
大野 洋一氏
Rocket Software Japan
カントリージェネラルマネージャー
IBM i事業をグローバルに展開
日本でも案件が出始める
i Magazine(以下、i Mag) 大野さんはIBM iに長い関わりがあるのですね。
大野 私は1990年4月に新卒で日本IBMへ入社しました。最初はSEで、1990年代にはお客様を担当しながら、AS/400の導入プロジェクトにも携わりました。当時はロータス・ノーツが大きく伸びていた時代です。AS/400とノーツを組み合わせた提案を積極的に行い、国産メーカーからAS/400へのWin-backもかなり経験しました。
その後、2000年代に米国IBMへ出向し、帰国後はTivoli、Rational、Securityなど、ソフトウェア・ブランドの営業責任者を務めました。2019年にIBMからHCLへノーツをはじめとするソフトウェア事業が移管されたのを機にHCLSoftwareへ移り、日本市場でソフトウェア・ビジネスを担当しました。
そして2025年にRocket Software Japanへ入社し、現在はIBM i、IBM Z向け製品やCOBOLソリューション、Vertica(超並列型DWHプラットフォーム)などのビジネスを推進しています。
i Mag Rocket Softwareは、海外のIBM i市場では非常によく知られた存在です。どのような会社ですか。
大野 Rocket Softwareは1990年に米国マサチューセッツ州で創業しました。現在は世界で3000名を超える社員を擁し、1万2500社以上のお客様、750社以上のパートナー企業をもつグローバルなソフトウェア企業です。
事業領域はIBM iやIBM Zだけではなく、アプリケーション・モダナイゼーションやデータ管理、運用管理、接続・連携など、幅広い分野で製品を提供しています。その根底にあるのは、企業が長年にわたって蓄積してきたIT資産を活かしながら、次の世代へ進化させていくという考え方です。
i Mag IBMとは長い関係があるのですね。
大野 1994年からIBMとの協業を開始しています。Db2、IMS、OMEGAMON、QMFなど、100を超えるIBMブランド製品の開発やサポートにも携わってきました。IBM iの世界でも、米国のPOWERUpへ継続的に参加するなど、グローバルではIBM iコミュニティと長年にわたって緊密な関係を築いています。当社にとってIBM iもIBM Zも、きわめて重要な事業領域です。
IBM i関連の案件はグローバルでは非常に多く、中でもAPAC(アジア太平洋地域)で大きく伸びています。そして日本でも、案件が出始めています。
IBM i戦略は、ブランディング、
パートナー、フットプリントの3つ
i Mag 日本でIBM iビジネスを推進していくために、何を重視していますか。
大野 大きく3つあります。
第1はブランディングです。「Rocket SoftwareにはIBM iに関する豊富な知見と実績があり、IBM iの主要領域を幅広くカバーする製品を提供している」ということを、日本のお客様やパートナー様にもっと知っていただく必要があります。
第2はパートナー戦略です。IBM iのお客様は全国にいらっしゃいます。私たちだけで全国をカバーすることはできませんから、IBM iに強いパートナー様とのリレーションが非常に重要です。大手のパートナー様との関係を強化するのと同時に、ディストリビュータとも連携し、地域のIBM iパートナー様との関係を深めていきたいと考えています。
そして第3がフットプリント、つまり日本での導入実績を積み上げることです。すでにRDRS(Rocket Data Replicate and Sync)やiClusterなどで、国内のお客様への導入が始まっています。こうした実績を事例化し、次のお客様へつなげていきたいと思っています。
当社は2025年以降、日本市場への投資を拡大し、2026年には営業・技術部門も拡充しました。
i Mag Rocket Softwareが掲げる「Modernization without Disruption」は、どのような考え方ですか。
大野 私たちが考えるモダナイゼーションは、今あるアプリケーションを活かしてモダナイズすることです。システム全体をスクラップ&ビルドするのではなく、既存の資産を活用しながら必要なところを新しくし、それを段階的に積み重ねていく──それが私たちの「Modernization without Disruption」です。
IBM iのお客様と接していて強く感じるのは、IBM iそのものに不満をもっているわけでは決してないということです。むしろIBM iを高く評価し、できるなら今後も使い続けたいと、多くのお客様が考えておられます。そうしたお客様のシステムにこそ、Modernization without Disruptionの考え方がフィットします。IBM iを活かしながら、既存のアプリケーション資産も継承し、必要な部分から着実にモダナイズしていけるからです。
i Mag IBM iユーザーの課題はどこにあると見ていますか。
大野 一番大きいのは人材です。長年IBM iを担当してきた技術者が高齢化し、定年を迎える時期が近づいています。「担当者がいなくなったら、システムを運用・保守できなくなる」という深刻な状況に、多くのお客様が直面しています。また、長く使われてきたシステムほどブラックボックス化も進んでいます。
一方で、「クラウドと連携したい」「AIを活用したい」といった新しいニーズも高まっています。こうした課題は、いずれも人材不足や技術継承の問題と深くつながっています。

IBM iソリューションを
全方位でラインナップ
i Mag そうした課題に対して、どのような製品を提供しているのですか。
大野 まず、現状を「知る」ための製品として「Rocket Process Insights」があります。これを使うと、IBM iが実際にどのように利用されているのかを可視化でき、利用頻度の高い業務やボトルネックになっている業務などを詳細に分析できます。
長年使われてきたシステムでは、特定の担当者しか全体像を把握していないケースも少なくありません。Rocket Process Insightsを活用すれば、勘や経験だけに頼るのではなく、実際のデータを基に「どこからモダナイズすべきか」「何を自動化すべきか」を判断できます。システムの現状を可視化し、その内容を把握できるようにすることは、属人化を防ぎ、技術を継承していくという意味でも重要です。
i Mag 現状を可視化・分析した後は、どのように進めていくのでしょうか。
大野 次は「つなぐ」フェーズです。たとえば「Rocket API」を使えば、既存のIBM iアプリケーションをAPI化し、外部のシステムやサービスと接続できます。また、RDRSを利用すれば、IBM iのデータをほかのデータベースやクラウドへ連携できます。
さらに、5250画面をWeb化・GUI化することで、ユーザー・インターフェースをモダナイズすることも可能です。「Rocket Modern Experience」や「Rocket Secure Host Access」などを利用すれば、画面のモダナイズとセキュリティの強化を進めることができます。
重要なのは、既存のIBM iアプリケーションを一度に大きく作り変える必要はないということです。まず現状を把握し、必要な部分を外部とつなぎ、データや画面を段階的にモダナイズしていく。そうすることで、今ある資産を活かしながら、システムを進化させていくことができます。
i Mag そうした製品の中で、日本市場でとくに大きな反応があるのは何ですか。
大野 パートナー様とお話ししていると、RDRSへの関心がかなり高いと感じています。
RDRSは、異なるデータベース間でデータをレプリケーションする製品です。特徴の1つは、階層型データベースとリレーショナル・データベースの間でもデータをレプリケーションできることです。実際、あるパートナー様にPoCを実施していただいたところ、この機能を高く評価していただき、採用につながったケースもありました。
i Mag RDRSは、単にデータを複製するための製品ではないということですね。
大野 そうです。RDRSはリアルタイムのデータ連携だけでなく、クラウドへのデータ移行や、データウェアハウス、データレイクなどの分析基盤へデータを供給する用途にも活用できます。
i Mag データ活用の先にはAIもありますね。Rocket Softwareは、AIをどのように位置づけていますか。
大野 Rocket Softwareでは今年に入ってから、グローバルでAI戦略を加速させています。ただし、AIを単独の製品として提供する考え方はありません。私たちが長年蓄積してきたアプリケーション、データ、インフラ、モダナイゼーションなどの知見とAIを組み合わせることで、お客様のシステムや業務を変革していくことを目指しています。
その中核に位置づけているのが「Rocket EVA」です。EVAは、Rocket Softwareが蓄積してきたアプリケーション、データ、インフラに関する知見を生成AIと組み合わせたAIプラットフォームです。AIを単なるチャット・ツールとして利用するのではなく、企業システムの運用やモダナイゼーションの中に組み込んでいこうという考え方です。
i Mag IBM iユーザーの間では、IBM Bobへの関心が高まっています。EVAとはどのような違いがありますか。
大野 IBM Bobは、主にアプリケーション開発を支援するAIです。それに対して、EVAで私たちが考えているのは、システムの運用・監視領域での活用です。
たとえばIBM iでトラブルが発生したときに、EVAが運用データをリアルタイムに分析し、障害原因の特定や復旧の判断を支援する。さらに、ベテラン技術者が長年の経験を通じて蓄積してきた運用ノウハウをAIで補完することで、属人化を減らし、技術継承につなげていくことも考えています。
ですから、IBM BobとEVAは競合するものではありません。開発と運用という、それぞれ異なる領域を支援するAIだと捉えています。
i Mag 将来的には、IBM BobとEVAが連携するような世界も考えられますか。
大野 その可能性は大いにあると思っています。たとえばEVAが運用中のシステムの異常を検知し、どの業務、どのアプリケーション、どのプログラムに問題があるのかを特定する。そして、その情報をIBM Bobのような開発を支援するAIへ渡して、プログラムの分析や修正につなげていく。そうなれば、AIを介して運用と開発が連携することになります。
EVAをはじめ、当社が提供する製品はこれからも継続的に進化していきます。製品のさらなる強化とともに、日本のお客様を支援する取り組みにも力を入れていきますので、ぜひ今後のRocket Softwareに注目していただきたいと思います。
Rocket Softwareが、日本のIBM i市場で本格的な事業展開に乗り出している。グローバルではIBMと30年以上にわたり協業し、IBM iやIBM Z向けに多様な製品と豊富な実績をもつ同社だが、日本のIBM i市場ではこれからが本格スタートとなる。2025年に大野洋一氏がカントリージェネラルマネージャーに着任し、パートナー網の拡大、国内での導入実績づくり、ブランド認知向上を軸に活動を加速している。その狙いと、日本のIBM iユーザーにどのような価値を提供しようとしているのか、話をうかがった。
撮影:広路和夫
[i Magazine 2026 Autumn掲載]






