ガートナージャパン(以下、Gartner)は、AIがもたらすリスクが急速に高まってはいるものの、CIOはAIガバナンスを効果的に管理し、ビジネス価値を実現する上で、引き続き有利なポジションにいるという見解を発表した。
11月4~6日に開催された「Gartner IT Symposium/Xpo」のオープニング基調講演で、Gartnerのアナリストは日本のCIOおよびITエグゼクティブの参加者に対し、価値とリスクは相互に関連しており、CIOにとっての課題は、リスクの高まりを上回るスピードで価値を累積していくことであると説明した。
シニア ディレクター アナリストのネハ・クマール(Neha Kumar)氏は、次のように述べている。
「人々はますますAIを活用するようになっており、2026年第2四半期にGartnerが1000人以上の部門リーダーを対象に実施した調査では、自社のAIイニシアティブから何らかのプラスの価値を得ていると回答したリーダーは58%に上りました。多くの組織はAIで部分的な成功を収めている一方で、その価値を組織全体に一貫して再現し、拡大させることに苦戦しています。
同時に、AIのリスクは加速し続けています。CIOやITリーダーはGartnerに対し、自組織においてAIの価値よりも速いペースでAIのリスクが増大していると回答している。
「しかしその潜在価値は高く、CIOの新たな課題は、価値とリスクを整合させること、そして安全性とガバナンスを整合させることです。整合こそが鍵となります」
一方で、2026年第3四半期にGartnerが303名のCIO/ITリスク・マネジメント・リーダーを対象に実施した調査では、テクノロジーとビジネス・リスクを整合させているCIOはわずか25%にとどまっている。
バイス プレジデント アナリストのブランドン・ガーマー (Brandon Germer)氏は、次のように述べている。
「整合とは、全員が同じ価値やリスクを共有することを意味するわけではありません。整合とは、価値とリスクの関係性を形成する一貫した方法を提供するものです。例えば、2026年第2四半期に2,000名以上のCIOとテクノロジ・エグゼクティブを対象にGartnerが実施した調査では、組織の71%(日本の組織の75%)が今後1年以内にエージェント型AIを導入する予定である一方、現在エージェント型AIのガバナンス機能が整っている組織は21%(日本の組織は7%)にとどまっています。
この不均衡が原因で、AIがリスクを生む速度よりも速く価値を創出することが困難になっています。価値とリスクの管理とは、適切な推進力を高めつつ、不適切な抗力を回避することです」
GartnerではCIOに対し、意思決定/AIガバナンス/説明責任を、AIの価値とリスクに関する目標に整合させるために、以下の3つの行動を実施することを推奨している。
Gartnerの「バリューとリスクのフライホイール」を活用して、価値とリスクを整合させる
Gartnerの「バリューとリスクのフライホイール」は、複利的バリューと複利的リスクの関係を可視化したものである(図表1)。これによって組織は、何が累積しているのか、またそれはなぜ起きているのかを分析できる。

クマール氏は、次のように説明している。
「Gartnerの『バリューとリスクのフライホイール』を形成しているのは、2つの力、すなわち推進力と抗力です。推進力は成果を促進し、抗力は成果を失速させます。しかし、推進力そのものが常に良いものであるとは限らず、適切な抗力がメリットをもたらす場合もあります。優れた成果を上げるCIOは、適切な推進力を生み出し、適切な抗力を戦略的に導入すると同時に、不適切な推進力や不適切な抗力を低減する方法を把握しています」
例えば、ソフトウェア開発えは、価値がリスクよりも速く累積することがある。現在、本番環境のソフトウェアにおけるコードの大部分は、AIによって生成されている。その結果、ソフトウェア開発者は手作業でのコーディングという抗力から解放され、迅速なプロトタイピング、要件主導型の開発、アーキテクチャ思考、そしてプロダクト・エンジニアリングを通じて、適切な推進力を生み出すことが可能となっている。
バリューとリスクの間に、あらゆる状況に対応できる完璧なバランスというものは存在しない。このフライホイールは状況に応じて、バリュー重視、中立、あるいはリスク重視のいずれにもなり得る。Gartnerの「バリューとリスクのフライホイール」の適切な形は、各組織の戦略とリスク選好度によって決まる。
フライホイール統括組織を通じて、安全性とガバナンスを整合させる
ガーマー氏は、次のように述べている。
「組織は、人間とマシンの両方に対する透明性、調整、説明責任の確保のために、フライホイール統括組織を構築することができます。その目的は中央集権化ではありません。重要なのは、整合性、調整、そして協働です」
フライホイール統括組織は、企業全体のAIに関する意思決定と判断を統合するための仮想制御プレーンとして機能しする。
クマール氏は、次のように説明している。
「これによって説明責任が確立され、テクノロジーが統制され、経済性が管理され、共有インテリジェンスが生まれます。これは中央集権化ではなく、普遍的なガバナンスであるため、あらゆる場面で安全性が促進されます。しかし、リスクが排除されたり、価値が生まれたりすることはありません。それを実現できるのは、人間だけです」
企業全体でAI起業家を育成する
AIの成功を左右するのは、常に人間である。高度なAIユーザー、いわゆる「AI職人」が、価値創出の究極の担い手として台頭してきている。こうした人材は、AIを活用して創造的なソリューションを提供し、働き方を改革している。
ガーマー氏は、次のように述べている。
「AIの価値発見におけるギャップを埋めるのは人間である、と私たちは考えます。フライホイールの『バリュー』の側面を拡大するには、AI起業家を支援する必要があります。AIに精通した創造的な人材が活躍できる文化を醸成し、働き方を改革する自由を与え、成果を上げた際には報奨を与えるのです。AI職人がAI起業家として主体的に活躍できるようになれば、複利的バリューを生み出す次なる優れた価値提案が見つかるでしょう」
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