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IBM i 回帰・継続のシナリオ ~IBM iを使い続ける理由、手法、戦略とは|ユーザー5社の離脱・回帰・オープン系への移行断念の経緯から探る

IBM iの今後の継続利用に、漠然とした不安を抱くIBM iユーザーは少なくない。しかしさまざまな理由によりIBM iからの撤退を決め、実際に離脱したのちにIBM iへ回帰したケース、あるいはオープン系の業務パッケージを検討した結果、ギリギリのところで踏みとどまり、IBM iの継続を決めたケースもある。

IBM iの継続利用に懸念・不安を抱く理由はいくつかある。IBM はいつまでIBM iを提供し続けるのか、という漠然とした、しかし根源的な不安。あるいはRPGという特異な開発言語に依存することへの懸念、IBM iの開発・保身を担う人材の不足、オープン系と比較すると一見割高に見えるランニングコスト。そして今も、IBM iをオフコンと見る昔ながらのイメージやオープン系パッケージ製品への幻想。IBM iの利用継続を決めた5社のIBM iユーザーは、そうした不安・懸念をどのように乗り越えたのだろうか。

IBM iを使い続けることへの懸念
このままで本当に大丈夫か?

このままIBM iを使い続けていて、大丈夫だろうか。

長くIBM iを運用してきたユーザーであれば、おそらく一度はこの疑問を頭に浮かべたことがあるだろう。IT部門であれば、どのプラットフォームよりも優れたIBM iの信頼性、運用性、資産継承性、そしてセキュリティの高さは十分理解しているはずだが、それでもこの疑問が完全に消え去ることはない。

疑問を抱かざるを得ない理由が、いくつかある。

まず、IBMはいつまでIBM iを提供し続けるのだろうか、という懸念。IBM iを今後も利用するかどうかを決定する際に、これは重要なリスク要因となる。

国内ベンダーはすべて、「オフコン」という分野から撤退した。IBM iはすでにオフコンではないが、ハードウェアであれ、ソフトウェアであれ、サービスであれ、IBMは採算性の妨げになると判断した事業を大胆に切り捨ててきた。とくにPOS、プリンタ、PCサーバーなど、ハードウェアに関してこの傾向は顕著である。

IBM iはハードウェアであり、しかも旧オフコンという特異な立地点をもつ。IBMはPower Systems、そしてIBM iに、そう遠からず見切りをつけて売却するのではないか。ユーザーが懸念する理由、そして大きなリスク要因がここにある。

次にRPG、正確にはRPG Ⅲという機能拡張を停止した開発言語に依存することへの不安。

RPG Ⅲに対する不安は、プログラム資産と人的スキルという2つの側面をもつ。IBM iでしか使用されない特異な言語で書かれた膨大なプログラム資産が今も動いている。資産継承性はIBM iの大きな優位性の1つであるが、それゆえ、そのプログラム資産に縛られている面があるのは否定できない。何しろ、何もしなくてもずっと動いてくれるのだから。機能拡張が望めない開発言語で作られたプログラム資産を継承し続けて、果たしてこの先大丈夫なのか、とユーザーは不安を抱く。

さらにプログラム資産が動いている限り、プログラムを保守する技術者が必要である。RPG Ⅲを使える技術者は、日々の業務に追われて新しいスキルを学習する時間もない。人数も確実に減少している。

これはつまり、人材不足への懸念でもある。IBM iの開発・運用人材の高齢化が指摘され始めて久しい。若い世代は、他サーバーでの汎用性がないRPGを覚えたがらない、という話もよく耳にする。

IT部門の人材不足は、IBM iに限らず、あらゆるユーザーにとっての普遍的なテーマであるが、IBM iにとっては特に深刻である。これはベンダー側も同様で、ユーザーは社外にIBM iの開発人材を求めることが難しくなっているとの指摘は多い。東京・大阪などの大都市圏はそれでもパートナーの支援を得られるが、地方ほど問題は深刻になる。IBM iの開発経験が豊富なベンダーを身近に確保することが、難しくなっていると言われる。

さらに言えば、IBM iの「イメージ」も影響している。典型的なのは、5250画面である。前述したように、IBM iはすでにオフコンではない。しかし5250画面を見て、経営者は「いつまでこんな古くさいコンピュータを使っているのか」と言う。そして、「そろそろ当社も、オープン系の業務パッケージを使ったほうがよいのではないか」「業務パッケージなら、開発せずに何でもできるのではないのか」と続く。オープン系業務パッケージへの幻想は根強い。

ちなみにこう指摘するのは、まずあまりITに詳しくない経営者。そして統合合併による新しい親会社もしくはパートナーとなる相手企業。外部から派遣された、もしくは途中入社した、ある程度の決定権や発言権をもつ担当者あるいは責任者。いずれの場合も、IBM iの運用経験をもたないケースが多い。つまり、IBM iを知らない人たちなのである。

IBM iの利用を取り巻く不安・懸念
IBM iの利用を取り巻く不安・懸念

各社各様で描く
IBM i 回帰・復活のシナリオ

今回の特集では、そうした懸念や不安を抱えるIBM iユーザー5社を取材して、どのようにその問題を乗り越えたかを取材した。

取材した5社は、いずれも運用歴が長い。そのうちの2社はいったんオープン系パッケージに移行したのち、運用に支障をきたしてIBM iに回帰したケース。残る3社は各社各様の理由で、IBM iからの撤退を前提にオープン系業務パッケージの導入を検討したものの、要件に合致しないことが明らかになり、IBM iの継続利用を決めたケースである。

IBM iに回帰したのは、福岡県の博運社と静岡県の大東である。

博運社はIBM iからの撤退を決め、クラウド型のオープン系国産ERPパッケージの導入を決定した。しかしカスタマイズは最小限であったはずが、同社の業務要件を実現するとなると大量のカスタマイズが必要と判明し、プロジェクトは難航した。

本稼働予定を何度も延期し、4年をかけてやっと本稼働にこぎつけたものの、わずか2週間の運用で現場が悲鳴を上げ、経営者自らがIBM iへ戻ることを決めた。本稼働後の2週間はIBM iを並行稼働させていたので、正確にはIBM iから完全に撤退したわけではないが、それでも同社の回帰のシナリオは大変に興味深く、多くの示唆を含む。

大東は、2006年にオープン系の国産ERPパッケージへ移行し、IBM iから完全撤退した。ところが非効率な入力作業、機能の不足、使い勝手の悪さから、現場での運用が混乱。負のスパイラルに突入したまま5年間、運用を続けたのちに、IBM iへ回帰して基幹システムを再構築している。

一方、継続のシナリオを描いたのは東京のオリエンタルダイヤモンドとブラブジャパン、福岡県のランテックの3社である。

ブラブジャパンは、ノルウェーに本拠地を置くグローバル企業の日本法人。社員数は8名と小所帯で、IT専任担当者はいない。2018年にIBM iのディスク障害が発生し、復旧に苦労した経験がきっかけとなって、IT担当者をもたない自社の体制に不安を抱いた。

クラウド型のオープン系販売管理パッケージを検討したものの、「現行システムと比べて、すべてが足りない」と、移行を断念。IBM iのクラウドサービスである「IBM Power Virtual Server」を利用することで、IBM iの利用を継続した。

オリエンタルダイヤモンドは、親会社が変わるのを機に、ランニングコストの削減を経営側から要請され、オープン系業務パッケージ製品の導入を検討した。同社ではIBM iをクラウド環境へ移行してサーバーの運用管理業務を解消し、LANSAで基幹システムを作り込んできた。クラウドとオンプレミス、ジュエリー特化型と汎用型を交えて、かなり厳密に比較検討したが、機能要件のレベルダウン、今まで見えなかったカスタマイズコストが明らかとなった。5年間のコストを比較した結果、移行してもランニングコストに劇的な差は生じないと判明して、IBM iの継続を決定した。

ランテックもやはり、親会社が変わったのを機に、IBM iの継続に疑問符が付いたケース。プロジェクトを発足させ、グループ全体でのIT基盤の共通化とシステムの見直しに着手した。情報システム部ではIBM iが物流システムを支える最良のプラットフォームであると経営陣を説得し、IBM iの継続を決めた。ただしグループの共通基盤やオープン系システムで運用したほうが効率的と判断される場合はIBM iから移行し、競争力の源泉となる中核事業についてはIBM iでの運用を継続する戦略である。

これだけのコストを投入しても
機能は大幅にレベルダウン

これら5社以外にも、ユーザー事例の取材ではどこかのタイミングで、オープン系業務パッケージへの移行を検討したという話をよく聞く。

上記の事例を含め、IBM iへの回帰・継続を決定した最大の理由として、長年にわたりユーザー部門からの要望に応え、自社開発型できめ細かく作り上げてきた業務システムは、オープン系業務パッケージでは代替えできないことが挙げられる。

海外製ERPソリューションでは、「パッケージに業務を合わせる」とよく言うが、言うほど簡単ではない。「今まで簡単にできていたことが、今後はできなくなる」という変化は簡単には受け入れられず、現場は混乱する。独自の業務要件を備えるユーザーほど、そしてRPGなどできめ細かく機能を作り込んできたほど、この変化は受け入れがたい。

そして求められる機能要件を実装しようとすれば、多額のカスタマイズコストが発生する。「これだけコストを投入して、現行システムより大幅にレベルダウンするのでは、何のために移行するのかわからない」との結論に至る。 

ただしRPG Ⅲのプログラム資産、そしてスキル継承、IT人材確保の問題は一朝一夕には解決できない。それでも回帰・継続のシナリオを描いた上記5社は、それぞれに解決へ向けて動き出そうとしている。

たとえばランテックは将来的な開発・運用に耐え得る開発言語として、プログラム資産および人的スキルの両面で、RPG ⅢからILE RPGへの移行を進めている。また新卒の社員を4名配属した。これまでの新卒配属人数としては過去最多で、これにより若手技術者の育成と世代交代を図っていく計画だ。

同様に、博運社でもフリーフォーマットRPGの学習を開始している。

本誌が今年実施した「IBM iユーザー動向調査 2022」では、RPG Ⅲを利用するユーザーは74.7%、ILE RPGを利用するのは62.4%という結果が出ている(複数回答可)。

ただしRPG Ⅲだけを利用するのは28.7%、RPG ⅢとILE RPGの両方を利用するのは29.8%、固定フォーマット/フリーフォーマットを問わず、ILE RPGだけを利用するのは23.5%である。

ILE RPGへの移行の遅れを指摘する声は多いが、この結果を見る限り、必ずしもユーザーはRPG Ⅲだけに偏っているわけではない。ILE RPGへの移行は確実に進んでいる。フリーフォーマットRPGはオープン系の技術者にとっては親和性が高いとされており、人材不足を解決する切り札としても期待できそうだ。

IBM iの回帰・継続を決めた理由、戦略
IBM iの回帰・継続を決めた理由、戦略

信頼できるパートナーの選択が
IBM i継続の最良の道

必要に応じて、外部のパートナーの手を借りつつも自社開発力、内製主義の価値を認識し、自分たちで開発できる力を育てようとする。今回の事例に限らず、こうしたケースは例外ではない。外部に支援を得られないなら、社内で人材を育てようという機運は確実に高まっている。

もちろん、IT要員を増員できない事情を抱えるユーザーも少なくない。大東とオリエンタルダイヤモンドは、いわゆる「ひとり情シス」で、IT担当者は1名のみ(大東は管理系業務全般を兼任する)。ブラブジャパンではIT担当者は不在。しかし外部パートナーの手を借りながら、IBM iの運用を継続させている。ちなみに今回取材した5社のうち、3社がクラウド環境でIBM iを運用している。

本特集の取材では、信頼できる外部パートナーの支援を得ることの重要性をあらためて実感した。「信頼できるパートナーがいるから、現在の環境を選択できる」という趣旨の発言は各社で聞かれた。

博運社は福岡情報ビジネスセンター、ブラブジャパンはオムニサイエンス、大東はアドバンスシステム、ランテックは福岡情報ビジネスセンターをはじめ複数社の支援を受ける。オリエンタルダイヤモンドはLANSAという開発ツールを熟知した担当者が1人で開発・保守を担うが、LANSAの開発を支援するパートナーは多いので、「必要となれば、外部の支援を受けられるだろう」と考えているようだ。

確かに減少傾向にはあるものの、IBM iの運用を支援できるパートナーは今も各地に存在する。相性のよいパートナーを見つけ、味方につけることが、IBM i継続の道であることは間違いない。

それでは最後になるが、冒頭に記した「IBMは、いつまでIBM iを提供し続けるのだろうか」という懸念について。

IBMはつい最近、IBM iのロードマップを2035年まで更新した。もちろん2035年にIBM iが終わるわけではなく、今まで定期的に延長されてきたように、時期が来ればまた更新されるだろう。同時にIBMは、「IBM iに今後も投資を続ける」ことも宣言している。

IBM iは一見すると、Powerプロセッサを軸にしたハードウェアビジネスに見えるが、Db2 for iをはじめ、多種多様なソフトウェアやミドルウェアを実装しており、実態は紛れもなく、ソフトウェアビジネスの集合体である。「IBMはこれまでハードウェアビジネスを売却してきたから」という理由でIBM iの将来を懸念するのは、少なくとも「IBM iはハードウェアビジネスだから」という論拠では成立しないだろう。

また日本では、中堅・中小企業がIBM iユーザーの主体であるが、グローバル市場では有力な金融機関や大規模な製造業をはじめ、社会インフラに近いようなシステムで多数のIBM iが使用されている。IBMがたとえ多少の猶予期間を設けたとしても、IBM iから撤退したとなれば、世界中で混乱が生じるのは必至である。

IBM iはこの先、なくなるのではないか。そう懸念する声は、本誌を発行した2000年から途切れずにささやかれてきた。しかし2022年の今も、IBM iは変わらず存在している。そのことが、この稀有なプラットフォームの価値を端的に物語るのではないだろうか。

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