株式会社高速

3.11後のBCP強化内容

・Power 720はデータセンターと自社流通センターで二重化
・Windowsサーバーはバックアップディスクを二重化
・売上高1000億円を目指すシステム基盤の強化とBCP対策を同時に実現

BCPの強化は事業の成長を後押しする

東日本大震災からほぼ1年。仙台の高速本社で、高橋友一氏(経営企画本部システム部 次長)と山下博之氏(同部 顧問)に再会した。

前回の取材は、震災からほぼ2カ月半が経過した頃。直後の混乱は落ち着いていたものの、甚大な災害の余波は大きく、2人は今後のBCPの見直しに向けて検討していく課題が多いと語っていた。復興・復旧に向けた、そしてBCPの強化に取り組んだこの1年で、同社はどのような結論を見出したのであろうか。

サーバールームは結局、本社に戻ることなく、今も流通センターの一角にある。センターの建設前に実施した地盤調査の通り、この地域は地盤が強固で、震度6強の揺れにも建屋や内部はほとんど被害を受けなかった。そのため、電源と空調の拡張工事を実施した上で、サーバールームの恒久設置を決めたのである。

同社は2009年、経営主導でSystem iのデータセンター移設を決定している。相応のコストをかけて、データセンターの移設を含めた災害対策を実施したのは、宮城県沖地震への懸念があったからだ。しかし「内心密かに、そこまでやる必要があるのだろうかと思っていた」と語る高橋氏は、さらにこのように続ける。

「 今回の経験で、その考えは吹き飛びました。当社の事業は食品包装資材の販売であり、命をつなぐ食のサプライチェーンの一角を担います。有事であってもその供給を途絶えさせないためには、受発注・在庫・出荷を支えるシステムの稼働が不可欠であり、それはハードウェアやソフトウェア、そしてアウトソーシング先やパートナーとの連携など人的側面を含めたシステム周辺の全てを指します。その意味で、当社のBCPはまだ十分ではないと言わざるを得ません。相応の予算をかけても災害対策レベルをさらに高め、BCPを万全に整えることが、今は事業の成長にもつながると考えています」

取材に応じる高橋氏の手には、昨年12月、経営トップに対してシステム基盤の強化を提案した際の説明資料が握られている。そこには災害対策レベルの強化に加えて、創立50周年を迎える2016年に売上高1000億円を目指すべく、必要なシステム基盤の要件が以下のように記述されている。

①本番機が万一停止してもバックアップ機を稼働させ、取引先からのオンライン受注を停止させない仕組みの構築、②次世代EDIである流通BMSにいち早く対応し、取引先からの要求にいつでも対応可能な環境の確立、③売上高1000億円に向けて営業所や売上処理明細が増えても、処理が遅延しない仕組みの実現、④管理系サーバーを仮想化技術で統合し、売上高1000億円に対応可能な管理系システムの構築。

高橋 友一 氏 経営企画本部システム部 次長
高橋 友一 氏
経営企画本部システム部 次長

データセンターの大連移設を検討

現在のSystem iは導入から7年が経過し、処理能力の低下が目立ち始めていたため、売上高1000億円を支援するIT環境の整備に向けて、まず基幹サーバーはPower720へリプレースすることを提案した。

またBCPの強化という面では、データセンターのロケーション再考と、基幹系システムおよび管理系システムの二重化対策が主眼となった。中でもデータセンターのロケーション変更については、震災による被害が落ち着き始めた5月頃からリサーチを始め、真剣に検討したという。

同社が利用するデータセンターは、東京都の臨海部に位置する。今回の地震では一切被害はなく、基幹サーバーは支障なく稼働を続けた。しかし首都直下地震や東海・南海・東南海の連動型地震などの発生確率が高まったとの指摘がある現在、地震や津波、液状化の被害からデータセンターが無傷でいる保証はない。原発からの距離を含め、まずロケーションそのものを見直すべきではないか。

「 震度や津波の高さ、火災の発生など細かい被害想定を積み上げて災害対策を考えても全く意味がないことを、今回の震災は教えてくれました。私たちは宮城県沖地震を想定していましたが、地震の規模も津波も原発も停電も、全く想定を超えたものでした。だからBCPの策定については、『最悪』を想定する。つまりどういった理由であれ、現在のデータセンターが被災し、サーバーやネットワーク、電力が全て停止するという想定からBCPを描き直しました」(山下氏)

高橋氏と山下氏はまず、臨海部にある現在のデータセンターを、東京都の内陸部(西東京)および関西(大阪)、そして海外へ移設する3つの案を検討した。海外の候補地は大連である。

日本国内では活断層を避けられない。つまり、西東京であれ大阪であれ大地震発生のリスクを回避できない。しかし大連は有史以来、地震の記録がない。約6000社の日系企業や日欧米のIDCが進出し、電気・通信などのITインフラが充実している。それに大連に拠点を置くJBCCの現地法人やIBMのサポートも受けられる。

山下氏がかつてこの地でのビジネス経験があったことも加わり、大連は一時、データセンター移設の有力な候補地として社内で検討されたという。しかし結論から言うと、大連への移設は見送られることになった。理由は、コストと仙台本社からの距離である。

大連はトラブルが発生した時に、簡単に足を運べる距離ではない。それにハウジングコストや人件費は確かに安いが、中国の増値税(付加価値税、日本の消費税に相当する)は17%で、ハードウェア購入コストが日本よりも高額になる。仙台・大連を接続する国際回線の料金も、国内にデータセンターがある場合よりかなり高くなる。

「 こうしたコストを試算した結果、大連のデータセンターへ移設した場合と、今のデータセンターで本番機の運用を続けるとともに、仙台へバックアップ機を設置する二重化体制を構築した場合を比べると、それほど大きなコスト差にはならないことが判明しました」(山下氏)

そこで本番機をPower 720へリプレースするとともに、バックアップ機として同等の処理能力を備えたPower 720をもう1台導入し、泉区の流通センターへ設置することを決定。HAソリューションとして「MIMIXAvailability7」(JBCC)を利用した二重化体制が、今年8月からスタートすることになった。

山下 博之 氏 経営企画本部システム部 顧問
山下 博之 氏
経営企画本部システム部 顧問

管理系のWindowsサーバー
二重化に多くの壁

システム部がBCPとしてもう1つ重視したのは、管理 系サーバーの二重化である。

「 IBM iの二重化仕様が比較的スムーズに決定したのに 対し、Windows環境の二重化の方は相当に頭を悩ませ ました」と、高橋氏は振り返る。

OSからDB、ミドルウェアまでが統合されたIBM iを 二重化するのと違って、Windowsの場合はHAソリュー ションが機能的に十分ではなく、全データを一元的に バックアップできないのに加え、ミドルウェア個別の対 応が必要となる。また二重化に際してはソフトウェアの 保守料金が割高で、場合によってはライセンスの二重購 入が必要になる。

「 下手すると、IBM iを二重化するよりも高額になりかね ず、あらためてIBM iが備える統合性・運用性の優秀さ を再確認した次第です。結局、Windowsは二重化を断 念し、バックアップ用ディスク装置を二重化して安全性 を高めることになりました」(山下氏)

採用したのは、「AI Container」(JBCC)。これはバッ クアップ専用のディスク装置で、データセンターに移設 予定の管理系Windowsサーバー(ブレードサーバー)の 本番機に1台を接続してデータをバックアップ。もう1台 を流通センターに設置して、回線経由で二重化する。 「AI Containerはバックアップ用のPCサーバーが不 要なので、サーバーの数が増えない点も評価しました。 サーバー数が増えれば、それだけリスクが増大すると認 識しています」(山下氏)

この仕組みも今年8月にスタートする予定である。こ うした対策により、基幹系システムでは、災害発生時の 復旧時間(RTO)が2時間、管理系では24時間をクリアできることになるという。

ちなみに停電復旧の遅れを想定して、直後は自家発電 機の導入も検討した。しかし実際に導入すると、定期的 な稼働や燃料の入れ替えなど日常的なメンテナンス作業が煩雑で、同社の人員体制では維持が難しい。

そこでベンダーと非常時のレンタル契約を結び、停電 後は3時間程度で流通センターに自家発電機を運び込める目途がつけられたため、自社購入は見送ったという。

同社では今夏に向けて、本番機からバックアップ機へ の切り替えに関する意思決定や伝達の仕組み、作業担当者の割り当てや実作業のステップ、マニュアル化など、 人的運用面の整備を進めていく。

甚大な災害を経験した同社は、BCPの強化が事業拡 大と同義であるとの認識を新たにし、システム基盤の強 化に向けて着実に進んでいくことになるだろう。img_56fd5fd822c33

震災発生時の状況

仙台市宮城野区に本社がある高速は、東日本大震災で震度6強の揺れに襲われた。同社の基幹システムが稼働するSystem i(9406-520)はJBCCのデータセンターに設置してあり無事だったが、会計・人事・給与の管理系サーバーやノーツ/ドミノなどの情報系サーバー、そしてIP電話システムは本社にあり、震災直後からの停電で全サーバーが機能を停止した。

 本社社屋内は物が散乱して足の踏み場もなく、サーバーの停止もあって業務再開は困難と判断。翌日には被害が少なかった同市泉区の流通センターに本部機能の移設を決定した。ノーツサーバーやファイルサーバーなど5台のPCサーバー、5台のブレードで管理系システムを搭載するBladeCenter、約30台のクライアントPC、IP電話システム、LANケーブルやスイッチ類を流通センターに運び入れたのである。

CompanyProfile
本社: 宮城県仙台市
設立:1966年
資本金:16億9045万円(2011年3月)
売上高: 589億5293万円(連結、同上)
従業員数:730名(連結、同上)
業務内容:食品軽包装資材や包装機械・設備の販売
http://www.kohsoku.com/