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ASobi/Bar 400|「IBM iはこれからも大丈夫?」への答え方(下野皓平)

 

IBMは、IBM iを提供し続けていきますか?

 

第2回ということで、今回は「IBMは、IBM iをこれからも長い間提供し続けていきますか?」という質問をテーマに書いてみたいと思います。

IBM iがいくら素晴らしい製品で、お客様がそれを使いこなす体制を作っても、メーカーから提供されなくなってしまうと元も子もありません。ですから、「IBMがこれからもIBM iを提供し続けるのか」というのは、IBM iをご利用される企業が長期利用を判断する際のリスク要因としては重要です。

 

 


IBMからは「IBM iをこれからも提供し続けます。IBM iをこれからも進化させていきます」というメッセージが、定期的に出されています。Webサイトやセミナーなどを通じて、繰り返し伝えられているこのメッセージは、主に以下の趣旨です。

・リリースや開発のロードマップを明確にしている(2020年時点で資料には2033年まで書かれており、年々更新されています)。
・IBM iはモバイル、クラウド、AIなど、常に時代の要請に対応した機能拡張を繰り返してきている。
・世界中のさまざまな企業での実績・事例がある
・開発拠点であるロチェスター研究所での人材採用も強化しており、IBM iへの投資を高めている

 


資料|IBM iホワイトペーパー IBM i変革者による変革者のためのプラットフォームより

 

ただ、こうした内容を聞いても、「10年後はどうなるのか」と思われたり、「勝手に計画を変更するのでは」と思う方も、やはりいらっしゃるのでないでしょうか。

しかし、IBMにとっても、合理的かつ、現実的な判断として、IBM iを提供し続けていくと思っています。それは以下の2つの理由です。

1. IBMの他プロダクトとのつながり(依存関係)
2. 実質ソフトウェア事業であること

順にお話していきたいと思います。

 


1.IBMの他プロダクトとのつながり(依存関係)

 

IBM iにはDb2が組み込まれ、POWERプロセッサを前提とした製品です。

まずDb2という観点では、Db2はLinux、UNIX、Windowsで稼働するLUW、IBM Zの上で動くDb2 for z/OSがあります。特にDb2 for z/OSは、金融機関や大規模な製造業はじめ、社会インフラに近いようなシステムで使われています。

このようにDb2ファミリー製品は、多少プラットフォームごとに違うところはありますが、データベース・カラム・タイプやツールなど、共通する部分も多く、関連性の高いプロダクトなのです。より一体となって開発されているようです。その共通性は、近年増してきているといわれています。

そして、POWERという観点では、IBM iだけでなく、AIX、Linuxの基盤としても使われており、Linuxは一時期は世界最速のスパコンだったSummit、そして、SAP HANAなど今伸び盛りの領域でも使われています。最近はPOWER10の情報も出てきて、引き続き積極的に投資していることが確認できます。

研究開発体制も共通であったり、特許などの知的財産も複雑に絡んでいることが推測できます。つまり、IBM iに使われているテクノロジーは他のIBMプロダクトに組み込まれており、そう簡単に切り出すようなことはできないでしょう。売却したSystem xとは、明らかにその点が違います。

 

 


2.実質ソフトウェア事業としての特性が強いこと

 

IBM CloudにおけるIBM iのライセンスが占める価格をご覧ください。



IBM iは、いかにソフトウェアの占める割合が多いかがわかります。一般的に、ソフトウェア・ビジネスはハードウェア・ビジネスと比較すると、顧客基盤ができると、きわめて収益性が高いといわれています。

残念ながら、IBM iに関わる事業の収益性は一切公表されていませんが、15万社以上で使われているというIBM iは 、損益分岐点をとうに越えていることは想像がつくのではないでしょうか(あくまで想像の域を出ませんが)。

ですので、IBM iはハードウェアビジネスと扱われがちですが、実態としてソフトウェア・ビジネスです。

 

「IBM iはいずれ無くなる説」を唱える人の2つの論理展開パターン

 


「IBMはいずれIBM i を売却するのでないか」という疑念は、ロジックを確認すると、一番多いのは、「IBMはハード・ビジネスを売却してきた。だからIBM iも売却していく説」です。

これは、先述の通り、IBM iはDb2も含まれているなど、他の事業との依存度が高いこと、そして、ソフトウェア・ビジネスとしての性質が強いことの2点が、x86サーバーのビジネスとはまったく違うことが説明できるのでないでしょうか。

x86サーバーは、基本的にIntelのプロセッサを調達して、組み立てて、OSは同梱して販売する場合は、マイクロソフトからWindowsライセンスを購入して販売するビジネスで、競合がたくさんいます。

実際に、IR資料を確認すると、x86サーバー事業売却を境に、ハードウェア製品を担当するSystems Technology Group(STG)の粗利率は、30%代後半~40%台から、40%台後半へと改善しています。

一方で、IBM iはソフトウェア・ビジネスですし、競争の激しいコモディティ製品でないことから、利益率は高いと推測できます。だからSystem xと同じに語るのはミスリードだと思うのです。


ほかにも、「他社はオフコン事業を撤退してきた。だからIBMも売却・撤退する説」があります。しかし、市場規模が世界と日本で異なります。さらに、最も投資費用のかかるプロセッサの開発費用も、AIXなどと共同開発できるIBM iは相対的に抑えることができます。

NECのA-VXが稼働するハードウェアExpress5800/600や、富士通のASPが稼働するPRIMEQUESTのプロセッサはIntelプロセッサを採用しました。しかし、一度プロセッサを他社から調達すると、Intelプロセッサの世代が変わる度に、アプリケーションの資産継承性を担保したOS開発が必要となります。この研究開発投資からは逃れることができなくなってしまい、それが製品の継続性を非常に難しくしてしまうのです。

つまりユーザー数もまったく異なるし、プロセッサの開発費用の負担も他社のオフコンとはまったく異なるのです。

 

まとめ

 

IBMは「IBM iに今後も投資をし続けていきます」と宣言しています。

その宣言は、決してボランティアでやっているわけではなく、何よりもIBMにとって合理的だからなのだ、という前提の確認してみました。

『現時点でIBMはIBM iへ長期的な開発計画の元、投資をし続けている』という事実は、IBM iをプラットフォームとして使い続けることへの不安を軽くできるのではないでしょうか。

こうした前提をもとに、私はこれからもお客様がIBM iというプラットフォームをうまく使っていけるような、お手伝いができればと思っています。

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自己紹介プロフィール

下野 皓平(しもの こうへい)
株式会社オムニサイエンス 取締役 COO 兼 ASobi/Bar 400 管理人
オープンソースなど最新技術 × IBM i に取り組む オムニサイエンスにて、IBM i ビジネス事業部を担当。その前は、日本IBMのIBM i 統括部で幅広くIBM iのお客様をご支援していた。ASobi/Bar 400とは、オムニサイエンスの新オフィス内にオープンの招待制セルフ・サービス・バーのこと。

[i Magazine・IS magazine]

 


ASsobi/Bar 400 管理人ブログ

第1回 2030年のIBM iユーザーのあなたへ

第2回 「IBM iはこれからも大丈夫?」への答え方

第3回 IBMの分社化。IBM i は?

第4回 ベンダー・リスク視点から見るIBM i のオープンソース活用

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