遺跡の発見や小惑星探査「はやぶさ」のタッチダウンにも応用されている技術である。

AR/MRは現実への情報の重ね合わせ表示なので、対象物への正確な距離を取得できることが重要になる。

LiDARはAppleの最新のiPad Pro/iPhone Pro(12以降)に採用されたことで、注目されている。これにより正確な深度情報を得る3Dスキャンが可能になり、外界をデジタル化するコストが大幅に下がる。

前述したバーチャルツアーでは、複数の360度写真を組み合わせ、地点間の移動で空間を再現していたが、LiDARでは部屋や対象物そのものを3Dオブジェクトとしてデジタル化できる。

UnityやMozilla Hubsのような3D空間に取り込めば、中をアバターで自由に歩き回るリアルな会議室や、リアル店舗のバーチャル空間利用が可能になる。図表10では LiDARの搭載されたiPhone Proで部屋を3Dスキャン、3Dモデル化している(アプリは「3DScannerApp」を使用)。

図表10 LiDAR付き3Dスキャンで間取りを再現する

XR技術の将来
「スペーシャルコンピューティング」「デジタルツイン」の時代へ

米PTCは、3D空間と空間内オブジェクトを扱う計算プログラム作成や、ARコンテンツ開発の基本的枠組みとして「スペーシャルコンピューティング(空間コンピューティング、Spatial Computing)」を提唱している。

XR技術を駆使して、位置情報や3D空間上のインタラクションを実現する革新的で有用なソリューションが今後も展開されるだろる。

前述した技術革新やインフラ整備がこれを後押ししている。たとえば国土交通省は全国の3D都市モデルをオープンデータとし、活用例を募っている(Project PLATEAU)。

すでに、防災設計の可視化や店舗でのセンサー配置のシミュレーション、物流ドローンのフライトシミュレーションなどがユースケースとして挙がっている。

XRでの3D情報レンダリングにはマシンリソースも必要になるが、NVIDIA社はこれをクラウド側で負担するXRコンテンツ配信サービス「CloudXR」を提案している。

広帯域のネットワーク回線が必要であるが、これも5G普及の恩恵を見越した上での戦略だろう。

このように現実の都市や人、モノまでをすべてデータ化・デジタル化し、バーチャルに反映する。そこではデータを操作したり、シミュレーション結果を現実にフィードバックするという世界が想定される。

現実世界の双子のデジタル世界、すなわち「デジタルツイン」時代の到来だ。XR技術は、これを可視化するのに重要なフロント技術となる。

XR技術は製造、教育・研修、流通、社内利用、エンターテインメントなど分野を限らず浸透し、今後我々の仕事や生活を変革するだろう。その変革の速さにたじろがずに、使いどころを見極めて、キャッチアップしていきたいものである。


著者|
岡本 茂久氏

日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリング株式会社
イノベーション・ラボ
シニアITスペシャリスト

1997年、日本IBMに入社、2005年から日本アイ・ビー・エム システムズ・エンジニアリングに出向。エンタープライズ・コラボレーションのミドルウェア、ECソリューションのエンジニアを担当。現在はAR/VRやモバイルアプリ、Watson関連のプロジェクトで設計・開発に従事している。グラフデータベース技術の活用にも関心がある。

 

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