日本IBMは8月24日、IBM Institute for Business Value(IBM IBV)が実施した調査「AI主権の確立に向けて ― いかにコントロール、柔軟性、リスクのバランスを取るか」の日本語版を公開した。
同調査は、企業がAIを基幹業務へ本格的に組み込む一方で、特定のAIベンダーやAIモデルへの依存が進み、容易に変更できない状況が生じている実態を明らかにしたもの。AI活用が拡大するなか、事業継続性や業績を維持する観点から「AI主権」の重要性が高まっていると指摘している。
調査は、IBM IBVとOxford Economicsが共同で2026年2~4月に実施した。16カ国・17業界にわたり、AI、データ、テクノロジー、または関連する企業機能を担当する経営層1000名を対象としている。
約7割がAIベンダーやモデルの切り替えを「難しい」と回答
調査によると、主要なAIベンダーやAIモデルを切り替えることが「難しい」と回答した経営層は、世界で71%、日本で69%に上った。
また、各国・地域にまたがるデータ・レジデンシーやデータ主権の要件への対応を課題として挙げた回答者は、世界で68%、日本で65%だった。AIシステムやデータを異なる環境へ移行したり、複数の環境で運用したりする際の複雑さが大きな課題となっている。
さらに、AIベンダー、AIモデル、インフラストラクチャにまたがる依存関係を十分に把握できていないと回答した経営層は、世界で91%、日本で89%に達した。
こうした依存関係の可視性が不足すると、AIシステムのリスク評価や、障害が発生した際の対応計画の策定が難しくなる。実際、回答した経営層は、過去2年間にAI関連で平均6件の障害や混乱を経験したと回答している。
また、AIベンダーのサービスが7日間停止した場合、「深刻または重大な影響」が業務に及ぶとした回答者は世界で81%、日本で75%だった。事実上、業務が停止する可能性があると認識する企業が少なくないことになる。
AIをめぐっては、システム障害だけでなく、価格上昇や利用制限、AIモデルの提供終了、性能低下といった予期しない変化もリスクとなる。
IBM EMEA・APAC担当シニア・バイス・プレジデント兼会長のアナ・パウラ・アシス氏は、こうした状況について、「AIが従来のガバナンスや調達、IT運営の仕組みでは対応しきれない新たな依存関係を生み出しており、AI主権は企業経営における最重要課題の1つ」と指摘している。
AIを高度にコントロールできる企業はわずか7%
一方、調査では、AIに対するコントロール能力の高い企業ほど、AI関連のシステム停止や障害が少なく、ビジネス上の成果にも違いが現れていることが示された。
AIに対するコントロール能力が最も高い企業では、AIに起因する混乱による営業利益への影響を55%多く抑制していた。
しかし、AIに対する高度なコントロール能力を備えた企業は、調査対象全体のわずか7%にとどまった。柔軟で適応力の高いAI基盤を構築している企業と、特定のベンダーや技術への依存によって制約を受けている企業との格差が生じているという。
興味深いのは、経営層の多くがAIシステムの柔軟性に追加コストを支払う意思を示している点だ。
経営層の72%(日本68%)は、戦略的な柔軟性を高められるのであれば、AIベンダーの選択肢や他のシステムへの移行可能性を確保するために、20%のコスト増加を受け入れると回答した。
約7割が複数のAIベンダーを採用
調査対象企業の73%(日本70%)は、自社のAI環境で意図的に複数のベンダーを採用している。
ただし、こうしたマルチベンダー化は、必ずしも全社的なAI戦略に基づいて進められているわけではない。
複数ベンダーを利用する要因として、「事業部門ごとの独立した意思決定」を世界の69%、日本の63%が挙げた。また「地域ごとの要件や事情への対応」は世界69%、日本71%だった。
さらに、「レガシーシステムの複雑性」を課題に挙げた回答者も世界57%、日本54%に達した。M&Aや過去のシステム投資などによって形成された既存環境が、AI基盤の複雑性にも影響を与えている。
IBM IBVでは今回の調査を通じて、AI主権を単にデータをどこに置くかという問題としてではなく、データ、モデル、インフラストラクチャ、アプリケーションを企業自身がどの程度コントロールできるかという観点から分析している。
AIが基幹業務へ深く組み込まれるにつれ、特定ベンダーやモデルへの依存、障害時の事業継続性、各国の規制への対応などが、AI戦略そのものを左右する要素になりつつある。今回の調査は、AIの導入・活用だけでなく、必要に応じてベンダーやモデル、インフラを変更できる「柔軟性」をどう確保するかが、企業の新たな経営課題となっていることを浮き彫りにした。
[i Magazine・IS magazine]










