生成AIが真価を発揮するのは、それが単体で動作する時ではなく、既存の企業システムや多様なデータソースと連携して動作する時である。
IBM iに蓄積された貴重な基幹業務データをAIに活用させ、その結果を再び業務アプリケーションに反映させる。これが実現できれば、IBM iユーザーのAI活用は格段に進んでいくだろう。
この連携手段の1つとしてRAGがある。しかし、その構築および運用コストが高いことはすでに述べた。さらにRAGはあくまで「情報の参照」を目的とした仕組みであり、外部システムに対してデータを書き込んだり、処理を実行させたりといった「操作」は想定されていない。
では、この問題をどのように解決していけばよいだろうか。
API
データソースとの双方向の連携を実現する鍵となるのは、API(Application Programming Interface)である。
企業システムの多くは、すでにAPIを備えている。 この既存のAPIを大規模言語モデル(LLM)が自らの判断で呼び出せるようになれば、AIは情報を取得するだけでなく、注文処理や在庫更新といった業務オペレーションまで実行できるようになる。
LLMがAPIを呼び出す仕組みとして、まず登場したのがFunction Calling(関数呼び出し)である。これは、LLMに「利用可能な関数(API)の一覧と定義」をあらかじめ渡しておき、ユーザーの要求に応じて、LLM自身がどの関数を呼ぶべきかを判断する仕組みである。
これにより、AIは単なる対話相手から、外部システムを操作できる「エージェント」へと進化できる。
APIとは、異なるソフトウェアやシステムコンポーネントが、互いの機能やデータを呼び出し、利用するための標準的なプロトコルであることは周知のとおりである。
APIのおかげで、開発者は他のシステムの内部構造を詳細に知らなくても、その機能をあたかも部品のように自分のアプリケーションに組み込める(図表1)。
今日の多くの生成AIサービスは、このAPIを通じて機能を提供している。開発者は、自社のアプリケーションからAIサービスのAPIを呼び出す(リクエストを送る)ことで、文章の生成、画像の解析、コードの作成といったAIの能力を簡単に利用できる。
MCP
しかし、Function Callingにも課題がある。接続先ごとに個別の実装が必要であり、ツールやデータソースが増えるほど、開発・保守の負担が大きくなる。
この課題を解決するために生まれたのが、MCP(Model Context Protocol)である。MCPはAnthropicが提唱したオープンプロトコルで、LLMと外部ツールやデータソースを接続するためのインターフェースを標準化する。いわば「AIのためのUSB-C」とも呼べる仕組みであり、一度MCPに対応すれば、どのLLMからでも同じ方法でツールを利用できるようになる。
現代のITインフラは、単一の環境で完結することは稀である。多くの企業は、Amazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform (GCP)、IBM Cloudといった複数のパブリッククラウドと、自社のデータセンター(オンプレミス)を組み合わせたハイブリッドクラウド環境を構築している。
それぞれのシステムとのやり取りを、それぞれのAPIだけで連携するのはやはり現実的ではない。AIが最も効果的に機能するには、これらの異なる環境に散在するデータを横断的に、かつ安全に利用できる仕組みが不可欠となる(図表2)。
前述したクラウドサービスはどれも、MCPサーバーを利用できる。これからのデータソースとLLM間の双方向データ連携は、このMCPプロトコルを中心に実装されていくだろう。
IBM iの取り組み
では、IBM iはこの流れにどう対応していくのだろうか。実は、IBM iで稼働するMCPサーバーは、すでにオープンソースで提供されている(資料1)。IBM iのPASE環境でMCPサーバーを稼働させることで、Db2 for iへのアクセス、プログラムの実行、およびIFSファイルへのアクセス等が可能になる。
IBM iは、もはや閉ざされたオフコンではない。APIを通じてクラウドサービスと連携し、このMCPの重要な一角を担う存在である。
たとえば、クラウド上のCRM(顧客関係管理)データと、オンプレミスのIBM i上にある過去の取引履歴データを、AIがAPI経由で同時に取得・分析することで、より精度の高い需要予測や顧客分析が可能になるだろう。
APIとMCPは、IBM iという信頼性の高いデータハブを、AIを中心とした現代的な ITエコシステムに接続するための鍵となる技術である。これらの技術を使いこなすことが、IBM iの価値を未来に向けて最大化することに繋がるのだ。
【資料1】
GitHubで公開されているMCP Server
https://github.com/IBM/ibmi-mcp-server
[i Magazine・IS magazine]
著者|
小川 誠 氏
ティアンドトラスト株式会社
代表取締役社長 CIO CTO
1989年、エス・イー・ラボ入社。その後、1993年にティアンドトラストに入社。システム/38 から IBM i まで、さまざまな開発プロジェクトに参加。またAS/400 、IBM i の機能拡張に伴い、他プラットフォームとの連携機能開発も手掛ける。IBM i 関連の多彩な教育コンテンツの作成や研修、セミナーなども担当。2021年6月から現職。
新・IBM i入門ガイド [コード生成編]
<基本用語>
01 生成AI&IBM i市場動向
02 生成AI
03 大規模言語モデルとマルチモーダルモデル
04 プロンプトとコンテキスト
05 AIエージェント
06 ハルシネ―ションとセキュリティ
07 ファインチューニングとRAG
08 APIとMCP
<基本ツール>
01 コード生成AIの思考プロセスと主要ツール
02 IBM i開発環境構築ロードマップ
03 Visual Studio Code
04 Code for IBM i
05 Git
06 Markdown
<開発ツール>
01 AIファースト開発環境
02 IBM Bob
03 対話型・CLI型AIツールの戦略的活用術
04 学びを止めないための次の一歩 リンク集
[i Magazine 2026 Spring掲載]









