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事例|フジ住宅株式会社 ~RPAが全社に浸透し適用範囲が拡大、余力化は年間1700時間を突破

本 社:大阪府岸和田市
創業:1973年
設 立:1974年
資本金:48億7206万円
売上高:1157億円(2019年3月、連結)
従業員数:1174名(パート社員を含む。2019年3月、連結)
事業内容:分譲住宅事業・住宅流通事業、土地有効活用事業・賃貸および管理事業、注文住宅事業
https://www.fuji-jutaku.co.jp

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管理部門から
業務部門へ広がる

 大阪府の南部、岸和田市に本社を構えるフジ住宅は、東証第一部上場の住宅・不動産業のなかでも業績が好調なことに加えて、積極的な社会貢献や「健康経営」でも知られる企業である。

 2019年3月期の業績は、売上高が過去最高の1157億円、営業利益・経常利益・純利益も過去最高を記録。新たに発表した中期経営計画では2022年3月期の売上高を1250億円とし、さらに高い成長を見込んでいる。

 一方、社会的責任の追求、社会貢献は同社の社是とするところで、従来から多方面の分野で活動を展開。最近では和歌山県日高郡の2haあまりの森林を「フジ住宅の森」と名づけ、植林・育林をとおした環境保全を推進している。また、従業員の健康管理を経営的な視点で捉えて戦略的に取り組むことを指す「健康経営」に関しては、経済産業省の「健康経営銘柄2019」を2年連続で(3回目)、「健康経営優良法人2019 大規模法人部門(ホワイト500)」を3年連続で受賞するなど、その活動が高く評価されている。この9月にも、日本政策投資銀行の「DBJ健康経営(ヘルスマネジメント)格付」の最高ランクに認定されたばかりだ。

 こうしたプロフィールをもつ同社が、全社を挙げてRPAを推進していることは本誌(i Magazine 2019 Summer)でレポートしたが、その後適用範囲をさらに広げ、取り組みを拡大させている(図表1)

「従来は部門別で言えば、Excelを多用する管理部門が中心でした。それらの案件は依然として数多くありますが、それに加えて最近は設計、建設、購買などの業務部門からの依頼が増えています。ほぼ全部門から問い合わせや依頼がくるようになりました」と語るのは、システム室室長の杉本洋介氏である。

 

杉本 洋介氏 システム室 室長

 

 

RPAが社内に浸透する
仕掛けとサイクル 

 

                                                                                                                                                                                                                    ・

 図表2は、同社のRPA案件の2019年9月末現在のステータスである。本番稼働中が41件、開発中が6件、開発待ちが43件ある。これらをシステム部員22名のうち約5名で担当しているが、「各部門からの相談や依頼がひっきりなしにあるので、バックログはいっこうに減りません」と、システム室主事の長谷川麻衣氏は話す。

 

長谷川 麻衣氏 システム室 主事

 

 

 同社がRPAの活用を本格的にスタートさせたのは2018年6月のこと。それが約1年あまりで社内に広く浸透したのには、次のような事情がある。

 同社では毎月、「経営理念感想文」と呼ぶレポートを約1200名の社員全員が提出する。テーマは「社員のモチベーションが上がる」「マネできる」「活用できる」ものならば何でもよく、社長がそのすべてに目をとおし、約120名分を選抜。『経営理念感想文』というA4判約200ページの冊子にして社員やその家族、知人などに配布している。「他部署の動きや社員の考え・思いがよくわかる情報共有ツール」(杉本氏)としても機能している冊子だが、そこに長谷川氏のRPAに関するレポートが何度も掲載されて、システム室に問い合わせがくるようになった。

「RPAについてレポートした文中に“何でもいいのでシステムへ連絡ください”と記してから、少しずつ質問や相談がくるようになりました。そのうちRPAを導入した部署の人の“RPAって便利”という感想も載るようになって評判となり、じわじわと社内に広がっていきました」と、長谷川氏は振り返る(図表3)

 

 

 問い合わせ・相談から依頼へと進むと、RPA化したいという業務の担当者に対してヒアリングを実施。さらにシステム室で仕様や着手時期などを固めて、開発、導入へと移る。ヒアリングは最初だけでなく、開発中も何度でも部門の担当者に問い合わせる。

「ヒアリングを行って業務の課題を抽出しても、開発の最中にその内容が明確でないことが判明したり、RPAツールを使ってもうまくいかないことがでてくるので、その都度、担当者に連絡を取り、確認するようにしています」と、開発担当の大向優貴氏は説明する。

 

大向 優貴氏 システム室

 


約40本のRPAシステムで
年間1700時間を余力化

 図表4は本番稼働中のRPAプログラムである。約40本のRPAシステムで年間1700時間超の余力化という大きな実績を残している。

 

 

 このうちサービスイン目前のNo.39とNo.40は、OCR機能を適用したシステムである。

 同社では年間700〜800棟以上の戸建て分譲住宅を販売する。個々の住宅の建築・施工に際しては、換気図・配置図・筋違図などの設計図面がついて回るが、従来、設計部では図面が完成すると、1枚1枚スキャンして、そのデータを個々の住宅のフォルダへ手動で入れる作業を行ってきた。800棟あれば800個のフォルダへ2400件のスキャンデータを2400回投入する作業である。

「設計部門からはさまざまなRPA化の要望が出されましたが、スキャンして個々別々のフォルダに入れる際の作業負荷と担当者のストレスも高いことがヒアリングの結果わかり、これから取り組むことにしました」(長谷川氏)

 この業務のRPA化にあたってシステム室が考案したのは、各設計図面にカバー用紙を付け、カバー用紙→設計図面の順にスキャンし、カバー用紙のデータをOCR機能で読み取ることによって、スキャン後のデータを自動的に特定のフォルダに振り分ける仕組みである。カバー用紙には、4桁の「現場コード」、3桁の「号地」、図面の種別(換気図・配置図・筋違図)を読み取る「図面判定番号」を明記し、複合機でスキャンしたデータの判別にはAutoMateのOCR機能を利用することにした。

「AutoMateのOCR機能は、専用のOCRソフトと比べると簡易的なものなので、最初は識字率を上げるのにとても苦労しました。しかしいろいろなフォントをあれこれ試し、数字の大きさを大小変えることによって実用に耐えられる精度にでき、現時点で数値のみの識字率であれば100%に近い識字率を達成しています」と、長谷川氏は取り組みについて述べる。

 また杉本氏は、「今回は、定位置にある数字を読み取るだけだったのでAutoMate付属のOCR機能で十分でしたが、今後、かな・漢字や手書き文字なども読み取る必要が出てきたら、専用のOCRソフトやサービスを検討するつもりです」と話す。


RPA化を前提に
業務を整理し直す

 No.34「Web21ダウンロード-口座情報-基幹システム入力」は、「RPAツールによる自動化を前提に業務フローを整理し直し、RPA化した初めての取り組み」(長谷川氏)である。

 同社では分譲マンションの管理業務を多数受託している。従来は、各分譲マンション組合の通帳を持って定期的に銀行に出向き、記帳や入出金手続きを行い、帰社後、基幹システムに入力していたが、350冊を超える通帳があり、一連の業務を終えるまでに大変な時間と労力がかかっていた。

 そこで、金融機関のオンラインバンキングを利用し、

各分譲マンション組合のWeb口座を開設。それぞれのWeb口座へアクセスして入出金データ(CSV)をダウンロードし、それを基幹システムへ入力する一連の作業をAutoMateでRPA化した。

 長谷川氏は、「これにより年間364時間かかっていた業務が153時間で済み、211時間を余力化できる見通しです」と導入効果に触れたうえで、「現在は既存の業務をなぞるようにRPA化を進めていますが、今後は業務をBPR的に整理したうえでRPA化したり、新しい業務が立ち上がるときはRPA化を前提に業務の進め方を考えることもでてくると思います」と、No.34の経験を話す。


「予想工数算出方程式」を
独自に考案

 システム室では今年8月から「予想工数算出方程式」の利用を開始している。文字どおり、1つのRPA案件の開発に何人日かかるかを見積もるためのもので、杉本氏の命を受けて長谷川氏が考案した。

「開発を依頼してきた部署に納品のメドを伝えたいのと、開発要員のスケジュールを押さえ、開発を効率的に進めるための方策です」と、杉本氏はその狙いを説明する。

 方程式は、対象ソフトの難易度(開発係数=Ⓐ)と、そのソフトで「入力」「出力」「データ取得」のそれぞれをRPA化した場合の難易度(処理係数=Ⓑ)を加算し、さらにⒶとⒷの合計値から「複雑さ」を算出(ロジック係数=Ⓒ)して加算し、そのうえで使用ファイル数(=Ⓓ)を加算する。このⒶ+Ⓑ+Ⓒ+Ⓓの合計値が開発難易度(=Ⓔ)で、Ⓔから係数を割り出しバッファとして1.5倍したものが「予想工数」となる(図表5)

 

 

「難易度は、当社の開発要員を想定した経験的・感覚的なものですが、RPAで行っていることは「入力」・「出力」・「データ取得」の定型化された3業務であり、これに対象となるソフトが決まれば、RPAの開発手法は決まるため、おおよその工数は見積もれます。難易度を開発者ごとに設定すれば弾力的な工数算出も可能で、さらに目標となる開発者の難易度を設定することによって、その実績から、目標と据えた開発者と自身の開発工数の差を認識でき、どの部分が弱いのか分析することも可能で、スキルアップの目標値とすることもできます」(長谷川氏)

 8月以降の案件で予測工数と実際の工数を比較すると、「ほぼ方程式どおりの結果になっています」と、長谷川氏は言う。


仕様書は作らない方針を変更
手順書の提出を求める

 本番稼働するRPAシステムが増えるにしたがって、同社では新しい課題も浮上している。

 その1つは仕様書である。同社では従来、RPA化の対象をExcelやWebサイトなどでの単純作業としていたので「RPAシステムの内容は変わるのが必然」と考え、仕様書はいっさい作らない方針としてきた。しかし、RPAで開発したシステムで不具合が起きて停止した際に、システム(=動作)の中身を知る担当者が不在で、かつマニュアルや仕様書もなかったために手動でも業務を行えないという事態が発生し、問題となった。

「今後はシステムの仕様が固まり次第、各部署に手順書を作成してもらい、どのような作業をRPA化したのかを明示化してもらうことにしました」(長谷川氏)という。

「RPA化については、1年半の取り組みでそれなりの結果も出すことができ業務部門からの評価も高いので、今後も強力に推進していく考えです。ただし、RPAが業務になかに根づくのに伴って、システムの安定的な運用が大きな課題になりつつあります。普及の勢いを止めないようにしながら、RPA運用の効率化と安全を一層図っていくつもりです」と、杉本氏は抱負を語る。

 

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COLUMN | AutoMateの使い手は、東京パラリンピックを目指す

 

 AutoMateを駆使してRPAシステムの開発を担当する大向優貴氏は、来年の東京パラリンピックを目指す水泳選手でもある。

 フジ住宅へは大学卒業後の2016年にアスリート雇用により入社。システム室の配属となり、以来VBAを習得してExcel関連プログラムの開発に従事し、昨年からはAutoMateの担当となり、数々の業務自動化を支援してきた(図表4のNo.10、17、25、27、35、41などを担当)。

「私は19歳のときに負った脊髄損傷により、首から下の腹筋や背筋、足などの自由が利かなくなりました。手に障害があるため、プログラムのコードをすべて打つ必要のあるVBAの開発はかなり大変で時間もかかっていましたが、AutoMateはドラッグ&ドロップで作業でき、頭のなかで描いたイメージどおりに開発できるので、開発時間がかなり短くなったという感覚をもっています」と、大向氏は話す。

 現在は、火曜に出社して終日勤務し、月曜と木曜の午前中、テレワークで開発を行い、そのほかの時間は練習とトレーニングに当てている。9月21〜23日に開催された「ジャパンパラ水泳競技大会」では、自由形の予選で自己ベストを更新した。次は、11月23〜24日開催の「第36回日本パラ水泳選手権大会」(千葉市)に出場する予定という。

大向 優貴氏のブログ
http://www.fuji-ie.jp/blog/omukai/

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フジ住宅が手がけるマンション・戸建て注文住宅・サービス付き高齢者向け住宅

[i Magazine 2019 Winter掲載]

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