ミネベアミツミ株式会社の鈴木昭光氏と佐野陽亮氏は、「IBM Bobを徹底検証! ミネベアミツミの成長を支えるAI駆動開発に挑戦」と題して、自社で進めているPoC(概念実証)の取り組みを紹介した。長年IBM i上で運用してきた基幹システムを、AIを活用しながらどのようにモダナイズし、維持・発展させていくのか。その具体的な実践内容が語られた。
ミネベアミツミは、ベアリング、モーター、半導体、自動車部品などを手掛ける総合精密部品メーカーである。世界シェア60%を誇るミニチュアボールベアリングをはじめ、世界最小クラスの精密部品を製造している。
生産拠点は日本だけでなく、タイ、カンボジア、中国、フィリピンなど東南アジアにも広がり、世界28カ国134拠点、約8万1000人規模のグローバル企業として事業を展開している。
鈴木氏は1992年入社。IBM iのオペレーションやRPG開発を経験し、タイ工場赴任やスマートファクトリー開発などを経て、現在は生産調達系システムを担当している。一方、佐野氏は2011年からRPG開発に携わり、生産管理や貿易管理システムの開発を担当してきた。
IBM i基幹システムが抱えていた課題
同社の基幹システムは、System/36時代からIBM iを利用してきた。日本発のベースシステムを各国の法令や製品特性に合わせて個別カスタマイズしながら運用してきた結果、「各国・各製品ごとの個別最適化」が進み、システム全体は複雑化していったという。
さらに、
・IT要員の高齢化
・IBM i技術者不足
・5250のCUI画面を敬遠する若手エンジニアの増加
といった課題も顕在化していた。
過去にはERPパッケージの導入も検討したが、一部拠点では導入できたものの、全社展開には膨大な追加費用が必要となり、ROIを見いだせず停滞したという。また、現場側にも「長年IBM i上で最適化してきたシステムを捨てたくない」という抵抗感があった。
“IBM iに最も親和性の高いAI”としてIBM Bobに注目
こうした状況の中、同社では改めてIBM iの価値を見直した。
IBMが10年以上先を見据えたロードマップを提示していることに加え、AI、クラウド、モバイル対応など継続的な進化を続けている点、そして「25年以上止まったことがない」という高い安定性が評価されたという。
一方で、既存システムを内製だけで維持・拡張し続けることには限界も感じていた。そのタイミングで紹介されたのがIBM Bobだった。
鈴木氏は、「既存ソースコードから仕様書を自動生成できる点や、自然言語でプログラム開発できるといった特徴に大きな可能性を感じ、IBM iに最も親和性の高いAIなのではないかと考え、PoCを開始しました」と語った。
従来の開発では、仕様書作成からプログラミング、テストまでをすべて人手で行っていた。
これに対し同社が目指すAI駆動開発では、
・IBM Bobが既存ソースコードから仕様書を生成
・GeminiやNotebookLMで議事録や業務資料から要件定義書を作成
・その仕様をもとにIBM Bobがコード生成とテストを実施
という流れを構想している。
PoCでは、以下4つのテーマを設定した。
・新規システム開発(自然言語による“バイブコーディング”)
・既存システムのモダナイズ
・データクレンジング
・基盤セキュリティの検証
今回の講演では、特に「既存システムのモダナイズ」に焦点が当てられた。
RPG資産をAPI化しWeb UIへ
モダナイゼーションの対象となったのは、「請求先・出荷先マスター照会システム」である。典型的な5250画面で構成されたRPGシステムを、API化しWeb UIへ刷新することを目標にした。
PoCでは、IBM Bobに既存RPGソースを読み込ませ、「ソース・トゥ・ソース」でAPI用RPGを生成した。
開発フローは以下の通りである。
・Bobがソースを読めるように、IBM iからソースをローカルへダウンロード
・Bobへプロンプトを投入
・Bobが一覧取得APIと詳細取得APIを生成(コーディング)
・生成されたILE RPGソースをIBM iへアップロード
・コンパイルとAPIの動作確認(テスト)
・Web UIを生成しテスト
プロンプトでは、
・参照するソース
・使用する開発ルール
・参考ソース
・出力先
などを指定した。とくに「@記法」で参照ソースを指定できる機能について、佐野氏は「最近知った便利な機能」と紹介した。
コンパイルエラーなしでWeb化に成功
デモでは、Bobが既存RPGを解析し、「一覧API」と「詳細API」の2本のプログラムを自動生成。さらに生成したRPGソースをIBM iへアップロードし、PCML出力付きでコンパイルまで自動実行した。
その後、Web UIも自動生成され、検索画面から一覧表示、詳細画面への遷移まで動作するWebアプリが完成した。
佐野氏は、「今回のデモは、成功した部分だけを切り取ったものではなく、この規模のマスターであれば、一発でコンパイルエラーなく動作した事例です」と説明。IBM BobによるAI駆動開発が、実用レベルに達しつつあることを強調した。
開発工数を約8分の1に削減
PoCでは、約20時間で30本のAPIバックエンドプログラムを作成。約80本の既存ソースを解析し、消費したBobコインは40コインだったという。
従来は1本あたり約3時間かかっていたマスター開発が、AI駆動開発では約20分に短縮され、「約8倍の工数削減」を実現したと評価している。
また、VSCodeベースで開発できる点も大きなメリットとして挙げられた。5250の黒い画面を敬遠していた若手エンジニアにとって、UX改善につながるという。
AIは“完全自動化”ではなく「開発パートナー」
一方で、課題についても率直な見解が示された。
佐野氏は、AIに大量のルールを投入した結果、「ルールが長文化し、Bobのルール順守率が低下してきている」と感じているという。今後は、ルールの分割やエージェント定義、カスタムモードの活用などによって、出力精度の向上を図る方針という。
また、「AIは完璧な自動化ツールではなく、開発パートナーである」という認識を社内に浸透させていく必要性も強調した。
さらに佐野氏は、以前参加したセミナーで「AIは一度で完璧なコードを生成するものではなく、生成とチェック、修正を繰り返しながら完成度を高めていくべきもの」という話を聞いたことを紹介。そのうえで、「Bobコインの消費と品質のバランスが今後の重要なテーマになると感じています」と語った。
IBM iの未来を支えるAI活用へ
最後に同社は、IBM Bobへの今後の期待として、
・IBM iのソースコードやオブジェクト、データへのアクセス性を高め、開発・テストプロセスのさらなる効率化を図る
・コーディング中におけるコンパイルエラーや不整合のリアルタイムチェック機能を強化する
・5250画面に依存しない開発環境を実現し、VS Codeを中心としたモダン開発への移行を推進する
・IT領域にとどまらず、データ活用を通じてビジネス最適化や業務改善提案につなげる
などを挙げた。
講演の締めくくりでは、「一度はERPへ舵を切りかけたが、改めてIBM iの価値を再発見した」と語っていた。
[i Magazine・IS magazine]










