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運用改善専任チームの結成と「全運用担当者との面談」という手法 ~特集|ソニー生命・改革の流儀 Part 4

柔らかく、血の通った、運用改革

面談で得た560件の声を1つ1つ分析
すばやい対応により劇的な効果へつなげる

 

6分に1回のペースでアラート
全員が日々対応に追われる

「運用課のメンバーは、どうしてこれほどインシデント対応に追われているのか」

 2017年4月に品質管理部門からシステム運用部門へ異動してきた田邊奈緒子氏(ITデジタル戦略本部 基盤システム統括部 システム運用課 統括課長)は、着任早々、スタッフの“忙しさ”にまず驚いたという。

「とにかく6分に1回ほどのペースでアラートが鳴る状況で、委託先のオペレーターからSE、社員まで全員が日々対応に当たっていました」(田邊氏)

 

田邊 奈緒子氏 ITデジタル戦略本部 基盤システム統括部 システム運用課 統括課長

 

 

 システム運用課が管轄する運用管理の対象は、データセンターに配置したホスト機(IBMメインフレーム)と約600台のサーバー/ネットワーク機器、および全国約100カ所の支店・営業所に設置したネットワーク機器とファシリティ設備である。そしてこれらを、パートナーの担当者を含め約120名の体制で運用してきた。

「着任してすぐに、アラート発生状況の把握から始めました。すると、月平均で8000件のアラートが発生し、うち200〜300件は夜間コールとなり、80件以上も変更対応を実施していることがわかりました。この夜間コールや緊急の変更対応が、運用担当者にとって大きな負担となっていました。そこで、協力会社のリーダーにヒアリングすると、ディスクやCPUの逼迫によるアラートだけでなく、システムをカットオーバーした当初から出ている対応不要のアラートなども多数あると言います。ここから改善の検討を始めました」と、田邊氏は振り返る。

 システム運用課が立案した取り組みは、120名のメンバー全員へのアンケートと面談による現状調査、それと「改善チーム」と呼ぶ専任チームの結成である。

 改善チームは、システム運用課・協力会社のSEチームリーダー・同テクニカルセンターからそれぞれ1名を選抜し、2017年11月に結成した(図表1)。組織横断型の専任チームとした理由について、システム運用課主事の鈴木啓倫氏は次のように話す。

「当社では過去に何度かシステム運用の改善へ向けた取り組みを実施しています。しかし現場の実情を理解しないまま立てた改善策には幅広い理解が得られず、また日常業務に追われるなかでの対応には無理もあり、立ち消えになった経緯があります。そこで今回は、日常業務のなかでは取り組めない困難な問題の解決に当たる専任チームを組織しました。また役割や立場の違いを超えて、コミュニケーションを円滑にできるよう組織横断の編成としました」

 

鈴木 啓倫氏 ITデジタル戦略本部 基盤システム統括部 システム運用課 主事


メンバー120名からの
560件の声を1つ1つ分析

 一方、メンバー全員に対するアンケートは2018年1月に行い、その回答を得て同1〜3月に全国4カ所の現場を訪問し、面談を実施した。

 このアンケートと面談に際して、システム運用課では「考え方の切り替え」を行っている。

「着任してほどなくして見えてきたのは、どの運用メンバーもあまりにも忙しすぎて、問題を分析する余裕すらないということでした。それならば、無理と無駄をなくし余裕をもったところで改善を進める必要があると考え、アンケートと面談により現場の課題全体を捉えることにしました」(田邊氏)

 18項目から成るアンケートには、ソニー生命に対する理解や業務への満足度、職場風土に対する満足度に関する質問を含めた。そしてその結果は、5点満点のところ3点に届かない項目が半数を占め、ソニー生命に対する理解の低さや仕事がしづらい職場環境であることなどが判明した(図表2)

 

 また面談では、仕事・職場・上司・会社風土・処遇・福利厚生・経営などに対する満足度を15項目にわたって尋ねた。

 120名のメンバーからは560件のさまざまな声が得られた。そしてそれらを1つ1つ分析し、対応の優先順位をつけたのが図表3である。優先順位①は対応してすぐに効果が実感できるもの、②は対応に時間がかかるが効果が大きなものとし、対応を進めた。

 

 たとえばJOBのオペレーション依頼は、それまで受付時間を過ぎた緊急の依頼や依頼書の記載不備が多数あり、協力会社の大きな負担となっていた。そこで、社員が窓口となって依頼書の受付と内容のチェックを行い、そのうえで依頼することによって、徐々に緊急依頼や不備を減らしていった(図表4)

 


改善チームによる対応の結果
アラートと緊急コール数が急減

 アンケートと面談で出たシステムの改善点は、改善チームが順に対応した。そのやり方は、改善チームで考えた解決策を運用メンバーで実践し、双方で効果を確認するという方法である。また、リソースの逼迫によってアラートが上がる問題については、キャパシティ・プランニングを綿密に行い、リソースの増強や構成の変更を実施した。さらに2018年5月には運用監視ツールを導入し、予防監視の対象を従来の重要システムからシステム全体へと広げ、運用の内容をグレードアップさせた。

 これらの取り組みによって、アラートと緊急コールの数は目に見えて減ってきた。2018年4月時点では月間6000件前後で推移していたアラート数が5月には3000件台に減少し、以降、2000件前後からそれを下回る数になった。緊急コール数も300件前後から250件前後へと減った。

 図表2の「2018年11月」の項は、システム運用課が2018年11月にメンバー全員を対象に実施したアンケートの結果である。1月と同じアンケート項目だが、3点未満の項目は3つに減り、3点以上の項目が3から7に増え、すべての項目でポイントが増加した。改善効果が明らかに映し出されている。

 システム運用課では、2018年12月に「改善の成果を称え・褒める表彰会」を実施した。「改善活動を積極的に行った方に、システム運用課からの感謝の気持ちを伝える会」(鈴木氏)という。

 1年にわたる活動で一定の成果が得られたシステム運用課では、それを定常業務とし通年で実施することにした。図表5がその内容で、今年度も実施中である。

 


プロジェクトの節目と
さまざまな改善効果

 システム運用課では、現在も改善対応を進めている。

 鈴木氏は、「アラートが減ったことで、残ったアラートから真に対応すべき問題を洗い出すことができ、問題の本質部分に取り組めるようになりました」と言い、「日常的に発生する問題に対処しつつ、今後のシステム再構築につながる有用な情報をレポートしたいと考えています」と抱負を語る。

 また田邊氏は、「最初に改善チーム結成という投資ができたことが大きな節目でした。協力会社のメンバーとともに、従来の担当業務から離れた場で活動したことで、改善サイクルが効果的に回りました。また無理や無駄をなくすことで、最終的には運用コスト削減や、多くのメンバーの残業時間の低減につながりました」と、今回のプロジェクトのポイントと改善効果について触れる。

「緊急対応や定常業務が減ったことで、メンバーと会話する時間が増えました。後手に回っていた保守から先手を打つ運用へと、取り組みを拡大していくつもりです」と、田邊氏は話す。

[IS magazine No.25(2019年9月)掲載]

 

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◎特集|ソニー生命の挑戦 CONTENTS

PART 1 COBITに改めて注目し4つのテーマと4つの柱を掲げる

PART 2 個別最適の流れに歯止めをかけ「Web標準プラットフォーム」を策定

PART 3 あえて基幹システムから「ビッグ」スタートを切る

PART 4 運用改善専任チームの結成と「全運用担当者との面談」という手法

PART 5 業務の詳細な「手順化」によりコスト削減・開発スピード向上を目指す

PART 6 本番センター/災対センターの移転・入れ替えで理想に近づく 

PART 7 「人材を創る」を仕組化し個人・部門の成長を支援

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