開発環境構築ロードマップのステップ2は、分散バージョン管理システムGitの導入である。
Gitは、ソースコードなどのファイルの変更履歴を記録・追跡するためのツールであり、現代のソフトウェア開発においては、プロジェクトの規模や言語を問わず、デファクトスタンダードとなっている。
なぜAI時代にGitが不可欠なのか?
AI、特にコードを自動生成・編集するAIアシスタントと協調して開発を進めるうえで、Gitによる厳密なバージョン管理は、もはや「あれば便利」なものではなく、プロジェクトの品質と安全性を守るための「生命線」とも言える不可欠な存在となる。
従来のIBM i開発では、ソースコードのバックアップとしてライブラリーごと保存したり、特定の世代管理ツールを使ったりすることが一般的だった。しかしGitが提供するのは、単なるバックアップ機能ではない。「変更の文脈を記録し、自在に過去へ遡り、安全に未来を試す」ための仕組みである。
AIとの共同作業という観点から、Gitが不可欠となる理由は以下のとおりである。
AIによる変更の「意図」と「結果」をすべて記録
AIは、時に開発者の想像を超える大胆なコード変更を行う。Gitを使えば、AIが行ったすべての変更が「コミット」という単位で記録される。「いつ、誰が(どのAIが)、どのような意図で、どのファイルの何行目を変更したのか」という完全な履歴が残るため、予期せぬバグが発生した際も、原因となった変更を瞬時に特定し、必要であればその変更だけを取り消すことができる。
安全な実験場を提供する「ブランチ」機能
Gitの最も強力な機能の1つが「ブランチ」である。たとえば、「AIにパフォーマンス改善を試させる」というタスクを行う際に、たとえば「refactor-by-ai」といった名前のブランチを作成する。AIによる変更作業はこのブランチ内で完結するため、稼働中のソースコード(「main」ブランチ)には一切影響を与えない。
AIが生成したコードを十分にテストし、その結果に満足できれば「main」ブランチに統合(マージ)し、結果が期待外れであれば、そのブランチごと安全に破棄できる。これにより、リスクを恐れず果敢にAIを活用することが可能になる。
コードレビュー文化の醸成
AIが生成したコードは、必ず人間の目によるレビューを経るべきである。GitをGit HubやGitLabといったプラットフォームと組み合わせることで、AIによる変更提案を「プルリクエスト(またはマージリクエスト)」という形で通知し、チームメンバーがレビューしてから承認する、というワークフローを構築できる。
IBM i環境におけるGitの構成
IBM i環境でGitを利用する場合、一般的には以下のような構成が推奨される。
中央リポジトリの設置
チーム開発を行う場合は、前述したようにGit HubやGitLabといったプラットフォームを利用する必要がある。ただ、サービスとしてこれらを利用するには追加費用の問題や、クラウドにコードを預けることが社内の規約等で許されるのかというハードルがある。
その場合は多少の手間はかかるが、IBM i上にもGitを導入可能なので、IFS上に中央リポジトリを配置し、それをプロジェクトで利用することを検討したい。ただ、あくまでも一時的なもので、将来的にはGit HubやGitLabへの移行計画が必要である。
ローカルリポジトリでの開発
開発者1人1人は、自分のPC上に中央リポジトリの完全なコピー(ローカルリポジトリ)を持ち、日々の開発はそのリポジトリとのやり取りでバージョン管理を行う。AIが返してきたコードもブランチを利用して別系統で管理し、そのコードを採用するか否かを適切に判断する。
変更の同期
ローカルリポジトリでの作業が完了したら、その変更を中央リポジトリに送信(プッシュ)し、ほかの開発者の変更を自分のローカルリポジトリに取り込む(プル)。
この構成により、開発者はネットワークに接続していないオフライン環境でも開発を続けることができ、AIツールもPC上で快適に動作させられる。
Gitについては、拙著「特集 IBM iユーザーに捧げるGit入門」も参照してほしい。
著者|
小川 誠 氏
ティアンドトラスト株式会社
代表取締役社長 CIO CTO
1989年、エス・イー・ラボ入社。その後、1993年にティアンドトラストに入社。システム/38 から IBM i まで、さまざまな開発プロジェクトに参加。またAS/400 、IBM i の機能拡張に伴い、他プラットフォームとの連携機能開発も手掛ける。IBM i 関連の多彩な教育コンテンツの作成や研修、セミナーなども担当。2021年6月から現職。
新・IBM i入門ガイド [コード生成編]
<基本用語>
01 生成AI&IBM i市場動向
02 生成AI
03 大規模言語モデルとマルチモーダルモデル
04 プロンプトとコンテキスト
05 AIエージェント
06 ハルシネ―ションとセキュリティ
07 ファインチューニングとRAG
08 APIとMCP
<基本ツール>
01 コード生成AIの思考プロセスと主要ツール
02 IBM i開発環境構築ロードマップ
03 Visual Studio Code
04 Code for IBM i
05 Git
06 Markdown
<開発ツール>
01 AIファースト開発環境
02 IBM Bob
03 対話型・CLI型AIツールの戦略的活用術
04 学びを止めないための次の一歩 リンク集
[i Magazine 2026 Spring掲載]







