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DXを阻む4つの課題と意識改革への挑戦~啓蒙活動を展開しながら、DXのロードマップを描く | 株式会社ニイタカ DXへの全方位の挑戦 ❶

株式会社ニイタカ
本 社:大阪府大阪市
設 立:1963年
資本金:5億8519万円
売上高:184億円(2021年5月)
従業員数:234名(2021年5月)
事業内容:業務用洗剤・洗浄剤・除菌剤・漂白剤、固形燃料、食品添加物(殺菌料)、医薬部外品の製造販売および衛生管理支援サービス等の提供
https://www.niitaka.co.jp/

ニイタカのDXを実現すべく
入社を決意

ニイタカは1963年の設立以来、一貫してフードビジネス業界向けの化成品事業を軸に成長してきた。

業務用洗剤や洗浄剤、除菌剤、漂白剤、固形燃料などの製造・販売、およびこれらの事業に関連した衛生管理支援サービス、食器洗浄機のメンテナンスサービス、厨房関連機器のレンタル・販売などに取り組んでいる。業界上位のシェアを誇り、2003年に東京証券取引所の市場第二部、2015年には市場第一部に上場を果たした。

川端功微(いさみ)氏が情報システム部長として同社に着任したのは、2019年6月のことである。

川端 功微氏
情報システム部長

川端氏は精密測定器メーカーの情報システム部に勤めたのち、富士通のグループ会社に転職し、フィールドSEとして活動したキャリアをもつ。2013年からは富士通システムズウェブテクノロジー(当時。2021年4月に富士通へ統合)の社長に就任。3年ほど企業経営に携わったのち、富士通本体に転籍して4社統合の事案に従事し、2019年に退職した。

退職後の人生を考えたとき、「私はお客様に育てられたのだから、お客様に恩返しがしたい」との思いで、ニイタカへの転職を決めたという。

同社の奥山吉昭代表取締役社長はシステムの責任者であった時代に、IBM i(当時のAS/400)の導入を決定し、現行の基幹システム構築を主導した経緯がある。

誰よりも「経営とIT」の重要性を知る奥山氏から、「ニイタカのDXを実現してほしい」と直々に依頼され、また「取引先とユーザー」のお役に立ち、「株主と会社」に利益をもたらし、「社員とその家族」を幸せにすると同時に、「地域社会」に貢献し、社会に信頼され、発展する企業を目指す「四者共栄」という同社の経営理念に共鳴したことから、川端氏は長く暮らした首都圏を離れ、ニイタカの本社がある大阪市への単身赴任を決意したのである。

日々の作業に忙殺され
ドキュメントの整備が追い付かない

川端氏は入社して約3カ月間、ニイタカのDX実現に向けた青写真を描くべく、個々のシステム部員へヒアリングするとともに、システムの現状調査に乗り出した。

同社は1987年に国産オフコンからシステム/36へ移行し、自社開発型の基幹システムを構築。その後1988年にAS/400を導入、1998年にはRPG Ⅲにより基幹システムを全面的に再構築した。それ以来、現在に至るまで、改修を重ねつつ運用を続けている。

IBM i上で稼働するのは販売管理、購買管理、在庫管理の各システム、生産管理の一部、そしてDWシステムと呼ばれる洗浄供給機の管理システムである(図表1)。また会計、人事給与、経費精算については、オープン系サーバーで個々に異なるパッケージ製品を利用していた。

図表1 ニイタカのシステム概要

情報システム部は川端氏を除くと社員4名、派遣社員2名の合計6名で、IBM iからオープン系サーバーまでのアプリケーション開発・運用・保守、ネットワーク、端末管理などITの全業務を担っている。

ちなみに社員4名の構成は30代が1名、40代が1名、50代が2名で、当時の平均年齢は48歳。このうち1名が基幹システム以外のインフラ管理やkintoneアプリケーションの作成を担当し、残る3名はRPG Ⅲで基幹アプリケーションの保守開発に従事していた。内製体制を基本とし、本番リリースは週に1回以上と、高頻度の保守開発作業に追われる日々である。

川端氏はシステム部員たちから、現状の業務や要望・希望、不満などのヒアリングを進めた。さらにシステムの現状を理解したいと、ドキュメント類の提出を求めた。しかし希望したドキュメントはなかなか届かなかったという。

調べてみると、ドキュメントは整備されておらず、ベテラン開発者の頭の中にある仕様書・設計書を頼りに日々の保守開発に臨んでいることがわかった。IBM iユーザーにありがちだが、長い歴史のなかで繰り返された改修の記録はほとんど残されていなかったのである。

川端氏はシステム構造全体を俯瞰するための「システム運用保守ドキュメント」と、日々のプログラム保守開発に必要な「プログラム保守ドキュメント」の2種類に分け、それぞれのドキュメント網羅率を調査した。すると前者の網羅率は42.5%、後者はわずかに8.5%との結果を得た。

システム部員の平均年齢が比較的高いことを考慮すると、今後想定される人員の世代交代を円滑に進めるにはドキュメントの整備が不可欠である。

DXの実現を阻む4つの課題を発見

川端氏はこうした調査の末、同社のIT環境には以下の4つの課題があり、DX実現に向けては、まずそれらを解決することが先決であると結論づけた(図表2)。

図表2 DX実現を阻む4つの課題

課題① 既存システムが複雑化・ブラックボックス化している

現行の情報システムは20数年の歳月のなかで、部分最適の視点により構築・運用されてきた。IBM iの販売管理や購買管理などはRPG Ⅲによる手組み開発。その一方、会計や経費精算、人事給与、勤怠管理、生産制御、需要予測、ポータルなどはオープン系サーバー上でそれぞれ個別のパッケージを利用するなど、多種多様なシステムが混在しており、全体最適の視点では構築されていない。

そのためクラウド、IoT、AI、データ分析などの新しい技術を現行システムと連携させながら活用したり、ITを使って新しい製品やサービス、ビジネスモデルの創出を狙いとするDXの実現は困難な状況にある。

課題② システム運用保守が属人的である 

最小限の人員で既存システムの企画から開発・テスト・展開・運用保守を担っているため、日常業務は手一杯で、新技術の習得や活用、必要ドキュメントの整備が追い付かない。事業部門や管理部門からの新たな要望に応えることは、人的パワーや保有スキルから厳しい状況にある。

情報システム部の平均年齢を考えると、現状を放置した場合、人員の離職により現状の維持すら困難となる。また今後ますます運用・保守コストが増大し、安定的なシステム運用に懸念が生じるとともに、セキュリティリスクも高まると考えられる。

課題③ 基幹システムがレガシー化している

2012年に導入したPower720は2019年9月末に保守が終了し、1年間の特別延長保守中。IBM i 7.1は2019年4月末で保守が終了し、有償延長保守中(2021年4月で終了)。プログラムの大半を構成しているRPG Ⅲは、1994年に機能拡張を停止している。このままのシステム環境では、DXを導入・展開することは極めて難しい状況にある。

課題④ 既存システムの運用保守に多くの工数が割かれ、情報システムへの戦略的な投資を実現できない

現状はIT予算の約90%を運用管理コストが占めている。部門別のIT投資コスト管理、システム化後の費用対効果測定などが不足しており、年間の「ラン・ザ・ビジネスコスト」と「バリューアップコスト」の比率が見えない。そのため情報システムへの戦略的な投資を実現できない状況にある。

中長期情報システム戦略で
DXへのロードマップを描く

「情報システム部の業務量は非常に多く、ヒアリングを終えたときは、限られた人数で本当によくやっていると感心しました」と語る川端氏。

1998年の大規模再構築時から在職し、誰よりも基幹システムを熟知する枡義泰氏(情報システム部長補佐 兼 情報システム課長)も次のように指摘する。

「各部署からの数多い依頼に応えながら、長年にわたりシステムを改修してきました。独自要件が多く、それをきめ細かく反映した完成度の高いシステムとして運用できている点が最大の強みだと思います。ただ日々の作業量は多く、情報システム部の全員が漠然と『このままではいけない』と不安に思いつつ、日々の忙しさに追われ、攻めのシステム開発を行う余裕がありませんでした。現状のままでは、いわゆる『2025年の崖』問題に直撃されることは間違いありません」

枡 義泰氏
情報システム部長補佐 兼 情報システム課長

前述した4つの課題を解決しない限り、DXに取り組むのは困難であるというのも動かしがたい結論であった。

さらにDXを実現するには、紙と印鑑を中心とする現在の業務をデジタル化・ペーパレス化する必要があること、ITを有効活用できるか否かは人間と組織の成熟度に依存することなどを考慮しながら、川端氏は2019年7月に「中長期情報システム戦略」を策定。2019年9月には、「中長期情報システム変革 詳細計画」を作成した。

ここでは2025年度をゴールに見据え、「DXの本格展開」と「攻めと守りの情報システムへの変革」を掲げている。

同社の理想的な情報システムの姿は、「攻めと守りを両立した情報システムに変革する」ことと定義し、「IT経営を支える情報システムの確立」を目指す。

そして情報システム部としての理想的な姿は、「ニイタカの成長に寄与する」「均一かつ高品質なサービスとシステムを提供し続ける」「業務効率化と品質向上を促進する」と定義した。

「DXはITを利用して新たなビジネスモデルやサービスの創出、あるいは既存ビジネスの変革を謳っています。しかしいきなりそれを目標にしても、実際にはハードルが高すぎて何も実行できません。基幹システムを『守り』、AIやIoTなどの新しい技術の活用を『攻め』と位置づけ、まずDXに向けたインフラ整備に着手し、組織や人材、意識を少しずつ育てながら2025年のゴールを目指すという青写真を描きました」(川端氏)

そして社内および部内に周知徹底しながら、戦略の内容を実行に移そうとした。しかしこれに大きく立ちはだかったのが、2025年の崖ではなく、「人的な壁」であった。

社内からも部内からも
DXのロードマップは全否定

社内から、そして部内からも川端氏の提案にはさまざまな反対意見が寄せられた。それは変革に伴う「変化へのためらい」に根差すと思われる。

川端氏はこれまで長く勤めた富士通グループの側から、いわば敵陣からIBM iを見つめてきたが、その資産継承性(後方互換性)や運用性・信頼性・堅牢性、そしてオープン系の標準や最新技術の利用を可能とする先進性を高く評価していた。

「販売・在庫・購買といったIBM i上の基幹システムは長年にわたる改修を重ねてきただけあって、ニイタカの業務ニーズにきめ細かく対応した完成度の高いシステムとなっています。それは素晴らしいと考え、企業競争力の源泉となるこれらのシステムはIBM i上での運用を継続したうえで、DXに向けたインフラ整備に着手するというのが基本的な考え方でした」(川端氏)

しかし今でもIBM iをオフコンと呼ぶ社内そして部内からは、「IBM iは古い、これからはオープン系サーバーやERPパッケージにすべき」「RPGは古い、JavaやPhythonを使うべき」という声が上がる一方で、「ILE RPGやフリーフォームRPGでは開発生産性が低下する」や「現状システムでも問題なく動いているのに、なぜ刷新が必要なのか」、あるいは「費用対効果は得られるのか」「戦略の具体性が見えない」など、さまざまな反対意見が寄せられた。

そして2020年4月の執行役員会で、中長期情報システム変革 詳細計画に基づく川端氏の提案は全面的に却下されてしまうのである。

「このときは無力感のあまり、会社をやめようかと思いました」と、川端氏は苦笑しながら当時を振り返る。

「人的な壁」を乗り越える施策
人を育て、人を変えるには

社内から全否定されたものの、「あきらめない」ことを信条とする川端氏の孤軍奮闘が始まる。

「入社してわずか3カ月で中長期情報システム変革 詳細計画を策定したわけで、まだニイタカの組織も人も十分に理解していない段階です。いきなり現れた、アウェイ感満載の人間の言うことをそのまま受け入れるのは、心情的にも難しいでしょう。そこで人的な壁を突破する施策をいくつか進めることにしました」(川端氏)

まずDXはトップダウンの推進力が不可欠と考え、社長に直訴し、2019年12月に情報システム部が社長直轄部門に組織変更された。

そして経営層や情報システム部内からの多様な意見に対して、1つ1つ時間をかけて丁寧に説明した。たとえば自ら策定した中長期情報システム戦略に対する理解を深める場を作ったり、ITやDXの重要性を反映しながら中期経営計画の策定を支援したり、執行役員会議でIBMのDX事例説明会を開催するなどしている。

また2019年8月から入会したIBMユーザー研究会の集まりに部員とともに参加し、外部の空気を感じることで、情報システム部内の意識改革につなげようと考えた。

さらに2019年10月には、各部門が紙で依頼していた「情報システム依頼書」の運営をワークフロー化し、社内全体で共有する方式に変更した。これにより情報システムの運営状況と情報システム部の業務内容、すなわちシステム構築の目標・目的・効果、それに対する時間や予算などを全社で見える化することが可能になる。

このように、トップダウン&ボトムアップの両軸による啓蒙活動を展開していった。そして2020年11月に「中長期情報システム戦略 改訂版」(図表3)を策定。

図表3 情報システム変革ロードマップ(改定)

それとともに、基幹システム、インフラ、DXの各領域にわたって年度ごとに具体的な実施策を記載した「中長期情報システム変革 詳細計画 改訂版」(図表4)を策定した。前述した取り組みが功を奏したのか、この改訂版は執行役員会の承認を勝ち取ることに成功した。入社してから、約1年半が経過していた(図表4のダウンロードはちらから)。

川端氏はこの間の経験から、DXやレガシー刷新を成功に導く10箇条を図表5のようにまとめている。

図表5 DXやレガシー刷新を成功に導く10箇条

「最も大切なことは、未来の理想的な姿を描き、目的と目標を明確にしたうえで、人を育て、考え方を変えること。そしてたとえ小さな事柄であっても、少しでも信頼を得る活動を続けていくことだと思います。途中入社でアウェイ感満載だからこそ、外部での経験やスキルを活かして、社内にインパクトを与えることが自分の役割だと考えました。ただ今後のCIOや情報システム部長は、私のように外部から来た人間ではなく、ニイタカをよく知る、生え抜きで育った社員に継承してほしいとの思いをもって、人材の育成に尽力しています」(川端氏)

 


特集 ニイタカ DXへの全方位の挑戦

Part 1 DXを阻む4つの課題と意識改革への挑戦
啓蒙活動を展開しながら、DXのロードマップを描く

Part 2 DXに向けたインフラ整備&システム導入に着手
基幹システム周辺の「守り」を固め、AIやIoTで「攻め」を目指す

Part 3 DXに備える製品選択とシステム化戦略
安定した基盤をつくる製品群、企業競争力を生む製品群の使い分け

Interview 
加藤 貴志氏 株式会社ニイタカ 執行役員 管理本部長~情報システム部と現場部門の距離を縮めることがDXへの足がかりになる

 

[i Magazine 2021 Summer(2021年7月)掲載]