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事例|錦城護謨株式会社 ~大型モニターにリアルタイムな実績情報を表示、現場作業者のモチベーションをアップ!

COMPANY PROFILE
本 社:大阪府八尾市
創業:1936年
設立:1952年
資本金: 8000万円
売上高:60億円
従業員数:297名(2020年1月)
事業内容:工業用ゴム・樹脂製品の製造・販売、自社ブランド土木資材・製品(キャッスルボード・キャッスルシール)の生産・販売、軟弱地盤改良、水路弾性目地工事の設計・施工・管理など
http://www.kinjogomu.jp/

昭和11年の創業時はゴム材料商社としてスタートした後、その材料を使って多種多様なゴム製品の製造に着手。さらにその成形技術を土木用樹脂製品へと拡大してきた。現在はゴム関連を中心とする工業品事業と、独自工法である「キャッスルボードドレーン工法」を核にした土木事業を展開する。2つはまったく異なる事業であるが、独自技術を軸にトータルプロセスで提供して顧客の信頼を勝ち得る特徴は共通している。

 

 

 

出荷作業担当者のモチベーションを
どうすれば高められるか

 家電製品からOA機器、スイミング用品から自転車部品、内視鏡システムにシリコン製の焼き型、知育玩具など、錦城護謨の工業用ゴム製品・樹脂製品は、日常生活品から工業製品まで、あらゆる場面で多岐に渡り使用されている。

 今年で創業84年を迎え、取引先は約300社、部品数は約3000点に及ぶ。国内はもとより、広く海外にも出荷している。

 同社の最大の強みは、金型の設計から原料の配合、試作、生産、検品、出荷までトータルプロセスの下で多様な製品を供給していることであろう。

 売上の70%を占めるこれらのゴム関連製品に対し、残る30%を担うのが土木関係、すなわち独自開発の「キャッスルボードドレーン工法」を中心にした地盤改良技術である。軟弱な地盤に独自のドレーン材を打ち込み、地中の水を排出して地盤を強化する同社の技術が、全国各地の土地開発事業で採用されている。

 プラスチックボードドレーン工法の先駆者として、こちらもドレーン材の設計・製造から現場施工管理まで、トータルにサポートできる点が大きな特徴である。

 同社は1990年にIBM i(当時のAS/400)を導入し、生産管理、経理、土木管理、生産トレーサビリティの各システムで構成される独自の基幹システム「KINJO ERP SYSTEM」を作り上げてきた(図表)。

 

 

 システム部は、池田純子課長以下4名で、若手を含む全員がRPGの開発スキルを備えている。

 また2013年からは「Delphi/400」(ミガロ.)を導入し、基幹データを活用して生産計画作成、品質レポート、現場管理システム、実績管理などを実現している。以前はQuery/400を使ってExcelにデータを抽出していたが、Delphi/400の導入によりデータ活用レベルが大きく向上したという。

 このDelphi/400を利用した最近の開発事例が、「Heart-Boardプロジェクト」と名付けられたユニークなアプリケーションである。これは65インチの大型モニターに、Delphi/400を使ってリアルタイムに、ハンディターミナルでチェックされた出荷準備情報を表示する。その概要を以下に詳しく見てみよう。

 池田氏は2017年11月から時限的に、システム部の課長と生産管理部門の部門長を兼任していた時期がある。これはIT的な視点で、生産管理部門の業務改革を実現することに狙いがあった。池田氏は同部門の各メンバーにヒアリングし、現状分析を進めるなか、出荷業務の担当者たちが毎日の出荷作業に追われ、モチベーションが低下していることに気づいたという。

「毎日の作業は多忙を極め、作業の全体像が見えない、作業の終わりが見えない、どこまでやれば目標を達成できるのかわからない。何も見えないなかで、担当者たちが疲弊しているのを感じました。どうすれば彼らのモチベーションを上げられるのか、頭を悩ませながら工場内を歩き回っていたときにふと、出荷エリアの壁が空いていることに気づいたのです」と、池田氏は当時を振り返る。

「この壁に大型モニターを掲示し、彼らの仕事の成果をリアルタイムに表示すれば、担当者たち自身の励みにもなるし、他部門の社員にもその成果を伝えられて、モチベーションアップにつながるのではないかと思いつきました」(池田氏)

 着想を得たあとの池田氏の行動は早かった。すぐに稟議書を提出して、経営層からの承認を得ると、開発に着手し、大型モニターを導入。2018年1月から稼働を開始している。

 

Delphi/400を使って
実績データをリアルタイムに表示

「Heart-Boardプロジェクト」のネーミングには、担当者の心を動かしてモチベーションを高める狙いが込められている。

 大型モニターには、「出荷準備進捗表(全体)」「倉庫別出荷準備進捗表」「受入件数・次工程行先」の3つの画面が順次表示される。

 たとえば出荷準備進捗表であれば、当日の出荷準備状況をリアルタイムに表示する(図表3)。出荷予定数と準備完了数を並べ、完了率を「%」で表示するので、作業がどこまで進んでいるかが一目瞭然である。

 翌日から3日間の事前準備状況と、過去1カ月の出荷実績データをグラフ表示する。さらに画面下部には運送便ごとの集荷状態を表示しているので、集配会社の担当者にも進捗状況がすぐにわかる仕組みである。

 倉庫別出荷準備進捗表では、出荷指示の品物から倉庫を特定し、倉庫場所別に出荷準備の進捗状況を表示する。これにより各倉庫担当者の競争意識が高まり、モチベーション向上につながる。

 さらに受入件数・次工程行先では、当日の受入実績を件数で表示すると同時に、受入物の行先(工程)別件数と過去1カ月の実績データをグラフ表示している。

 この3つの画面を表示する合間に、各工程の担当者の名前と笑顔で写る写真、それに各自のメッセージを掲載した画面が順次表示されるように切り替えている。

「どんな作業者が業務を担当しているかを、社内はもとよりお客様や運送会社の担当者にも伝えられるように工夫しました。よく道の駅などで、どんな生産者が作っているのか、名前と顔写真入りで紹介している野菜などがあります。あれにヒントを得ました」(池田氏)

 

前日の出荷準備完了率が
85%を突破

 当初、出荷準備進捗表、受入件数・次工程行先の2画面はミガロ.に開発を依頼。社員の顔写真入り紹介画面はPower Pointで作成。IBM iから実績データを抽出するインターフェースは、池田氏自身が開発した。IBM iから実績データ、ファイルサーバーから画像データを送信し、設定INIファイルで画面切り替えや表示時間をコントロールしている。

 作業担当者は、「自分の作業がどこまで進んでいるか、今日の目標まであとどのくらいか」を大型モニターでリアルタイムに確認できるようになった。今、自分の作業がどこまで進んでいるかを見える化したことで、事前準備も着実に進捗し、導入前は40%程度であった前日作業完了率が、導入後は目標85%をクリアするのが当たり前になっている。

 また出荷エリアに設置した大型モニターは、出荷作業の担当者だけでなく、出荷エリアを通る他部門の担当者や顧客、運送担当者など多くの人が目にする。

「来客の方々にとても好評で、よい取り組みだと高く評価されています。多くの人の目に触れることで、担当者たちのやる気を高める効果が確実に出ていると思います」(池田氏)

 大型モニターを設置したあと、管理者のいる事務所でも、同様の画面を小型モニターで確認できるようにしてほしいとの要望があり、対処した。この管理用画面では、出荷場所の大型モニターでの表示情報に加え、トラブル情報を表示して注意喚起を促す工夫もされている。

 2018年に稼働した出荷工程での同アプリケーションが非常に好評であったため、他工程からも設置の要望が相次いで寄せられた。そこで2020年2月には、3工程に合計6台の大型モニターを新たに設置し、実績データをリアルタイムに表示できる体制を整えている。

 池田氏は現在、生産管理部門の責任者の任を解かれ、システム部専任として、今年度はRPAの導入などに取り組んでいる。そのアイデアの斬新さで、今後もITの効果的な活用が実現できそうだ。

 

池田 純子氏 システム部 課長

[i Magazine 2020 Spring(2020年2月)掲載]

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