三洋物産株式会社 情報システム部の山本拓治氏は、IBM iとIBM Bobを活用したレガシーシステム刷新の実践事例について講演を行った。
セッションタイトルは、「若手技術者がIBM i × BobでCOBOLレガシーのモダナイズに挑戦! ファースト・インプレッションは如何に?」。
講演では、40年以上稼働し続けた国産メインフレームからIBM iへの移行プロジェクトに加え、AIを活用したCOBOL資産の解析・改修への挑戦について、現場視点ならではのリアルな経験が語られた。
40年以上動き続けた基幹システムを刷新
三洋物産は1973年創業の酒類・食品総合卸売企業。サントリー製品を中心とした事業展開に加え、「ハイランドパーク」「オールドプルトニー」など海外洋酒ブランドの輸入販売、プライベートブランド事業も手がけている。
同社で基幹システム刷新が本格化したきっかけは、長年利用してきた国産メインフレームベンダーから通知された「2035年度サポート終了」だった。
パッケージ導入や他社メインフレームへの移行も検討されたが、最終的に選択したのはIBM iへの“ストレートコンバージョン”である。
背景には、約20名という少人数体制で、販売・物流・会計など基幹業務システムの大半を内製・自社運用している事情があった。さらに、システムには40年以上にわたって蓄積された膨大なCOBOL資産が存在し、18種類以上のEDIや700種類を超えるデータが複雑に連携するなど、業務ロジックは極めて複雑だった。加えて、経営層から与えられた移行期間はわずか2年。極めて厳しい条件下でのプロジェクト推進が求められていた。
「既存業務を止めないこと」が絶対条件だったという。
そのため同社では、COBOLを「ILE COBOL」に、JCLを「ILE CL」へ変換し、オンライン画面やバッチ仕様を可能な限り維持する移行方針を採用。2023年に始動したプロジェクトは、約2年間を経て、2025年にIBM i上で本番稼働を迎えた。
IBM i移行で見えた「次の課題」
IBM iへの移行効果は大きかった。年次処理では、従来13時間を要していたバッチ処理が3時間へ短縮。利用可能な開発ツールも増え、従来環境では難しかった最新技術への対応も現実的になった。そして山本氏が「最大の変化」と語ったのが、“AIを基幹システム保守へ活用する発想”が生まれたことだった。
一方で、レガシー特有の課題も残っていた。その代表例が、「得意先コードの桁数不足」である。事業拡大に伴い、既存コード体系では限界が見え始めていた。
そこで同社は、IBM Bobを活用した大規模解析プロジェクトに着手した。
プロジェクト期間は3カ月。社内3名に加え、日本IBMの技術者3名も参加し、約1万8000本に及ぶソース資産を対象に影響調査を進めた。
Bobが自ら“段取り”を組み立てる
講演の中でも特に印象的だったのが、山本氏が語った「Bobのファーストインプレッション」だった。
山本氏は、Bobについて次のように振り返った。
・ざっくり依頼しても、調査の“段取り”を自ら組み立てる
・規模が大きすぎる場合は、自らPythonなどの道具を作って攻略する
・仕様書がなくても、“解析資料”として使えるドキュメントを生成する
・自社独自ルールは理解できず、推測も混じるため、人による検証は必須
・使いこなすには学習コストが必要
実際、山本氏が「得意先コードの桁数を拡張したい。影響が出るソースを調査し、修正規模を見積もってほしい」と依頼すると、Bobは自律的にタスクを分解したという。
提示されたステップは以下の通りだ。
・参照ファイルの洗い出し
・使用プログラムの抽出
・外部インターフェース確認
・影響範囲の定量化
・工数見積
単なるコード検索ではなく、“調査プロジェクトそのもの”を構造化していた点に、山本氏は大きな衝撃を受けたという。
Bobが自らPythonを書き、大量資産を解析
さらに興味深かったのは、Bobが「読めない規模」に直面した際、自ら解決策を生み出した点だった。
約1万8000本のソースを一括解析した当初は、精度低下やエラーが頻発していた。そこでBobは、自らPythonスクリプトを生成し、大量のソースを検索・分析する仕組みを構築。さらに、「得意先コードらしい項目名」や「想定桁数」など、8種類の検索パターンを自ら定義し、約8000本のソースから1211本の影響対象を抽出した。
山本氏は、「Bobは、読めないほど大規模な対象に直面したとき、自ら道具を作って突破しました。その点に最も驚かされました」と振り返った。
またBobは、Markdown形式による解析サマリーも自動生成した。単なるgrep結果ではなく、「どのプログラムの、どの箇所が、なぜ影響するのか」を人が理解しやすい形で整理。仕様書が存在しないレガシー環境において、“実質的な設計資料”として機能したという。
AIは「使う」だけでなく、「育てる」もの
もちろん、課題もあった。Bobは当初、プログラム名だけから仕様を推測したり、ソース全文を読まずに回答したりするケースがあった。また、同社独自のコピー句文化を理解できず、解析漏れも発生したという。
しかし同社は、それを単なる“AIの弱点”とは捉えなかった。むしろ「育成対象」と位置づけ、
・プログラム名だけで判断しない
・必ずソース全文を読む
・推測した場合は明示する
といったルールを定義。現在は、それらを“エージェント”や“ルール”としてBobへ継続的に学習させ、自社専用AIとして育成を進めている。その結果、従来2週間を要していた調査作業が、現在では数時間レベルまで短縮されているという。
量産型Bobから自社専用Bobへ
講演の終盤では、「量産型Bobを、自社専用Bobへ進化させる」という取り組みも紹介された。
AIを単なる汎用ツールとして利用するのではなく、自社の業務知識や文化、システム特性を継続的に学習させることで、“企業固有の知見を持つAI”へ育てていく──。それが三洋物産の目指す姿だという。
最後に山本氏は、新人教育の支援、障害発生時の影響分析、ドキュメント生成、データの異常解析など、今後のAI活用への期待を語った。その一方で、「AIにすべてを任せるのではなく、人が検証し、軌道修正する文化は変えてはいけない」と強調した。
AI活用が加速する時代だからこそ、“人が責任を持つ運用”の重要性を改めて示したセッションであった。
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