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業務の詳細な「手順化」により、コスト削減・開発スピード向上を目指す ~特集|ソニー生命・改革の流儀 Part 5

コア業務「保険事務」へのRPA適用

業務全体の作業フローを見直し
RPA用の手順書を作成

 


事務の自動化を推進
人手に頼る業務も依然として残る

 ソニー生命は右肩上がりの成長を続けている。2018年度(2019年3月期)の個人保険と個人年金を合わせた新規の契約高は、対前年度比16.3%増の6兆1504億円となり過去最高、新規の契約件数は同12.7%増の60万9186件、契約者数は約12万人増加し、総保有契約者数は366万人となった(図表1)

 

 こうした成長は、営業はもちろん、バックを支える本社部門があってのことである。

 そのバックを支える部門の1つである保険事務部門では、保険の新規契約から保険料の収納、契約の保全、保険金・給付金の支払いまで、保険に関するあらゆる事務を担当している。

 たとえば、生命保険の新規契約に関わる事務は、送付されてきた申込書を開封して記載内容を確認し、誤りや不備があれば顧客に連絡して修正し、最終的に基幹システムに登録するという業務。契約の保全は、顧客から申し出のあった保障内容の見直しや名義・連絡先の変更手続きなどで、保険契約の失効を防止するための作業なども含まれる。

 同社ではこれまでに、それら保険事務の多くを自動化してきた。

 新規の契約手続きでは申し込みのペーパレス化を推進し、その処理で必要となる告知手続きの自動化を査定エンジンを使って実現(2012年)。また保全手続きでもペーパレス化を進め(2016年)、バックオフィス業務をワークフロー化した。さらに申込者・申請者の書面が必要な手続きでも書類のすべてをOCRを用いてイメージ化し、外部業者へのアウトソーシングによってデータ化を実現している(2013年)。

 ただし、すべての保険事務を自動化できたわけではなく、スクラッチ開発では投資対効果の得られない、非定型の細かな作業を必要とする業務領域では対応が見送られてきた。そうした自動化が手つかずの領域では人手に依存する状態が続き、担当部門を中心に自動化を要望する声が上がっていた。


トライアルで10業務をRPA化
大きな時間削減効果を確認 

 保険事務部門からRPA導入の依頼を受けたシステム部門では、RPAツールを選定し、2015年10月より実務で利用を進めてきた。しかし、そのRPAツールの制約から社内システムへの幅広い適用は困難であることが判明し、普及が進まない状況になっていた。

 そこで、あらためてRPAツールを見直すことになった。

「ツールの選定にあたっては、操作性や機能性に加えて、業務で使用しているアプリケーションをRPAツールで操作できるかという適合性や、費用、将来性も評価項目としました。また机上の選定だけでなくPoCも行い、実機を使った検証では本番環境と同様のテスト環境を構築し実施しました」と語るのは、製品の選定を担当した浜崎裕志氏(ITデジタル戦略本部 保険システム開発部 IS開発5課 主事)である(図表2)

 

浜崎 裕志氏 ITデジタル戦略本部 保険システム開発部 IS開発5課 主事

 

 

 机上での選考に残り、PoCまで進んだのは4製品。PoCではベンダーから製品を借り受け、約半年をかけて検証を実施した。その結果選定したのは、ある外資メーカーのRPAツールだった。

 浜崎氏は、「検証に際してベンダーから2時間ほど操作法のレクチャーを受けましたが、扱い方が難しく20時間以上かけても開発できない製品もあれば、3時間程度でスムーズに開発できるものもありました。また機能面でもばらつきがあり、RPAツールは操作しなければ実践的な評価を行えないことを痛感しました」と感想を述べる。

 そして選定したRPAツールを使い、トライアルとして10の業務をロボット化したが、「その10業務だけで年間約534時間の削減効果が見込めることが確認できました」と、浜崎氏は言う。


スクラッチ開発とRPA活用の
両輪で自動化を推進

 ソニー生命では2018年度から、「保険収納事務の効率化プロジェクト」を推進している。ITデジタル戦略本部 保険システム開発部の岩上純司 担当課長は、その狙いを次のように説明する。

「保険料収納の事務は、お客様の入金情報(銀行口座・名義・金額)から、どの保険の何のためのお振り込みであるかを特定するという間違いの許されない業務です。これまでは人手による作業に全面的に委ねられていましたが、契約数がコンスタントに伸び、保険収納の事務が年々増加の一途を辿っているため、今後を見据えた対策としてプロジェクトをスタートさせました。

 この収納業務の自動化は、費用対効果が見込まれるスクラッチ開発とRPAツールの両輪で進めることを想定しています。RPAツールでも十分に基幹業務を支えられると考えています」(岩上氏)

 

岩上 純司氏 ITデジタル戦略本部 保険システム開発部 担当課長

 保険収納事務とは、ある口座から入金があった場合、振込元の口座名義から契約者を探し出し、保険証券と照合して入金の妥当性を確認するという作業だが、実際には1人の契約者が複数の保険を契約していたり、入金額が間違っている場合もあり、高度で複雑な判断作業が必要になる。

 同社ではこの事務作業を手順化し、160通りの手順書に整理していた。そして当初は、それらをRPA化する方針でいたが、「検討を進めると、いろいろな課題が見えてきました」と、岩上氏は話す。

 それは、手順書どおりにロボット化すると無駄な作業(ステップ)が出てきたり、あるいは、一定のトレーニングを受けた担当者の利用を前提とする手順書ではRPAへの単純な置き換えができない、というものである。

 そこで業務部門とシステム部門では今一度、収納業務全体の作業フローを見直し、業務のスリム化を実施。そのうえでRPAの適用が可能な作業工程を洗い出し、RPA用の手順書を作成することにした。岩上氏と浜崎氏は、「そこが今、最も苦労している点です」と口を揃える。

 しかし、そのRPA用の手順書をまとめる作業の見通しは明るいようだ。 

「RPAによるロボット化とシステムの作り込みの組み合わせによって、収納業務に必要な要員数の約50%低減を見込んでいます。とにかく粘り強く取り組み、必ずやり遂げるつもりです」と、岩上氏は抱負を語る。

[IS magazine No.25(2019年9月)掲載]

 

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◎特集|ソニー生命の挑戦 CONTENTS

PART 1 COBITに改めて注目し4つのテーマと4つの柱を掲げる

PART 2 個別最適の流れに歯止めをかけ「Web標準プラットフォーム」を策定

PART 3 あえて基幹システムから「ビッグ」スタートを切る

PART 4 運用改善専任チームの結成と「全運用担当者との面談」という手法

PART 5 業務の詳細な「手順化」によりコスト削減・開発スピード向上を目指す

PART 6 本番センター/災対センターの移転・入れ替えで理想に近づく 

PART 7 「人材を創る」を仕組化し個人・部門の成長を支援

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