IBM i World 2026の講演のために来日したスコット・フォースティ氏(Scott Forstie(米IBM IBM i Db2 for i ビジネス・アーキテクト)。同氏は、IBMで37年間にわたり数々の革新的プロジェクトに携わり、現在もIBM i、Db2 for i、SQL技術の進化を牽引している。IBM Bobの開発にも深く関わり、Premium Package for iのアーキテクトも務める同氏に、これまでの歩みと、IBM Bobがもたらす未来について聞いた。
私はAS/400の第2世代
i Magazine(以下、i Mag) IBM i World 2026の講演では、IBMで37年間働いていると話されていました。まず、IBMでのキャリアについてお聞かせください。
フォースティ 私のキャリアは、IBMメインフレームのソフトウェア開発から始まりました。勤務地はニューヨーク州キングストンで、最初の仕事はUNIXオペレーティングシステムをメインフレームへ移植するチームで、テスターとして働くことでした。そこで5年間勤務した後、妻とともにミネソタへ移りました。
i Mag ミネソタはご出身地でもあるのですね。
フォースティ 私はミネソタ州セントポール生まれで、ミネソタ大学を卒業しました。父はAS/400の電気系統の技術者で、義父はAS/400のソフトウェア開発マネージャーでした。
i Mag お義父様はフランク・ソルティス(IBM iのルーツであるAS/400の開発者)と働いていたのですか。
フォースティ ええ、その通りです。だから私は“AS/400の第2世代”なんです。
1994年にロチェスターへ移り、UNIXオペレーティングシステムをAS/400へ移植するチームに参加しました。私たちのチームでは、POSIX APIやQShell、PACEなどを開発しました。
私のキャリアは強いUNIXバックグラウンドから始まりましたが、その後、データベース分野へ移りました。マネージャーに「新しい挑戦をしたい」と申し出たのです。
その後、私はデータベースチームのリーダーとなり、最終的にはDb2 for iのアーキテクトになりました。現在もDb2 for iの開発に携わりながら、IBM i向けSQL技術のロードマップ策定にも関わっています。IBM i(OS)のTechnology Refresh(TR)のたびに「Scottによる新機能」が登場するのは、そのためです。
SQL Services、マルチスレッド、DB2 Mirror──3つの大きな挑戦
i Mag 今回の講演では、「IBM Bobほど刺激的な技術はなかった」と非常に印象的な発言をされていました。それ以前で、スコットさんが関わった技術で、とくに印象深かったものは何でしょうか。
フォースティ 私はIBM iの仕事に携わって以来、父やその同僚たちが築き上げたものを、現代のコンピューティング時代に適応させなければならないと、いつも考えてきました。それは、私にとって“家族の血であり伝統”でもあるからです。
そうした思いで携わってきた技術の中で、とくに印象深かったものは3つあります。
1つ目はSQL Servicesです。この13年間、私はOS向けSQLインターフェースを開発するチームを率いてきました。データベース向けではなく、「OS向け」という点が重要です。
SQLを使えば、システム管理やセキュリティ管理を簡素化できますし、IBM iやDb2 for iを知らない人でも容易に扱えるようになります。さらに現在は、Agentic AIがSQL Servicesを利用できるようになっています。これは他のOSにはない、IBM iの大きな強みです。
i Mag 2つ目は何でしょうか。
フォースティ IBM iへのマルチスレッド導入です。1990年代後半、IBM iではすべてのジョブが単一スレッドでしか処理できないという制約がありました。
しかし、UNIXにはマルチスレッド文化があります。私はその経験をIBM iへ持ち込みました。とはいえ、それは本当に実現できるかわからないレベルの壮大な挑戦でした。IBM iアーキテクチャの中で、どう実現するかを考えなければならなかったのです。中心メンバーは5~6人でしたが、IBM i開発チーム全体の理解と協力が必要でした。挑戦的なプロジェクトには、強いリーダーシップと組織全体の賛同が不可欠なんです。そして、その技術を実現できたのは1998年のことでした。
i Mag 3つ目は何ですか。
フォースティ DB2 Mirrorです。
私はDB2 Mirrorのアーキテクトの1人でした。これはIBM iにActive-Active構成をもたらした技術です。クライアント側が何も意識しなくても、2台のIBM iが常に同じデータを持ち続けられる。そのための同期レプリケーションをOS内部で実現する必要がありました。
これも実現には何年もかかりました。2台のIBM iが極めて低レイテンシーで通信し、障害にも耐えられる堅牢性を持たなければならなかったからです。ユーザー企業はIBM iの上でビジネスを動かしていますから、絶対に信頼できなければなりません。あれも、私のキャリアにおける“壮大な挑戦”の1つでした。
Bobは人々の仕事のやり方を変えてしまう
i Mag しかしBobは、それら以上に革新的だということですね。
フォースティ Bobは、真に“破壊的”です。なぜなら、人々の仕事のやり方そのものを書き換えてしまうからです。革命的で、良い意味での破壊的技術です。
i Mag 講演では、今年前半はBobにDb2 for iやSQLを教えることに大半の時間を費やした、と話していました。具体的にはどんなことをしてきたのでしょうか。
フォースティ 私は長年、多くの顧客と対話し、多くのソリューションを構築してきました。その経験から、「より良い方法」や「ベストプラクティス」に対する独自の視点と知見、スキルを持っています。
それをIBM Bobに教え込んできました。言い換えれば、Bobに私自身を理解する方法を教えてきたのです。実際、私の知識をBobのスキルとして組み込み、それを試してみる――そうした作業を続けてきました。
そしてIBM Bobは、私の知識を“スキル”として継承できるようになりました。つまり、Bobは私が蓄積してきた知識を継承しているのです。
i Mag その作業の中で、とくに重視したことは何ですか。
フォースティ セキュリティのベストプラクティスです。たとえば、BobがCREATE LIBを生成する場合、PUBLIC AUTHORITYをEXCLUDEにする。それが自然に選択されるべきなんです。そうした“安全なデフォルト”を重視しました。
「ITはどうあるべきか」を問い直す技術
i Mag Bobは、開発者や運用担当者、ITマネージャーにどんな変革をもたらすのでしょうか。
フォースティ Bobの本質は、単なる生産性向上ではありません。
・私たちはどう仕事をするのか
・ITはどうあるべきか
それを根本から問い直す技術なんです。そして、それはすべての役割に影響を与えます。
たとえば品質保証(QA)分野では、Bobが品質保証そのものをどう変革できるかまで見通して答えを返してきます。ユーザーに必要なのは、その可能性を受け入れることだけです。このこと1つを取ってみても、Bobが仕事のやり方を変え、仕事の意味そのものを問い直す技術であることがよくわかると思います。
RPG Ⅲや固定フォームへの対応は「度肝を抜く」レベル
i Mag i Magazineの最新号(i Magazine 2026 Summer号)では、多くのユーザーがIBM Bobについて「まだ改善の余地がある」と話していました。特に固定フォームRPGでは問題が多いようです。
フォースティ その問題はIBMでも認識しています。そして、それを解決し、さらに前進するためにIBM Bob V2とPremium Package for iを開発したのです。Premium Package for iは、ユーザーを驚かせると思います。本当に“度肝を抜く”レベルです。
IBM i環境には、RPG ⅡやRPG Ⅲのような歴史的資産があります。Premium Package for iでは、それらIBM i特有のコード資産にも対応を進めています。私がデータベーススキルをBobへ教えたように、現在は同僚たちがRPGについてBobを訓練しています。
そしてさらに重要なのは、ユーザー自身がBob環境をカスタマイズできることです。ユーザー独自のスキルやエージェントを追加し、「これが私たちのコーディング標準だ」とBobへ教えることが可能なのです。
i Mag IBM Bob Premium Package for iでは、今後どのような強化が行われるのでしょうか。
フォースティ スキルはさらに改善・最適化されていきます。最適化とは、より速く、より正確な答えを返せるようになるということです。結果として、コストも下がります。
もし顧客が「Premium Package for iは不要だ」と考えた場合、逆にコストが増える可能性があります。組み込み済みのスキルや最適化を利用できないからです。
BobとPremium Package for iは、Technology Refreshのように継続的な更新サイクルを持つようになります。アップデートがあると、Bob上に「Update Available」と表示され、クリックするだけで更新できます。今後はさらに多くのワークフローが追加されていくでしょう。IBM BobとPremium Package for iは、これからさらに進化していきます。
[i Magazine・IS magazine]








