「Warm Tech」と「クリーン&ヘルス」という日本流技術の使い方はどこから生まれるか|ロゴスとフィシスの旅 ~日本の元気を求めて◎第2回

 

成長と学習の考え方が
変わりつつある

 

 皆さん、こんにちは。日本を元気にする旅の第2回です。本題に入る前に先日参加した「2015 ATDコンファレンス」について、少しご報告をします。今年のATD(Association of Talent Development)は9600人の人財育成や組織開発に関わる人たちが、4日間にわたって約300セッションに参加し、リーダーシップや研修の効果測定、モバイル・ラーニングなどについて意見を交わしました。場所は米国のオーランドでした(写真)。 今年の全体の傾向として、成長と学習の場が、教える人と教わる人という関係からお互いに学び合う相互学習の場に変わりつつあることが報告されていました。「自己組織化する学習環境」という標語であったり、「まわりのすべての人から学ぶ」というFacebook社のスローガンだったり、Google社では「すべての社員をラーニング・デザイナーにする」とか「いかにして教師のいないクラスをつくるか」について検討をしています。ラーニングの世界でも機能によって役割を定義し効率と効果を目的とする機械論的な考え方から、すべての存在がお互いに関係し合っている全体の中で、相互作用を高めていく生態論的な、ラーニング・エコシステムの考え方にシフトしつつあるようです。  

 

外国人だけに見えている「日本のよさ」

 

 さて、話は戻りますが、前回の旅では言語構造の歴史を歩いてみました。旅先では西洋と日本の主語と目的語の並び方の違いが、人と世界との関係のもち方の違いになることを見ました。主体と客体を明確に分ける西洋の論理が、ものづくりの技術に実証性を求めるのに対して、主客一体をよしとする日本の情理は、同じものづくりの技術にそれを活かす精神、「道」を必要としました。今回はここに焦点をあててみます。 『WIRED』Vol.15に面白い記事がありました。「これこそが日本のよさだ」と思うキーワードを、2570人の日本人と約600人の外国人に挙げてもらい、マップにして比較しています。回答者自身が挙げた12個のキーワードの関連度を量子力学の数理を用いた「Scanamind」(*1)というツールで解析することで、回答者も意識していない無意識の価値構造がマッピングされるというものです。

 図表1が日本人、図表2が外国人の答えた内容で、この2つの構造図を比べてみると共通項として実線の円でくくられたキーワードが出てきます。クルマや家電に代表される「ものづくり」、きめ細かなサービスの「おもてなし」、自然や歴史など日本独自の「エキゾチック性」。これらが今後も日本の魅力となる大きな要素だと、日本人も外国人も考えているようです。一方でいわゆる「クールジャパン」といわれるキーワードは、日本人のマップには独自の領域をもっていますが、外国人のマップでは「エキゾチック性」の中に包み込まれています。日本政府がわが国独自の付加価値分野としているアニメやゲームなどのサブカルチャーは、創造性や独自の美意識というよりも、外国人から見ると「自分たちにない日本の魅力」という歴史と文化の違いの一部として見えているのでしょう。

 

図表1 日本人が挙げる「日本のよさ」 © Conde Nast Japan WIRED VOL.15 P32-33より抜粋

 

図表2 外国人が挙げる「日本のよさ」 © Conde Nast Japan WIRED VOL.15 P32-33より抜粋

 

 この対比で面白いのは、外国人だけに見えている日本のよさです。それらは2つの破線の円で示されている領域です。1つは50年間無事故の新幹線やウォッシュレットなど、テクノロジーとホスピタリティの間にある価値観から生まれた、「Warm Tech Japan」と名づけられたコンセプトです。もう1つはテクノロジーと「エキゾチック性」の間にある「クリーン&ヘルス」の領域です。確かに今まで外国人に聞いた日本についての感想の中で一番多かったのがクリーン・シティであり、ヘルシー・フードです。あるアメリカ人は日本での滞在期間中、毎朝東京の下町を歩き回り、「東京はこんなに大きな都市なのに、どこに行ってもとてもきれいだ」としきりに感心していました。私たちが当たり前と思って気に留めていない街の風景や、通りの匂いをクリーンと感じていたようです。外国人にだけ見えているこの2つの領域をもう少し掘り起こしてみると、日本を元気にするためのロゴスとフィシスの第2回目の旅のルートが見えてくるかもしれません。

 

テクノロジーとおもてなしをつなぐもの

 

 図表2にあるように「Warm Tech」と「クリーン&ヘルシー」はどちらの領域もものづくりに関係しており、テクノロジーを何のために使うのか、どのように使うのかに関わっています。「Warm Tech」は「テクノロジー」と「おもてなし」の間にあって、人と物の関係をより快適にするためのテクノロジーを磨くエリアです。公共交通機関が時間に正確であることや、まじめな勤務態度がおもてなしに通じるところは、外国人特有の感覚かもしれません。一方、「自然」「四季」「フード」などに関わる技術は、日本人の生き方に関わるもので、クリーンとヘルシーを実現するテクノロジーは私たちには当たり前すぎて気づかない、自然の秩序に対する独特の感性がありそうです。

 まず「Warm Tech」の領域です。おもてなしの究極の姿は「一期一会」と言われます。人との関わりは一生に一度きりであるとして、1つひとつの機会に誠意を尽くしきることです。それはどんな場合にもどんな人に対しても、最高のサービスをするということで、一瞬を永遠と考える究極の個別化であるといえます。

 一方、従来のテクノロジーはある機能を同じクオリティで反復して実現するという、普遍性と均質性を目的としています。ところがこの目的で作られた機械やシステムは、実際にはさまざまな条件の違いや運用環境の変化によって、同じ性能を発揮できるわけではありません。たとえば電車やバスのように大量に人を運ぶシステムは、とにかく運ぶことが第一で、気象の変化や予期しないことのために時刻表どおりに運行できないのは当たり前となるのですが、日本の場合はそのような状況で、お客様が最も満足する状況を作り出そうとします。運行システムで把握している電車と次の電車の間隔をできるだけ均等にして、待たせる時間の調整をしたり、状況説明をして乗客の予定を立てやすくしたり、そのためのコミュニケーション・システムを作っています。

 Warm Techはこのように個別の事情をできるだけ配慮して、「おもてなし」の一回性と「テクノロジー」の反復性という、一見相反する性質のコンセプトをどちらも実現しようとします。外国人にはこのバランスの取り方とホスピタリティへのまじめな取り組み姿勢が、日本のよさとして映るようです。変化する状況の中で常に相手に最高のクオリティを提供するためのテクノロジー、相手をさまざまな性格をもった個人として尊重することを第一にしたテクノロジー、それがWarm Techという領域ではないでしょうか。

 そのように考えていくと、Warm TechはITで言うユーザー・インターフェースやユーザー・エクスペリエンスに通じるものがあります。相手に合わせて同じ品質と機能を、異なる環境や状態において発揮することを組み込んだテクノロジー、これこそハードウェアだけでは実現できず、デジタルの世界、ソフトウェアの技術を洗練させ、さらに運用の現場を最も大切にするものです。最近のソフトウェア・デファインドという技術や、あるいはDevOpsと言われる開発と運用を統合するシステムづくりの考え方は、まさにWarm Techの領域にあります。

 

テクノロジーと自然の間にあるもの

 

 一方でテクノロジーと自然との間にあるクリーン&ヘルスの領域は、自然と人間の関係の捉え方を表しています。クリーンは清潔で、ヘルシーは健康ということですが、それがテクノロジーとどう関係するのでしょうか。

 たとえばブルーノ・タウトという有名なドイツの建築家が桂離宮を訪れた時に、「この奇跡の真髄は、人間と自然の関係の様式—いわば建築された相互的関係にある」と言ったそうです。桂離宮が表そうとしたものは人間と自然の共存関係のあり方であり、それは人と自然との相互作用によってでき上がる相互依存の思想であるとタウトは見ていました。庭を歩く人は自分で方向や歩き方を決めているはずなのですが、小川のせせらぎに引き寄せられたり、飛び石のように置かれた橋などに導かれたりして、いつの間にか庭に歩かされていきます。三叉路に出たら、広い道と細くなっていく道のどちらかを選択させられ、木々や建物の屋根でさえぎられた視界は、突然開けた空間によって驚きに満ちたものになります。その絶妙の間合いは人と自然との境界線を常に引き直すことによって、刻々と生まれてくるものです。自然のもっている変化の秩序に手を添えながら境界を引くことで、時々刻々新たな秩序が生まれ、変化していきます。それは変わり続ける自然の変化であり、常に動き続ける人の心の変化です。作庭の技術、生け花の技術などに見られる自然と人とのインターフェースとしてのテクノロジーは、下町の軒下やマンションのベランダにも活かされています。そこには人工でありながら自然の秩序に任せることで、人の心を留めない工夫がされています。心は自然の変化によって変化を感じ、生き生きとして新しい気分を味わうことができます。

 クリーンでヘルシーであるという感覚は、このように人と世界の関係が日々新しく作り直されていると感じることで生まれます。西洋の庭園のようにすべてが見通せて、シンメトリーな形の庭園は、合理性や永遠の理性を表現するかもしれませんが、それだけ非生命的であり親しみにくい面があります。生命がもっている生成する力は、変化し続けつつ秩序を保ち、新しくなることで、つまり変化することで秩序を保つという、不思議な力です。つまり変化することは乱雑さが増すことではなく、フレッシュで清潔な状態が維持されるということです。日本人が毎日隅々まで掃除をするのも、実は細かな変化に気付くための工夫かもしれません。生ものを食べるという食習慣も、命という秩序をそのまま引き継ぐためのインターフェースであり、そのためのテクノロジーにはまさに鮮度を保つためのさまざまな技術があり、「清め」られ清潔で健全でなければなりません。

 こうして考えてみると、今海外でも日本食ブームであったり日本への観光客が急増している状況が、冒頭でご紹介したラーニングの分野においても見られる、機械論的な世界観から生態論的世界観への移行と同じ流れになっています。そのトレンドを作る強力な武器として、日本流の技術の使い方、テクノロジーのあり方がありそうです。

 私たちが今回の旅で発見したテクノロジーは、人と人の関係をより親密にするための技術と、自然と人の間をより快適にするものとしての技術でした。日本の技術を外国人の目で、つまりグローバルで多様な視点で見直すことで、日本がさらにグローバル社会において成長していく分野を見出せるかもしれません。

 


著者

片岡 久氏

株式会社アイ・ラーニング 
アイ・ラーニングラボ担当

1952年、広島県生まれ。1976年に日本IBM入社後、製造システム事業部営業部長、本社宣伝部長、公共渉外部長などを経て、2009年に日本アイ・ビー・エム人財ソリューション代表取締役社長。2013年にアイ・ラーニング代表取締役社長、2018年より同社アイ・ラーニングラボ担当。ATD(Association for Talent Development)インターナショナルネットワークジャパン アドバイザー、IT人材育成協会(ITHRD)副会長、全日本能率連盟MI制度委員会委員を務める。

 

[IS magazine No.8(2014年7月)掲載]

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ロゴスとフィシスの旅 ~日本の元気を求めて

第1回 世界を主客一体として捉える日本語の感性をどのようにテクノロジーに活かすか
第2回 「Warm Tech」と「クリーン&ヘルス」という日本流技術の使い方はどこから生まれるか
第3回 デジタル社会では、組織・人と主体的に関わり合うエンゲージメントが求められる
第4回 技術革新と心と身体と環境の関係
第5回 忙しさの理由を知り、「集中力」を取り戻す
第6回 自分が自然(フィシス) であることをとおして、世界の捉え方を見直す
第7回 生まれてきた偶然を、必然の人生に変えて生きるために
第8回 人生100 年時代 学び続け、変わり続け、よりよく生きる
第9回 IoTやAIがもたらすデジタル革命を第2の認知革命とするために
第10回 デジタル化による激しい変化を乗り切る源泉をアトランタへの旅で体感
第11回 「働き方改革」に、仕事本来の意味を取り戻す「生き方改革」の意味が熱く込められている
第12回 イノベーションのアイデアを引き出すために重要なこと
第13回 アテンションが奪われる今こそ、内省と探求の旅へ
第14回 うまくコントロールしたい「アンコンシャス・バイアス」
第15回 常識の枠を外し、自己実現に向けて取り組む
第16回 人生100年時代に学び続ける力
第17回 ラーナビリティ・トレーニング 「私の気づき」を呼び起こす訓練
第18回 創造的で人間的な仕事をするには、まず感覚を鍛える必要がある
第19回 立ち止まって、ちゃんと考えてみよう
第20回 主体性の発揮とチーム力の向上は両立するか

 

 

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