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プロジェクトdX|来間島の持続可能性を考える“寄り合い”に参加して(田中良治)

沖縄県宮古島市の離島・来間島で「Workcation in Kurimajima」というイベントが2023年11月22日〜24日に開催され、その最終日のプログラム「島の持続可能性を考える寄り合い」にモデレータとして参加してきました。

この“寄り合い”は、島の方々と島に関わる人たちが知恵と経験を持ち寄って持続可能な島づくりを考えようというもので、「自然・文化の保全と活用」と「島の産業の進化」がテーマでした。

来間島は自然豊かな周囲9kmほどの小さな島です。コロナ禍で観光客が激減した静かな砂浜には、ヤシガニやウミガメが戻ってきています。島は今年(2023年)9月に「ヤシガニ・ウミガメの島宣言」を公にしました。

私は、来間島の白く広がる砂浜で産卵後のウミガメの姿を見つけたときの感動を今もよく覚えています。それは、共生の必要性を実感させるのにこれ以上のものはないと思わせる光景でした。島の宣言は、来間島を生きとし生きるものたちの幸せな島として永続的に保全していこうという決意の表れで、素晴らしい取り組みと思います。

“寄り合い”のパネラーは、株式会社GRAの岩佐大輝氏(代表取締役CEO)、株式会社ルートレック・ネットワークスの佐々木伸一氏(代表取締役社長)、テラスマイル株式会社の生駒祐一氏(代表取締役)の3氏が務めました。いずれも農業DX、スマート農業推進の先駆者と言える人たちです。

筆者が所属するソルパックでは、沖縄を拠点として新規事業の創設へ向けて挑戦を続けています。データを活用したスマート農業、農業DXはその1つで、現在はまだ準備段階ですが、弊社の取り組みを知る方から声をかけていただき、モデレータ役をお引き受けすることになりました。

“寄り合い”のテーマ「自然・文化の保全と活用」では、豊かな自然を島の資産として守り継いでいくことや、その活用による新しい仕事(サステナブルツーリズムなど)の創出や、保全・活用のためのIT・先端技術の利用などが話し合われ、進行中のプロジェクトの紹介などもありました。

またもう1つのテーマ「島の産業の進化」では、主要産業である農業を中心に議論が進められ、これからの島の農業のあり方や可能性、課題やその解決策について活発な議論がありました。

農家の方々からは、各テーマを実現するための具体的な方法や解決策を問う声がたくさん上がりました。それらの発言を私なりに整理すると、次のようになるかと思います。

(1)デジタル化に対する期待は、他の産業と同じく非常に大きい。ITを万能ツールと捉え期待する声もありました。

(2)社会貢献への責任感とビジョンの大きさ、視野の広さ。

農家の方々は自分たちの取り組みをもっとよくしたい、このままではいけないという思いを強くもっておられます。それが私には、農家の方々がこれまでの常識を疑ってみることや、自然環境への農業の影響についてアンテナを張ることにつながっていると感じられました。

また、農業や自然界で進行している数々の問題は自分の経験や勘にないものと認識しているからこそ、変革の必要性を痛感しているのではないかとも思えました。農家の方々のそうした視点や感じ方は、国内の経営者よりも高く大きく、視野がひらけているという印象でした。

(3)投資の必要性は国の補助に頼っていては学べない、農家も投資への責任を持つべき、という声もありました。

(4)このほか、「農業界の課題解決に向けて他産業の方々が真摯に取り組んでいる姿は、私たち農家も前向きに取り組んでいく必要があることの再確認になりました」という声もありました。

農家の方々のさまざまな発言から、私は、スマート農業、アグリテック、農業DXの課題は多様にあり、スコープを大きく広げる必要があることを痛感しました。

そして弊社のような挑戦者にとっては、農家の方々が重要かつ必要と考える事項について根拠のある仮説を立て、検証を繰り返して実現に近づいていくことが不可欠との認識を強くしました。

そのためには何よりも、農家の方々の課題・問題を自分事とする熱意と貢献への強い意欲が必要です。

農家の方々は、自分たちがどう変わるべきなのかについて聞く耳を持っておられます。そのことは私たちの挑戦に勇気を与え、挑戦の気持ちを新たにしました。

またその一方で、農家の方々から信頼を得られなければ一歩も前へ進めないだろうという、姿勢の大切さも痛感することになりました。

◎参考情報

Workcation in Kurimajima
https://kurimaworkcation.studio.site/

株式会社GRA
https://gra-inc.jp/index.html 

一粒1000円のミガキイチゴの育成の技をデジタル技術により形式知化し、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県のイチゴ農場で復活させた実績をもつ。

株式会社ルートレック・ネットワークス
https://www.routrek.co.jp/
 
IoT技術やAIによる環境制御システムを確立し、持続可能なデジタルファーミング・プラットフォーム(土、水、肥料、酸素のコントロール)を完成させた実績をもつ。佐々木氏は、ウエスタンデジタル在籍時に日本IBMと共同でThinkPadの従事していた経歴をお持ちで、ご縁を感じました。

テラスマイル株式会社
https://terracemile.jp/company/ 

IoT技術により環境情報をデータ化・分析して生産力に還元し、市況情報をもとにした営農者向け情報を提供中。IBMの起業プログラムであるIBM Bluehubで誕生した会社で、前職の会社とつながりにご縁を感じました。

著者
田中 良治 氏

株式会社ソルパック
取締役CDTO
(沖縄経済同友会、一般社団法人日本CTO協会、一般社団法人プロジェクトマネジメント学会所属)

プロジェクトdX|実現を支えるプロフェッショナルの流儀は人間力  ◎コラム掲載

第1回 今こそ変革の武器に! 日本企業の持つ強みは元サッカー日本代表監督イビチャ・オシム氏も評する“現場力”

第2回 変革実現に求められる企業カルチャー(前編) ~対極の発想をする

第3回 変革実現に求められる企業カルチャー(後編)~経営層の意識改革

第4回 DXプロジェクトがこれまでのプロジェクトと異なる理由

第5回 迫られる企業経営変化への対応と変革に必要とされる3つのエンジン

第6回 これから企業が取り組むべく3つのトランスフォーメーション・ロードマップ 

第7回 デジタル先進企業へ進化するための3つのポイント

第8回 デジタルトランスフォーメーションで高度化する事業活動

第9回 DX人材になることは自身の意識改革? Behavior Transformationかも?

第10回 DXと千羽鶴 変わる勇気と変わらない勇気

第11回 デジタルトランスフォーメーション実現には、人材育成変革が必然

第12回 デジタルトランスフォーメーションへの挑戦 ~ソルパックの取り組み、その先の真の変革

第13回 2022 FIFA ワールドカップに見る「デジタルトランスフォーメーションがもたらした勇気」

第14回 Jリーグ30年に学ぶ、リスキリング(学び直し)の必要性

第15回 「当たり前」を当たり前と思わないーーそれが変革を生みだすスタート

[i Magazine・IS magazine]

 

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